書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

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【マリみてSS(栞×祐麒)】それは砂浜で

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~ それは砂浜で ~

 

 中学まで打ち込んできた野球、当然のように高校に進学しても続けるつもりでいたし、強豪校への推薦もほぼ手中にして甲子園を目指そうと本気で思ってもいた。だからこそ、肩を壊して目標を失った祐麒の挫折感は大きかった。
 やる気をなくし、無気力に日々を過ごしていく祐麒。両親や祐巳はそんな祐麒を見かねて色々と声をかけてきてくれたりもしたが、傷がそう簡単に癒える筈もない。だからといって時間は流れていくわけで、推薦がなくなった以上は新たな進路を決めなくてはならなくなり、祐麒は困った。今さら花寺の高等部に進学するというのは、野球部の仲間のことを考えると選びづらい。だからといって、他にどうすれば良いのか。
 そんな祐麒が選択したのは、全く異なる地の高校に進学することだった。誰も自分のことを知らない新しい場所で再スタートをしたい、ちょっと考えれば贅沢と分かる希望を出し、それが通ってしまったのは、なんだかんだと親が甘かったのかもしれない。
 家族が何を考えて許可を出したのかは分からないが、それでも祐麒は見知らぬ土地で一人、新たな一歩を踏み出すことになった。
 ただし一つだけ条件があり、高校生の一人暮らしなんて色々と心配だから、住む場所は両親が選ぶというもの。祐麒としては寮のある学校を探すつもりだったが、親が指定するならそれでも良い。特にその辺にこだわりはなく、だから下見をすることもなく引っ越し当日になってしまった。
 両親と祐巳に見送られて一人新幹線に乗り、更に電車を乗り継いで降り立った場所は、磯の香りの漂ってくる、綺麗な海が近くに見える街だった。
「うおー、なんかいい気分だな」
 腕をあげて思い切り伸びをし、空気を吸い込む。実はどのような場所か良く知らず、調べもせずにやってきたのだが、街の雰囲気は悪くなさそうだった。駅の周辺は適度に栄えているが、東京のようなごちゃごちゃ感はないし、ちょっと離れていくと昔ながらの商店街みたいなものもあって、しかも寂れておらず賑わっている。
 足をのばせば海があり、しかもなかなか綺麗である。まだ暮らし始めてもいないけれど、好きになれそうな街だった。
 時計を見れば時間もまだ早く余裕があったので、海岸へと足をのばして見ようと思った。軽く街を観察しながら歩いていくと、やがて目の前に広がる海岸線。少し先に見える階段を下りて砂浜に足を踏み入れると、キュッ、キュッ、と歩くリズムにあわせて砂がなく。
 『遊泳禁止』と書かれた札が立っているので海水浴場ではないようで、その辺は残念な気もしたが、逆に夏になっても無駄にうるさくならないと考えれば良いのかもしれない。
 海から吹き込んでくる風は今の季節だとまだ肌寒く感じるが、心地よくもある。中学時代まで自分が住んでいた環境とは全く異なっていて、非常に新鮮だった。
 周囲に人の姿は少なく、カップルがデートで砂浜を歩いているような姿も見受けられない。そんなイメージは祐麒が勝手に考えていただけなのかもしれないが。
 そうして歩くことしばし、ふと歩いてきた方を振り返ってみると、砂浜ではない道路の上に人が立っている姿が目に入った。
