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ノーマルCP マリア様がみてる 志摩子 真紀

【マリみてSS(志摩子×静×真紀×祐麒)】彼女との関係

更新日:

~ 彼女との関係 ~

 

 4月末から始まる連休を数日後に控え、学園内は少し浮ついた雰囲気に包まれているように感じられた。
 しかし、連休とはいっても特に予定があるわけでもない祐麒にしてみれば、そこまで浮つくほどではない。学校が苦というわけでもないので、長い休みの間にむしろ何をしていようかと思い悩むくらいだ。野球をやっていたころは悩むようなこともなかったのだが、やめてしまうと他に熱中してのめり込むような趣味もなく、自分は意外とつまらない人間だったのだろうかと考えてしまう。
 そんな祐麒だったから、他の生徒とは少し異なる、どこか一部冷めたような感じで登校したのだが、下駄箱でそれも一変する。
「――――っ」
 慌てて自分の下足入れの蓋を閉じ、周囲に特に自分のことを気にしている生徒がいないことを確認してから、さりげない風を装って再び下足入れの中をのぞき込むと、確かに間違いなくソレは置いてあった。
 噂には聞いたことがあるし、漫画でも見たことはあるが、まさか現実に存在するとは思わなかった。
 手紙である。
 素早く制服の内ポケットに滑り込ませ、上履きを出して履き替える。本当ならすぐにでも手紙の内容を読んでみたかったが、ここではそういうわけにもいかない。幸い、まだ早い時間で余裕はあったので、教室に行く前にトイレに寄って個室に入り手紙を取り出す。
 ドキドキしながら見てみると、丁寧な字で書かれていたのは、放課後になったらとある場所に来てほしいというシンプルな一文のみ。差出人が誰かも書いておらず、愛の告白も書かれてはいないが、宛先としてきちんと『福沢祐麒様』と書かれているので、間違いではないはず。
 筆跡的にも女性のような気はするが、断定はできない。ただ、たかが一週間でわざわざ数少ない男子生徒が質の悪い悪戯をするとは思えず、女子生徒に至っては男以上に考えられない。
 あまり個室に長く入っていると、変な噂やあだ名をつけられかねないのでとりあえず外に出て、あとは実際に出向いてみるしかないと思うことにした。だから、授業中は放課後の事ばかり気になって集中できず、時間が経つのがやたら遅く感じられた。もしかしたら、生まれて初めてのラブレターかもしれないのだから。
 昼飯を終え、午後の授業もついに終わり、掃除を終えて教室を出る。心臓をなだめながら早足にならないよう廊下を歩きつつも、実はこの手紙、なんか違うんじゃないかとも思い始めていた。
 朝に確認した時は流してしまったが、そもそも呼び出された場所がおかしいのだ。それはどこかというと。
「…………」
 祐麒は首の角度を変え、少し上に目を向ける。

 二年藤組

 手紙には確かにそう書かれていたが、このクラスは男子編入クラスではない。そんな場所に、わざわざ祐麒を呼び出すものだろうか。
 疑問を抱きつつも、そっと教室内を覗いてみる。
 既に教室内の掃除は終わっていたが、生徒もまだ何人か残っている。
「――――あれ、男子が見ているよ?」
「え、どなたかのお知り合いですか?」
「あたしは知らないけど……」
 祐麒の姿を認めた女子生徒達がひそひそと話をしているのが聞こえる。明らかに場違いであるようだが、指定された場所には間違いないはずで、どうすれば良いのか困惑する。
「……なんか、怖いですわ」
「先生を呼びましょうか」
「これだから男子を入れるなんて……」
 そうこうしているうちに、なんだかどんどんと不味い方向に話が進んでいるようで、更に焦る。このまま居てはまずそうで、とりあえずは出直した方が良さそうだと踵を返そうとする。
「―――――――あ、祐麒くん」
 廊下の先から姿を見せたのは静だった。静は祐麒を見ると、ぱたぱたと少しばかり早足で向かってくる。
「ごめんなさい、ゴミ捨てに行っていたら遅くなっちゃったわ」
「え、何がですか?」
「え?」
 二人、顔を見合わせる。

 

