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【マリみてSS(真美×祐麒)】素敵な忘れ物

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~ 素敵な忘れ物 ~

 

 三月になり、とうとう卒業式も終わって三年生のお姉さま方はリリアン女学園を巣立たれた。それはもちろん、真美の姉である三奈子も同じことで、一緒にいるときは騒がしかったり迷惑だったりもしたけれど、いざ卒業してしまうとやっぱり寂しいもので。
 そんな寂しさを紛らわすためというわけでもないけれど、四月になれば今度は自分たちが最上級生となる真美たち現二年生の仲間達で、祐巳さんの家に集まっていた。
 実際に集まることとなった名目は、『最上級生に向けて私たちも前までのお姉さま方みたく綺麗で素敵な淑女になるぞ、オー!的な決起集会 in 福沢邸』というもので、そのタイトルだけを見ても分かるとおり、おおよそ淑女とは程遠いものだった。そしてその名目も、女の子が五人も集まればすっかり忘れ去られ、全然関係ないおしゃべりばかりに花が咲く、という感じである。
 ちなみに集まったメンバーはといえば、もちろん新しく三薔薇さまとなる祐巳さん、志摩子さん、由乃さん。それにプラスして蔦子さんと真美というものであった。はっきりいって、いつもと代わり映えしないメンバーではあるが、こうして土曜日の放課後からお泊まりで集まるなんていうのは初めてだったから、物凄く新鮮な気分だった。
 今日は純粋に友人との集いだから、蔦子さんも今日のことはプライベートの記念として写真を撮るだけだし、真美も記事にしたりすることはない。
 皆で来る前に買ってきたケーキがおやつとして出され、誰がどれを食べるかでもめたり、祐巳さんの昔のアルバムを見て大笑いしたり、そんなことをしているうちにあっという間に晩御飯の時間となって。
 お世話になるのに何もしないというのも心苦しくて、真美たちは進んでお手伝いをすることにした。とはいっても、大人数で料理のお手伝いを出来るわけでもないので食器を並べたり、盛り付けをしたり、配膳をしたりといったことだけではあるが。
 今日は大人数ということもあり、テーブルを二つ並べての食事ということになっている。そしてそのテーブルの端には既に、祐麒さんと祐巳さんのお父さまが座して待っていた。
「いや、これだけ女の子が多いと華やかでいいなあ」
 なんて言って、小父さまは笑っている。
 真美はその姿を見て、ちょっと思った。
 これで、ご飯を持っていったり、ビールをお酌してあげたりしたら喜ばれるのではないかしらと。
 とりあえず、今持っているサラダのお皿を置いたら小父さまに持っていこうか、なんて考えていたら。
「ハイ、どうぞ小父さま」
「ああ、ありがとう。ええと、志摩子ちゃん」
「いえ、今日は押しかけてしまってすみません」
 いつの間にか志摩子さんが隣に行って、ご飯の盛られたお茶碗を渡して談笑なんかしていた。
 しまったと思い、それならば祐麒さんにと振り向くと。
「はいは~い、ご飯ですよ」
「あ、ありがとう蔦子さん」
 今度もまた、いつの間にやら蔦子さんがやってきていた。
「どうだ祐麒、美少女から配膳されて」
「あら嫌ですわ美少女だなんて、お父様ったら」
「なっ……つ、蔦子ちゃん、もう一回言ってくれないかい」
「はい、お父様」
「お父様……いい響きだ……蔦子ちゃん、祐麒と結婚してくれないかね」
「ああ二人とも、この親父の言うことは無視していいですから」
「え、せっかく二人の仲が認められたのに。ひどいわ、祐麒くん」
「祐麒、蔦子ちゃんに謝りなさい」
「なんで、俺が悪者?!」
 そして、なぜか四人で楽しそうにお喋りをしている。っていうか、蔦子さん、抜け目なく小父さまに気に入られている?!
 冗談なんだろうとはわかっているけれど、それでも心がわさわさと粟立ってしまう。
「どうしたの、真美さん?」
 由乃さんに声をかけられて我に返る。
「ううん、なんでもない」
 軽く顔を振り、気を取り直して給仕に専念する。
 やがて準備も全て整い、大人数で始まった晩餐はたいそう明るく楽しいもので、祐巳さんのお母さんが作ってくださった料理もとっても美味しくて、言うことはないのだけれど。
「我が家にこんなに可愛い女の子が沢山来るなんてなぁ」
「いやだわお父さんったら、だらしなく鼻の下のばしちゃって。皆さん、祐巳ちゃんのお友達なんですからね」
 祐巳さんのご両親は、しきりに皆のことを褒めてくるけれど、その度に真美の心は少しだけ落ち込んでゆく。
 確かに、志摩子さんは学年、いや学園でもトップを争う美少女だし、由乃さんはまるで少女漫画に出てくるみたいに可愛らしいし、蔦子さんだって眼鏡をかけた知的美人といった感じだし、祐巳さんは下級生から絶大な人気を誇るほど愛嬌と独特の雰囲気を持っているけれど。
 それに比べたら真美なんか、面白味も何もない、ごく普通の女の子だ。容姿が特に秀でているというわけでもないし、スタイルが良いわけでもなく、目立つような存在であったことなど皆無であった。今でも時折思うことがある。こんな、薔薇さまと呼ばれる人たちと仲良く一緒にいることが不思議だと。
 楽しい食事をしながらも、自分のそんなネガティブ思考にちょっと沈んでしまう真美であった。

