「お疲れさん、ありがとねバイト。どうだった?」
帰宅した乃梨子を出迎えた董子さんが笑顔で尋ねてくる。
表情を変えないようにして乃梨子は応じる。
「もう勘弁してよね、こんなバイト。最初に聞いていたら行かなかったのに」
「でも、バイト代は良かっただろ?」
「そ、それは」
董子さんの言う通り、バイト代は乃梨子が考えていたよりはるかに良く、色々と欲しかったものが買えそうで嬉しくはあったが。
「でも、それとこれとは話は別!」
ぴしゃりと言いきって乃梨子は自室へと入る。
「まったく、バイト代は良くても酷い目にあった」
憤慨しつつ鏡を見る。
コスプレで化粧を施されたので、きちんと化粧が落ちているかを確認する。
「誰が喜んであんな格好するってのよ」
ぶつぶつ一人で呟いていると、メールを着信した。
見れば、今日のバイトで連絡先を交換し合ったバイトの女の子の一人だった。確か、"破戒シスター"のコスプレをしていた。
今度、ゲームのイベントでバイトのレイヤーさんを探しているから是非、来てくれないかという誘いだった。もちろん、そんなの許諾するつもりはない。
『コレあげるから前向きに考えてね♪』
そんなメッセージとともに添付されていたファイルを開いてみる。
何かと思ったら。
「な、なによこれっ!?」
画像だったが、映っていたのはなんと、乃梨子と祐麒のキスシーン。
……に、見える画像。
休憩時間のアノ時であろうが、こうして客観的に見せられると彼女たちの言葉も理解できる気がする。
映っている姿は、乃梨子が祐麒のシャツを握って積極的にキスしているように見えるのだ。
「~~~~っ」
顔が火照る。
幸いなのは、後ろからのため乃梨子の顔は角度的に少ししか見えないし、コスプレしているから知り合いが見たとして乃梨子とはなかなかわからないだろうということ。
「な、な、な、何が、こんなもん貰ったって嬉しくないし、前向きに考えるわけないじゃない!」
拒否する乃梨子だったが、すると更にメールが届いた。
『じゃあ、追加でコレもあげちゃうから!』
そうしてまた届いたのは、祐麒と乃梨子が抱き合っているように見える画像だった。
「っ!?」
帰り道の一幕で、これまた乃梨子の方が積極的に抱き着いているようにみえるし、しかもコスプレもやめて私服姿になっているので、バッチリ乃梨子だと分かる。
『どう、どう? OKしてくれたら、残りのもあげちゃうよ~☆』
「まだあるのっ!?」
一体、どれだけ撮っていたのか。
というか、乃梨子に許可もなく盗み撮りではないのか。
「……別に、いらないし」
返信のメッセージを入力していく。
「…………ただ、変に拡散とかされても困るし、どういう写真を撮られたのかはおさえておかないとまずいし」
ひとり呟き、メールを送る。
「別に、欲しくないし?」
誰もいないのに、言わずにはいられない。
『やった、ありがとう乃梨子ちゃん! なんなら彼氏君と一緒にコスプレしてくれてもいいよん。約束通り、残りも送るねっ』
「だから、彼氏なんかじゃないし、って、こ、こんな写真まで? あ、祐麒さんやっぱりお尻触っているし!?」
送られてきた写真を見て、一人、部屋の中で騒ぐ乃梨子なのであった。
おしまい