書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 祥子

【マリみてSS(祥子×祐麒)】自業自覚

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~ 自業自覚 ~

 

 

 いよいよ、クリスマスパーティの当日を迎え、祐麒は落ち着かない時間を過ごしていた。招待状は届いたし、間違いなく参加して良いはずなのだけれど、問題はパートナーとなるべきはずの祥子のことだった。
 前のデートのとき、改めてパーティのパートナーとなってほしい旨を申し込んだのだが、回答は待ってほしいとのこと。良く分からなかったが、待てと言われては仕方がないので大人しく待ったが、いよいよパーティが近づいてきても音沙汰がない。
 困ったので、ちょうど生徒会の用事でリリアンに行ったとき、時間を見つけて祥子と二人の時間を作り、再確認をしてみたのだ。
 すると、祥子は見た目にも狼狽え出した。パーティのことを尋ねているだけなのに、なぜこんなにも慌てるのかが、祐麒には分からなかったが、もしかしたら何かサプライズでも用意しているのだろうか。
 結局、祥子はその場では答えてくれず、「パ、パーティの場で、お答えします!」とだけ言って早足で去って行ってしまい、その後はまともに連絡も取れずに今に至る。
 パーティの場で答えるとは、まさか会場まで行った挙句に拒絶されることもあるのだろうかと、不安になる。
「ちょっと祐麒、あんた準備しなくて大丈夫なの?」
 後ろから、怒ったように祐巳が睨みつけてくる。いや、実際に怒っているのかもしれない。何せ、今日のパーティに祐巳は呼ばれていないのだから。
「そんなにカリカリするなよ、俺は柏木先輩の代理なんだからさ」
 本当のことを話すとややこしいことになりそうなので、以前のパーティの時と同じ理由を祐巳には説明している。もちろん、それで完全になど納得していないのであろうが、敬愛している祥子のことだけに、あまり深く疑うのも憚られるようだ。まあ実際、祐麒が呼ばれるなんていうのは、それ以上の意味などあるはずないのだが。
「でも、変なことしてお姉さまに恥をかかせるわけにはいかないから」
「だから大丈夫だって。なんせ」
 言いかけたところで、家の呼び鈴が鳴った。時間的にそろそろだろうと思って玄関まで出て行くと、案の定、小笠原家の使用人であるアンリの姿があった。
「お迎えに上がりました」
「ど、どうも」
 きちっとした使用人にかしこまって頭を下げられると、やはりどうにも落ち着かないものだが、そうも言っていられないので荷物を手に外に出る。黒くて長い車が福沢家の前に鎮座していて、周囲の注目を浴びている。車の脇にはセバスチャンが背筋を伸ばして立ち、祐麒を見ると一礼してくる。
「じゃあ、行ってくるからな」
「くれぐれも、お姉さまに失礼のないようにね!」
 祐巳の言葉を背に受け、広々とした車内へと入り込む。車は音もなく滑るように走りだし、一路、小笠原家へと向かうのであった。

 

