書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(祐麒・色々)】乙女はマリアさまに恋してる 第二話①

更新日:

~ 乙女はマリアさまに恋してる ~
<第二話 ①>

 

 GWの期間中は小笠原家に戻り、久しぶりに落ち着いた時間を過ごすことが出来た。入寮したことであまり祥子と会えなくなったせいか、随分と祥子に構われたりはしたものの、寮の部屋で桂たちの着替えにあたふたしたり、お風呂で女子の裸に囲まれて目のやり場に困ったり、そういうことがないだけでも心安らかだった。また期間中、江利子と入れ替わるようなこともなく、ほっと一息。
 しかし当然のことながら休みの最終日は寮に戻らなければならず、ちょっとため息。
「祐紀……気持ちは分かるけれど、頑張りなさい。私も貴女と離れるのは辛いし、できることなら一緒に暮らしたいけれど……これも貴女の成長のための試練なのよ」
「う、わっ、ちょ、祥子さ……お、お姉さまっ」
 ぎゅっと祥子に抱きしめられ、その豊満なバストに顔を包まれる。別にそんなに背が低いわけではないのだが、なぜか祥子が頭を腕で抱きかかえてくるものだから、そうなってしまう。
 愛情を注がれるとこんなにもスキンシップが激しいとは思ってもいなかったが、全ては祐麒が女の子だと思われているから。男としては腰が引けてしまうので、嬉しいやら情けないやらである。
 しかし、祥子が心配してくれるのは嬉しいが、別に祥子が考えるような寮生活が辛いとか嫌だとかいうことはなく、女性ばかりに囲まれていることが色々な意味で大変なのだが、もちろん口に出すことは出来ない。
 天然のクッションからどうにか逃れたところで視線を感じ、ふと振り向いてみるとアンリがこちらを向いてニヒルな笑みを浮かべていた。
「……それでは参りましょう、祐紀さま」
 祥子が視線を向けるやいなや、すぐさま澄ました表情に戻って慎ましいメイド姿を見せるアンリ。屋敷にいる間からアンリの二面性は知っていたが、学園に通うようになってから一層激しくなったように思えるのは気のせいか。
「うぅっ、さようなら、祐紀」
「ああもうお姉さま、明日には会えるんですから」
 涙にくれる祥子を宥め、ようやくのことで寮へと戻る。
 こんな感じでリリアン女学園の二か月目は始まった。

 

