【作品情報】
作品名:すみれ屋敷の罪人
著者:降田 天
ページ数:253
ジャンル:ミステリー
出版社:宝島社
おススメ度 : ★★★★★★★★☆☆
耽美度 : ★★★★★★★★☆☆
こういう人におススメ! : 切なく美しいミステリーが好き
旧名家・紫峰邸の敷地内から白骨死体が発見された。
かつて紫峰邸で暮らしていたのは主人の太一郎と三人の美しい娘たち、そして使用人達。
発見された死体は誰なのか?
また、紫峰邸で何があったのか?
白骨死体の身元について関係者の間をまわって調べる男の目的は?
過去を回想しながら真実に迫っていくミステリー。
なんというかこう、ひたひたと、静かながらも確実に真実へと近づいていく歩み方が良い。
戦後の旧家ということで、印象はゴシック的。
だからだろうか、物語には決してスピード感があるわけではない。それでも読み進める手が止まることはない。
どこか耽美で、どこか哀切で、そう、哀しく美しい物語である。
ミステリーというより、本当に「物語」といった感じ。
雰囲気が良く出ている。
そして、そこで描かれるのは姉妹の物語であり、父と娘の物語であり、主従の物語である。
戦前、そして戦争に突入し、やがて戦後を迎える激動の時代の中で、名家といえども逃れられるわけではない。
そのような状況下で少しずつ変化していくそれぞれの関係、心情。
滅びに向かっていこうとしているとしか思えないのに、それでも美しいと感じさせる。
むしろ、終わりに向かうからこそ美しく感じるのかもしれない。
ゆっくりと明らかになっていく真実は、とても切ないものである。
確かに殺人は起きたかもしれない。
でも、そこに悪があったかというとまた違う。
誰もが、自分の思いを抱え、人のことを思い、だからこそ起きてしまった事件だったのだ。
やりきれなさを覚えつつ、それでも決して哀しいだけではなく希望も見せてくれる。
圧倒的な衝撃ではないかもしれないが、心に染み入ってくる話だ。
このような作品と思って手にしていなかっただけに、嬉しい誤算であった。
全員が幸せになって欲しいと思えるのに、そうはいかない。
でも、だからこそ美しい物語になったのかもしれない。
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