「――手紙を入れたのは、静先輩だったんですね」
「ごめんなさい、自分の名前を書き忘れるなんて……」
「それはいいんですけど、お蔭で俺、先輩のクラスメイトさんに変態扱いされるところでしたよ」
 二年藤組から場所を変えて、人気の少ない校舎裏へとやってきていた。ならば、最初からここを指定すれば良かったのにというのは禁句である。
「それも、ちゃんと説明しておいたから大丈夫でしょ」
 と、静はあっけらかんとして言うが、逆に色々と疑われたような気がする。静と一体どのような関係なのかと。
「でもそうか、メールだとわざわざ自分の名前とか入力しないから……そうだわ、アドレス交換すれば問題ないじゃない」
 ぱちんと手を叩き、静は鞄から携帯端末を取り出す。リリアンでは、スマホの持ち込み自体は禁止されていないが、緊急時以外の使用は禁止されている。とはいえ、こうして放課後、他に誰もいない場所であればこっそりと使用もされているようだが。
「――いいんですか?」
「そうじゃないと、連絡も取りづらいじゃない」
 そう言われて祐麒もスマホを取り出し、互いのアドレスを交換する。何を隠そう、これがリリアンに来て初めて手に入れた女子生徒のアドレスと電話番号だった。随分と簡単に教えるものだなと、内心で驚く。
「それで、俺に何の用なんでしょうか」
 さすがにここにきて、愛の告白などでないことは理解しているが、だからといって呼び出される用事も思い浮かばない。
「ええ、それなんだけど……」
 長く綺麗な黒髪を指にくるくると巻きつけながら、静はどこか言いにくそうに口を濁す。
「あの……実は渡したいものがあって」
「渡したいもの?」
「ええ、これを」
 そう言って静が取り出したのは、綺麗に包装された薄く細長い箱。もしかすると、初日に助けたことへのお礼だろうかと考え付く。というか、それくらいしか思い当たる節はない。
「いや、でもそんな悪いですし、そこまでしていただかなくても」
 既に礼も言われており、パンツまで拝ませてもらった身としては申し訳ないという気持ちの方が先に立つ。
「それは、受け取ってもらえないということ?」
 悲しそうな表情を見せる静に、罪悪感が生まれる。
「だ、だって、申し訳ないというか」
 実際、助けたといっても偶々鉢合わせただけでもあるわけで、それでいつまでも恩に着せるというのも居心地が悪いし、静にもそんな風に思って欲しくない。
「申し訳ないなんて、そんなことない。私のことを思うなら、むしろ受け取って欲しい」
「それは……」
 受け取ることで静がすっきりして対等になれるのであれば、それでも良いのかと思い始める。相手の厚意を断り続けるというのもなんだか寝覚めが悪いし、そこまでして断り続ける理由も祐麒にはない。
「うーん、分かりました」
 そう言うと、静の表情がぱっと明るくなる。
「ホント!? 受け取ってくれるの!?」
「え、あ、はい。でも、今回だけですよ」
「もちろんよ、そんな何回もなんてしないわ」
 にこにこしながら静は小箱を差し出す。
 一瞬、躊躇するも、祐麒は素直に小箱を手に取った。
 あとは帰るだけと思ったが、静を見ると期待に満ちた瞳で祐麒のことを見つめてきており、動きが止まる。
「えーと、開けてもいいですか?」
「もちろん」
 相手の期待を汲み取り、その場で包装を解いてゆき、中におさめられていた品を見る。
「これは――」

 