 試練はすぐに訪れた。
 祐麒は今、薔薇の館の前に立ち尽くしていた。
(そうだよなぁ~、祥子さんの妹になったってことは、山百合会の活動にも参加するってことになるよなぁ)
 拒否したいところだが、今の体で部活動に所属するつもりもないし、学園にほど近い寮生活なので忙しいからという理由も通用しない。
 何度目かのため息を吐き出し、薔薇の館の入口を見つめる。いつまでもこのままでいるわけにはいかないし、そろそろ心を定めて中に入ろう。そう決意して手を入口の扉の取っ手に伸ばす。
「――どうしたの、そんなところで。薔薇の館に何か御用かしら?」
「ふにゃあっ!?」
 緊張しているところ、不意に後ろから肩甲骨のあたりをつつかれて不覚にも間抜けな悲鳴を上げてしまった。
「きゃっ!?」
 声をかけてきた相手は、祐麒が思いのほか驚いたものだから、逆にその反応に驚いてしまったようで可愛い悲鳴をあげた。
「ご、ごめんなさい。驚かせてしまったかしら?」
「い、いえ、勝手に驚いただけですから……」
 愛想笑いを浮かべつつ、声をかけてきた主の方におそるおそる顔を向けると。
「あ、由乃さん?」
「え? ええ……そうだけど、貴女は?」
 そこにいたのは間違いなく島津由乃だったけれど、声をかけられた時も、振り向いて正面に彼女の姿をとらえた今でも、由乃だとは全く思えなかった。
 姿かたちは間違いなく由乃である。
 しかし、祐麒の知っている由乃よりも随分と肌が白く、体が細くひ弱そうに見える。元々、色白で細身ではあるが、綺麗な白というよりは病的な白さとでもいおうか。透き通って骨や血管が見えてしまうのではないかと錯覚してしまうよう。線の細さも、触れたら折れてしまいそうな気配を感じさせる。
 そもそも、声をかけられたものの力のない声で、由乃の明るさ、元気の良さが全く感じられなかった。
 今の祐麒とは知り合いでも友人でもないから、余所行きの声なのかもしれないが、それにしても別人かと思うような声だった。
「あ、ええと、一年の福沢祐紀といいます」
 戸惑いつつも自己紹介をすると、由乃の大きな目がさらに大きく開き、ぱちくりと二度三度、瞬きをした。
「――ああ、貴女が有名な」
「な、何が有名なのかな……あはは」
「それはもう、色々と。ごめんなさい、私、体が弱くて休みがちで、入学式の日や他の貴女が活躍した日も学校にいなかったものだから、分からなくて」
「いやそんな、謝られるようなことじゃないし、有名になりたかったわけでもないし」
 そこでようやく、祐麒は理解した。確か由乃は心臓が生まれつき弱かったと聞いた記憶がある。祐麒が知っているのは、手術をして元気になった由乃の姿だけだったが、今の由乃は手術する前でまだ体が弱いのだ。だから、受ける印象が全く異なるのだろう。
「私は島津由乃……って、知っているんだっけ?」
「あ、うん、ええと、黄薔薇の蕾の妹、なんだよね」
「そう。私の場合、むしろ違う意味で有名なんだけどね、同級生からは」
「え?」
「あ、ううん、なんでもない。祐紀さん、祥子さまの妹になったんだよね。同じ一年生で仲間が出来て嬉しい、早く薔薇の館に来ないかなって待っていたのよ」
 由乃は入学して早々に黄薔薇の蕾の妹になっていた。祐麒にとっては山百合会の先輩であり、また祐巳の親友でもある相手なわけで、是非とも仲良くならなくてはいけない。
「これから、よろしくお願いします。分からないことばかりなので、色々と教えてくれると助かるかも」
「ふふ、私だってついこの間、入ったばかりだから同じようなものよ。一緒に頑張っていきましょう……それで、薔薇の館の前で仁王立ちしていたけれど、どうしたの?」
 緊張していたことを告げると由乃に笑われてしまったが、一緒に行ってあげるからと言われて素直に厚意に甘えることにした。
 由乃に続いて薔薇の館の中に入る。
 外見通り、中も古くはあるものの汚いという印象は受けない。花寺時代に何度か入った時と同じはずなのだが、リリアンの学生として入るとまた違った建物のような気がする。