 小笠原家に到着すると、祥子に挨拶をする間もなく邸内の一室まで案内された。そこでは、今日のパーティで着用する衣装への着替え及び化粧を行うとのことで、アンリを始めとする女性使用人たちが揃って待ち構えていた。
 勘弁してほしいと思ったが、パーティに招待されて衣装まで貸してもらう身としては文句も言えず、さらに言えばあまりにテキパキと身繕いをされて何を言う暇もなく、変身させられてしまった。
「……これは、どういう」
 着替えさせられて、戸惑う祐麒。
 衣装はなんというか、和装であった。鮮やかな緑色の着物というのが、なんとなく珍しく感じる。
「実は、当初は王道で王子様的な衣装を考えていたのですが……」
 使用人の中からアンリが口を開く。若くて下っ端そうなのに説明をしてきているのは、祐麒との接触が最も多く、祐麒も比較的親しみを持っているからであろう。
「完成した姿を想像してみて、あまりに祐麒さまに似合わないので、やめました」
「そうですか、あはは」
 年配の使用人が目で咎めるようにアンリを見ていたが、祐麒としてはむしろきっぱりと言ってくれた方が良かった。祐麒自身、アンリがいったような格好が似合うとは思わない。ああいう王子様的な格好は、基本的に日本人には似合わないのだ、一部を除いて。
「ちなみにこの仮装、モデルは何かあるんですか?」
「もちろんです。お耳を」
 アンリが近寄ってきて、耳元で囁くようにして教えてくれた名前は、詳しくは知らないが祐麒もなんとなく名前を聞いたような気がするものだった。
「そうなんですか……ちなみに、あの、祥子さんは」
「お嬢様は別室で着替えられています。祐麒さまとは、会場の方で落ち合っていただく手はずになっております」
「わかりました。えーっと、それじゃあそろそろ会場に行った方が良いんでしょうか?」
 アンリはちらりと時計を見ると、頷いた。
「はい、問題ないかと。ご案内致します」
「よろしくお願いいたします」
 思っていたよりもごてごてしている衣装のまま頭を下げる。服だけではなく、装飾品などもあるので、実は結構重いし、動きづらかったりもするのだが、やはりそんな苦情を口に出せるわけもない。
 祐麒は黙ってアンリの後について歩いていく。
 今日のパーティは小笠原家の邸内で行われるもので、相当な人数を呼んでも開催できるだけのパーティスペースがあるだけでも凄い。祐麒はてっきり、どこかのホテルのパーティ会場を借りて開催されるものだと思っていたのだ。
「本日のパーティは公式なものというより、クリスマスにあやかった私的に近いものなので、招待しているのも小笠原家に近い方たちがメインです。そのため、人数もそこまで多くなく、小笠原家の中で催すことにしています」
 疑問に対してアンリが答えてくれたが、何をもって人数が多くないといっているのかが分からない。
 会場へ向かうまでにも、招待客らしき人たちと何人かすれ違う。アンリによれば、特に衣装がない人でも、希望すれば小笠原家の方で仮装用の衣装を貸し出しているとのこと。幾らお金持ちとはいえ、今日のパーティのためだけに衣装を用意するのを躊躇う人もいるだろうし、いざ来てみたら周囲の仮装レベルが高いから別の服を借りたいという人もいるそうだ。
「アンリさんたちは、仮装しないんですか?」
「…………」
 無言で、僅かに苦い表情をするアンリ。
「……するんですね」
 何も言わないところをみると、あまり人に言いたくないような格好をするのか。使用人というのも大変なようだ。

 そうこうしているうちに、パーティ会場までやってきた。
「祥子様は身支度もあり、少し遅れます。会場に入られる際には連絡しますので、祐麒さま、お迎えしていただくようお願いします。連絡は、こちらのインカムで行います」
 と、インカムを勝手に装着させられる。
「それでは、しばらくはゆっくりとパーティを楽しんでください。ビュッフェ形式ですので、ご自由にどうぞ」
 恭しく頭を下げるアンリに見送られ、戸惑いながらもパーティ会場へと足を踏み入れる。
「――――うおぉ」
 目の前に開かれたフロアは、まさに別世界だ。
 クリスマスということできらびやかに装飾された室内だが、下品ということはなく会場内を彩っている。巨大なツリーは勿論、窓に描かれている絵や壁にかけられている飾りなど、派手な部分と落ち着いた部分が自然と融合している。
 室内には様々な衣装に身を包んだ客人たちが闊歩している。ドラキュラなどのモンスター系の格好をしている人もいれば、民族衣装に身を包んでいる人もいる。
「仮装パーティなんていうから驚きましたけれど、これはこれで結構楽しいものですね」
「確かに、たまにはこういう風に羽目を外すのもありかもしれません」
 そんな風に話している声に振り返ってみれば、何やら仮面をつけたおじさんだったり、ベトナムのアオザイを着た女性だったり、実に様々だ。
 これだけ仮装で溢れていると、祐麒が紛れ込んでいたところで何とも思われないし、祐麒も自分が場違いだという気分が少し薄れたように感じられて、気が楽になった。
 気分が落ち着いたところで更に周囲を観察する。ビュッフェ形式だが、各所では調理人がその場で料理しているものも多い。調理人達は邪魔にならない範囲でどうやらサンタの格好をしているようだ。多くは、帽子をかぶるくらいに留まっているが。
 会場内には落ち着いた音楽が流れていると思ったが、見れば楽団らしき人たちが実際に演奏をしていた。
 また、客を楽しませるためか、マジックショーを行っているテーブルや、大道芸人ぽい人までいたりして、詰め込みすぎなんじゃないかと思わせる部分もあったが、知り合いの祐麒にとってはありがたいことでもあった。

