書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

マリア様がみてる 中・長編

【マリみてSS】BATTLE LILIAN ROYALE <09.同行>

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 地面に押し倒された乃梨子は、瞬間、パニックに陥った。
 誰なのか。押し倒されるということは、刃物か何か近接用の武器を持っているということか。殺されるのか。
 だが、殺すつもりがあったのなら、乃梨子に気がつかれる前にさっさと攻撃してくればよかったはずで、行動と矛盾する。
 とにかく、いつまでも地面に転がったままでいるわけにはいかない。乃梨子は、相手をはねのけて自由をえようとしたが、逆に手首を掴まれて動きを封じられてしまう。思わず、目をつむってしまった乃梨子だが、相手は攻撃をしてくるわけではなかった。
「乃梨子さん、早く、逃げるのよ」
 声に、顔をあげる。
「え、あの、貴女は」
「いいから、早く」
 腕を引っ張られ、引きずられるようにして体を起こす。乃梨子を起こしてくれた女性は、そのまま乃梨子の体を抱えるようにして背中を押してくる。わけも分からないまま、もつれそうになる足を懸命に動かし、前に進んでいく。
 とりあえず、前方に見えていた券売所と思しき建物の方に逃げようとしたところで、またもや腕を引っ張られる。
「駄目よ、そっちは禁止エリアよ」
 頭の中で地図を思い出し、どうやらD-4エリアのあたりらしいと見当をつける。
「右手の方へ!」
 背中を押されて、とにかく走る。
 このまま進めば、"ファンタジーランド"の区域に突入していくことになる。アトラクションや建物があれば、逃げるのは比較的容易になる。
 しかしなぜ、逃げているのか。
 疑問に思った時、何かが風を切って乃梨子の横を貫いていった。何かは分からないが、前方に設置してあったごみ箱に当たり、鈍く大きな音が鳴り響く。地面に転がったのものがちらりと見えたが、小さな鉄球か何かのように見えた。
 ようやく、誰かの攻撃を受けていることを悟り、今まで以上に本気を出して走り、アトラクションの中へと逃げ込んだ。
"ファンタジーランド"はその名の通り、幻想的な湖や森、古城などもあるフィールドで、紛れ込んでしまえば比較的、身を隠しやすい。攻撃の気配もなく、走って来た疲労とも重なり、足の運びも緩くなる。
 一度、状況を確認しようかと考えているとき、隣を走っていた女性が「うっ」という呻きをあげるとともに、体が斜めに傾いだ。支えようとしたが、突然のこともあり、女性の体をまともに受け止める格好となり、そのまま地面に倒れ込む。
 仰向けに倒れ込む乃梨子。その上に、折り重なるように女性がくずおれてきたかと思うと、唇に柔らかいものが触れた。
 なんと、倒れた勢いで、偶然にもキスをしてしまったのだ。まるで漫画のような展開に目を丸くする乃梨子だったが、相手の負けずに目を見開いて驚いていた。
「ご、ごめんなさい」
 わずかに顔を赤くしながら、慌てて顔を離す女性。
「い、いえ……」
 緊迫したゲームで、誰からか襲われた直後だというのに、乃梨子は降ってわいたようなファースト・キスに、頭の中が真っ白になりかけていた。乃梨子が正気に戻ったのは、相手が苦痛に顔を歪めたからである。
「どこか、打ったんですか?」
「違うの、これ……くっ」
 その女性がスカートの裾を引っ張り上げると、細くて綺麗な太ももに、無残な紫色の痣が出来ていた。
「ど、どうしたんですか。どうしたらこんな痣が」
「さっきの攻撃を受けたのよ。でも、肉の厚い太もも部分でまだよかったわ。骨にでも当たっていたらと考えると、ぞっとするわ」
 気丈に苦笑してみせる女性だったが、傷は見ているだけでも痛そうで、額に汗が浮かんでいるのも走ったからというだけではなく、痛みのせいもあるように見受けられた。よほど強烈な衝撃を受ける攻撃のようだが、乃梨子が見たとおり、やはり銃のようなものではなかったようだ。
「あっ……ひょっとして、私を庇って?」
 ここにきてようやく、乃梨子はその可能性に思い至った。
 いきなり背後から倒されたのは、乃梨子が誰かに狙われていることに気がついたからではないか。そして、乃梨子をかばったのはいいものの、逆に自分が攻撃を受けてしまったのではないか。
「運が悪かっただけよ。それに、死んだわけでもないし、気にしないで。それより乃梨子さんは、怪我はない?」
「はい、大丈夫です……ええと」
 改めて見ても、乃梨子の知らない人だった。黒髪のショート、切れ長の瞳、雰囲気的に明らかに年上だが、乃梨子に見覚えはない。乃梨子は山百合会メンバーだから、例え乃梨子が相手を知らなくても、乃梨子のことは知られている、ということはよくあることだ。
 だが、次の言葉が乃梨子を驚かせる。
「ああ、私は蟹名静。よろしくね」
「静さま……ロサ・カニーナ!!」
「あら、よく知っているわねそんなこと。なんか、懐かしいわね」
 静は、遠くを見るようにして、目を細める。
「静さまは、海外留学中とお聞きしていました」
「そうよ。でも、リリアンの学園祭を見てみたくて来ていたの。まさか、それでこんなことに巻き込まれるとは思わなかったけれど。でも、乃梨子さんと会えてよかった。本当、志摩子さんが手紙で教えてくれた通りの女の子ね」
 一体、志摩子は手紙でどのように乃梨子のことを伝えていたのか。そもそも、静と手紙のやり取りをしているなどと、志摩子からは聞いていない。別に、乃梨子に聞かせるような話ではないが、なんとなく悔しくなる。助けてもらっておきながら、嫉妬してしまうというのは、心が狭いのだろうか。
