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ノーマルCP マリア様がみてる 三奈子

【マリみてSS(三奈子×祐麒)】いつかの未来

更新日:

 

~ いつかの未来 ~

 

 

 ここは、三奈子が勤めている会社の女子寮内。
 その一階には、共用の部屋がある。
 寮とはいっても普通のマンションを借り上げたもので、もともとはマンション内での集会などを行うための部屋だったらしい。寮となってからは、パーティなどの催しを行うために使用されている。
 そこに集った十数名の人は当然ながら全員が女性……と思いきや、なぜかその中に唯一の男子として祐麒がいた。
 三奈子の彼氏として寮住まいの女性全員に公認になっているどころか、なぜか会社中で既に祐麒の存在は知られているということを、祐麒はつい先ほど知った。
 入社して半年を過ぎ、三奈子の勇名(?)は既に社内に幅広く轟いているらしい。
 とにかくパワフルで活力が漲っていて、新人のくせに誰に対しても物怖じせずに突撃していくのである。だからといって決して礼儀知らずというわけではない。そこはリリアン育ち、礼儀正しくきちんとしているけれど突撃していく。それが物知らずで能無しなら迷惑なだけだが、失敗もするけれど大きな成果をあげることもあるから、迷惑と同時に称賛されることもある。
 社長にもその名は伝わっており、「今年の新人にはやけに元気な子がいるね」などと言われているらしい。
 ちなみに、既に社長にも突撃したことはあるらしい。
 社長であれば「元気な子」と言って笑っていれば良いかもしれないが、そうはいかないのが直属の上司と教育担当になった先輩である。
 先輩は三奈子より二つ年上なだけだが、この半年間で生まれて初めて胃薬を飲むようになったというし、上司の男性は胃薬常備に加えて白髪が一気に増えて最近では睡眠導入剤を使用し始めたとかしないとか。
 電話が鳴ると、「なんだ、また築山への苦情か? 俺は知らん!」と口にしてみて見ぬふりをするとか。
 三奈子の話を聞くと、さすがに想像の斜め上をいっているところはあるが、頷けないわけではない。
 問題は、仕事とは全く別のプライベートな祐麒の存在が知れ渡っていることである。
 二人のときや寮内ではべたべたするが、仕事とはきちんと切り分けるのが三奈子である。仕事の中で祐麒のことを積極的に話すとは思えなかったし、休憩中の雑談程度であれば社内全体に広がるとも思えない。
 それで問いただすと。

 なんとある日、お偉いさんの会議の中で三奈子の暴走が話題に上がったそうである(正式な議題ではなく、流れの中で)
 どの部署のお偉いさん達も程度の差こそあれ、三奈子の名前は知っていたのである。
 そこで件の直属の上司が頭を抱えながら、「誰か築山に首輪でもつけてくれないか。そうだ、恋人でも出来れば少しは落ち着くんじゃないか」
 とポロリと零したところ、ちょうどお茶を運んできた秘書課の一華さん(28歳独身、女子寮住まい)が、
「あら、築山さんなら既に首輪、ついていますよ」
 と言ったらしい。
 すると。
「――な、なにぃっ、それは本当か!?」
「え、ええ、寮に遊びに来たことありますし寮の女子の間では有名人……あ、すみません、これは内密に」
「そんなことはいい、それが本当なら、希望は潰えた……っ!」
 上司は絞り出すように言って拳をテーブルに叩き付けた。
「……というか、そんな勇者がいるものですね」
「どんな人なのか、ちょっと興味がありますね、その猛者に」
 周囲の人たちがそんなことを言い始める。
「いや、皆さんはまだ間接的にしか被害……築山の影響がないからそのようなことが言えるんですよ」
「でも、その強者のことを知っておくのは重要ではありませんか、もしかしたら彼女を御する術か何かを持っているかもしれません」
「確かに……しかし、そんな個人の事を調べるわけには……」
「寮では有名人ということですから、寮に住んでいる女子社員との雑談の中で聞き出せるレベルなら問題ないのではないでしょうか」
「なるほど、それならば」
「だったら私も聞いてみましょう、興味はありますから」
「では私も」
「私も」

 という感じになり、各部の上司による『三奈子に首輪をつけた傑物』調査のPTが立ち上がり、情報が収集、共有されるようになった。
 直属の上司が最大の被害者だが、他の人達も大なり小なり影響はあったし、異動が常の会社ではいつ関わることになるとも知れないからである。
 そして情報収集は速やかに、着実になされた。
 何しろ三奈子自身が有名であり、女子寮で暮らしていれば同期も先輩も関係なく顔を合わせるし、祐麒のことも知られている。三奈子は学生時代のエピソードも隠さないし、女子寮に入って以降の武勇伝にも事欠かない。
 そんなこんなで祐麒の名は会社内に轟き渡っているらしい。

