<1>
彼女の家でクリスマスパーティ、それはなんと甘い響きであろうか。
祐麒は今年、それを自ら実践することになった。
彼女の名前は内藤笙子、一つ年下の女の子。リリアンと花寺の交流の中で知り合った女の子。
非常に可愛らしく、スタイルもよく、素直だけどちょっと我が儘、みたいな女の子。
笙子の家に到着したのは、呼ばれていた時間よりも随分と早かった。
途中で買い物をしてきたのだが、思ったよりも早く終わってしまったために、その分早い到着となった。
「あ、ごめんなさい、笙子、買い物からまだ戻ってきていなくて」
出迎えてくれたのは、笙子の姉の克美だった。笙子は予約していたケーキやら食材やらを取りに出かけているらしい。
「ねえ、祐麒……」
克美に案内され通された克美の部屋に入ると、背後から克美に抱きしめられた。
「だ、駄目ですよ克美さん、笙子ちゃんが戻って」
「まだ、大丈夫よ……んっ」
正面に回ってきた克美に唇を塞がれると、祐麒も抵抗はしなかった。
笙子と付き合っているうちに、当然のように克美と知り合った。今日と同じように笙子が不在の時、克美との関係は始まった。
「ちょっ……だ、駄目ですよ、さすがにそれはっ」克美の指が下半身に伸びてきて、祐麒は慌てて離れようとする。
しかし克美は、顔を赤くしながらも手を止めない。
「大丈夫、すぐに気持ちよくしてあげるから……予習復習の成果、見て」
頭の良い克美は、こちらの方面でも優秀さを発揮し、克美の手と口にかかれば祐麒はすぐに果ててしまうのも本当のこと。
「いいでしょう? 手と口だけ……体は許していないもの、浮気じゃない。私の勉強のお手伝いと思ってくれれば」
滅茶苦茶である。だが、それでも祐麒の体は誘惑に勝てない。それくらい、克美の技術は優れていた。
「…………お姉ちゃんっ、祐麒さんっ、何しているのよっ!!!?」
部屋の扉が勢いよく開き、姿を見せる笙子。見たことのないような怒りの表情で祐麒と克美を睨みつけてきている。
何か言い訳をしようと考えるが、既にトランクス一丁で臨戦態勢である祐麒の姿では、何も説得力がない。
静かな部屋に、時計が動く音だけがやけに大きく鳴り響いて聞こえる。
クリスマスイブの今宵、内藤家に血の雨が降る……
<2>
楽しかったクリスマス・イブもも終わりに近づいてきた。
「あれっ、由乃さん、もう帰っちゃうの?」
「もう、って、もうすぐ10時よ。さすがに帰らないとまずいわよ」
「え~? 泊まっていけばいいのに」
「なっ!? と、とま、泊まるなんて、ででで出来るわけないじゃないっ」
「なんでー? あんなに祐麒とラブラブなのに?」
真っ赤になってしまっている親友を、にやにやと意地悪するように見る祐巳。
「も、もう、からかわないでよ祐巳さんっ!」
ぷう、と頬を膨らませて拗ねる由乃。そんな照れ屋で素直になれないところなんか、非常に可愛いと思う。
「あ、それとも由乃さんは二人きりの方が良かった?」
「もーっ、祐巳さんったらー!」
ぽかぽかと殴りつけてくる由乃に、笑って逃げる祐巳。由乃と祐麒が付き合い始めても、二人の関係は変わらなかった。
由乃を駅まで送り届けた祐麒は、家に戻ると冷えた身体をお風呂で温め、部屋に戻って由乃からもらったプレゼントを眺める。
「あーあ、嬉しそうな顔しちゃって、しまりがないよ?」
「な、なんだよ祐巳っ。いいだろ別に、それくらい。それより、勝手に部屋に入ってくるなよ」
「いいじゃん、それより由乃さんから何もらったの? 見せてよ」
「いやだね、これは俺が由乃さんからもらったんだし……て、やめろっての、こらっ」
手を伸ばし、プレゼントを取ろうとしてくる祐巳。抗う祐麒。うまいこと取られた祐麒は、逃げようとする祐巳を背後から捕まえる。
「こらっ、返せっ!」
「ふあっ!? ちょ、あ、祐麒っ」
背中から抱き着く格好になった祐麒だが、勢いあまってパジャマの中に手が入り、祐巳の胸を掴んでしまっていた。
「あわ、いや、ご、ごめんっ」言いながら、まるで手の平に吸い付いたようで、離すことが出来ない。