 ぎしぎしと音をたてる階段を上ると、ビスケット扉の前に立つ。深呼吸をして、中に入ったらどのような挨拶をしようか、なんて考える前に由乃はあっさりと扉を開けてしまった。つられるように、何も考え付く前に部屋の中に足を踏み入れる。
「ごきげんよう、由乃ちゃ……あら」
 中から声をまずかけてきたのは、美しいお凸もまぶしい江利子だった。由乃に向けていた目が素早く祐麒の姿をとらえ、たちまちのうちに表情が変わる。分かりやすく言えば、とても生き生きとして目がらんらんと輝き出したのだ、額のごとく。
「祐紀ちゃんじゃない、待っていたのよ、早くこないかしらって」
 椅子から立ち上がり、さっそく祐麒に近づいて来ようとする江利子だったが、二人の間に颯爽と立ちふさがる一人の女子。
「江利子さま。祐紀のことは私が皆さんにご紹介いたします。祐紀が怯えていますから、あまり怖がらせるようなことは慎んでいただくようお願いいたします」
「さ、祥子さ……お姉さま」
「大丈夫よ、よくきたわね祐紀。さ、こちらへ」
 祥子に肩を抱かれて引き寄せられる。
「まだ令が来ていませんが、令には改めて紹介するので、先に始めてしまいたいと思います。お姉さま、こちらが私の妹の祐紀です」
 と、誘導された目の前にいたのは、制服姿も凛々しく美しい蓉子だった。
「こんにちは、祐紀ちゃん。祥子の妹になってくれてありがとう。これから、祥子のことをよろしくね」
「私のお姉さまである、水野蓉子さまよ。祐紀、挨拶なさい」
「はい、あの、福沢祐紀です。よろしくお願いします」
 ぺこりと頭を下げると、淡く微笑みかけてくれる蓉子に思わず頬が熱くなる。
 続けて江利子、聖へと順番に挨拶させられる。蓉子も含めて既に三人とも面識があるのだが、ご丁寧に人ずつ回っていく。全員に向けてまとめて自己紹介してしまえば良いのではと思うのだが、どうやら祥子は祐紀のことを自慢したくてやっているようなので、黙って従うことにする。ついでに言うと、三薔薇さまはもちろん、由乃も祥子の行動の意味には気が付いているようで、それぞれがそれぞれの表情で祥子と祐麒のことを見つめていた。
 全員にあいさつ回りをすませると、祥子は満足げに微笑んだ。自慢するほどの妹じゃないというか、女の子ですらないのだが、嬉しそうにしている祥子を見ていると、「まあいいか」と思ってしまう。
「もう一人、私と同学年で黄薔薇の蕾がいるのだけれど、遅れているようだから後で紹介するわ」
「はい」
 祥子が言っているのは令のことだと分かるが、あと一人とはどういうことか。志摩子はどうしたのだろうかと思ったが、おそらく今の時期はまだ山百合会メンバーになっていないのだろうと想像する。考えてみればまだ5月で、姉妹関係を結んでいる一年生の方が少ないのだ。
 志摩子が入ってくるタイミングは知らないが、そうなるとますます由乃との関係性が大切になってくる。
「それでは私、お茶を淹れますね」
 挨拶も終わり、ひと段落がついたところこを見計らって由乃が切り出した。
「あ、て、手伝うよ」
 そそくさと由乃の後を追う。
「あら、祐紀さんは今日は主役なんだから、私に任せてくれていいのよ」
「そういうわけにはいかないよ」
「どうして?」
 訊きかえされ、由乃の体のことを口にしようとして躊躇う。小さいころから体にハンディを抱えている由乃だ、体のことを理由にされたら気分を悪くするかもしれない。
「だってほら、覚えておかないと次の時に一人でできないかもしれないし」
 咄嗟に、台詞を変更した。
「そっか。それじゃあ、一緒に準備しましょう」
 納得してくれたようで、由乃とともに小さなキッチンに並んで立つ。
 置いてある紅茶や珈琲の種類と場所、カップの置き場所、山百合会のメンバーが使用するカップや好んでいるお茶の種類など、簡単に由乃は教えてくれる。
「美味しい紅茶の淹れ方とか覚えるのは少し難しいし実は私もまだまだなんだけれど、好みくらいは覚えておいたほうがいいかもね。こだわる必要はないけれど」
