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ノーマルCP マリア様がみてる

【マリみてSS(令×祐麒)】LOVE CHARADE 

更新日:

 

~ LOVE CHARADE ~

 

 

「ねえ、アレ見た?」
「見た見た、超イケメンだよね、本気でヤバいかもあたし!」
「てゆうか、可愛すぎでしょこの子!」
「女のあたしでも惚れちゃいそうなほどキュートだし」
 一部の女子高校生達を中心にそのような声が最近、あがっている。
 また、ネットでも色々と情報が出回り、話題にもなってきている。
 様々な声はあがっているが、一番多く出てきているのは、

『彼/彼女は誰?』

 というものであった。
「……なので、名前を出させてもらっても良いかしら」
「それは、嫌ですっ」
 カメラを構えている東方由羅に向かって、祐麒は即座に首を横に振った。
「いいじゃない、ユウキって男の子でも女の子でも通じるし、絶対にバレないわよ」
「嫌ですってば」
 世の中には万が一、ということがあるのだからと祐麒は思う。
 ここは撮影スタジオ、祐麒はモデルのバイトとしてやってきているのだが、そのモデルというのが女子高校生向けのファッションモデルで、祐麒は女装させられている。
「でも問い合わせも一気に増えているのよね、この子、誰なのか教えてって……あ、ちょっと体を右に向けて」
 シャッターがきられる。
 しばらく前に一回だけのつもりで実施したはずが、その後も続けているのは、バイト料が良いからであった。今年は受験生ということもあり、夏以降はバイトなどしている時間もないだろうし、バイトするなら今しかない。
 令とデートに出かけるためには軍資金が必要で、他に割りの良いバイトが簡単に見つかることもなく、続けてしまっていた。令もまた、同じモデルのバイトをしているというのも大きい。
「大体、このスカート、短すぎませんか……?」
「何言っているの、JKならそのくらい当たり前よ」
 由羅はそういうものの、祐麒としてはどうしても気になってスカートの裾を手でおさえてもじもじしてしまう。
 ちなみにそんな祐麒の様子を見て由羅は内心で思う。
(そういう恥じらいの表情がたまらないんだけどね……)
 と。
「じゃあ座って、そう、体育座りね」
「こ、こう、ですか?」
「うん、凄く良いわ! そのまま、いいわよー!」
 次々とシャッターをきっていく由羅。
 その角度は次第にローアングルへと移行していく。
「あ、あの、その角度は、ちょっと」
「大丈夫、見えないように撮っているから、そこは任せて!」
「は、はぁ……」
 丈の短いミニスカートのためトランクスは穿けず、ボクサーブリーフを着用しているのだが、恥ずかしいことに変わりはない。
「見えている写真は、私が個人的にオカズにしているだけだから!」
「やめてください!」
 慌ててスカートを抑える。
「軽い冗談じゃない」
 カメラを手に、口を尖らせて立ち上がる由羅。
「冗談に聞こえませんからっ」
「怒った顔も可愛いわねぇ」
 何を言っても効果は無い。
「でも、名前は考えておいてね。令くんはもう、“レイ”くんで決まっているし」
 由羅が言う通り、令はモデル名“レイ”とすることになっていた。
 令の名もまた男女どちらでも通用するというのと、女装している祐麒と違ってバレたとこしてもダメージはそこまで大きくないはずだというのが大きい。令自身も、積極的とは言わずとも、拒絶もしていなかった。

 