「あら祐麒さん、来ていただいていたのね」
「え? あ、ど、どうも清子さん。今日はお招きいただき、ありがとうございます」
 声を掛けられて見てみれば、清子がすぐ近くにいた。仮装をしていたため、気が付かなかったのだ。
「まあ、素敵ね祐麒さん、とても凛々しいわ」
「ど、どうも……清子さんこそ、とても美しいですよ」
「あら、お上手ね」
 笑う清子であったが、実際、インドの民族衣装であるチョリ、ガーグラを履き、サリーを纏った清子の姿は神秘的な美しさを誇っていた。
「ふふ、そういう言葉は是非、祥子さんに言ってあげてくださいな」
「あの、別にお世辞とかじゃないですから」
「まあ……やめてください、年甲斐もなく勘違いしちゃいますよ」
 と、清子は冗談めかして言いながら、祐麒の頬を指でツンツンと突いてくる。高校生の娘を持つ人妻には見えない可愛らしい仕種に、うっかりすれば見惚れてしまいそうになる。
「楽しんでいますか、祐麒さん」
「はい、それはもう」
「今日はビンゴ大会もあるんですって。なんだか、ワクワクしちゃいますね。落ち着いたパーティもいいですけれど、たまにはこういう、なんていうんでしょう、弾けた感じのパーティも楽しいですよね」
 清子は本当に楽しそうにしているが、祐麒は一つ不安になった。それは、小笠原家主催パーティのビンゴの景品って、一体どれだけのものになるのだろうかと。万が一、当たったとしても辞退した方がよいかな、なんて考える。
『――聞こえますか、祐麒さま? 祥子さまの準備が整いましたので、お出迎えをお願いいたします。会場、右後方の扉から出てきていただけますか』
 その時、インカムからアンリの声が聞こえてきたので、清子に挨拶をして指示されたとおりに会場から一旦、外に出た。
「――こちらです、祐麒さま」
 外には、肩もお臍も丸出しにしている、随分と露出度の高いミニスカサンタ姿のアンリがいた。
「……じ、じろじろ見んじゃねえよ……ったく、旦那め、エロ親父なんだから……」
 周囲に誰もいないせいか、素の口調に戻るアンリ。
「いや、いいじゃないですか、可愛いですよ、似合ってます、とても」
「ば、馬鹿……変なこと言ってないで、こっちだ」
 顔を赤くし、拗ねたように口を尖らせて歩き出すアンリ。これが祥子の父親の指示だとしたら、グッジョブといわざるをえない。
 ふらふらと太ももを追いかけていくと、やがてアンリの足が止まる。
「お嬢様、お連れ致しました」
「ご苦労様、アンリ……あ……」
 祥子の声に、アンリから視線を外すと。
 鮮やかに変身した祥子がいた。
「祥子さん…………」
 声を失くすとは、このことを言うのだろう。なんと表現したら良いのか分からないほど、祥子の仮装は似合っていたし、そして何より美しかった。
 祐麒とあわせたように当然、和装である。見事な赤、紅を基調とした着物に大きな珠をあしらった髪飾りを始めとする装飾品。化粧は抑えめだが、目はくっきりと、唇は艶やかに描かれ、黒く美しい長い髪は左右でまとめて胸の方に垂らしている部分と背中に流されている部分に分かれている。
「あ、あの……へ、変でしょうか?」
 呆然としている祐麒を見て、不安そうな声を出す祥子。
「と、とんでもないっ! す、すごく似合っているし、何より誰より綺麗です!!」
「あっ……あ、ありがとう、ございます。その、ゆ、祐麒さんも格好良いです」
 うつむいて赤くなった祥子は、小さな声で祐麒のことも褒めてくれたが、これは社交辞令だろう。
「さ、お二人とも、お話は会場内でお願いします。そろそろ会場内へ」
「え、ちょっ、アンリ?」
 二人の背中を押すアンリ。二人が進むのにあわせ、係のものが会場の扉を開き、二人は会場へと足を踏み出した。祐麒の腕を祥子が掴み、祐麒がリードする形。
 中に入ると、先ほどとはうって変わって会場内は薄暗かった。そこに突然、祐麒と祥子にスポットライトがあたり、オーケストラが演奏する曲が響き渡る。

