書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

マリア様がみてる 中・長編

【マリみてSS】BATTLE LILIAN ROYALE <14.放送>

更新日:

 

 硬直する。
 全く気が付かなかったのは、明らかに静とのやりとりで油断をしていたから。今さら反応しようにも、体は言うことをきいてくれない。どうする、このまま無防備にやられてしまうのか、それとも命乞いでもするか、思考をフル回転させようとして。
「……いい雰囲気のところご免なさいね、あまりのんびりしていられる状況でもないから」
 冷静な声が、耳に届く。
 呪縛が解けたように、ようやく体が動くようになり、相手に気取られないよう武器を探そうと手をそっと動かす。
「そんなに警戒しないで、あなた達と戦う気はないから」
 逆光になっていた相手の姿が、ようやく分かってくる。
 艶やかな黒髪はショートボブ、涼しげな目もと、リリアンの制服に身を包んでいても醸し出される大人っぽさ。
 彼女の名を呼んだのは、静だった。
「蓉子さま……っ!?」
「ごきげんよう、静さんに……乃梨子ちゃん、ね」
 蓉子は両手を広げて武器を持っていないことをアピールし、二人から微妙に距離を取ったところで腰を屈めた。
 改めて、乃梨子は蓉子のことを見つめる。一応、話には聞いたことがあって、祥子の姉であり前紅薔薇様の水野蓉子。歴代三薔薇としても最強クラスと謳われた前三薔薇の、中でも纏め役として山百合会を、そして学園をリードしていた才媛。
 実際に顔を合わせるのは初めてであったが、なぜか信頼できると思えた。
「えと、蓉子さまは私たちのこと、疑わないんですか?」
 乃梨子が初対面なら、蓉子だって乃梨子と話すのは初めてなわけで、静とはもしかしたら知り合いなのかもしれないが、迂闊すぎやしないだろうか。
「ふふ、怪我人を一生懸命にかばっている姿は嘘には見えなかったし、それに何より、あんなにラブラブな所を見せられたら、大丈夫かなって」
「なっ……ら、ラブラブってなんですかっ」
「しっ、大声出さないで」
 注意されて、口を噤む。確かに、誰かに聞かれて場所に感づかれでもしたらたまったものではないが、だからといって変なことを言わないでほしい。静だって、困っているだろうと視線を向けてみると。
「…………」
 なぜか赤くなって俯いている静であった。
 乃梨子はコホンと一つ咳払いをして、どうにか気を取り直す。
「――それで」
 改めて蓉子と対峙する。蓉子は乃梨子たちを安心させるためにか、まずは蓉子自身のこれまでのことについて話し始めた。
 非常に簡潔に言えば、なるべく他の人に見つからないよう慎重に動きながら、信頼できる人を探していたところで乃梨子と静が目に入ったので声をかけたこと、それまでの間に人の姿を見なかったわけではないが、見知らぬ相手だったのでやり過ごしたこと。まだ誰とも戦っていないが、誰かが戦っているのか銃の音は聞いたということ。
 更に蓉子自身に与えられた武器も見せてくれた。手にしているのはグロック17、既に試し撃ちも済ませており、今は弾倉を外しているがいつでも使用可能な状態であった。
 これからどうするか、先のことに言及すると、蓉子は仲間を増やしたいという。今のままでは最大でも二人しか助からないが、諦めるつもりはないようだ。
「……まさか、あの百瀬万里矢とかいう人たちに戦いを挑むつもりですか? それとも、逃げるつもりとか」
「――まさか。そんなこと、無理に決まっている」
 あっさりと言われて反論しようとした乃梨子を抑えたのは、静だった。乃梨子の腕を掴むと、無言で地面を指差す。
「何が……」
 目を向けると、蓉子が木の枝で地面に何かを書いていた。

"盗聴の可能性アリ。気を付けて"