「はい、お疲れさま、OKよ!」
 由羅の合図でようやく体から力が抜ける。
 カメラを前にポーズ、しかも女装であるからそうそう慣れるものでもない。
「お疲れさま、祐麒くん」
「お待たせ、令ちゃん」
 祐麒の前に撮影を終えていた令が笑顔で歩み寄ってくる。令の笑顔を見ると、バイトの疲れも吹っ飛ぶように感じるのは現金なものだが、仕方あるまい。
「ふふ、汗、かいているよ」
「撮影って意外と暑いよね」
 目の前までやってきてくれた令がフェイスタオルを出して祐麒の額に浮かんだ汗を優しく拭いてくれる。
 撮影の現場に残っているのは由羅だけなので、こうして周囲の目を憚らずにイチャイチャすることが出来るのはちょっと嬉しい。
「うん、良いわねぇ、そうそう」
 由羅の声がして見てみれば、なぜかスマホで祐麒達のことを撮影していた。
「ちょっと由羅さん、何しているんですか」
 勝手に写真を撮られて口を尖らせる令。
 そんな令も可愛いなぁ、なんて思いながら見てしまう祐麒。
「いいじゃない、令ちゃんにもちゃんとあげるから、ね」
「ま、まあ、それなら……」
 と、あっさりと陥落する令。
 どうも令は、可愛い格好をしている祐麒のことがかなり気に入っているようなのだ。彼氏としてそれはどうかと思うが、令が喜ぶと思うとそれはそれで嬉しく複雑である。バイトをやめられないもう一つの理由でもある。
「ツイートもしておくね、って、うわもうあっという間にイイね! とリツイートが、凄いわねさすがに」
「…………え? な、何しているんですか、由羅さん」
 聞き捨てならないようなことを耳にした気がして問い返すと、由羅は当たり前のように返事をした。
「え、だから、私の作ったレイくんの公式アカでツイートしているんだけど」
「って、何しているんですかーーーーーっ!?」
「うわぁっ」
 慌てて由羅のスマホを奪い取って画面を見てみると、そこには令が祐麒の汗を拭いてあげている画像がUPされていた。
 そして由羅の言う通り、祐麒が見ている間にもイイねとリツイートの数がぐんぐんと伸びていく。

『あああああああ、尊い、尊すぎる!!』
『レイくん、イケメン過ぎ!』
『悔しい……けれど、彼女、可愛すぎて諦めざるを得ない』
『エモいですなぁ』
『はよ、彼女の方の名前プリーズ!』