 翌日。
 午前中の授業を終えて昼休み、祐麒は男子のクラスメイト達と話しながら弁当を食べていた。特別なことなどない、他愛のない会話ではあるが、周囲に女子が多いので男子校のノリで話すことはさすがに出来ない。
 そんな感じで弁当も食べ終え、紙パックの烏龍茶を飲みながらダラダラと話し続けていると。
「なんだか、外が騒がしくないか?」
 ふと気が付いたように小林が言う。
 皆が、「え?」というような顔をして廊下や窓の外に目を向けてみると、確かにざわざわとしているように感じられる。
「何かあったのかな」
「さあ?」
 訊かれたところで分かるはずもなく、首を傾げたところに。
「――――福沢くん福沢くん福沢くん、ふっくざっわくーーーーーん!!!」
 リリアンではあるまじき大きな声を出して勢いよく教室に飛び込んできたのは、桂だった。スカートの裾を翻し、クラスメイト達が目を丸くしているのを気にする風もなく教室をぐるりと見渡し、窓際後方に群れている男子生徒を目に留めると、一気に駆け寄ってくる。他の男子は桂の勢いに押されたのか、素直に道を開ける。
「え、ちょっとどうしたの?」
「桂さん、いったいどうしたの?」
 そこに、志摩子もまたやってきて桂に問いかける。
「どーしたもこーしたもないよ、福沢くん、これって本当!?」
 そう言いながらずばっと祐麒の目の前に突き出されたのは、一枚の紙切れ。
「え、何々、何か面白いもの?」
 笑いながら覗き込む小林、そして志摩子やアリスといった面々も紙に目を向ける。もちろん、祐麒も何事かと思って見てみるとそこには。
「――――ちょ、何これ、マジかよ福沢っ!?」
 小林が叫びながら肩を叩いてくるが、祐麒は驚いて声が出なかった。
 桂が持ってきた紙は安っぽいものであったが重要なのは紙質でなく、そこに印刷されている内容。
『りりあんかわら版』と書かれたソレには、なんと静と祐麒の写真(モノクロ)が掲載されており、更に大きな文字で『歌姫と騎士 衝撃の姉妹(弟)誕生!!』などと見出しが躍っている。
 周囲にいた女子が、歓声とも驚きとも悲鳴ともとれない声をあげている中、祐麒は記事の内容に目を通す。
 といってもたいしたことが記載されているわけではない。ただ、リリアンに初めて男子生徒の姉になった生徒が、初めて『姉弟』になった二人が誕生した、歌姫の心を射止めたこの一年生男子は誰なのか――そんなことが装飾過剰な文章で表現されているだけだ。
 まさか、昨日のシーンを写真に撮られていたなんて全く気が付かなかった。
 写真では、静の手が祐麒の首の後ろに回されており、下手をすれば抱き合おうとする寸前にも見て取れる。
「ねえねえ福沢くん、本当に静さまの『弟』になったの!? ってゆうか、なったってことなんだよね? だって、この写真」
「いやちょっと待って。ど、どういうこと、『弟』とか言われても、俺には何の」
 いつの間にやらクラスの他の女子も周囲に集まってきていて一身に注目を浴びてしまっているが、祐麒としては訳が分からないところ。とにかく皆を落ち着かせ、一度冷静に話を聞こうと思ったのだが。
「――本当よ、ね、祐麒くん?」
 その声に、教室が一瞬静まる。決して大きな声というわけではないのに、誰にでも届くような声。意識して出したのか、とにかく静の声はそれだけの威力を発揮し、見事に注意を引き付けた。
「し、静さま…………」
「相変わらずお美しい……」
 祐麒を中心に群がっていた人波が見事に真っ二つに割れ、出来た一本の道を静がゆっくりと歩いて近づいてきて、祐麒の前で立ち止まる。
「あ、ええと、先輩……」
 さすがに座ったまま迎えるのは失礼かと思い立ち上がるが、何を言ったらよいのか全く分からない。
「ねえ福沢くん、昨日渡したの持ってきてくれている?」
「え? ええ、持ってきてますけど、それが」
「出して見せてくれる? そうすれば、どうしてみんなが騒いでいるのか分かるから」
 言われると、クラスメイトの視線もあって断れない雰囲気になった。仕方なく、ズボンのポケットから取り出してみせる。
「え、え、福沢くん、本当にそれを静さまからいただいたの?」
「そ、そうだけど」
 桂の問いに頷くと、途端に女子から悲鳴があがった。
「静さまから、ロザリオをいただいたってことは、やっぱり本当なんだーーー!?」
 どうしたというのだ、なぜ皆そこまで驚くのか。確かに、先輩の女子からプレゼントをもらったとなると騒がしくなるものかもしれないが、それにしても大げさすぎやしないかと思う祐麒だが。
「これで皆さん、理解してくれたかしら。この新聞記事が事実だったということを。まさか、こんなスクープされていたなんて知らなかったから私も驚いたわ。でも皆、これで分かったと思うから、必要以上に騒がないでくれると私達もありがたいわ」
 集まっている生徒達に向かってにこやかに言う静だが、相変わらず祐麒はついていけていない。
「……男子生徒が編入してくると聞いたときから、もしかしたらとは思っていたけれど、まさかこんなに早く『姉弟』の絆を結ぶのが現れるなんて……それも、静さまがそうだなんて……」
「姉弟の絆……?」
 近くにいた女子生徒の呟きに首を傾げる祐麒だが、それより隣にいたアリスに袖を掴まれ、キラキラした目で見つめられてそちらに気を取られる。
「そうだよ福沢くん、リリアンといえば『姉妹制度』、僕たち男子が入ってどうなるのかと思ったけれど、僕たちでも『お姉さま』が持てるんだね、うわぁいいなぁ」
「え、ちょ、ちょっと待て。俺は、そんなつもりは――」
「祐麒くん」
 それ以上の言葉を遮るように静が再び口を開き、更に一歩、祐麒に近づいた。正面から見つめられると、抗いがたいオーラのようなものを感じて言葉が出てこない。
 そんな祐麒に向けて静は手を上げると。
「……タイが乱れていてよ」
 心もち緩めていたネクタイに手を添え、キュッと首元を引き締め、形を整えて胸をそっと押す。
 途端、女子の黄色い声があがる。
 再び喧騒に包まれる教室、もはや祐麒が何を言おうとも聞いてくれるような状況ではなくなっていた。