 思わず息を呑み込む。
「どうにかしたいとは思うけれど、今のところ良いアイディアが浮かんでいるわけではない。厳しいわね」
 喋りながら、手を動かす。

"普通に喋って"

 目を上げると、真剣な表情の蓉子と視線が交錯する。
「じゃあ、仲間を増やすっていうのは?」
「私たちの安全のため。大勢の集団に対して、戦いを挑もうとはなかなか思わないでしょう? それだけでも、価値はあると思うの。もちろん、多ければいいってものではないわ、信頼できる人じゃないと」

"逃げるのはむずかしい。万里矢をつかまえるしかない"

「確かにそうですね」
 乃梨子は蓉子の目を見て、頷く。
「今こうして三人いるだけでも、一人の人から見たら嫌でしょうしね」
「まあ、どうやって仲間を探すかが問題でもあるのだけれどね」

"私たちは見られてるはず。気を付けて"

「……とりあえずは、山百合会のみんなかしらね」
 蓉子は立ち上がりながら、地面に書かれた文字を踏んで殆ど音も立てずに消す。
「探しに行くんですか?」
「そうね、動くのは危険だけれど、動かないでいたら何もしないうちに全てが終わってしまうでしょうし」
 乃梨子が蓉子と話している間、静は言葉を挟まずにじっと耳を傾けていた。
 もしかすると、風向きが変わってきたのかもしれないと、乃梨子は思い始めていた。静も蓉子もよく知らない相手で完全に信頼できるとは断言できないが、今のところは仲間として信用しても良さそうな気がした。
 仲間が二人の合計三人、今の状況下で怪我人がいるとはいえ複数人のパーティを組むことが出来ているというのは、先ほど蓉子が言ったようにアドバンテージになるはず。加えて、蓉子という先代紅薔薇さまが仲間にいる。
 切れ者で冷静沈着、リーダーシップがあって行動力もある。乃梨子も学年主席の成績を誇るが、今はそれだけでは足りない。実際、盗聴の可能性に乃梨子は考えが至らなかったのだが、言われてみれば盗聴されていると考えた方が自然だ。
 この『プログラム』は、常に乃梨子たちの行動は見られているはずで、音声だけとられていないなんてこと、あるわけがない。もしも、『プログラム』の主催者達に対して不穏な考えを持つような人間がいた場合、早期に把握しておく必要だってあるだろう。百瀬万里矢は間違いなく乃梨子たちの前に実の姿を見せたのだから、どこかに居てしかるべきなのだ。
 ならば、それを逆手に取ろうというのが蓉子の考え。どこに居るのかも分からなければ、仮に見つけたとして抗えるのかも分からないが、確かに他に良いアイディアがあるとも思えない。当然、相手だってそれくらいのことは考えるし対策だってあるだろう。そもそも、禁止エリアの中に入られてしまえば、乃梨子たちには手も足も出せなくなるのだが。
 蓉子をちらりと見る。
 蓉子ほどの人がそれを失念しているとは思えないが、果たして何か手立てを考えているのだろうか。
 動きながら考えるしかないのかもしれない。今の時点で完璧な作戦など立てられるはずもないし、状況だって変わっていくだろう。
「ただ、ね。私、そろそろ何かあるんじゃないかと思うのよね」
「何か……って」
 乃梨子が言いかけた時、スピーカーから雑音が聞こえだし、三人は動きを止めた。誰もいないはずなのに、思わず宙に目を向けて耳を澄ませる。

『あー、あー、みなさん、聞こえますかー?』

 間違いなく万里矢の声だった。
「やっぱり、来たわね……」
 天を仰ぎみて呟く蓉子。
 まるで予想済、とでも言うような言葉に、一体何をヒントにして何を考えていたのだろうかと、その横顔を盗み見る。