 などなど、コメントも多数。
「ふっふっふっ、フォロワーもすんごいわよ。私の撮影技術と二人のビジュアルがあれば、あっという間に世界を制することも可能だわ!」
「制さないですから! 令ちゃんはこれ、知っていたの!?」
「え? あ、うん、なんか仕事の一環でアカウント作ってツイートしておくねって言われてはいたけれど、だ、駄目だった?」
 驚いている令。どうやら、あまり説明はされずに許諾して運用は由羅任せのようだった。ツイートをたどってみれば、他にも令や祐麒のモデル撮影時とは異なるオフショットと、記憶にない祐麒のコメントなどで溢れていた。
 さすがにプロのカメラマン、スマホで撮影しているとはいえ見事なシーンを切り取っており、思わず見惚れてしまいそうになる。被写体が、自分自身でなければ。
「うわー、祐麒くん、可愛いっ!」
「いや令ちゃん、喜んでないで!」
「あ、ご、ごめん」
「てゆうか由羅さん、いつの間にこんな勝手に、人権侵害ですよ! 個人情報の流出とか今いろいろと怖いのに!」
「でも祐麒ちゃんだって、最初の契約の時に説明してOKしてくれたじゃない」
「え、うそ!?」
 由羅の言葉に思わず令を仰ぎ見ると、戸惑いつつも頷いていた。
「契約書にも記載してあるけれど、見る?」
 衝撃だった。
 いや、確かに思い返してみれば、モデルとしての仕事として撮影、webでの宣伝とかいったこともあったような気はしたが。
「身バレするようなことはコメントしていないし、そこは投稿する前にレイくんに確認をとっているから」
「あーもう、分かりましたっ! でも次からはUPする前に俺にも確認を入れてください!」
「OK、分かったわ……って、あ、祐麒ちゃん?」
「なんですか、もう今日の撮影は終わりですよね?」
「そうだけど、えーといい加減に祐麒ちゃんのモデル名をつけないと」
「本名とかけ離れたので適当に付けておいてください。じゃあ、これで失礼します。行こう、令ちゃん」
「あ、うん。由羅さん、失礼します」
 ぺこりと頭を下げる令の手を引いて仕事場を後にする。自分自身の迂闊さゆえとはいえ、さすがにちょっと腹が立っていたのだ。
 少し冷静になってきたのは、駅に到着して電車に乗り込んだ頃だった。
「大丈夫?」
「あ、うん、ごめん。なんか、興奮しちゃって」
 令に謝る。
「それは、全然、別に。それより」
「それより?」
「え、えーと……」
 なぜか口ごもる令。
 どうしたのだろうと思いつつ、祐麒は何気なく髪の毛をかきあげる。
「…………っ、え!?」
 髪の毛が、長い。
 ハッとして視線を下に向ければ、短いスカートからすらりと伸びた足が目に入る。
「――――っ」
 頬が、急速に熱くなる。
 我を忘れて、女装を解くことなくここまで来てしまったのだ。
 ウィッグ、ナチュラルメイク、ブラウスにスカートにレギンス。
「何度も言おうと思ったんだけど、祐麒くん、凄いスピードで歩いて……駅の階段とか、焦っちゃった」
 スカートの裾を手で抑える。
「大丈夫、私が後ろでガードしたから」
「あ、あ、ありがと……」
 恥ずかし過ぎて小さな声しか出せない。
 閉ざされたスタジオで女装するだけでも恥ずかしいのに、公共の場で女装姿を晒すなんて、とてもではないが耐えられない。
 変な目で見られていないか、誰か知り合いがいたりしないか、気になって仕方がない。もしバレたりしたら、変態の烙印を押されてしまう。
「大丈夫、誰も祐麒くんが男の子だなんて思わないよ。だって、可愛いから」
「れ、令ちゃん?」
「それに、私が守ってあげるから」
 ふわりと、令に抱き寄せられる。
 甘い令の香りが祐麒を包む。
 その姿はどう見ても、彼女をエスコートするイケメンの彼氏。悔しいが、祐麒がどう逆立ちしたって敵いそうもない。
「と、とにかく、着替え……は、戻らないと」
 スタジオの更衣室に戻らないと、着替えられない。
「えー、ここまで来たら、もうそのまま帰った方が」
「いや、帰れないよ、この格好じゃ!」
 自分の体を他の人の目から隠すよう令にしがみつきながら訴える。
 すると、見下ろしてくる令の頬がほんのりとピンク色に染まっていく。
「あ、あの、祐麒くん。スタジオに戻る前に、その」
「な、なに?」
 祐麒としては早く戻りたいのだが。
「……私、ちょっと、我慢できないかも」
「…………??」
 意味が分からずに首を傾げると。
 令の顔が真っ赤になった。
 そして。
「ゆ、祐麒くんが、イケナイんだからね!!」
 次の駅に到着した途端。
「え、わっ、令ちゃんっ!?」
 令に手を握られ、祐麒は強く引っ張られて行ったのであった。

 

「――あら、どうしたの?」
 スタジオに戻ると由羅がまだ残っていた。残っていないと中に入れないのでありがたいのだが、今は微妙な気持ちである。
「ええと、着替えを忘れてまして」
「ん…………ああ、なんだ、その格好が気に入って普段から着たいのかと思っていたわ」
「そんなわけないでしょうっ」
 女装姿の祐麒を見て言う由羅に反論する祐麒。
「でも、その割には出ていってからもう3時間くらい経つけれど――」
「あ、えーと」
「と、とりあえず着替えを」
 言葉を濁す令と祐麒。誤魔化そうと更衣室に向かう祐麒だったが。
「……ああ、なるほど」
 由羅の前を通り過ぎた後で、由羅がそう言って頷いた。
「シャンプーの匂い、へえぇ、二人、そういうプレイが好きだったの?」
「ちちち違いますっ!」
「大丈夫、そういう性癖だってことは話さないから」
「――――っ」
 否定したいが、口を開く前にこの二時間ほどのことが脳裏に蘇り、言葉が出てこない。