「あ、うん、別に、い、いいよ……」動きを止め、小さな声で言う祐巳。
「え……あ、え? い、いいって……」戸惑う祐麒の手の上から、祐巳の手が重ねて置かれた。
「だって、付き合い始めて一年近く経つのに、まだキスしかさせてくれないんでしょう?」
「それで祐麒、いつも一人でしているじゃない……だから、可哀想だって思ってて」
「ほら、私、弟思いのお姉ちゃんだしね、祐麒が困っているなら、私」
「うん、これは別に由乃さんへの裏切りじゃないよ。姉弟のコミュニケーションの一つとすれば、変なことじゃないと思うよ……あン」
「そう、姉弟で仲良くするのは良いことじゃない……ちゅっ、ん……家族なんだし、ね……ん」
祐巳の唇は、胸は、温かくて柔らかかった。祐巳の甘い言葉と甘い唇が、祐麒の脳を痺れさせる。
そうか、これは姉弟のコミュニケーションの一つ。そういえば幼いころはプロレスごっことか取っ組み合いみたいなこともした。
ならば、何もおかしなことはないのか。肌と肌との触れ合い。温かい。包まれる。柔らかい。吸い付いてくる。
聖なる夜、姉弟は今まで以上に仲良く過ごすことに…………
<3>
「……あら」
「まあ」
二組の視線が交錯する。お互いによく知り合った同士、仲も良い二人だけれど、どこか緊迫感のようなものがあるようにも見える。
「真美さん、今日はどうしてこちらに?」
「私はもちろん、取材ですよ。蔦子さんこそ、今日はどうしたの?」
「私ももちろん、撮影のためよ」
「へぇ……でも蔦子さん、女子高校生の写真しか撮らなかったのでは? ここは『花寺学院』ですよ?」
「ええ、でもね、やっぱり偏ったものしか撮らないのではいけないと思ったのよ。それで、ね。それより真美さん」
「……何か?」
「確か真美さんは三年生になって、取材からは引退したと聞いたけれど、どうしたのかしらね?」
「そっ、それは、ちょっと人不足で、どうしても私が出ないといけなくなって」
「あら、確か今年新聞部は一年生が五人も入って、二年生も四人いて、充分な人数ではなかったかしら」
「一年生はまだ頼りないし、体調不良とか重なって、ね。うふふ」
「そうだったの、へえ~、ふふふ」
穏やかな笑みを浮かべながら、七三とメガネが対峙する。花寺の学生が、恐れをなして二人からこそこそ距離をとっている。
「それじゃあどうぞ、遠慮なく柔道部でもアメフト部でも取材に行ってくださいな」
「蔦子さんこそ、相撲部でも応援団でも撮影してきてください」
ギラリと光る蔦子のレンズに、鋭さを誇る真美のペン先。今まさに、龍虎が花寺学院に現れた。
「お待たせしました、真美さん、蔦子さん。あれ、どうかしましたか?」
「あ、ゆ、祐麒さん、べべべ別になんでもないんですよ。今日は取材、よろしくお願いします」
「ごきげんよう祐麒くん。今日は快く撮影に応じていただいて、本当にありがとう」
登場した祐麒を見て、慌てて笑顔であいさつし、頭を下げる二人。顔を上げて、見合わせて、ふと首を傾げる。
「え、ちょっとなんで蔦子さんが撮影を? 今日は私が祐麒さんに取材を」
「それはこっちの台詞、今日は私の撮影をお願いしたのに、真美さん勝手に取材とか」
「あれっ? てっきり新聞の取材で蔦子さんがカメラマンだと思ってたんだけど、違った?」
困惑を見せる祐麒。それを見て真美と蔦子は再び視線を交錯させ、無言で意思を疎通させた。
「あ、いえ、その通りです、今日はよろしくお願いしますねっ!」
「さあさあ、それじゃあ早速、行きましょう。時間がもったいないですからね!」
この後、穏やかに進行する取材と撮影の裏に、どのような想いが存在するのか祐麒は知らない。
これから始まる日々についても……
<4>
暖かな春の陽気の中、蓉子は足取りも軽く歩いていた。
何せこれから祐麒とデートなのだから、真面目で優等生の蓉子だが、恋人とのデートはやはり浮かれるのだ。
しかし、そんな蓉子の浮かれ気分の前に、何者かが現れた!