「…………って、皆さん!?」
 話しを聞き終えた祐麒が室内に集まった面々に目を向けると、ある人は気まずそうに顔を背け、ある人は俯いて表情を隠し、ある人は首を横に振り、ある人は苦笑いをした。
「仕方ないんだよ祐麒くん、私達は単なる一社員、上司から聞かれたら答えないわけにはいかないんだよ」
 三奈子の隣室の亜矢子が祐麒の肩を叩きながら言う。
「いや、上司とはいえ人のプライベートのことは強制力ないでしょう?」
「だってTKPとして全社的に重要プロジェクトとして動いていたからさー」
「TKP?」
「"築山に首輪をつけて制御したいプロジェクト"、略してTKP」
「無茶苦茶だ!? てゆうか、三奈子さんはそれに疑問を持たなかったんですか?」
「三奈子はほら、自分のやりたいことに一直線で、自分のことになると鈍いし、気付いてなかったから」
「う……ありそうだ……」
 よろめく。
 まさか知らないところで自分の情報が収集されていたとは、300人委員会の陰謀か何かだろうか。
「……大丈夫、資料上、ちゃんと名前は伏せてあるから」
「慰めになりませんよっ。ていうか、元凶は一華さんですかっ!?」
 祐麒が一華に目を向けると、音もなく一華が近づいてくる。
 一華は髪をシニヨンにまとめた眼鏡美人で、スタイルも良く、色気もある。寮内で時に出会うとボディラインの分かりやすい服でいることが多く、つい目が引き寄せられてしまう。
「ごめんなさい、ついうっかり、口が滑って」
 しゅんとする一華を見ると、さすがに祐麒も冷静になる。もとはといえば、全ては三奈子のせいなのだから。
「あ、いや、俺こそすみません、つい」
 すると一華がさらに身を寄せてくる。
 微かに柑橘系の良い匂いが漂ってきて、くらっとする。
「……申し訳ないと思っているから、お詫びをさせてくれる? 今度、こっそり私の部屋に来て……たっぷりお詫び、してあげるから。もちろん、築山さんには内緒で」
「え、ちょ」
「――こらこら一華さん、セクハラ!」
 亜矢子が慌てて間に割って入ってくると、一華はすまし顔で少し身を離す。
「いくら欲求不満だからって、それはアウトですよ、アウト!」
「そ、それで、えーと、三奈子さんは」
 話の方向を修正する。
「ああ、そうそう、三奈子ったらお間抜けで会社にスマホ忘れて取りに行っているから」
「だから、全然連絡なかったんですね」
 普段は仕事が忙しくても必ずやり取りをしているのに、昨夜から途絶えていたので恐らくそういうことだろうと予測はしていた。今までにも何回かやらかしているから。