“――祐麒くん、可愛い”
“れれれ、令ちゃんっ!? ちょ、あの”
“ふふ……こんなになっちゃっているよ?”
“あ、や、だめっ……”
“そんなこと言って、体は、ね。大丈夫、やさしくしてあげるから”
“あぁ、あ、れ、令ちゃん……”

「うあーーっ、違う、そうじゃない、逆なのにっ!」
 頭を抱える祐麒。
 今日の令は今まで祐麒が見たことがないくらい積極的で、イケメンで、同じ男でも惚れてしまいそうなくらいであった……って、令は女の子だが。
 女装をしていたというのもあったが流されてしまった。あとは、初めての時以来だったから祐麒としても断れなかったのはあるが。ただ、ひたすら令が祐麒を可愛がり、令に何もしてあげられていないというか、させてくれなかったというかのは無念だが。
「ご、ごめんね祐麒くん。なんか、あの、私」
 手の甲で口もとを隠し、さすがに恥ずかしそうに言う令。
「その表情もいいわねぇ。ツイートしていい? “情事の後でーす”って」
「「駄目です!!!」」
 由羅の提案を、祐麒と令、二人は同時に拒絶する。
「ちぇっ、ケチねぇ……あ、そうそう、祐麒ちゃんの名前、勝手に決めちゃったから」
「はあ……何にしたんですか? ユキとか短絡的なのはやめてくださいよ?」
 精神的にも、肉体的にも披露している祐麒は、大きく息を吐き出して由羅に目を向ける。
「大丈夫、結びつかないから。祐麒ちゃんみているとなごむから、和(なごみ)ちゃんにしておいたわよ」
「はぁ、そうっすか」
 あまり興味はなかった。
「さっそく、公開しておいたから。もう反応あるわよ」
 由羅が差し向けてきた画面に目を落とすと。

『レイ×和、最高です!』
『なごみんっていうんだ、可愛いですね! 名前の通り、なごみま!』
『レイ×和が尊すぎてツラいです……』

 などとコメントが多数入っていた。
 なんだかなぁと思う祐麒。
 確かに、自分で見ても自分だと分からないような容姿になっているが、技術も進んでいるしどこでどうバレるか分かったものではない。やはり、このバイトも終わりにすべきだろうかと考える。
「祐麒ちゃん、バイトをやめるなんて言わないわよね?」
「しかしですね」
「でも祐麒ちゃんの方がレイくん、積極的になるみたいじゃない?」
 由羅の言葉に、ぴくりとなる。
 確かに、普段は奥手で積極的とはいえない令が、今日に限っては率先して色々としてくれた。恥ずかしくあったが、まあ、気持ち良くなかったといえば嘘になる。一方的に「される方」というのは気に入らないのだが。
「……ま、まあ、まだお金も入用ですし」
「うん、決まりね! また次回もよろしく。あ、でも」
 祐麒の全身を舐め回すように見てくる由羅。さらに顔を近づけてくる。
「な、なんですか?」
「それ、衣装だからさ、あんまり汚されると困るから、気を付けてね」
「っ!?」
「じゃあ、そろそろ私も片付けるから、着替えるなら早くしてね~」
 手を振りスタジオを出ていく由羅の後ろ姿を見つめ、どっと疲れを感じる祐麒。
「大丈夫、祐麒くん?」
 振り返れば、イケメンの令が心配そうにのぞき込んでくる。あまりの美少年さに、またしても赤面してしまう。
「ううう、令ちゃん、ずるい……っ」
 そう言うだけが精いっぱいの祐麒。

 まだしばらくは、今の生活が続きそうなのであった。

 

 

おしまい

 

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