書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

マリア様がみてる 中・長編

【マリみてSS】BATTLE LILIAN ROYALE <00.開幕>

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「今日はこれから、皆さんに殺し合いをしてもらうからね」

 

 教壇に立つ、桃瀬万里矢と名乗った女教師の姿を、乃梨子は唖然として見ていた。
 多分、口も開いたままの間抜けな顔をしていたのではないかと思うが、そんなことが気にならないくらい、驚いていたというか、目の前の出来事に真実味がなかったというか。
 周囲を見回してみれば、同じリリアンの制服に身を包んだ女子ばかりが数十人。だけれども、女子高校生が集まっているという華やかさは感じられなかった。ただ、息のつまるような沈黙が、乃梨子達を包み込んでいた。
 それは、学園祭が開かれた夕方のこと。
 後夜祭の最中、異臭騒動が起きた。パニックに陥りそうになる生徒達を宥め、まとめていた山百合会のメンバー。
 乃梨子も、志摩子と一緒に生徒達を非難させていたから、覚えている。しかし、その記憶は途中で不意に途切れる。
 確か、泣きそうな顔をしている一年生の子の肩を抱いて校門に向けて走っていた時だったと思う。不意に、横から腕をつかまれて引っ張られたかと思うと、口と鼻を押さえるようにして、ハンカチのようなものがあてられた。
 なんだ、と思っているうちに、急速に意識は遠ざかっていった。
 今思えば、きっと麻酔のようなものだったのだろう。映画や小説でよく聞くクロロフォルムとかだったのかもしれない。
 そして気がついたら、この場所にいたというわけだ。

 再度、室内を見回してみる。
 志摩子や、薔薇様方の姿が見える。他にも、リリアンでよく知った顔がある。ちょっと驚いたのは、卒業された先代薔薇様がいたことだ。しかも、ご丁寧にリリアンの制服を身につけている。
 学園祭で見かけたときは私服だったから、ひょっとすると着替えさせられたのかもしれない。
 そんな風に考えていると、教壇上の万里矢が髪の毛をかきあげながら、口を開いた。

「皆は、栄誉ある『プログラム』の参加者として選ばれたの」

 なぜか楽しそうな顔をして告げる、万里矢。

 プログラム――それは、学生達を対象にした非人道的な戦闘実験。学生達が最後の一人になるまでお互いに殺し合いを行うという、信じられるわけがない内容。
 実際、乃梨子も噂には聞いたことがあったが、本当に実施されているなどとは思ってもいなかった。どうせ、都市伝説の類だろうと考えていた。

 しかし――

 教壇の上で喋り続ける万里矢の説明を、乃梨子はただ事務的に聞き続ける。説明されたルールをまとめると、次のようになる。

・各自には、リュックが一つ渡される。渡されるリュックはランダムである。
・リュックの中には食料と水、地図、時計、懐中電灯が共通のものとして入っている。
・リュックには武器が一つ入っている。リュックにより入っている武器は異なる。
・各自は戦場各地にランダムに配置される。
・プログラム開始は二時間後。公平を期すため、開始時間まで体を拘束する。
・プログラム終了は七十二時間後。その時に優勝者が出ていない場合、全員失格とする。
・二十四時間に渡り死亡者が出ない場合、全員失格とする。
・戦場、あるいは戦場にあるものをいかに使用するのも自由である。
・戦場は百の区域に分かれる。時間を追うごとに侵入禁止エリアが発生する。
・一日四回、0時と六時に放送が流れ、死亡者と禁止エリアの座標が告知される。