 そんな騒ぎの中。
「ね、ね、志摩子さん、大変なことになっちゃったよ!? どどどどーするっ!?」
 志摩子の腕にしがみつき、静と祐麒のことをあわあわと見つめる桂。
 一方の志摩子は。
「…………福沢くん、そろそろ午後の授業の教材を取りに行かないと、遅れちゃうわ」
 袖を掴んでいる桂を引いたまま、何事もないかのように祐麒に近づいていった。そして、志摩子のその言葉を引き金にしたかのように、騒ぎが少しずつ沈静化していく。
「申し訳ありません、静さま。そういうことですので、そろそろ」
「あ、うん、ごめんなさいね突然お邪魔して」
「…………本当に、邪魔(ボソッ)」
「それじゃあまたね、可愛い弟よ」
 手を振り、クラスメイト達の間を縫って教室を出て行く静。あっけにとられて見送るしかない祐麒に、志摩子が変わらぬ様子で声をかける。
「行きましょう、福沢くん?」
「ああ、えと、うん」
 午後の授業の教材を、クラス委員の祐麒と志摩子が準備することになっていたのは本当なので、とりあえずその場から退散できるのはありがたかった。実際には、まだ時間的に余裕はあるのだが、ギリギリに慌てたくはないので丁度良いだろう。
 しかし、参ったなと内心で考える。ロザリオを受け取ってしまったのは事実だし、今さらそれを突き返すわけにもいかない。リリアンの制度を良く知らなかったとは言えない状況だし、静に恥をかかせてしまうことにもなる。
『姉弟』というのがどういう関係になるのか良くわからないが、受け入れるしかないのかとため息をつく。
「ため息なんかついて、どうかしたの?」
「ああいや、なんでもない。さっさと行こうか、藤堂さん」
「はい」
 こうして、有耶無耶のうちにリリアンにて初の『姉弟』の契りを交わした祐麒なのであった。

 