 食事を終えてさらに、真美は巨大な衝撃を受けていた。
 それはお風呂をいただいたときのこと。
 五人の女の子が順番にお風呂に入るのでは時間がかかりすぎるということで、二人一組で入ることにした。その組み合わせが志摩子さん・蔦子さんと、由乃さん・真美というものになったのだけれども。

(……よ、由乃さんに負けた……!!)

 何が負けたって、それはもちろん胸の大きさであった。
 志摩子さんの胸が大きいことは知っていた。蔦子さんも実はかなりスタイルが良くって大きいことは体育の着替えのときにわかっていた。祐巳さんは決して大きくないけれど、それでもそれなりの膨らみはあった。
 そして由乃さんと真美である。
 悲しいかな、はっきりいって二人は胸がない。
 特に由乃さんは、病弱だったこともあるせいか、同性である真美からみても恐ろしいほどに細い体で、胸もそれに比例するような感じだった。同じように胸がないといっても、それでも真美の方がわずかに大きかったはずだ。少なくとも、二年生の最初の頃の体育の着替えのときは確かにそう思っていた。
 人間とはあさましい生き物で、自分よりも下がいると思うと安心する。それは真美とて例外ではなかった。口や態度に出したりすることはないが、美少女揃いの仲間たちの中にあって、わずかにそれだけが真美の救いでもあったのだ。
 それが今、一緒にお風呂に入って気がついてしまった。
 明らかに由乃さんの胸は成長していた。
 手術して健康な体を手に入れ、部活も始めたせいなのだろうか。由乃さんの体は相変わらず細いことに変わりはないが、全体的に少しだけふくよかになっていたのだ。
 一方の真美は、一年前から、いや実はもっと前からほとんど成長のあとが見られない。自身の幼児体型に密かにコンプレックスを抱いていた真美だったが、この事実はさらに強いダメージを与えた。
「じゃあ真美さん、私、先に出ているね。真美さんて結構、長風呂なんだ」
「あ、うん。え、あ、私も」
 ぼーっとしているうちに、由乃さんの方が先に脱衣所から出て行ってしまった。本来なら、髪の毛の長い由乃さんの方が、時間がかかるだろうに。慌てて真美は湯船から出た。
 ここは自宅ではないのだ。真美たちの後にも、祐巳さんのお家の方がお風呂に入る。長々とお風呂を独占しているわけにはいかない。急いで体を拭いて着替えて、髪の毛をざっと乾かして脱衣所を出た。
「あ」
 一歩出たところで、そんな声がした。
 振り向くとそこには、祐麒さんがいた。
「あ、どうも。お風呂お先にいただいちゃいました。いいお湯でした」
 ぺこりと頭を下げる。
「う、うん、その、ご、ごめんっ」
「へっ?」
 なぜか分からないけれど、祐麒さんはいきなりそんなことを言って、真美と顔をあわせるのを避けるようにして、リビングの方へと行ってしまった。
 祐麒さんの姿が消えるのを見届け、首を傾げながら部屋へ戻る。ちなみにこの部屋は祐巳さんの部屋ではなく、五人が布団を並べて寝ることが出来るような別の部屋である。
 部屋へ入って脱いだ衣類を片付けようとしたとき、蔦子さんが声をかけてきた。
「あら、真美さん、セクシーね」
「ん?」
 ちょっとしっとりした髪の毛が首筋にかかっている蔦子さんのほうが、よっぽどセクシーに見えたけれど。
「あは、真美さんボタン掛け違えているよ」
 指摘したのは由乃さんで。
 見てみると。
「わあっ?!」
 確かにシャツのボタンを掛け違えていて。きっと慌てて着替えたからだろうけれど、そのせいかシャツに微妙な歪みが出来ていて、胸元がちょっと露出していた。しかもこの格好で前屈みになろうものなら……
「あ、あ、あ…………」
 一気に、頭に血が上昇してくる。
 えと、えと、ま、まさか祐麒さんに、み、見られ、た?
 ああ、だから祐麒さんは真美から視線を逸らすようにして、謝りながらそそくさと行ってしまったわけだ……って、それじゃあやっぱり見られたってこと?!そりゃあ、見られるほど立派なものはないんだけれど、ってそういうことではなくて。
「わ、わ、ぅわぁ!」
 皆に背を向けて、急いでボタンを掛けなおす。
「女の子同士なんだから、そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない」
「以外と可愛いところあるのね、真美さん」
 後ろから、そんなことを言っている声が聞こえてくるけれど。
 真美が狼狽している理由は全く別のところなのだった。