「ということで三奈子はいないけれど始めちゃいます! 福沢祐麒くんの、就職内定お祝い会! イエーっ!!」
 亜矢子が声をあげると、周囲からも歓声と拍手があがった。
 そう、亜矢子の言う通りこの日は祐麒の就職内定のお祝いが行われるということで久しぶりに足を踏み入れたのである。
 祐麒が希望していたのは教職。
 教育実習、大学の試験、教職の一次試験、二次試験、そういった様々なものが重なってとにかく多忙であり、一方で三奈子も忙しく働いていて実はあまり会えていなかった。
 しかし頑張った甲斐もあり、この秋無事に合格することが出来た。教職員の空き状況次第なところもあるから、4月から正式に赴任できるかまだ確定したわけではないが、それでも一息つけることに間違いはない。
 そのことを三奈子から聞いた寮のメンバー達が、どうせなら寮でお祝いをしようと声を上げてくれたのだ。
 ……いや、寮住まいの一社員の彼氏に対してそこまでするか、とは思ったが、三奈子を通して仲良くもなったし、せっかくの厚意だからと受けることにした。
 しかし実際に仲良くなったのは亜矢子を始め数人で、まさかこんな十数人も集まる盛大なものだとは思っていなかったのだが。
「――三奈子がいないのは丁度良いの。実はスマホを忘れていなかったら、会社に呼び出してもらう手筈をつけていたのよ」
「え。どういうことですか」
「それは……」
 亜矢子はそこで一度言葉を切り、周囲にいる寮住まいの女性陣に目を配り。
「……祐麒くん、さっさと三奈子と同棲してください、お願いします!」
「――――は?」
「お願いします!」
 亜矢子に続き、他の女性陣も一斉に頭を下げてお願いしてきた。
 祐麒は、意味が分からず首を傾げる。
「分かるでしょ、祐麒くん」
 顔を上げた亜矢子が、祐麒の両肩を凄まじい力で掴んで凄んできた。
「祐麒くんが就活で忙しくてここに来られない間、どんな惨状だったか……」
「そうだよ祐麒くん、あたし達の我慢の日々を終わらせてくれるよね?」
 そう言いながら迫力のある笑顔で迫って来たのは、亜矢子とは反対側の三奈子の隣室の住人、仁菜だった。セミロングの髪に大人しそうな雰囲気の女性で、実際にいつも控えめで自分を押し出すような発言を聞いたことがない。
「私達は気付いたの。週イチで通ってくれる祐麒くんの存在がいかに偉大か……しかも君がいない期間は夏だよ、夏!!」
「亜矢ちゃんと仁菜ちゃんだけじゃない、私だって……階上の三奈子の部屋のベランダから、まさかあんなものが垂れてくるなんて……」
 言いながらぶるぶる震えているのは、ちょうど三奈子の部屋の真下の部屋の住人、乃彩だった。三奈子より二つ先輩で、気の強そうな眉と目をしている。
「三人だけじゃないわ、部屋が離れていても……ねえ?」
「そうそう、さすがにアレはないわ」
 次々と声があがる。
「い、一体何が……?」
「知りたい? まあそれは、三奈子の部屋に行けばきっとわかるわ」
 亜矢子が遠い目をして言う。
 確かに、久しく三奈子の部屋に足を踏み入れていない。以前、あの酷く散らかった部屋を綺麗に片付けたのはいつのことか。
「もちろん、一方的にお願いするつもりはないわ。仁菜、乃彩先輩とも話したの。お願いを聞いてくれたら……私達の部屋の合い鍵渡すから、三奈子がいないときは好きに私達の部屋に来て……そしたら、なんでもしてあげるから」
 ちょっと赤面しながら、とんでもないことを亜矢子は言った。
「え、ちょ、何を言っているんですか?」
「あたし達、本気だからっ。その、なんだったら、二人でも、三人でもって」
「大丈夫、私達三人とも彼氏いないし……祐麒くんのこと、好みだって一致したから」
「いやいやおかしいでしょう、どうしちゃったんですか亜矢子さんっ!?」
 三人の女性の精神を狂わせるほど酷いというのか。
 祐麒は頭が痛かった。

「……なるほど、話は聞きました」
 そこに新たな声がした。
 入口に目を向けると。
「――――雅さんっ!?」
「ちゃお」
 ぬぼーっと姿を現した長身は見間違えることなどない、大学の先輩にして三奈子の友人である雅。
 さらに。
「蘭子さん、安奈さんも」
 姿を見せる二人。
 三人とも大学を卒業した後はあまり顔を合わせていない。
 雅は大学院に進学、蘭子と安奈は就職しており、いずれも学生時代よりも確実に綺麗に、そして大人びている。
 三奈子とは今もちょいちょい会っているようで、この女子寮の方にも遊びに来ていると聞いている。
「ごめんなさい、お呼ばれしていたのに遅れてしまいまして……」
「蘭子がおめかしに時間かけすぎてさー、久しぶりに祐麒くんに会えるからって」
「ちょ、ちょっと、そんなんじゃないってば!」
 安奈に言われて、蘭子がばたばたと慌てる。
 二人のやり取りを無視し、雅が昔ながらの何を考えているか分からないポーカーフェイスのマイペースで口を開く。
「話は聞きました。亜矢子さん、仁菜さん、乃彩さんは、祐麒のハーレムに入ったということですね」
「え……と、雅さん、いったい」
 亜矢子が困惑した様子を見せるが、雅は構わずに続ける。
「はい、お話していませんでしたが実は私とこちらの蘭子、安奈の三人は、大学生時代から"福沢ハーレム"のハーレム要員でした」
「は、ハーレム……え、え?」
「こちらが証拠の写真です」
「……え、ちょ、え、エロっ!?」
 端末の画像を見せられた亜矢子が真っ赤になっている。
 そして、そのまま祐麒のことを見て、今度は耳から首筋まで赤くなった。
「雅さん、何見せたんですかっ!?」
「ふふ……私達三人でご奉仕した時の写真です」
「そんなのしたことないですよねっ!?」
「あ、これ夏合宿の時の……」
「みみみみみやっ、この写真は全部削除したって!!」
 写真を見た安奈と蘭子がそれぞれ反応を見せる。
 どんな写真なのか見ようとして。
「だだだだめっ、祐麒さんは見ちゃ駄目ですーーーーっ!!」
 シャットアウトされてしまった。
 安奈が夏合宿の時と呟いていたから、恐らく祐麒が酔い潰されてしまったときに三人が何か悪ふざけをしたのだろうけれど。
「……凄いですよ、私達三人を同時に相手をしても一晩中衰えること無く……」
「そ、そんなに……?」
「私達だけでは足りなくて、新たなハーレム要員を追加されたようですね。歓迎します、私達だけでは満足させられないのは無念の極みですが……」
「ちょっと待ちなさい、あなたたち!」
「い、一華さんっ!?」
「……私も入れるのかしら、そのハーレム」
「一華さんっっっ!?」
「待って、あたしも今ちょうど彼氏いないんだけどっ」
「私なんてそれどころか彼氏ない歴=年齢だからっ」
「なになに、エッチなことできるの、面白そうっ」
 大混乱であった。
 というか。

