書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(蓉子×祐麒)】想い、エターナル <第六話>

更新日:

 

~ 想い、エターナル ~
<第六話>

 

 

 帰宅した私は、唯一残されたジャケットを抱くようにして、最後の眠りについた。絶対に離さないように、なくしてしまわないように、きつく、きつく抱きしめた。

 

 夢を見た。
 昨日までは、肉体的にも精神的にも疲れ果て、追い打ちをかけるように夢でもうなされるか、夢を見ることもなく気絶するように眠るかのどちらかであった。
 今日の夢は違った。
 リリアンに入学した当初の夢だった。中等部から入った私は、初めの頃、リリアン独自の暗黙のルールというものを知らず、わずかにだけれど疎外感のようなものを受けたことがあった。
 もちろんそれは私が思うだけであり、クラスの皆はいつも通りに生活をしているだけ、意識して私に対して何かをしていたというわけではない。それでも、外から来た者にしてみれば、自分以外の皆が意図的にまとまって動いているように感じてしまうもの。
 ぼんやりと、そんな夢を見た。
 詳しくは覚えていないけれど、良い夢でなかったことは確かだった。

 そして朝を迎えた。朝食をとり、着替えて家を出る。
 ゆっくりと起きると、何よりもまず、ジャケットとキュロットを確認する。間違いなく存在していることに、まずは胸をなでおろす。
 日付と時刻も確認し、ゆっくりと、大きく、息を吐きだす。
 顔を洗って、着替えて、朝食をとり、整える程度にメイクをして、家を出る。外に出ると、自分の家を振り仰ぐ。見慣れているはずの家なのに、なぜか歪に見えるのは、私の精神が安定していないからだろうか。
 次にこの家を見るとき、私は何を思うのか。
 軽く首を振ってから、私は歩き出す。

 

 歩きながら、昨日以来考えていたことを頭の中で再び整理する。
 何度も何度も考えた。この一週間での自分の行動を思い出し、消えていった祐麒くんの痕跡を確認し、色々な可能性を模索し、潰しこみ、私の中で考えられる限りのことを考えたつもりだ。そして、もはや、これしか考えられないというものがあった。
 公園で、私は不思議な現象を体験する。気がつくと服装も景色も一週間前の状態に戻り、実際の時間も戻っていた。そしてその世界に、祐麒くんはいなかった。
 どれだけ探しても、何を見ても、祐麒くんが存在するという痕跡は見つけられなかった。
 だから私は、世界から祐麒くんが消えてしまったと、その存在が消されてしまったのだと思った。
 だけど、それこそが、そもそも誤った前提だったのだ。
 『祐麒くんが世界から消えた』のではない、『最初から祐麒くんが存在しない世界に、私の方が飛ばされた』のだ。私こそが、この世界では異分子なのだ。
 私がその考え方に気がついたのは、昨日に公園で感じた、ある一つの違和感からだった。その正体は、祐麒くんの家だった。
 何回目のループのことか分からないけれど、祐麒くんが存在しないことを示す記憶の中の一つに、福沢家訪問時のものがあった。私の中に残っている記憶は、祐巳ちゃんに案内され、二階に上がったときに見た間取り。去年のクリスマスイブの日、祐麒くんの家を訪れた時に見た間取りとは、まったく異なっていた。部屋の配置はもちろん、部屋の大きさも、造りも。
 福沢家は、外観を見ても分かるが、そんなに古くはない。設計事務所を経営しているお父さんが設計したというし、新しい造りだ。当然、元の世界では祐巳ちゃんと祐麒くんの二人分の子供部屋が設計されていたが、この世界では異なる。祐巳ちゃんの部屋しかなく、後の部屋は全く異なる用途の部屋だった。つまり、最初から祐麒くんがいないことを前提に設計されている。
 普通、家を建てるとなると、「現在」ではなく「未来」を想定して間取りを考えるものだ。子供がいたら、子供ができたら、どこを子供部屋にするかを考える。それがなされていないのだ。設計事務所を開き、自ら設計している祐麒くんのお父さんであれば、それを失念するなんてこと、考えられない。
 家の間取りが違うのは、祐麒くんがいないから当たり前なのだ。
 だが、だとすると私が見た携帯電話の履歴や、デジカメの画像や、プリクラはどう説明できるのか。はじめ見たとき、祐麒くんだけが消えていなくなってしまったかのような画像や履歴になっていた。
 もし、最初から祐麒くんが存在しない世界なら、そもそも、そんな履歴や、画像があるはずがないのだ。だって、祐麒くんという存在がなければ、存在させようにも出来はしないではないか。最初から、福沢家の間取りに祐麒くんの部屋がないように。祐麒くんがいない、祐巳ちゃん以外に子供がいない、あるいは祐巳ちゃんより後に子供を作らないつもりだからこその、あの福沢家の間取りなのだ。
 では、なぜ、二つでこうも違うのか。
 それはきっと、携帯電話やデジカメは、私が保有しているものだったから。祐麒くんがいる世界から飛ばされてきた私が保有しているものだったから。だから、祐麒くんがいないこの世界では、祐麒くんの部分だけが消えていた。
 他の、洋服や本などはどうか。
 これもおそらく、私と一緒にこの世界にやってきたのではないだろうか。服や本は、直接的には祐麒くんと関係なく、あくまで私自身が購入したものだから、存在していても不自然ではない。それは、ロザリオにしても同じことで、あくまで祐巳ちゃんからもらったものである。だけど、やっぱり祐麒くんをトリガーとしているものである。祐麒くんのいないこの世界では、祐麒くんに関するもの、祐麒くんを契機とするものはイレギュラーな存在であり、それらイレギュラーな存在をこの世界から排除しようとする、一種の強制力みたいなものが働き、やがて消えていったのではないか。
 となると、では祐麒くんから直接に貰ったジャケットとキュロットは、そもそも私の手元に存在していてはおかしいのではないかと思うが、それについても私は考えた。
 このジャケットとキュロットは、私がループをした日、その瞬間、身に着けていた。だから、私と一緒にこの世界に飛ばされてきたのではないか。どのループの時でも、私はおそらく最終日のこの日、祐麒くんのことを想い、毎回このジャケットとキュロットを着ていたのだ。
 祐麒くんが最初からいない世界で、いくら祐麒くんを探そうとしたところで無駄なことだったのだ。私がしなければいけなかったのは、どうしたら、『私が元の世界に戻れるのか』、ということだったのだ。
 元の世界に戻るといっても、具体的にどうすればいいかは分からないが、この世界に来るきっかけとなった場所は公園。あの瞬間に私は飛ばされたとしか考えられず、そうとなれば、この公園にこそ通じる道があると考えるのが道理。