 海からの風に揺れる髪の毛は背中まで届いてかなり長く、また同じようにスカートの長い裾がはためいている。さほど近い距離ではないのでなんともいえない部分はあるが、若い、祐麒とさほど変わらない年齢ではないかと思うのだが、不思議と目が吸い寄せられる。顔も分からないのに、立つ姿に雰囲気があるというか、何か惹きつけるものがあるというか。圧倒的なオーラがあるわけではない、言葉で表現できない何かを、祐麒はその女性から感じたのだ。
 その女性がふと祐麒の方に顔を傾けたように見え、慌てて背を向ける。見ず知らずの人に凝視されて気分の良い人はいないだろう。
 誰に何かを言われたわけではないが、誤魔化すように砂浜に落ちていた石を拾い上げる。波によって削られたのか、すべすべとして触り心地が良い。ぽんぽんと何度か手のひらの上で軽く上に投げていると、思い出してしまうのは野球のボール。
「…………くそ」
 頭の隅から追いやっていたし、新たな場所に来て随分と気分も変わってきていたのに、こんな仕種で思い出してしまうとは。
 一度思い出してしまうと、そう簡単にまた頭の中から追い出してしまうなんて出来ない。
 波の押し寄せる海を見つめる。
 軽く肩を上げて投げるフリをしてみる。
「――――」
 痛みはない。
 日常生活をこなす分に問題はなく、問題があるのは何かものを投げようとするとき。だけどもう何か月も投げるなんてことはボール以外にもしておらず、もしかしたら少しくらい投げられるのではないだろうか、そんな思いが脳裏をかすめる。
 軽く投げるだけ、別に何か期待しているわけではない、内心で自分に言い訳をしながら海に体の正面を向けて立つ。
 振りかぶりはせず、胸以上には腕を上げないノーワインドアップで左足を上げる。砂の上だからバランスを取りづらいが、下半身はまだそこまで衰えていない、踏ん張りを利かせて腕を振り上げる。
「――――っ!!」
 ぼとり、と石が砂の上に落ちる。
 激痛が肩をかけぬけ、思わずその場に膝をつき、肩を手でおさえて蹲る。
 正直なところ、舐めていたかもしれない。ずっと肩を使っていなかったし、多少の痛みがあるとしても少しくらい投げられるのではないか、と。
 だが実際にはこのざまである。
 いまだズキズキと痛みのある肩をおさえ、苦痛に耐えて荒い呼吸をどうにか落ち着けようとしていると。
「――大丈夫ですか?」
 背後から声をかけられ、驚く。
 さらに驚いたのは、その人がいつの間にやってきていたのか、先ほど祐麒が見つめていた女性だったから。
「な……いッ!!」
「動かないで」
 女性が祐麒の肩にそっと手の平で触れる。
「何……が」
 声をかけようとして、それが憚られるほど女性は真剣な表情をして祐麒の肩に視線を注ぎ集中していた。
 若い、やはり思っていた通り祐麒とさほど年齢が変わらない少女だった。真っ直ぐに切りそろえられた前髪は古風な感じがしたが、それが逆にこの少女には似合っている、いや相応しいように思える。髪も肌も色素が薄くて儚げに思えるのに、真剣な瞳からは力強さも感じられる。
「…………え?」
 不意に、肩が軽くなったような気がした。
「痛みが…………消えた?」
「本当? 良かった」
 祐麒の言葉を耳にして、肩に当てられていた少女の手の平の感触が離れる。
 軽く肩を動かしてみると、実際に痛みがなくなったわけではなく、単に痛みが小さくなっただけだが、驚くほどすーっと消えるように痛みが引いていったのは確かだった。
 それはそう、まるで少女の手から放出された力によって治癒されたように感じるほど。
「――そ、そうだ。あのっ!」
 ぼうっとしている場合じゃないと振り返る祐麒だったが、そこに少女の姿はなかった。まさか、夢か幻だったのではと思ったが、顔を動かしてみれば少女が歩いてゆく後ろ姿が目に入った。砂浜だったから足音が消えて気付かなかったのはあろうが、かなりの間呆然としていたようである。
 立ち上がり、追いかけようとして。
「あ……」
 だけどそれより先に少女の姿は視界から消えて行った。