 お湯が沸くのを待ちながら、由乃から山百合会メンバーのことを軽く聞く。祥子や令以下の代とはある程度の交流があったが、蓉子たちの代との交流を祐麒は経験していない。聞いておいて損することはなかった。
「私もまだ一か月も経っていないから、表面的なことしか分からないわよ?」
「それでも充分だって。特に、江利子さまのことについてとか」
 何せ、死活問題だから。
「え、何、祐紀さんて江利子さまファンなの?」
 少しだけ嫌そうな顔をする由乃。
「そういうわけじゃなくて、ほら、寮の中でちょっと接する機会があって、どんな方なのかなって」
 同じ黄薔薇だし、他の二人よりは知っていて親しみもあるだろうと話を振ってみたものの、どうもお気に召さないようだ。
「お湯、沸いたかな」
 話題を変えるべく、そんなことを口にする。
「そうだね。じゃあ、火を消してと」
 薬缶を手にして持ち上げる由乃。カップと紅茶の準備は既に出来ている。
 と、そこで由乃の動きが止まる。
「? 由乃さん、どうかした……」
 俯いた由乃の顔を覗き込んで、ギョッとする。元々白い由乃だが、今は蒼白になっている。明らかに様子がおかしい。
「だいじょうぶ、ちょっと、じっとしていれば落ち着くから、これくらい……」
 薬缶を置き、口元を抑えてその場にしゃがみ込む由乃。何もできずおろおろする祐麒は、とりあえず誰かを呼ぼうと思ったが。
「…………大丈夫、ホント、すぐ治るから、これくらい……なら」
 由乃に言われ、また困る。
 しかし、ここは由乃にどう言われようが、とりあえず誰かを呼ぶべきであろう。少なくとも、祐麒より由乃の身体には詳しいはずだから。
 申し訳ないけれど由乃の手を振りほどき、隣の部屋に向かおうと体を捻ったところで、腕がキッチンの台にぶつかってしまった。思わず手を振り上げると、台の端っこに置かれていた薬缶の取っ手に指が引っ掛かった。
「――あ」
 ぐらりと傾く薬缶。その直下には、うずくまっている由乃。
「あぶっ…………」
 考える前に体が動いていた。
 薬缶を手で弾きつつ、由乃の身体に覆いかぶさるようにして床に倒れ込む。
「きゃっ…………?」
 床に落ちた薬缶が派手な音をして転がり、零れた熱湯が跳ねて首筋にあたった。
「熱っ!」
「祐紀!?」
「どうしたのっ」
 隣から皆が慌てて駆けつけてくるのが分かったが、それよりも先に確認しなければならないのは由乃だった。
「由乃さん、大丈夫? どこか痛いところとか具合の悪いところ、ない?」
「え……あ、うん、大丈夫、だけど」
 見れば、先ほどよりかは顔色も良くなっているし、声にも力強さが感じられる。本人が口にしていたように、小さな発作のようなもので良くなったのかもしれない。また、熱湯も特にかかっていないようで、ひとまずは安心する。
「祐紀、どうしたの一体」
「由乃ちゃん? 発作が起きたの!?」
 祥子たちが一斉に祐麒と由乃を取り囲み、心配そうな顔を向けてくる。
「すみません、大丈夫です。私がしゃがんだところに薬缶が落ちてきそうになって、祐紀さんが庇ってくれたんです」
「違います、オ……私が薬缶に腕をひっかけてしまって、由乃さんに危うく怪我させてしまいそうになって」
「あーもー、理由はどっちでもいいからさ、今重要なのは二人とも怪我していないかでしょう」
 腕を組んで見下ろしてきている聖がとりなすように言う。
「私は大丈夫です。祐紀さん、熱いって言ってなかった?」
「ああ、ちょっとお湯が跳ねて首とかにちょっと当たって」
「あと、薬缶を手で弾いてなかった?」
「一瞬のことだったから、多分、大丈夫かと……」
 と言いながら手を見てみると、薬缶に触れた箇所が僅かに赤くなっていた。そしてそれを見た瞬間、じわじわと痛みがこみあげてきた。
「駄目よ祐紀、すぐに見せなさい!」
 凄まじい形相で祥子が祐麒の手をとり、さらに続いて制服の胸元に手を突っ込んで中を覗き見ようとしてきた。