『皆さん、まずまずのペースではありますが、それでもちょっとゆっくりしていますね。もう少し、てきぱきといきましょうか!』

 これから何が始まるのか分からないが、内容からしてろくなことではないことだけは分かる。
 静も、蓉子も、厳しい表情で放送に耳を傾けている。

『てきぱきといくために、こちらからお手伝いします。特殊ミッション発動、"ロザリオに願いを" 一度しか説明しないから、よく聞いてね』

 は?
 特殊ミッション?
 何を言っているのだ、万里矢は。混乱しかかるが、とりあえず今は考えるよりも万里矢の言葉を聞き逃さないことだ。

『これから言う4つのゾーン、"ウォーターゲート"、"エキサイトシティ"、"ライドタウン"、"ネイチャーユーニティ"の中のどこかに、"懺悔の箱"というものが設置されています。それを見つけて、皆さんの首につけられているロザリオを"懺悔の箱"の窪みにぴったりと嵌めるとミッションクリアーになります』

 首につけられたチョーカー、そこにぶら下がっているロザリオを指でいじる。何が目的で、そんなことをさせるのか。そもそも、ミッションを行う必要性が全く分からない。

『ちなみにー、ミッションクリアーしないと、その首輪が爆発しまーす。ロザリオを"懺悔の箱"の窪みに嵌めることによって、起動停止がかかるようになっています』

「――――!!」
 思わず、首を手で抑えてしまう。
 それ即ち、強制参加ということか。

『リミットは、これから六時間後の午後二十一時まで。一秒でも過ぎると、爆殺だぞ☆』

 六時間。
 それは、充分すぎる時間にも感じられるが、果たして。

『それでは、ミッションスタート! あ、"懺悔の箱"は、見ればまあ分かると思うから心配しないで。あと、室内の奥深くとか意地悪いところにはないから。ちゃんと、外にあるから安心して。さ、ファイト、オー!』