 

 その後、砂浜に座り込んでしばらく休息を取った後、新たな家へと向かって歩き出した。すぐに少女を追いかければ捕まえることが出来ただろうが、なぜか立ち上がることが出来なかった。
 不思議な少女だと思ったが、冷静になってよくよく考えてみれば彼女が実際に何か超能力のようなもので痛みを消してくれたはずもない。単純に、時間が経って痛みが和らいだのだと思う。頭の中では理解するのだが、少女の真剣な表情、そして不思議な雰囲気が何か超常的なものを連想させたのだ。
「でも、しまったな。名前くらい聞いておけばよかった」
 後悔するも後の祭りだが、春休みを利用して遊びにやってきた風にも見えず、おそらくこの地にいるものと見え、同じ場所を歩いていればいずれまた会えるのではないか、そんな気もしていた。
 歩いているうちに肩の痛みもすっかり消え、気持ちを切り替えて新たな住まいへと向かう。
 住所のメモと地図を頼りに歩いてゆくと、そこと思しき建物の前に辿り着いた。
「ここ……なのか?」
 大家さんがいるから挨拶するようにと言われていたので、アパートだと思っていたのだが、祐麒の目に入るのは一軒家だった。間違えたのかとも思ったが、住所はあっているし、さてどうするべきかと思案していると。
「――もしかして、福沢祐麒くん?」
 建物の中からではなく、庭の方から人が姿を見せて声をかけてきた。
「あ、はい、そうです」
「やっぱり。少し遅いから心配していたのよ。もしかしたら場所、分からないのかなって」
「いえ、ちょっと街を歩いていたので……ご心配をおかけして申し訳ありません」
「そんな謝らないで。新しい場所に来たら、そりゃ興味湧くものね」
 からからと気風よく笑って見せるその女性は三十歳前後だろうか、茶色がかったセミショートの似合う、快活そうな美人だった。
「あ、と、自己紹介がまだだったわね。あたしがここの大家をしている、細川美月よ。これからよろしくね」
「福沢祐麒です。これからお世話になります」
 大家だと聞いて、慌てて頭を下げて挨拶する。大家なんて言うから、それなりに歳をとった人を思い浮かべていたのだが、実際に現れたのは若々しくて美しい妙齢の女性。
「荷物も届いていて、もう部屋に置いてあるから。早速だけど案内するわね」
「はい……えっと、ここってアパートではないんですか?」
 先導して家の中に入っていく美月の背中に声をかける。
「あれ、聞いていないの? アパートというよりかは、古い家を利用してのシェアハウス、といったところかしらね。でも、ちゃんと住人に個室はあるし、プライベートに無遠慮に踏み込むようなことはしないから安心して」
 案内された祐麒の部屋は一階にある六畳ほどの部屋だった。ついでに家の中も案内してもらったが、一階には他に居間とキッチン、風呂に洗面所、大家である美月の部屋。
 二階は他の住人の部屋があるそうだが、今は不在ということで後回しになった。
「食事はあたしが作るけれど、不要な場合は事前に連絡してね。連絡がない場合は、基本的に居間で皆で食事だから」
 なるほど、それならば食事面で困ることはないだろう。両親がこの家を選んだというのも頷ける。
 そうして改めて自分にあてられた部屋に戻り、荷物の整理をしようかと考える。少なくとも、最低限のものは出しておかねばならないだろう。
「荷物、手伝おうか?」
 言いながら美月は祐麒の返事を待つまでもなく、『雑貨・リネン』と書かれた段ボールに手を伸ばしていた。
「あ、いえいいですよ、悪いですし」
「遠慮しないの、ここに来た以上、もうあたし達は仲間なんだから……って、あ、そうか」
 段ボールに手を伸ばしかけていた手を引っ込め、納得したように頷く。
「年頃の男の子だもんね、あたしに見られたくないようなものもあるわよね。これはあたしが悪かったわ、ごめんなさい」
「いや別にそういうことじゃないですからね!?」
 慌てて否定をするも、実際には美月の言うことは間違っていない。
「あ、でも気を付けてね、ここには若い女の子もいるから」
「いえ、だから」
「それじゃあ、夜ご飯の準備が出来たら呼ぶから。今日は福沢くんの歓迎会でもあるから、欠席はなしだからね」
 祐麒の言葉など耳を貸さず、手をひらひらと振って美月は部屋から出て行ってしまった。一人になった部屋の中で小さく息を吐き出し、頭をかく。
「気を取り直して、荷物整理するか……」
 とりあえず、中学時代の悪友から餞別に貰ったブルーレイは、住人達には見つからない様細心の注意をはらって隠すことにした。

 

 さほど荷物は多くないと思っていたが、整理には意外なほど時間がかかり、いつしか日遅れていた。持ってきた本をつい読んでしまったり、室内の配置を色々と考えて組み直したりと、ありがちなことをしているうちに時間が過ぎていた。
「――あの」
「うわぁっ!?」
 いきなり背後から声がして、おもわず悲鳴をあげる。
「なっ、なんですか細川さんっ、いきなり部屋に入ってくるなんてっ……て」
 大きな声を出してしまったことを取り繕うように言いながら振り返ると、そこに立っていたのは美月ではなかった。
 言うなれば、黒
 漆黒のセミロングの髪、黒縁眼鏡の下に黒い瞳、黒のセーターに黒いパンツ、比例して肌は白くて対照的でもある。
「何度もノックしたけど反応がなかったから、もしかしたら疲れて眠っているのかもと思ったけれど、そろそろ食事だから」
「ああ、す、すみません。えーと、住人の方、ですよね」
 問いかけると、無言で頷く。無表情なのが、なんだか怖い。
「私は加東景」
「福沢祐麒です。これからよろしくお願いします」
 頭を下げると、景も僅かに顎を下に引いて頷いた。
 二十代前半くらいに見えるが、実際の年齢がどのくらいなのかはぱっと分からなかった。景は無言で踵を返して部屋の入口まで歩くと、ちらと振り向いて目を祐麒に向ける。
 ついてこい、という意思表示だと気が付いて、急いで立ち上がって景を追う。部屋の片づけはまだ終了していないが、そこまで焦る必要のあるものはない。最悪、今日の夜は寝ることさえできればよいのだから。
「そうだ、先に手を洗ってきます」
 景に断りを入れ、洗面所に向かう。荷物を色々と片付けていて汚れており、さすがにこのまま食事をするというわけにもいかない。
 手を洗い、鏡に映る自分の姿を見る。景が部屋に入ってきたのは突然だったので何をする間もなかったが、身だしなみが変ではないか確認する。他にどのような住人がいるか分からないが、初見で変な印象を与えたくはない。
 癖っ毛なのは仕方ないとして、少し髪の毛がへたっているように感じるのは、もしかしたら潮風を浴びたせいかもしれない。
 少し髪の毛を直し、これで良いかと思って一人頷いたとき、洗面所の扉が開いた。
「――ああもう、早くシャワー浴びて汗流したいっ」
 入って来た女性は、入って来た時から既にブラウスのボタンに手をかけており、そのままの勢いでボタンを外して胸元が大きく開く。視界に入るのは見事に盛り上がった胸の膨らみと谷間、そしてちらと覗いて見える桃色の下着。
「――――」
「あ、ごめん、先に入ってたの? でも――」
 と、そこで女性の動きが止まる。
「あの、えーと、俺は」
「へっ……変質者っ!?」
 お約束のような展開だが、その女性の平手打ちはお約束とはとても言えないくらい強烈なものだった。

