そうして。
「いやー、新しい仲間も増えてめでたい、めでたい」
「景さんも旅に出ることを快く了承してくれて、良かったわぁ」
「快くないっ! 単に、恥しくてあの街にいられなくなっただけよっ!!」
話しかける聖と江利子に、食って掛かる景さん。
まあ、当たり前といえば当たり前だけれど、衆人環視のもと、大恥をさらしてしまった景さんは、とてもじゃないけれどあの街に居続けるなんて出来なくなって、結局、蓉子たちとともに旅することにしたのだ。
怒るのも無理はないが、それでも蓉子は嬉しかった。彼女とだったら、うまくやっていけそうだったから。
「覚えていなさいよ、この淫魔……!」
「はーい、いつでも相手になるよ、夜なら」
「ちょっと聖、ずるい。あたしも景さんに相手してもらいたい」
「くっ……」
途端に顔を赤くする。
そこがまた何とも可愛らしいのだけれど、口にすると余計に怒ることが目に見えていたので、違うことを口にする。
「でも本当、大歓迎よ、景さん。うちのパーティ、大幅な戦力UPだし」
「……そうかしら」
そっぽを向いてしまう景さん。
まだ、拗ねているのだろうか。
「本当よ。ほら、私たちのパーティ、バランス悪かったし」
でも、景さんが加わってくれて、かなり見栄えはよくなったのではないか。剣士、踊り子(弓使い)、吟遊詩人、神官。これならまあ、なんとか。吟遊詩人といえど、聖は呪歌もできるし、蓉子も多少なりと攻撃魔法は覚えている。かなり、遠距離攻撃偏重のパーティではあるが。
「でも……」
ちらりと、景さんの姿をしげしげと見る。
「な、なにかしら?」
景さんの格好は、黒を基調とした上下……なのだけれど、正直、あまり旅や戦闘に適しているようには見えない。白いコートのようなものを羽織っているが、フードともマントとも異なる。
達人ともなると、あまり衣装には依存しないのか。女性だし、ファッションに気をつけたいというのは分かるが。
「いえ、あまり剣士らしくない格好だなと思って」
正直に、思ったままを告げると。
「は? 誰が剣士ですって?」
「あれ。えと、じゃあ、戦士?」
「いや、なんで私が」
本当に不思議そうに、眉をひそめる景さん。
「え……違うの?」
「違うわよ。私は薬師よ」
「―――――」
……はいぃ?
薬師??
「ええと、あの……じゃあ、聖との戦闘で見せた、あの剣術は?」
「剣術? あんなの適当に棒を振り回していただけよ」
「え、あ、うそ、あれで? え、ええっ?」
しかし、薬師ならば服装も納得できる。そもそも、よくよく見てみれば帯刀すらしていないではないか。
ってゆうか、踊り子、吟遊詩人、神官に加えて、く、薬師?! バランスが良くなるどころか、一方的に傾いていくばかり。なんじゃこの、非戦闘メンバーばかり集中しているパーティは?!
「あー……ごめんなさい。なんか」
気まずそうに、申し訳なさそうな顔をしてくる景さん。
「いえ、あの、勝手に勘違いしただけですから」
ため息、はつかない。景さんに失礼だから。
頭を切り替える。まあ、戦闘力も大事だが、仲間として大切なのはもっと他にある。信頼できること、何より、一緒に旅をしてもいいと思えること。
「薬師、か。それじゃあ、病気とかは一安心かしら」
「まあ、ある程度のものなら」
「良かった。ふふ、景さん、これからよろしくね。貴女が仲間になってくれて、嬉しいわ。これは本当よ」
笑顔を見せる。
すると景さんは、なぜかわずかに頬を朱にそめて、あさっての方を向いて。
「あ、あの、さ。蓉子さん」
「ん?」
「ま、またさ……この間みたいに、下から上目遣いで見ながら言ってくれない?」
「……はっ?」
「いや、だから、その……蓉子さんに、あんな目で、あんな表情で見られると、なんというか……こ、心が落ち着かないというか辛抱たまらないというか」
「ええと……」
「だから、蓉子さん相手なら、いいカモなって……女の子っていうのも」
恥しそうにぼそぼそと、それでも蓉子の耳にはしっかり聞こえるように言って。景さんは眼鏡越しの瞳で見つめてくる。
「そ、そもそも、私があの街にいられなくなったのは、よ、蓉子さんが……あ、あんなこと私にしたせいなんだから、せ、責任とってくれないと」
「せ、責任って」
頬が引き攣る。
「まあ、具体的には、一生面倒見てくれるというか、むしろ見てあげるというか……」
なんでしょうか。何、真面目な顔して、でも顔を紅潮させながらとんでもないことを言っているのでしょう、この女性は。
もっと理性的で知性的で、聖や江利子とは違ってまともだと思っていたのに。
っていうか、どこがノーマルなのでしょうか。思いっきり、真性ガチではないでしょうか。
「わ、私はあの二人と違って、真剣に……」
「ちょっと待ったぁ! あたしだって蓉子のことは本気で!」
「蓉子さんに本気だったら、私に手を出すわけがないでしょう?!」
「や、だって蓉子ガード固いから、色々と欲求不満は溜まるし……」
「やあね、聖ったら。その点、あたしは身が清いわよ、蓉子」
「こら江利子、あんたさっき、景さんとの"むっちんランデブー計画"を練っていたじゃない」
「まだ実行していないから、大丈夫!」
「大丈夫じゃないっ! ってゆうかなに、そのいかがわしい計画はっ!」
三人の、かしましい声が道中に響く。
せめてもの助けは、今、このとき、道には他に人の姿がないということだ。こんな、恥さらしもいいところの色ボケ会話を聞かれたりしたら、すぐにでもドラゴンハウスに突入して消えてなくなりたくなる。
「ちょっと蓉子、貴女は今夜、誰を選ぶ?」
「だ、誰も選ばないからっ!!!!」
こうして、新たな仲間が一人加わった。
近い将来、『悪夢の四女神』と呼ばれることとなる、運命の四人が揃った記念すべき日。後に『リリアーナの落日』と呼ばれる日であった。
そして。
後世の歴史書にも名を残すこととなる、蓉子の悪名高き、俗称『デス・パレード』は、まだまだ続くのであった。
「……こんなの、イヤーーーーーーーーーーっ!!!」
蓉子の叫びは、誰にも届かない。