「更に重要なのは、みんなの首にかけられているロザリオよ」
 言われて、思わず首に触れると、鎖の感触。
 しかしながら、いつも首にかけていたものとは異なっている。ロザリオというよりかは、どちらかというとチョーカーのほうが近いかもしれない。首に巻きついていて、十字架がちょこんとぶら下がっているような感じ。かなり頑丈な作りのようで、軽く引っ張っただけでは外れそうも無い。
「あー、無理に外そうとしないでねー。爆発するわよ」
 その言葉に、首を触っていた生徒はギョッとしたように身をすくませ、慌てて首から手を放した。
 乃梨子も同じく、手を遠ざける。
 首周りの温度がまるで下がったかのように、ひやりとした空気を感じる。
 そうこうしているうちにも、説明は続いている。つまりは、このロザリオと言い放っているチョーカーが、乃梨子たちを規制する首輪そのものというわけであった。
 進入禁止エリアに入ると反応して爆発する。無理矢理に外そうとしても爆発する。外すには、とにかく勝ち残るしかないというわけだ。プログラム終了まで逃げ回っていたり、あるいは全員が戦うことを放棄したりしても、七十二時間後にはエリア全体が禁止エリアとなり、勝者が出ない限り首輪は爆発する。
 生き延びたければ、何が何でも勝つしかないとう結論が出た。
 室内は、静まり返っている。誰もがこの状況を信じたくない、信じられないと思いながらも、心の奥底では現実として受け入れなければならないと感じ始めているのではないだろうか。
 ここまで大掛かりなドッキリを仕掛けてくる悪趣味な人がいるとも思えない。
「ここまでのルールはよいですか? 今回は加えて、特別ルール! あなた方の学校の『姉妹制度』にちなみ、勝者を二人とします。よかったわねー。姉、妹、両方とも持っている人は、どちらを切り捨てるかよく考えてねー。あ、もちろん両方とも切って、お友達を選ぶのでもよいけれどー」
 殴りたくなるくらいご機嫌な顔をして、万里矢は説明をしている。
 他に細々としたことを幾つか説明して、万里矢の話は終わった。室内にいる皆は、声もなくただ無言で座っている。
 乃梨子は室内の真ん中くらいの席にいたので、全員の様子は分からないが、文句を言いたいけれども、口にしたときに何をされるか分からない怖さがあるから誰も何もいえないのだろうと推測した。
 なぜなら、部屋の隅には銃と思しき物騒なものを抱えた人間が、乃梨子たちの方を隙無く見据えているのだから。
「説明はここまでです、みんな、分かった? あれ、元気がないでわねえ、緊張しているのかしら。大丈夫、いざ始まれば自然と体は動くものよ」
 桃瀬万里矢の、口の端が歪む。
 今までは温厚で天然のような姿を見せてきたが、乃梨子は理解した。この女は、生まれ持ってのサディストだと。嗜虐的な笑みは、明らかに乃梨子たちが恐れ、慄いていることを楽しんでいた。
「……さて、質問がなければ、プログラムに入ろうかしら……っと、その前に」
 教壇の中から紙の束を取り出し、皆にくばりはじめた。机の上に置かれた紙を見てみると、『72時間後の私』というのが一番上にあり、その下に続いて、『66時間後の私』、『60時間後の私』、『54時間後の私』と、6時間ごとに区切られて合計12行の欄があった。
「はい、みんな、自分が未来、どうしているかを書いてね。書く順番は必ず一番上の行から。なるべく具体的に書いてね、人の名前とか。あ、でも一番上の行は決まっています。『私は私以外の全員を殺し、生き残る』必ずそう書くこと。さ、時間は五分、これは判断力、決断力の早さも問われるからね、はいスタート!」
 万里矢が手を叩いた乾いた音が響き、何人かの生徒が驚いたように体を震わせる。
「ちゃんと書いてねー、白紙とかだと先生怒って、殺しちゃうかもしれないわよー」
 その言葉に、呆然としていた生徒も慌てて鉛筆を手に取り、紙に向かった。
 乃梨子は、頭に血が昇るのを懸命に抑えた。これはいわば、『踏み絵』だ。このプログラムに参加することを誓い、逃れられなくするための悪魔の『踏み絵』だ。
 歯を食いしばり、乃梨子は書く。
 一番上の行だけだ。他の行は、そんなことは書かない。何も書かないと何をされるか分からないし、反抗的なことを書くのもためらわれるから、何とでもとれるようにうまく言葉を選び、行を埋める。
「うふふ、そろそろ時間よー」
 可愛いつもりでいるのだろうか、小首を傾けて艶然とした笑みを浮かべる万里矢の顔を、乃梨子は睨みつけるようにして網膜に焼き付けた。