 

「だから、いつも言っているじゃない。家の中ですぐに脱ぐのはやめなさいって」
「自業自得」
「わっ……分かってますよ、私が悪いって」
 美月と景の二人に責められ、いじけたように肩を落としてい女性と目が合うと、先ほどのシーンを思い出してしまい赤面しそうになる。
「でも、部活して、シャワーも浴びれずに、潮風でまたべとべとして、一刻も早く快適になりたいって思うじゃない? それに脱いだっていっても、洗面所だったし」
 まだぶつぶつと文句というか言い訳というかを口にしている。
「今日から来ることは、前から言っていたでしょう?」
「そうですけど……」
「それより、ちゃんと謝ったの?」
「あ、謝りました」
「じゃあ、自己紹介は?」
「まだですけど……」
 先ほどのようなことがあった後に改めて自己紹介するというのも気恥ずかしく、お互いになんとなく遠慮し合ってしまう。
「…………えーと。山村冴香です。さっきはごめんなさい」
「福沢祐麒です。あの、大丈夫です」
 冴香と名乗った女性は洗面所のごたごたの後にシャワーを浴びて着替え、今はジャージのような部屋着姿になっている。顔立ちはなかなか綺麗だし、胸が大きくてスタイルも良いのに、どこか残念臭が漂っているのは気のせいだろうか。
 年齢的には景よりは上だが美月よりは下、二十代半ばのOLといったイメージである。
「まあ、アクシデントではあったけれど、これでお互いの距離も縮まったと良い方向に解釈することにしましょう」
 気分を変えるように美月が明るい声で言う。
「皆さんで、ここに住んでいる方は全員ですか?」
「あと一人、もうすぐ帰ってくると思うけど……っと、噂をすればなんとやら、帰って来たみたいね」
 美月の言う通り、玄関が開く音が聞こえてきた。
 ということは、美月、景、冴香、そして今帰って来たという人に祐麒を加えると、住人は五人ということになる。実家から出てきて一人暮らしと思ったら、家族よりも多い人数と同居になるなんて不思議なものである。
 思い描いていた一人暮らしとは異なるが、見方を変えれば賑やかそうであり一人で変な方向に落ち込むこともなさそうだ。意外と、その方が良いのかもしれないなんて考える。
 あとは、女性ばかりではなく、話しやすい男の住人がいれば良いのにと思う。そういう意味では、最後の一人に期待をするが。
「お帰りなさい、新しい住人の子の歓迎パーティ、ちょうど始めるところよ」
「ごめんなさい、遅れてしまって」
 迎えに出た美月と話す声が少し聞こえてきたが、声は女性のものだった。となると男は自分ひとり、これは良いことなのか悪いことなのか。
「――はい、これで無事に全員揃いましたっ」
 居間に姿を見せる美月、続いて現れる最後の住人。
「――――あ」
「?」
 思わず目を見張り、口を開けてしまう祐麒。
 美月の後ろに立っていたのは、髪の長い、前髪ぱっつんの、砂浜で出会った少女。
 驚く祐麒の姿に首を傾げるが、気を取り直したように姿勢を正し、体の前できっちりと手を揃えて祐麒に相対する。
「……久保、栞です。初めまして」
 丁寧にお辞儀をする彼女――栞のことを、祐麒は声もなくただ見つめていた。

 

つづく

 

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