「それより、どうして助けてくれたんですか?」
 心の動揺を押し隠すようにして質問したが、これもまた疑問点ではある。見知った仲ならともかく、手紙で聞いただけで会ったこともない乃梨子を助けてくれた理由が分からなかった。たまたま、実弾ではなかったから大事には至らなかったものの、もしも本物の銃だったら大怪我をしていた。下手したら、命にかかわる傷を負っていたかもしれない。
「どうしてって言われても、乃梨子さんが狙われているのに気が付いたら、勝手に体が動いてしまっただけよ。人を助けようという理由なんて、そんなものじゃない? お年寄りが横断歩道で立ち往生していたら、助けようと思うでしょう。それと同じよ」
 ごく簡単に、乃梨子の疑問を粉砕する静に、乃梨子は衝撃を受けた。静の言ったことは正論だ。
 だが、実行するのは困難を伴う。特に今、乃梨子たちが陥っている状況では、助けたところで感謝されるとは限らない。助けた挙句、助けた相手に攻撃されるかもしれない。
「私に、殺されるかもしれないとは、考えないんですか? 今の静さまは足を負傷して、自由に動けないはずです。そう、思わないんですか?」
 乃梨子が再び問うと、今度は考え込むように俯く静。だが、すぐに顔をあげて正面から乃梨子を見つめてくる。
「確かに、その可能性もあるかもしれない。でも、助けようとした時にそんなことは思いもしなかったし、今となっては考えるだけ無駄でしょう。乃梨子さんがその気なら、確かに私はもう、お手上げだから」
 分からなかった。
 乃梨子は混乱する。
 生きることを諦めてしまったというわけではなさそうなのに、落ち着き払って受け入れている静のことが、理解できなかった。
 誰だって、死にたいなんて簡単に考えるはずがない。特に静は、夢を持って留学をしているわけで、志半ばでこの世を去るなど、耐えられないはずなのに。
「さ、そろそろ行きなさい、乃梨子さん。さっきの人が、追いかけて来ているという可能性も、ないわけではないのよ」
「え……?」
 静の言葉に、またも乃梨子は目を剥く。
「さっき乃梨子さんに言われたように、私は足を怪我してしまった。おまけに転んで地面に手をついた拍子に、手首も捻ってしまった。私と一緒にいても得なことはない。早く離れた方がいいわ」
 左手で右手首を抑えるようにして、静は僅かに表情を歪めた。
 乃梨子は迷った。
 確かに、静の言うとおりであって、今の静はおそらく足手まといにしかならない。行動の自由を確保するならば、切り捨てるのが最善の策。いや、最後まで生き残ることを考えるならば、むしろ殺してしまうべきか。
 そこまで考えたところで、乃梨子は自分自身の考えに恐怖した。
 平気で人を殺すなんてことを考える自分自身が、まるで別の生き物のようだった。
 片や、自らが負傷しながらも乃梨子を助けてくれたというのに、乃梨子は、その助けてくれた人を身捨てようというのか。
 例え生き残ることが出来ても、それでは人として大切な物を失ってしまうのではないか。
 目を閉じ、深く息を吸い、吐いて、心を落ち着かせる。
「……いいえ、静さまには私と一緒に来てもらいます」
 きっぱりと、言いきった。
 今度は、静の方が驚く番だった。
「どうして? 私と一緒にいても」
「勘違いしないでください」
 静の言葉を、遮る。
「別に、同情とか、さっき助けられたお礼とか、そういう感情的なものではありません。静さまは怪我をして、大きなハンデを負ってしまった。そんな静さまがこの先、静さま自身を守るには、今の状況では私を頼るしかない。つまり、私を殺すことはないということ。私を殺すメリットが、今の静さまにはありませんから。確かに私の自由度は落ちるかもしれませんが、それ以上に私は信頼できる仲間が欲しいんです。そうでないと、休息をとることもままならない。私は、そのメリットの方が大きいと考えたので、静さまには私と一緒に行動してもらいます」
 一気に喋って、ちらりと静を見る。
 静はしばし、固まったように動かなかったが、やがてゆっくりと表情を和らげた。
「……ふふ。乃梨子さんも、甘いですね」
「!? な、な、何を言っているんですか、勘違いしないでください。誰か襲ってきたら、そう、静さまに盾になってもらうこともできますし、いざとなったら静さまを囮にして、私は逃げちゃいますからねっ」
 静に笑われて、なぜか顔が火照って、言い訳をするかのように言葉を連ねる。しかし、乃梨子の物騒な言葉を聞いても、静はにこやかな笑みで乃梨子のことを見つめている。その視線がくすぐったくて、乃梨子は余計なことを口にしてしまう。
「そ、それに静さまには、私のファースト・キスを奪った責任をとってもらわないといけませんからっ」
 言葉にする前から、後悔した。
 そして言ってしまった後は、一気に顔面が赤くなる。
 どさくさ紛れだったにも関わらず、静の唇の柔らかな感触は、鮮明に思い出すことが出来た。
 自分の台詞に狼狽しつつ静を見る。
「わ、私だって、乃梨子さんが初めてでした……っ」
 すると、静も負けず劣らず頬を朱に染め、その頬を自分の両手で挟み込んでいた。指の隙間から、潤んだ瞳で見上げてくる静。
 目と目があい、互いに弾かれたように顔をそらす。
 荒んだ戦場にいるはずだというのに。

 この瞬間だけは、まるで恋愛漫画の一こまのような雰囲気に包まれたのであった。

 

【残り 25人】

 

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