 

 乃梨子の視界は闇に閉ざされていた。
 比喩的なものではなく、文字通りの闇である。なぜなら、目隠しをされていたから。
 万里矢の説明が終わった後、教室にいた生徒達は皆、目隠しをされた。そしてそのまま、一人ずつどこかに連れられていった。
 乃梨子も同じで、車のようなものに乗せられ、揺られ、降ろされ、一人置き去りにされた。何やら、ポールのような棒状のものを通して後ろ手で手錠をかけられ、体の自由も奪われている。プログラムスタートと同時に、手錠のロックは外されるとのことである。他の皆もどこかで同様の目に遭っているのだろうか。
 戒めが解かれるのは、あとどれくらい後のことだろうか。あまりに長時間、自由を奪われていると、トイレにでも行きたくなったらどうするのだ――なんて下らないことを考えている時間は無い。
 この時間を、少しでも有効な時間に変えなくてはならない。
 例え視界を奪われていようとも、体の自由を奪われていようとも、情報を収集することは出来る。
 この状態で情報を得る手段は、聴覚、嗅覚、触覚。
 耳をすませてみても、聞こえてくるのは風の音と、自分の体が動く音。これだけ静かだということは、やはり周囲に人はいない場所ということになる。お尻の下に感じるのは、芝生と土の感触。どことなく草の匂いも鼻をついてくるから、屋外であるのは間違いないけれど、以上の情報だけで場所を特定できるわけもない。
 ただ、屋外で、人がいなくて、恐らく広くて、数十人が激しい殺し合いをするのに適した場所であることは疑いようもなかった。
 他に人の気配は感じられないから、近くに他の生徒はいなさそうだった。
 口は封じられていないから、声を出して誰かいないか確認しようかとも思ったが、考え直してやめた。
 もし、誰かの耳に入ったら、乃梨子の位置を知らせることになる。考えたくは無かったが、その相手がやる気になっていたら、非常にまずい。
 箱入り娘のお嬢様というのは、ある意味、怖い。一人では何もできない、という可能性もあるが、この状況に逆らうことなどできずに、仕方がないと自分に言い聞かせて、自分が望んだわけでなく、やるしかなかったのだと心の中で泣きながら、それでも死にたくなくて武器を手に立ち上がるかもしれない。
 いや、この状況では、誰だってそうなる可能性はある。
 乃梨子だって、そうだ。きれいごとばかり口にはできない。だって、死にたくなんて、ないのだから。
 では、どうするか。
 足元には、説明されていたリュックらしきものが置かれている気配がある。手錠がはずれたら、まずリュックを抱え、周囲を見渡し、どこか物陰に隠れる。恐らく今は、周囲に何もないような開けた場所に拘束されている。とにかく身を隠すのが第一、状況判断はそれからだ。
 続いて地図を取り出し、戦場全体と、自分の現在位置の把握。武器なんて、あとからでよい。そもそも、武器なんて何が入っているかわからないし、ただの高校生であった乃梨子が使いこなせるとも限らないのだ。一番重要なのは、情報だ。自分がどういった状態であるのか、全体がどうなっているのか、それらのことを把握する。
 把握したら、どうする?
 考えろ。このゲームを切り抜ける手段がないのか。
 そう、どうにかしてこの馬鹿馬鹿しいゲームを抜けるには。
 乃梨子は、首元に感覚を集中させる。首にはめられた、チョーカーのようなもの。あの万里矢はふざけたようにロザリオなんて言っているが、クロスはあてつけみたいなものだろう。重要なのは、首輪だ。無理に外せば爆発するといわれている、首輪。これが乃梨子たちの自由を奪う。
 武器があるのだから、全員が結束して反抗を試みるというのもありそうに思えるが、首輪が阻む。
 おそらく、無理に外さなくても、このゲームを牛耳っている人間なら自由に爆発させることができるのだろう。そしてその人間は、きっと安全な場所にいる。そう、説明のときにあった『禁止エリア』にでもいるのだろう。
 首輪を外さずに生き残るには、ゲームに勝ち残るしかない。それはすなわち、自分とあと誰か一人以外の全員を殺さなければいけないということ。
 首輪だ。
 どうにかして、首輪を外さなければいけない。だけど、どうやって? そんな技術を持った人間がいるとは思えない。
 乃梨子は頭を振る。
 一人で考えるには、限界がある。知識と経験を持った、仲間が欲しい。だけど、この状況で信用できる人間などいるのだろうか。
 その瞬間、乃梨子は自分自身の考えに戦慄する。
 そう、乃梨子は姉妹である姉の志摩子ですら、無条件に信用できるだろうかと、頭の中で疑っていたのだ。
 志摩子すら信用できなくて、誰を信用できるというのだろう。