 

 がっくりと凹んだ真美のことなどお構いなく、女の子のお喋りは続くもので。皆は布団の上に思い思いの格好で寝転んで、話をする。
 で、この年頃の女の子が集まってする話といえば。
「ねえ、蔦子さんは祐麒のことが好きなの?」
 異性の話。
 お嬢様学校、女子校のリリアンといえども、その辺の話が出ないわけがない。
「え、何、いきなり」
「あ、私も聞きたい。だって、やけに積極的に祐巳さんのご両親に気に入られようとしていたじゃない」
 由乃さんも目を輝かせている。
「いやねえ、ちょっとした冗談じゃない。好きとかそういう問題の前に、ほとんど話したことだってないのに」
「あら、そうだったの?私、てっきりお二人は既にご両親公認の許婚か何かだと思っていたのだけれど」
「志摩子さん、志摩子さん。飛躍しすぎ」
「だって、あまりにも仲が良く見えたから。祐巳さんのご両親のことだって、『お父様』、『お母様』って呼んでいたし」
「だから、ノリだってば」
 蔦子さんは苦笑しながら否定しているけれど、果たして本心はどうなのだろうか。見ている限り、本当に仲よさそうに、ごく自然に話していたし、楽しそうだった。
「でも、もしそうだとしたら、祐巳さんがお姉さまになるのね」
「うわー、蔦子さんにそう呼ばれるの?なんか想像できないー」
「あら、どうして?祐巳お・ね・え・さ・ま」
「きゃーっ、やっぱりそうだったの?!」
 大きな笑いが起きる。
「もー、真美さんたら冷静な顔しちゃって。興味なし?」
「え、あ、別にそういうわけでは」
 急に由乃さんに話を振られて、慌てて手を振る。
「でも真美さんてば、私たちの中で一番この手のことに疎そうだよね」
「あー、確かに。告白とかされてもクールに流して」
「うーん、ちょっと失礼だけど、真美さんが恋愛に熱中する姿とか、なかなか想像しづらいものがあるかもね」
「少女漫画とか恋愛小説とか、読まなそうだよね」
「そういう由乃さんだって、愛読書は剣豪モノとか推理小説でしょ。令さまの本を読んでも何が面白いのか分からない、って言っていたじゃない」
「あ、言われてみれば、それもそうか」
 またそんな風にしてみんなで笑っているけれど。
 そうか、やっぱり真美は皆からそういう風に見られていたのか。仕方ないとは思うけれども、実はコスモス文庫の愛読者だとは言える雰囲気ではなかった。
「まあでも、男の人とお付き合いするのって、実際になんか想像つかないわよねー」
「同感」
 結局、この手の話はここに落ち着く。
 リリアンという女子校かつお嬢様学校で箱入りに育てられた私たちは、男の人とお付き合いするということが具体的にイメージするのが難しいのである。
「それよりさあ、この前、美味しいマドレーヌのある穴場的なお店を見つけたんだけど」
「え、どこどこ?」
 なんにしろ、まだまだ"花より団子"なのであった。