『お待たせいたしました、本日のパーティの発起人であります、小笠原祥子さまのご入場です。お隣は、祥子様が通われているリリアン女学園と親交のある、花寺学院の生徒会長、福沢祐麒さまです』

 司会者のような声が二人のことを紹介すると、一斉に盛大な拍手が降り注いだ。
「な、な、な……なんですか、これ」
「ご、ごめんなさい、祐麒さん。私もこんなこと、聞いていませんでした」
 隣の祥子も戸惑っているが、それでもさすがにこの手の場には慣れているのか、表情は崩さずに凛々しさを見せている。
「……ごめんなさい、祐麒さん。中まで歩いてしまいましょう、それで終わると思いますから」
「わ、分かりました」
 大勢に注目され、ぎくしゃくとした動きで進んでいく。すると、進行方向に清子の姿が見えたのだが、清子は祐麒と目が合うと親指を立ててウィンクを飛ばしてきた。どうやら、清子の仕業らしい。
 招待客らは、リリアン・花寺の関係ということで、微笑ましく祐麒達のことを見ているようだが、若い男性の中には憎悪にも似た視線を向けてくるものもいる。それは、祥子のことを狙っている連中であろう。
 会場の中央まで進んだところで一旦、祥子は祐麒と離れると、招待客に対しての簡単な挨拶を行った。高校生らしからぬ落ち着きのある、堂々たる挨拶であった。この辺はさすがといったところか。
 挨拶を終えると様々な人たちが寄ってきて、次々と挨拶を交わしていく。祐麒は口を出すわけにもいかず、その様子を見ているしか出来ない。
「……しばらくは仕方ないですよ、食事でもどうですか?」
「あ、どうも」
 気を利かせてアンリが食事を皿にとって持ってきてくれたので、食事をしつつ祥子を眺めて待つことにした。アンリは招待客への給仕で忙しく、あちこちを動き回って話しかけられる状態ではない。まあ、こうなることはなんとなく予想がついていたので、特に焦ることもなく、素直に食事を楽しむことにした。
 色々と趣向もこらされているので、さほど退屈することもなく一時間ほどが過ぎたところで、ようやく祥子の方もひと段落したようだった。招待客の中から逃げてきた祥子が、祐麒の方へと歩いてくる。
「……申し訳ありません、祐麒さん。せっかく来ていただいたのにお構いできず」
「いえ、気にしないでください。それより、大丈夫なんですか?」
「ええ、母がうまいこととりなしてくれまして」
 ちらと見れば、清子が大勢の客を相手に和やかに談笑している。この辺、なんだかんだといいつつ慣れているのだろうし、祥子のことを思いやっているのだろう。
「お嬢様、よかったらどうぞ」
 アンリが素早く寄ってきて、食べ物と飲み物を祥子に差し出す。
「ありがとう、アンリ。ずっと話の相手をしていたから、喉が渇いて」
 オレンジジュースの入ったグラスを、半分ほど一気に開ける。
「ふう……やっと一息ついたわ」
 グラスをアンリの持つトレイに戻し、祥子は柔らかく微笑む。
「それにしても皆さん、凄い仮装ですね。思っていたより本格的というか、気合いが入っていてびっくりしました」
「そうですね、私も不安だったのですけれど、楽しんでくれているようでホッとしています。でも、祐麒さんも楽しまれているのでしょう。今日の私達の衣装も、祐麒さんが案を出したとお聞きしましたけれど、一体、何をモチーフとしているのでしょうか?」
「え……」
 別に祐麒が考えたわけではなく、用意された服を着ただけだと思ったが、祥子の背後でアンリが凄い目力で訴えかけているので口を噤んだ。どうやら、裏ではそういうことになっているらしい。
 あえて否定しても仕方ないので、祐麒はアンリに教えてもらったことを口にした。
「ええと、これはですね、スサノオノミコトとクシナダヒメです」
「――え」
 一瞬、驚きに目を丸くする祥子。
「あ、あの、それって」
 祥子は何か言おうとしたが、それより先に祐麒が口を開く。なんとなく、間をもたせたくて話し始めただけなのだが。
「和服の仮装って、殆どいないですよね。そうそう、そういえばこの模造刀を持っていたせいか、子供たちが興味を示して寄ってきて、ちょっと囲まれたんですよ」
「そ、そうですか」
「可愛くていいですよね、子供って」
「そっ……そそ、そうですね」
 頷く祥子。
「お嬢様、祐麒様、旦那様と奥様がお呼びのようですが」
「え? あ、あら、本当ね。すみませんけれど祐麒さん、少しよろしいですか」
「はい、もちろん。俺もご挨拶しないといけないと思っていましたので」
 清子は会ったことがあるが、祥子の父親とは初対面である。娘の父親なんていうものは、近づく男には厳しいだろうから、きちんと挨拶しなければいけないと身構える。
 祥子の後について歩き、清子と祥子の父親の前まで辿り着く。
「君が祐麒くんか。私は祥子の父の小笠原融です。娘がいつもお世話になっているようで」
「いえ、そんな! あ、福沢祐麒です」
 融もやはり清子とあわせているのか、どこかの民族衣装のようなものを着ていた。当然、祐麒の父親とさほど変わらない歳のはずだが、非常に若々しくて格好良いのが分かる。
 そんな融に頭を下げられて、祐麒としては慌てるし恐縮するしかない。
「一度、話してみたいと思っていたんですよ」
「ど、どうも」  穏やかに話し始める融に、しどろもどろになりつつも応対する祐麒であった。