 どうする、どうすればよい――?

 考えはまとまらない。だが、時間は無情に流れてゆく。
「――え?」
 ガチャリ、という無骨な音がして、何の前触れもなく手錠がはずれ、手の自由が戻った。
 一瞬、我を忘れかけたが、すぐに意識を戻す。
 目隠しを取る。周囲は暗い。恐らく深夜だが、目隠しで闇に慣れていたから、見えないことは無い。
 足元にリュック。周囲には何も無い。予想通り、芝生の広場のような場所に、ぽつんと乃梨子は座り込んでいた。
 近くに隠れられるような場所は無い。少し離れた場所にトイレと思しき建物、あと反対方向には林のような黒々とした木々。
 三秒、考えた後、乃梨子はリュックを抱きかかえ、身を低くして走り出した。林の方に向かって。
 トイレの方が確かに死角はなくて安心できそうだが、逆に逃げ場所がないとも言える。もしも、配られた武器で爆弾のようなものがあり、誰かが乃梨子がトイレに入るのを目にしていたら。
 だから乃梨子は、反対方向に走った。
 胸に抱えるリュックが、やけに重く感じる。

 甲高いチャイムのような音が、どこからかスピーカーを通して耳に届いた。聞き覚えがあると思ったら、リリアン女学園のチャイムの音と同じだった。下らないことにこだわっているようだが、主催者の意地悪さが見え隠れする。

『――あーあー、皆さん、手錠は外れましたか? 自由の身になりましたね? そうです、お待ちかねの時間が始まりましたよー』

 耳を貫く万里矢の憎らしい声を、パワーに変える。

 走る、走る。
 草を蹴り、土を踏みしめ、無人の暗闇を乃梨子は駆け抜ける。
 林の中に駆け込み、さらに奥に行ったところで木を背にして止まり、周囲の様子を窺う。走ったためか、呼吸が荒い。どうにか沈めようと胸に手を当てる。心臓の動きが、いつもよりも速い。
 そして、乃梨子は気がついた。
 走ったとはいえ、ほんのわずかである。運動部に所属しているわけではないが、いつまでも呼吸が整わないほど体力がないとも思えない。
 だからそう、これは。
 この、呼吸の乱れは。
 恐怖と、緊張と、興奮からくるものだ。

 このとき乃梨子は、気づいていない。無意識のうちに思っていたことだから、後になっても思い出すことはない。

 この、ろくでもないプログラムがスタートした瞬間、いや、スタートするずっと前、教室で説明を受けていたときから、『戦う』ことを前提に考えていたということを。

 初めから、戦う気持ちでいたということを――

『さあ皆さん、張り切って殺し合いをしましょう!』

 

 そして、ゲームの幕は開かれる。

 

 少女達は、まだ知らない。

 この、悪魔のゲームが、決して嘘でも冗談でもないのだということを。生き残りをかけた、凄惨な殺し合いが行われるということを。

 そして、最後まで舞台の上に残っているのは、誰なのか。

 

 マリア様も、まだ、知らない――――

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 BATTLE LILLIAN ROYALE 

~ 開幕 ~

 

『参加者名簿』

 

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