 

 お喋りの話題が尽きるということはなかったけれども、あまりにも夜更かしをしては朝に堪えるということで切り上げたけれど、それでも十分に遅い時間になってしまった。
 本来ならぐっすりと眠ってしまうところであるが、枕が違うせいか、それとも空気が違うせいか、朝方、ふと真美は目を覚ました。
 時計を見るとまだ六時であり、もう少し寝ようと布団にくるまるが、自然の生理現象が込み上げてきた。
 朝にあまり強くない真美は、頭に靄がかかったような状態のままのろのろと布団から這い出した。熟睡している他の四人を起こさないように、静かに部屋を出る。
 三月とはいえ、朝方はまだ結構冷える。体を丸めながらそろりと移動し、お手洗いの中に入った。
(うう……)
 二時半まで起きていたのは覚えているから、まだ三時間強しか睡眠を取っていないことになる。便座に腰を下ろしたまま、しばし、うとうとと微睡んでしまった。
(あ……いけない、いけない……)
 油断すると寝てしまいそうになる体をなんとか動かして立ち上がり、パジャマのパンツを下ろしたとき。
「…………」
 いきなり、ドアが開いた。
 顔を上げると、目が合った。
 祐麒さんと。
「………………」
「あ、あ、ごめん、電気がついていなかったから!」

 バタン、と扉が閉められる。

(………………)

(………………)

(………………え)

(……………………ええええええええええっ?!)

 急に、覚醒した。
 脳みそがスパークする。
 み、み、見られた?!こんな、寝癖ぼさぼさの髪、半分寝ているような顔。
 いや待て、そこではなくて。なんという恥ずかしい格好を見られたのか。まだ用を足しているところじゃなくて良かったけれど……て、そこでもなくて。下着はまだ下ろしていなかったけれど、少なくとも下着そのものは見られた?

(うああああああああああああああああっ)

 羞恥のあまり、真美はそのまま便器の中に水とともに吸い込まれていきたくなった。

 

 明け方のハプニングの衝撃で、朝食の場でも真美は祐麒さんのことを見ることができなかった。
 楽しいお泊りのはずが、なんかもう、ショッキングなことばかりで真美の内心は激しく泥沼に沈み込んでいた。
 お昼を過ぎて帰るときになっても、真美の気持ちは回復することはなく。それでもみんなと一緒にいるから、あからさまに落ち込んだ様子を見せるわけにもいかないから表面上はいつもと同じように振舞って。
「なんか、疲れた……」
 帰る前に用を足したお手洗いの中、便座に座ってため息をつく。
 こうしていると、朝のことを思い出してしまい、さらに暗い気分になってくる。
「ふう……」
 お手洗いを後にして、玄関に向かうと既にみんなは支度できていて、あとは真美を待つだけになっていた。
 お待たせしてごめん、と謝りながら靴を履こうとしたとき、不意に声がかけられた。
「真美ちゃん、これ、真美ちゃんの忘れ物じゃないかしら」
「えっ?」
 その声は階段の上から聞こえてきた。祐巳さんのお母さんの声だった。
「悪いけれどちょっと、見に来てくれるー?」
「あ、はい」
 何か忘れていただろうかと思いながらも、履きかけていた靴を脱ぐ。
「もう、お母さんたらここまで持ってくればいいのに。私、取ってこようか」
「あ、ううん。ありがとう、でも大丈夫だから」
 祐巳さんは言ってくれたけれど、既に履いたブーツをまた脱ぐのは面倒くさい。幸い、真美はまだ靴を履いていなかったので、「ごめん、ちょっと待っててね」と皆に一言残してから自らの足で階段を上がった。
 二階に行くと、小母さまの姿が見えた。
「すみません、ええと、どれでしょうか」
「ふふ、こっちよ」
 なぜか、にこにこと笑いながら小母さまは真美を後ろに引き連れて歩き、一つのドアの前に立った。
 でもその部屋は、真美たちが止めてもらった部屋ではなかった。
「あの…………ここ、ですか?」
 首をかしげて小母さまを見ると。
「そうよ。さ、どうぞ」
 小母さまは、やっぱり柔らかく微笑むだけ。
 不思議に思いながらも、ドアを開くと。