 

 

 祐麒が両親と話しているのを、祥子は落ち着かない気持ちで見つめていた。
 パーティ会場の中は騒がしいのに、話し声も、音楽も、何も耳に入ってこない。ただただ、これからどうすれば良いのかを考え、迷っていた。
 ひょんなことで開催することとなった仮装パーティは思いのほか盛況で、それは祥子としても喜ばしいことだった。用意された衣装が和装というのは少し驚いたが、着てみればとても綺麗で文句はないし、祐麒もまたよく似合っていた。
 招待客との会話も、面倒くさくはあったがどうにか大過なく終え、あとはゆっくりと過ごすだけだと思っていたのだが。
 祐麒に二人の仮装のコンセプトを聞いて、一気に頭がパニックに陥った。
 スサノオノミコトとクシナダヒメとは日本神話に登場する神だ。神話内では、クシナダヒメはヤマタノオロチの生贄として差し出されるところ、スサノオノミコトがヤマタノオロチを倒すことで生贄を逃れ、そしてスサノオノミコトはクシナダヒメを妻に迎えることになる。
 つまり、この仮装は夫婦をも意味するのだ。
 更に祐麒は、子供が可愛いと祥子に向けて言い、それは即ち早く子供が欲しい、『俺の子供を産んでくれ』という意思表示なのか。
 視線を上げれば、祐麒は父である融と話をしている。両親の場所に来る前、祐麒は融に挨拶したいと言っていた。祐麒はもう、今日そこまでの意思を固めて訪れてきているのだ。だけど、それはまだ叶わない。なぜなら、祥子が何も答えていないから。
「………………あ、あの」
 小さな声。
 祥子は一度大きく息を吸い、もう一度口を開いた。
「……あ、あの、すみませんっ」
 必死の思いで言うと、融、清子、祐麒の顔が祥子を見る。
「どうしたの、祥子さん」
「えっと、大丈夫ですか、なんか顔色が……」
「ゆ、祐麒さんっ」
「は、はいっ??」
 祐麒が祥子を見つめてくる。
 目を瞑りそうになる。
 でも、ここで怯んでしまってはいけない。
 深呼吸を一回して、改めて祥子は口を開いた。

 

 