「ちょ、おおおおおお姉さまっ!? だ、大丈夫ですからっ」
「何が大丈夫なものですか、祐紀の珠のような肌に傷がついたら、人類史上で類を見ない損失になるじゃない!」
「いやお姉さま、そんな大それた……」
 小笠原家に居た頃よりも、祥子の姉バカっぷりが酷くなっているのは、やはり距離が離れて会える時間、接する時間が減ったせいだろうか。
「さあ祐紀、私にお見せなさい……」
「い、いえ、そ、それはちょっと……」
 物凄い力で迫ってくる祥子を必死に防戦する。男の祐麒が押されるくらいなのだから、今の祥子は相当にヤバい。目つきも怖くて呼吸も荒く、長い黒髪がうねっているかのように見えて迫力満点だ。とはいえ、負けるわけにはいかない。
「そ、そうだお姉さま、でしたら医療の心得もあるアンリさんに見てもらった方がいいと思うんです」
「――それもそうね」
 危機を乗り越えるため代案を提案すると、あっさりと祥子は頷いた。元々、祐麒の体のことを必要以上に心配しているだけなので、良い方策があれば乗り換えることにためらいは無いのだ。
 祐麒から手を離すと、祥子はスカートから謎の笛を取り出して口にした。吹いているようだが音は聞こえず、ただ空気のわずかな震えだけが身に伝わってくる。
 きょとん、としながら待つこと10秒ほど。
「いかがいたしましたか、祥子お嬢様」
 扉が開いてアンリが姿を現した。この人はどんな特殊な訓練を受けているのだろうか、そんなことを考えているうちに祥子がアンリに状況説明を行う。
「……承知いたしました。それでは、お部屋までお運びして診させていただきます。ご学友や先輩方とはいえ、肌を見られるのは祐紀さまもお恥ずかしいかと思われますので」
「そうね、お願いするわ」
「はい、では」
「……ふえぇっ?」
 ふわりと、体が浮かび上がる。
 なんと祐麒は、アンリにお姫様抱っこをされていた。
「え、ちょっ、うそっ!?」
「行きます」
「うわぁっ!?」
 アンリは祐麒を抱えているとは思えない身のこなしで部屋を飛び出し、階段を駆け下り、敷地内を突っ走って寮へと向かう。
「あ、アンリ、これじゃ立場が逆……っ」
「黙ってな、舌噛むぜ」
 アンリはさらにスピードをあげ、あっという間に寮まで辿り着いてしまった。女装しているからといって体重まで女の子と同じくらい軽いわけではない。それなのに軽々と抱えて走られ、なんとも微妙な気持ちになってしまった。
「なんか、男としてのアイデンティティがどんどん……」
「――おい、いつまでひっついてんだよ」
「え――――?」
 はふぅ、とため息なんぞをついているところに声をかけられ顔をあげると、至近距離にアンリの凛々しい顔。そして言われて気が付いたが、猛スピードで走られ揺られていたので、アンリの首にしがみついていたのだ。このままでは、アンリは祐麒を下ろすことができない。
「あ……す、すみませんっ」
「い、いいから、離せっての」
 赤くなりつつ手を離すと、アンリがそっと地面に下ろしてくれた。
「べ、別に足を怪我したとかじゃないから、ここまでしてくれなくてもよかったのに」
「何か言われる前にあそこを離れるためだ、仕方ないだろ。さっさと部屋に入れ」
 寮の自室には誰もいなかった。
 静は合唱部、三奈子は新聞部、桂はテニス部と、同室の他の三人はアクティブに部活動を行っているから、早い時間に帰ると誰もいないことが多い。
「うし、んじゃあ診てやるからとりあえず制服脱ぎな」
「え? いや、たいしたことないから、そこまでしなくていいよ」
「馬鹿、何かあったらどうすんだよ。それに、何もしなかったらあたしがお嬢様に叱られるだろ」
「なんか、適当に言っておいてくれれば」
「お嬢様はお前に対しては異常なほど執着してるから、適当な嘘で誤魔化そうとしてバレる確率の方が高い。ほら、さっさと脱ぎやがれ」
「わわわ分かった、分かりました、自分で脱ぐからっ!」