「…………え?」

 部屋の中。
 祐巳さんの部屋ではない。シンプルな中にも、どこか女の子にはない、男の子らしい雰囲気の漂う部屋。
 祐麒さんがいた。
「みんながお待ちしているから、あまり遅くならないようにね」
「……分かってるよ。それより、祐巳や他の皆には絶対に言わないでよ」
「はいはい、その辺は分かっているから」
 照れたような、ちょっと怒ったような表情と口調の祐麒さん。
 反対に、相変わらず楽しそうな、嬉しそうな小母さま。
 真美はわけも分からず、そんな二人の様子を目を丸くして見ていたのだけれど、そんな真美や、室内の祐麒さんに聞こえるように小母さまが口を開いた。
「やっぱりね、真美ちゃんじゃないかと思っていたの。真美ちゃんだけ、他の子達とは雰囲気が違っていたし、祐麒の態度も、ね」
「う、うるさいな。いいから、ちょっと向こう行っていてよ」
「はいはい」
 小母さまは真美と入れ替わるようにして、部屋から出て行った。
 そして、部屋の中に残されたのは、困ったような顔をしている祐麒さんと、相変わらず現状をよく理解できていない真美。
「えと」
 昨夜の醜態も、今朝の痴態も忘れて立ち尽くしていると。
「あの、これ」
 祐麒さんが何かを差し出してきた。
 何も言えずに、ただそのラッピングされた包みと祐麒さんの顔を交互に見ていると。
「だから、バレンタインのお返し」
「あ」
 そういえば、もうすぐホワイトデーだった。
 ホワイトデーとは、男の子から女の子に、バレンタインのお返しをする日。リリアンでは、あたりまえだけれどみんなの意識はバレンタインに集中するため、今まではほとんど意識をすることがなかった日。
「あ……ありが……とう」
 まさか、貰えるなんて思っていなかったから、まさに青天の霹靂だった。ようやくのことだけでそれだけ言って、包みを受け取る。
 水色の包装に、白くて可愛らしいリボンが結ばれている。
「喜んでもらえるか、分からないけれど」
「そんな、と、とんでもない。凄い、嬉しいですっ」
 優しい祐麒さんだから、きっと真美のためにわざわざ色々と考えてくれたのだと思う。それだけでも、嬉しかった。
「それから、さ……」
「はい?」
「あの、色々と、ごめん」
「え?……あっ……いえ……」
 その謝罪が、昨夜のことや今朝のことを言っているのを悟ると、途端に恥ずかしさがこみあげてきて。せっかく、ちょっと忘れていたというのに。何か言い返すこともできずに、真美は赤面してうつむいてしまった。
 そこへ。
「真美さーーん、どうしたのーー?」
 階下から、真美のことを呼ぶ声がして、そこで我に返る。
「そ、それじゃああの、失礼します。これ、ありがとうございました」
 お礼を告げて、そそくさと部屋を後にする。
 階段のところで待っていてくれた小母さまが、真美のことを見てにこりとする。そして、一緒に階段を下りながら。
「今度は、祐麒が真美ちゃんのことを連れてくるのを楽しみにしてるわね」
 なんてことを言うものだから。
 思わず階段を踏み外しそうになってしまうのであった。

 

 駅まで向かうバスの中、みんなでお喋りしながら揺られていく。昨夜、遅くまで起きていたせいか、由乃さんなんかはしきりに欠伸をしている。
「どうしたの、真美さん。随分と表情が明るくなったけれど」
 隣に座っている蔦子さんが聞いてくる。
「え、そう?」
「そうよ。この蔦子さんのメガネを欺くことはできないんだから」
「そういえば真美さん、忘れ物って結局、なんだったの?」
 後ろの座席から、志摩子さんが尋ねる。
「ええと、それは……」
 ああ、何を忘れたことにすれば、みんな納得してくれるのだろう。考えながら、真美は咄嗟に嘘をつく。
 こういうとき、ポーカーフェイスは役に立つ。
 皆の前では自然と出来るのに、あの人の前に出ると、なんで変な姿ばかり見せてしまうのだろうか。
 真美は、きゅっ、と膝の上に置いたバッグを抱く手に力を入れた。

 

 大事な大事な忘れ物は、その中に大切にしまわれていた。

 

おしまい

 

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