 あまりに思いつめた顔をしている祥子に、清子も融も面喰っているようだった。パーティも中盤を過ぎ、少しゆったりとした感じになってきている。融と清子、そして祥子と親子が揃って話しているせいか、他の客も気を遣っているようで寄ってこない。だから今、四人だけが違う世界にいるようなのだが。
「ああああの、祐麒さん。ず、ずっと前から言われていた、こと、お答えします」
 顔を赤くした祥子が、着物をぎゅっと握りながら言う。
「前に俺が言ったこと、ですか?」
 何かを祥子に言ったのだろうか、すぐに思い出すことが出来ない。ただ、祥子の様子、そして性格からして、ふざけているわけではないはずだ。
「あ、あの、パートナーの件……です」
「ああ、その件ですか」
 言われて合点がいく。今日のパーティのパートナーになるという件だったが、既に参加していて今更だし、そもそも男女ペア限定というのも現実的には取り払われている。それはそうだろう、招待客の誰も彼もが都合よくペアを組めるというわけでもあるまい。
 ただ、生真面目な祥子のことだからきちんと返答をしておきたいのだろう。いや、そういえばこの後にはダンスが控えており、それのことかもしれない。前に話した時に、ダンスのことも聞いたような気がする。
「あの……お、お受けします」
「あ、はい、ありがとうございます」
 ぺこりと頭を下げる。
「ゆ、ゆ、ゆゆっ、祐麒さんのぷ、ぷ、プロポーズ、正式にお受けいたしますっ」
 顔を真っ赤にしながら、祥子はとんでもないことを口にした。
 一瞬の後。
「――え、えええっ!?」
「ちょ、ちょっと祥子、祐麒君、ど、どういうことかね!?」
「あら、まあ」
 融と清子がそれぞれの反応を示す。祐麒も目を剥いているが、祥子は周囲のことなど分からずにテンパった様子で口をぱくぱくさせている。
「あ、あと、あと……あ、そ、そうです」
 緊張のためかお腹のあたりを手で撫でながら、祥子は今度は首まで赤くしながら言った。
「わっ、わた……私も子供……ゆ、祐麒さん、子供……」
 そこでオーバーヒートしたのか、止まってしまう祥子。
 だが、時間が止まってしまったのは祥子だけではない、他の三人も完全に止まっていた。
「まあ……祥子さん、本当に? 祐麒さん?」
「い、いえいえっ、ちち違いますよ、俺、そんな!」
 清子に目を向けられ、慌てて誤解を解こうと首を振る。そんな行為をしたどころか、キスだってしたことがないのに、ありえない。だが、お腹を手で抑え、真っ赤になって照れてテンパりながら『子供が』なんて言われた日には、誰だって『そうゆうこと』だと思ってしまうだろう。
「どういうことかな祐麒君、そこまでしておいて、白を切るとは男らしくないね」
 融が、穏やかながらも全く笑っていない目で見下ろしてきている。
「私も頑固親父というわけではない、娘の交際を頑なに拒むなどということをするつもりはない。だが、真剣ではないなら、許すつもりはない」
 さすが小笠原家の主人、半端ない威圧感で迫ってくる。
「まあ、これからなら生まれるときは高校は卒業しているし、いいのではないかしら」
「な、なんてことを。いくらなんでも早すぎる」
「じゃあ貴方は、祥子に産むなというおつもりですか?」
「そ、それは……むむぅ」
 腕を組み、唸ってしまう融。
「あの、俺……」
「――――何かね?」
「い、いえっ! あ、あの、はい、俺は勿論、真剣ですっ!」
 迫力に負けて言わされたような気がしたが、改めて考えてみて分かったことがある。
 そう、祐麒は本気で祥子に惹かれている。
 そのことを今日、祐麒は理解した。

 

 

 知らないうちに自室に戻ってきていた。
 一生懸命に勇気を振り絞って答えた後のことが、全く記憶にない。
 気が付けばいつの間にか服も着替え、部屋着姿になっている。アンリ達が着替えさせてくれたのだろう。
 ベッドに力なく腰を下ろし、今日のことは現実のことだったのだろうかと考え、間違いなく現実だと理解すると、途端に羞恥が身を焦がす。
 熱くなった頬を手で抑え、ぽーっと天井を見つめる。
 何を考えたのか、あるいは思い出したのか、顔をぽっと赤くして身を捩る。
 恥ずかしいけれど、どこかすっきりもしていた。それは、ずっと悩んでいたことに回答を出したからだと思っていたけれど、どうもそれだけではないようだった。
 なんでだろうと考え、その答えに行きつく。
「……ああ、そうなのね……」
 自分にだけしか聞こえない声で、呟く。
 なぜ、気分がどこか晴れやかなのか。
 不思議と体がふわふわとするような気持ちなのか。

「私……祐麒さんのことが、好きなのね…………」

 そのことを、自覚したから――――

 

 

おしまい

 

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