 そうこうしているうちに、公園に到着した。
 満開の桜が咲き誇り、あちらこちらで花見の客が盛り上がり、楽しそうにしている。私は思い出す、ループした瞬間に立っていた場所を。
 ゆっくりと歩き、たどり着いたのは桜並木の道。両脇に並び誇る桜が圧倒的で、間を通る人たちをまるで祝福するかのよう。
 時計を見れば、あと数十分で不思議体験をした時間になる。私は桜の木を見上げ、祐麒くんのことだけを想う。

 騒がしさも、お酒の匂いも、何もかもが私の周囲から消えてゆく。

 静かに時間だけが流れる。
 私は必要以上に力をいれないようにしながらも、それでも油断なく周囲の様子に注意して、変化を見逃さないようにする。
 私の仮説がもし、正しいのだとしたら、ループする瞬間こそが元の世界に戻る契機となるはずである。

 やがて、その時はやってくる。

 強い風が吹く。

 瞬間、目眩に似た感覚。

 桜と風が舞い、私を襲ってくる。
 だけど私は、目を閉じることなく、体を揺らすことなく、風と桜の中心に立って目を凝らし続ける。
 すると、すぐ目の前の桜の花びらのカーテンが、どこかいびつにぼやけた。それを目にした瞬間、私は無意識に腕をのばしていた。
 この歪んだ世界と元の世界をつなげる、私を元の世界に戻してくれる媒介があるとしたら、それはおそらく元の世界からやってきたものだろうという、推測。
 私のジャケットの袖が、歪んだように見えた空間に触れると、ぐらりと強く体を揺すられるような酩酊感が私を襲い、平衡感覚を奪われたような気持ちになる。
 風がさらに強くなり、駄目だと思っていたのに、つい、目をつむってしまった。
 だけど、瞼を閉じる直前、手の甲に温かい『何か』が触れたような気がした。その『何か』に腕をつかまれ、体が強く引っ張られるようだった。私はそれに逆らうことなく、身を任す。
 そして。

 

 桜が満開の公園。
 喧噪のお花見客。
 私は自分の体を見る。白いジャケットに、キュロット。先ほどと変わらない格好で、先ほどと変わらない場所に立っていた。
 記憶も、失っていない。すべてを鮮明に覚えている。狂いそうなほどの恐怖に慄きながら過ごした時間を、祐麒くんのことだけを考えて過ごした悪夢の時間を。何がどうなったのか分からない、そんな私だったけれど。
「…………あ……ああぁ……」
 口をおさえる。
 言いたいことは山ほどあったはずなのに、言葉なんて何も出てこない。
 ただ、目の前にいる人を見ることしかできない。
 目をつむったら、どこかに消えてしまうのではないかと恐れ、ただ、一心に見つめ続ける。
 あれほど、会いたいと願った。
 そして今、目の前に優しい笑み。
「……絶対に、会えると思っていました。挫けそうになったこともあったけれど、蓉子さんにまた会えるって、絶対に会うんだって思っていたから、挫けなかった。そしてやっぱり……やっぱり、会えました」
 何度も聞きたいと思った声が、耳に優しく届いてくる。
 一歩、また一歩、ゆっくりと近づく。
 夢ではないのかと疑い、幻ではないのかと目を瞬き、触れたら消えてしまうのではないかと恐れ、それでも感じたくて近づく。
「ゆ……」
 望んでいた、名前を。
「祐麒、くん……」
 私は、口にする。
 すると祐麒くんは、祐麒くんに間違いない優しい笑顔を浮かべて、頷いた。
 春のいたずら、強くもさわやかな風が吹き上がる。すると、桜の花びらが急速に舞い上がり、まるで祐麒くんの背中から大きな羽が生えたように広がる。
「……おかえり、蓉子ちゃん」
 その声に。
「…………っっ!!!」
 言いたかった言葉を口にすることもできず、私は祐麒くんの胸に飛びついた。幻なんかじゃない、確かな温もりが、肌触りが、息遣いが、感じられる。
「祐麒くん、祐麒くん、祐麒くんっ……!!!」
 ただ名前を言うことしかできない私の背中を、そっと手で包み込んでくれる。
 顔を上げれば、やっぱり祐麒くんがいて、次から次へと涙が溢れ出してくる。舞い上がった花びらがゆっくりと舞い落ち、その桜の翼が私と祐麒くんを包み込む。
 私は願う。

 お願いだから、ずっと、ずっと、離さないでいて。

 私を、ずっと離さないよう、貴方の翼で抱きしめていて――

 

 

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