 アンリが強引に指をかけてきたので、慌てて振りほどいて仕方なく制服を脱ぎにかかる。とりあえず、セーラー服の上を脱ぐ。前の世界ではワンピースだったのに、なぜかこの世界では通常のセーラー服になっているので、上だけ脱げるのは良いのだが。
 続いて上着の下に着ていたシャツを脱ぎ、スポーツブラに包まれた上半身を晒す。
「えーと……これでいいですか」
「それも脱がないと、大丈夫かわからないだろ」
「う……わ、分かったよ……で、でも、全部脱がなくても別にいいんじゃない?」
 肩紐を肩から外し、手でおさえてブラが全部落ちてしまわないようにしながら、胸の上部をアンリに見せる。
「おっ……おまっ、な、何そんな色っぽい脱ぎ方してんだ!?」
「お、俺だって恥ずかしいんだよっ! なんで男なのに、こんなっ」
「男なんだから、もっと堂々と見せりゃいいだろうが!?」
 なぜか真っ赤になったアンリが襲い掛かってきて、ブラを下ろしてしまおうと指をかけてくる。アンリの指が胸に触れる。
「うぁっ」
「へ、へ、変な声出すなーーーーーーっ!?」
「あ、アンリが触るからじゃん!」
 と、その時。
「――ちょっと、何を部屋の中で騒いでいるの、うるさいわね」
「たっだいまーっ、って……え」
 部屋の扉が開いて、静と三奈子が姿を見せたが、そこで動きが止まる。
 今、二人の視界に広がっているのは、上半身ブラだけになって胸元をおさえている祐麒と、祐麒のブラと胸に手をかけて襲い掛かっている(ようにしか見えない)アンリ。
「う、わああああああっ!?」
 叫びながら、必死になって制服を再び身に付ける祐麒と、その祐麒を背後にかばって隠すアンリ。
 もし、祐麒の胸が真っ平らであることを見られたなら大ピンチだったが。
「え、何々、お二人は百合関係だったのかしら? ちょっと詳しく教えていただけないかしら?」
「ふふ、大丈夫よアンリさん、私は貴女の味方です。とても素晴らしいと思います」
 鞄からメモとペンを取り出し取材モードに入る三奈子と、アンリににじり寄って手を握り興奮気味に話しかける静。
「でもそれじゃあ、祐紀ちゃん、桂ちゃんのことは? あ、もしかして三角関係!?」
「明るいうちに寮の部屋というのはなかなか無謀かと。よろしければ、いくつか良いスポットをお教えいたしますけれど……」
 どうやら二人とも、単にアンリが祐麒に襲い掛かっただけとしか思っていないらしく、ホッとする。いや、それはそれでよくないが最悪の事態は避けられたようだった。
 その後、事情を説明して納得してもらうまでに30分ほど要したが、どうにか誤解は解くことができた。とはいっても、アンリにお姫様抱っこされた姿は何人かの生徒に目撃されており、結局のところは『りりあんかわら版』で生徒達を盛り上げさせることになってしまうのだが、それは後日の話である。
「……それでは、私はこれで失礼いたします」
 結局、指先もちょっとひりひりするだけで大事はなく、他も特に火傷など負ってもいなかったので、用を果たしたアンリは祐麒たちに頭を下げて部屋を出て行った。
 閉じたドアを見てから、祐麒は自分のベッドの上でがっくりと肩を落とした。
(俺は男なのに、なんであんな脱ぎ方とか悲鳴をあげてしまったんだ……なんか、日に日に大事なものを失っている気がする……)
 今日のアンリとのやり取りを思い出し、ずうぅん、と落ち込む祐麒なのであった。

 一方で、祐麒たちの部屋を出て足早に寮の廊下を歩くアンリは。
(あ、ゆ、祐紀のやつ、なんであんなに肌がすべすべで肩も華奢で、ちょっと胸に触っただけであんな声出して、男らしさを全然感じないじゃないか……って、あ、あたし、祐紀の胸触っちゃったんだよな……っ、うぁああぁぁあぁ!!)
 紅潮した頬を見られないよう床をじっと見つめるようにしながら、行先も良く分からないまま長い脚でズンズンと寮内を突き進んでいくのであった。

 

第二話 ②につづく

 

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