「――――皆さん、いい加減にしてくださいっ!!!」

 祐麒は叫んだ。
 途端に、女性陣の喧しい声がピタッと止まる。
 この機を逃さずに祐麒は口を開いた。

「勝手なことを言わないでくださいっ、俺がエロいことをしたいのは三奈子さんだけですし、三奈子さんとしかエロいことをするつもりはありませんからっ!!!」

「………………」
 更に静まり返る。
「……それって、毎日?」
 ぽつりと、呟くように亜矢子が言った。
「毎日だって、したいくらいですよっ」
 やけくそのように言い放つ。
「こっちだって就活で忙しくて全然会えてなかったんですから、毎日だって」
「……なるほど……だって、三奈子。こりゃもう同棲するしかないわね」
「えっ?」
 亜矢子の言葉に振り返ると。

「ふぇ…………?」

 部屋の入口の向こうに、顔を真っ赤にした三奈子が立っていた。
「ま、ま、毎日、えっちなこと……?」
「え、ちょ、三奈子さんっ」
 反応を見るに、先ほどの祐麒の叫びは聞こえていたようだ。
 毎日、三奈子にエロいことをしたいという魂の叫びを。
「い、今のは違いますっ」
「え、違うのっ?」
「いや、違わないですけど」
「そ、そうなんだ……あの、ね、嫌なことないんだけど、皆の前で言うのはちょっとどうかと思うな」
 違う、違うんだ。
 いや違わないけれど違うんだ。
 色々と言いたいけれど言葉に出せなくて身悶えする。
「覚悟を決めなさい、祐麒くん。別に嫌じゃないんでしょ、君だって」
「でもここ女子寮ですよねっ」
「ええい、この際特別に許可するし、二人が毎晩どちゃくそセックスして私の部屋までエロい声が毎晩筒抜けでもいいから、飼い主としてコイツをしっかり管理しなさい!!」
 亜矢子に胸倉を掴まれて凄まれた。
 亜矢子の目がギラついており、そこまで追い詰められているのかと祐麒は内心で嘆息した。
「……わ、分かりました……あの、さすがにいきなり同棲とか無理ですけど、これからはなるべく来るようにしますから」
「本当? 本当だよ祐麒くん!?」
 仁菜が泣きそうな顔で嘆願してくる。
 祐麒としては頷くしかない。
「えー、ちょっとなになにー、私を置いてなに皆で納得しているの?」
 状況を理解できていない三奈子が口を尖らせるが、元凶である三奈子に対しては誰も説明しようとしない。そもそも、今まで何を言っても改善されなかったから今に至っているのだ。
「それじゃあ改めて、祐麒クンのお祝いをしましょうか!」
「えー、もー、何よーっ」
 三奈子の言葉をスルーしてパーティは始まったのであった。

 

「……ところで雅さん、ハーレムの話は本当なのでしょう?」
「あなたは」
「私、秘書課の葵一華といいます……かれこれ何年も恋人もいなくて一人寝の夜は寂しく、こうなったらもう愛人でもと……それに実のところ祐麒くんは好みでして"れーきゅん"にそっくりで……って、す、すみません」
「いえ、『どすプリ』の"れーきゅん"ですね、分かります」
「はっ!? あ、あなたももしや……」
「イエス、私も"どすラー"です」
「ど、同士……そ、それで、よろしかったらハーレムに入る条件を……正直、もう妄想でするだけでは物足りなく……」
「ふふ……一華殿もお好きですね……」

 パーティの一画でそんな密談がなされていることなど祐麒は露知らず。

 後日、三奈子の会社の女子写真の間では、"女子寮は築山美奈子の彼氏のハーレムと化した"という噂がまことしやかに流れたとか。

 

 

おしまい

 

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