「こんにちはー、蓉子せんぷぁーいっ!」
「きゃっ!? な、菜々ちゃんっ?」
登場したのは菜々であった。セーラー服に剣道の用具を背負った、剣道少女の姿である。
「蓉子先輩、もしかしてこれから祐麒先輩とデートですか? おめかしして、にこにこしちゃって」
「え、ええ……やだ、わ、分かるかしら?」
「分かりますよー、そんなに幸せ光線を出していたら、一里先からでもわかっちゃいますよ」
蓉子はこの可愛らしい後輩が微妙に苦手だった。何を考えているのか分からないところや、意表をついてくるところとかが。
「菜々ちゃんは部活動? 休みの日なのに大変ね」
「ええ、まあ。でも、練習しておかないと、祐麒さんに満足してもらえませんから」
「…………ん?」意味が分からずに、首を傾げる蓉子。
「祐麒さんに満足してもらえる『突き』を極めるためには、練習あるのみですっ」
竹刀袋を握り締め、勇ましい顔つきをする菜々だが、蓉子はいまだに分からない。
「ええと、祐麒くんに満足してもらえるって……祐麒くんも剣道、やっているのかしら?」
「んー、といいますかですねぇ、祐麒さんに『突き』を入れるといいますか、捻じ込むといいますか」
「…………はい?」
「いつもは祐麒さんの長くて逞しい竹刀に私、突かれまくっていますからー。祐麒さん、激しいんですよー」
「え、え? ええとっ??」
「ちなみに、私が中学二年生の時からですー。それじゃあデート、楽しんできてくださいね」
「え、ちょ、ちょっと菜々ちゃんーーーーーーーー!?」
蓉子と菜々の関係は、こんな感じで不思議にライバルなのであった。
<5>
大学に進学し、髪の毛を伸ばし始め、いつしか令の髪は肩にかかるまでになっていた。
少し茶色がかったサラサラの髪の毛を、綺麗な指が梳く。
「ふふ、前から思っていたけれど令の髪の毛は手触りがとても良いわね……いつまでも触っていたいくらい」
「お、お姉さま、あの、そんな、駄目です……んっ……はぁ……」
「令ったら、胸もこんなに大きくなって……私と同じくらいになってる? 柔らかくて張りもあって、素敵よ」
「そんな、押し付けられたら……苦しいです、んぁっ、あ」
下着姿の江利子と令が抱き合い、大きな胸を押し付け合っている。
更に江利子はガーターベルトにストッキング装備、令は二ーハイソックス装備である。
「ほら令、もっといやらしい姿を見せてあげましょうよ……ね、ちゅっ……ん、くちゅっ」
唇を重ねて舌を差し入れる江利子。ベッドの上、二人の脚は、腕は、胸は、体は、絡み合う。
「ふふ、私達姉妹は仲が良いから、同じ男の人を好きになっても、皆が幸せになれるようにするのよ?」
「は……はい、お姉さまぁ……お姉さまのお肌、すべすべで気持ちいいです……ん」
「あん、令の手、大きくて素敵。私がお尻弱いの、知っていて? あ、ふぅっ……」
美人女子大生二人による百合百合な痴態に、室内は熱気と艶然とした雰囲気に満たされている。
「祐麒クンも喜んでくれているわよ……ほら、うふふ、令も見られる方がいいみたいね、えっちなんだから」
「ち、違います、そんな、私……お、お姉さまだって、もう、こんなにしているじゃないですか……」
ちなみに祐麒は、二人に挟まれるようにしてベッドに横になっている。後ろ手に縛られていて身動きは取れない。
江利子はちらりと祐麒に妖艶な流し目を送ると、令とキスしている口の端からわざと涎を垂らし、祐麒に零す。
クリスマスデートで令に呼ばれたホテルの一室で待ち構えていた江利子に捕まり、こんな状況である。
初め二人は争っていたが、いつしか江利子は三人でも楽しければ良いと考えるようになり、令を籠絡していた。
「令、もっとえっちな声を祐麒くんに聞かせてあげたら? ほら……あ、えっちな音がいいかしら?」
二人の見せる濡れ場に、祐麒の方はもうずっと前から臨戦態勢である。
そんな祐麒を濡れた瞳で見下ろし、江利子はぺろりと舌で唇を舐める。
「うふ、そんな顔しなくても、すぐに私と令の二人で挟んでしてあげるから、ね」
妖艶な江利子の笑みに、令も祐麒も取り込まれてゆくのであった。