【作品情報】
作品名:ワラグル
著者:浜口 倫太郎
ページ数:431
ジャンル:エンタメ
出版社:小学館
おススメ度 : ★★★★★★★★☆☆
お笑い界の厳しさが分かる度 : ★★★★★★★☆☆☆
こういう人におススメ! : 質の良いエンタメ作品を読みたい人
崖っぷちの中堅漫才コンビ、リンゴサーカスのボケ担当、加瀬凛太は、冬の寒空の下、絶望していた。
年末の漫才日本一を決めるKOM(キングオブ漫才の略)敗者復活戦で敗れ、決勝進出の一縷の望みを絶たれてしまったのだ。
おまけに相方は、今年ダメなら実家の生業を継ぐと公言していたため、コンビも解散となった。
なんとかして漫才を続けたかった凛太の前に、先輩KOM王者からある情報が寄せられる。
死神の異名を取る謎の作家ラリーがコーチに付けば、KOM優勝も可能だ。
事実、自分もそうして王者になれた、というものだった。
半信半疑でラリーの元を訪れた凛太は、来年決勝に残れなければ芸人を辞めろ、と告げられる。
漫才師が挑む笑いと涙と戦慄の起死回生物語
「ワラグル」とは、笑いに狂っている、という意味。
まさに人生をお笑いにかけ、お笑いにだけ時間を、自分の魂をささげているような人間をさす。
実際の芸人さんの中にも、果たしてどれだけのワラグルが存在するだろうか。
お笑いの世界が大変な世界だというのは想像できる。
誰だってお笑いをやろうと思えばやることはできる。
だけど、売れてお笑いだけで生活できるようになるのはほんの一握りの人だけ。
多くのお笑い芸人は売れること、ブレイクすることなく、バイトをしながら日々の生活をしのいでいるというのはよく聞く話である。
それでもやめられない、離れることのできない人は、確かに存在するのでしょう。
本作では、コンビ解散となって絶望的になっている加瀬凛太、相方との仲が決定的に悪いマルコ、放送作家を目指す梓、この3者を軸に物語が進む。
ストイックに突き進む凛太は、死神の異名を取る謎の作家ラリーについてもらって漫才日本一を決めるKOM(キングオブ漫才の略)の決勝を目指す。
しかし、ラリーについてもらう条件は、決勝に行けなかったら芸人をやめるというもの。
まさに背水の陣で挑む凛太。
マルコも同様の条件でラリーに付いてもらい、決勝を目指す。
一方で梓は、お笑い界の頂点に立つ「花山家」の座付き作家を目指して過酷な試練に挑む。
いずれにしても、ここまでお笑いは厳しく、ストイックにやらないと上を目指せないのかと思わせられる。
面白いのは、ラリーが凛太とマルコを導くやり方。
それぞれに全く別のこと、相反するようなことを教えて漫才の腕を上達させていく。
その人(コンビ)にあった指導の仕方というか、伸ばし方があるというのは、一般の社会と同じようなもの。
落ちこぼれ芸人が一発逆転を目指すという物語の筋は決して珍しいというものではないというか、ある意味で王道。
だけどそこに、放送作家を目指す梓の物語を絡めてきていることで、この3つの物語がどのように収束するのか?
という点を読み手に思わせてくれる。
読んでいる限り、芸人2人の話と、作家を目指す梓の物語は関係性がなく見えるから。
それがラスト、きちんと結びついて執着する。
最後まで一気に読者を引っ張っていく勢いと面白さを持ち合わせた一作。
物語のためとはいえ、あの流れはちょっと可哀想というか。。。
あと、「そうなるよな」という伏線的なものが個人的に見当たらなく、え、いきなりそうくるの? という感じは否めなかった。