 万里矢の元気な声がこだまし、やがてシンと静まり返る。
 しばらくじっとしていても、続く言葉はないようで、放送は今ので完全に終了したようだが、乃梨子はいまだ戸惑っていた。
 ミッション、ロザリオ、4つのゾーン、首輪の爆発。
 参加しないわけにはいかないが、なぜ今、このタイミングで。
「そう来るのね……」
 呟く蓉子に、乃梨子は視線を向ける。
「どういうことですか? 蓉子さまは何か予想されていたようですけれど、一体、なぜ」
「落ち着きなさい、乃梨子ちゃん。冷静に考えれば貴女だって分かるはず。静さん、貴女は分かっているようね」
 言われて静を見ると、神妙な顔をして頷いている。
「乃梨子ちゃん。このテーマパークには多数のアトラクションがあるわ。潰れたとはいっても、それらアトラクションは、建造物はそのまま残されている」
「そうですが、それが、何か」
 分からない。
 もしかして頭が悪いのだろうかと、不安になる。
「まあ、こんなこと分からない方が良いのかもしれないけれど。この『プログラム』で、一番賢い方法……戦術はなんだと思う?」
「えっと、それは」
「見つからない場所に隠れてじっとしていること、ですね」
 乃梨子の代わりに答えたのは、静だった。静の手がそっと乃梨子の手の甲に重ねられ、温もりが伝わってくる。
 頷く蓉子。
「そう。他の人が潰しあってくれるのを待ち、最後に登場する。それが一番、リスクが少ない。それを阻止しようというのが、禁止エリアなのでしょうけれど、今はまだ禁止エリアもそこまで多くない。加えてここには、先ほど言ったように数々のアトラクションがあるわ」
「あっ、そうか……」
 屋外型だけでなく、屋内型のアトラクションも色々ある。そしてアトラクションともなると、中は色んな機械があったり、複雑な作りになっていたり、スタッフ用の連絡通路や部屋があったりと、隠れる場所なんていくらでもありそうだ。そう簡単には見つけられそうもない、隠れ場所が。
「先ほど言ったようなことを考えなくとも、怖いから見つかりにくい場所に隠れている、というのは普通の心理。でも、それじゃあこの『プログラム』は成り立たない……いえ、あいつらにしてみればきっと、面白くない」
 それはきっと、生徒達が殺しあう様をどこかで高みの見物をしている輩がいるはずだから。清楚なリリアンのお嬢様たちが、憎しみをむき出しにして、みっともない姿を晒して、血で血をすする戦いをするのを楽しみに見ているはずだから。
 だから、そんな隠れている生徒達をいぶり出すための、ミッション。
 おそらく、じっと動かないでいる生徒が何人かいるのだろう。そんな生徒達も、先ほどの放送を聞けば動かないわけにはいかない。
「それでも、4つのエリアに分散させたということは、一気に終わらせるのはつまらないと思っているのでしょうけれどね」
 吐き気がする。
 ろくでもないことなのに、相手の話に乗らなければ六時間後には確実に死が訪れる。
「行くしか、ないですよね」
 マップを広げて確認する。
 指定された4つのゾーンのうち、どこに向かうのが良いのか。正解など分かるわけもないけれど、選ばなければならない。
 乃梨子たちの現在地は、"ウォーターゲート"の端っこのあたりのはず。移動する手間なく、指定されたゾーンにいるわけで、普通に考えれば近辺を探せばよいのだけれど。
「……蓉子さま?」
 地図を見て考え込んでいる蓉子を見て、首を傾げる。悩む必要があるのだろうか。
「乃梨子ちゃんの言いたいことは、分かる。でもここは、"ネイチャーユーニティ"に向かおうと思うの」
「え、なんでですか?」
「"ウォーターゲート"は文字通り、水に関するアトラクションや、湖なんかがある場所。その分、建物なんかも限られてくるけれど、逃げ場所も少ないし橋の上なんかは見通しも良いし、出来れば避けたいと思うの」
 言われてみれば、確かにそうとも思える。
 時間もたっぷりあるし、用心しながら進んでも問題ない。
「他にも気になることはあるのだけれど……それは、まだ私の憶測の域を出ないし」
「え、なんですか?」
「ううん、なんでもないわ」
「そうですか……それじゃあ、行きましょうか」
 荷物をしまい、立ち上がりかけたところで肩をつかまれる。
「どうか、しましたか?」
「焦らないで。きっと、今だと同じように移動開始する人たちがいるはず。時間もあるし、少しくらい休憩しても問題ないわ。体を休めるのも重要よ。静さんは怪我をしているのだし、尚更ね」
「あ……そ、そうでしたね。すみません」
 蓉子と会ってから、なんだかイマイチな姿しか見せられていない気がして、落ち込みそうになる。自分だってしっかりしているつもりだったが、蓉子の前ではまるで子供のようではないか。
「私は周囲を警戒しているから、静さんと乃梨子ちゃんは少し休んでいて」
「それなら、私も」
「私が休む時にはお願いするから、ね」
 優しく諭され、これ以上抗ったところで意味がないと思い、黙って頷く乃梨子。静の隣に腰を下ろすと、どっと疲れが出たような気がした。
 眠るわけにはいかないが、確かに、少し休息を取った方がよいようだ。
 静が、寄り添うように肩を寄せてくる。
「静さま、大丈夫ですか?」
「ええ、少し肩を借りるわね、乃梨子さん」
「どうぞ、こんな肩で良ければいくらでも」
「ふふっ、ねえ、乃梨子さん」
「はい」
 と、静の方に顔を向けた次の瞬間。
「――――っ」
 唇を、塞がれた。
 静の少し薄い唇は、ちょっと渇いてかさついていたけれど、それでも十分に柔らかくて温かくて。
 二秒ほどして、離れる温もり。
 蓉子は、背を向けていて見ていない。
「ふふ、元気をもらっちゃったから、大丈夫」
「な、なななっ、何を言っているんですかっ」
 にっこりと微笑む静に、真っ赤になって唇を尖らす乃梨子。
 二人の手は、指と指を絡ませあいしっかりと握られていた。

 

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