 その日の夜。
 真紀の仕事が早く終わり、平日だが久しぶりに二人で一緒に夕食をとることが出来たのだが、どことなく空気が重かった。いつもなら色々とお喋りをしてくる真紀が、今日に限っては口数が少ないというか、祐麒が声をかけても返事をするくらい。ついでに言えば、夕食も帰りがけにスーパーで買ってきた、半額になっていたお弁当である。別に構わないのだが、真紀の態度とあわせてわざとかとも思えてしまう。
「真紀ちゃん、何か怒ってるの?」
「別に、怒ってなんかないけれど」
 食事を終え、さすがにどうしたのだろうかと訊ねてみた。
「……じゃあ分かった、仕事でへまして教頭先生にでも怒られたんでしょ。真紀ちゃん、意外と抜けているからな」
「失礼ね、へまなんてしてないわよ」
 だとすると、なぜ機嫌が悪いのだろうか。
 そう思っていると、やにわに真紀は立ち上がってテーブルに手の平を叩きつけた。
「ちょっと祐ちゃん、これはどうゆうことなの?」
 真紀の手の平の下には、しわくちゃになった『りりあんかわら版』があった。
「あー、それ真紀ちゃんも見たのか。いや、どうゆうって、俺も知りたいくらいで」
「もうっ、勝手に『姉』なんか作ったりして……祐ちゃんのお姉ちゃんは、私なのに」
 頬を膨らませて怒る真紀に、祐麒はずっこけそうになった。同時に、『祐麒の姉』という立場をとられたかもしれない、ということが気に食わなくて機嫌が悪かったのかと思うと、少しばかり嬉しくもなる。
「何笑っているのよ、そんなに蟹名さんの『弟』になれて嬉しいの?」
「そんなんじゃないよ、大体、そんな制度があるなんて良く知らなかったんだ、このロザリオだって、お礼にくれただけなんだって思って受け取っただけだから」
「お礼? 何それ」
「え? あー、うん、実は」
 口を滑らせてしまったからには話さないわけにはいかず、入学式の日のことを真紀に説明した。もっとも、さすがに教室の窓から静が飛び降りてきたとかは言えなかったので、静が階段で転びそうなところを助けたということにしておいた。
 それでも真紀はまだ疑っているようだったが、それでも最後には納得してくれた。ただ、『お姉ちゃん』としてのプライドを変に持っていることが分かり、これから学校では少し気を付けて静と接する必要があるかもと心に刻む。
 そして翌朝。
「…………あれ、真紀ちゃん、今日は遅いね」
 同じ学校に行くわけだが、真紀の方は授業前の準備やらあって大抵は祐麒より早めに家を出るのだが、今日は珍しく祐麒が家を出る時間が近づいても学校に向かっていなかった。
 もっとも、それでも遅いわけでなく、むしろ余裕はあるので問題はないのだが。
「祐ちゃん、ちょっと」
「ん、何?」
 手招きされて寄っていくと。
「ほら、ネクタイちゃんと締めないと。お姉ちゃんが、してあげるから」
 ネクタイを直しにかかられた。
 これは確実に、昨日の静によるネクタイ直しも耳に入っていると理解し、素直に真紀の好きなようにさせておく。抵抗したところで良いことはないし、これで真紀の機嫌がよくなるなら安いものだと思うから。
「……まだ、真紀ちゃん?」
「ちょ、ちょっと待ってね。えーと、これがこうなってこうでしょ……?」
 どうやらネクタイを改めて締め直そうとして、だけどネクタイなど普段締めないから手間取っているようだった。
「真紀ちゃん、うまくできないなら無理しないで…………」
 と、そこで言葉が止まる。
 なぜかといえば、真紀に目を向けたところ、ブラウスの隙間から胸の膨らみに谷間、そしてブラが見えてしまったから。出勤前でボタンを一つ外しており、更にネクタイを締めようと僅かに前傾しているため、よく見える。
 顔が熱くなる。
 前に洗面所で風呂上がりに遭遇した時は一瞬のことだったし、祐麒のベッドに潜り込んであられもない姿を見せるときは酔っ払っていてそれどころじゃない。だけど今、こうしてごく普通の仕事スタイルで化粧もして、真面目な時の真紀でそんなのを見せられると、露出度的には今までより低くとも、色気という点では何倍も増して感じられる。
「――はい、出来た。うん、これでよし」
 祐麒が妙に真紀のことを意識しているうちに、どうやらネクタイは無事に絞められたようで、真紀はポンポンと合図するように祐麒の胸を叩いた。
「あ、ありがとう」
「どういたしまして……ん、祐ちゃん、なんか顔赤い?」
「そっ、そんなことないと思うけど。それより真紀ちゃん、そろそろ出た方がいいんじゃない?」
「あっ、と、そうね、それじゃあ先に行くわね」
 くるりと身を翻すと、真紀は慌ただしく家を出て行った。どうやら、本当にわざわざ祐麒のネクタイを直すためだけに、祐麒が着替えるのを待っていたようだ。
 真紀が直してくれたネクタイを鏡で確認する。
「……なんだよ、まだ曲がっているじゃん」
 直そうとネクタイに手をかけて、それでもやっぱりそのままにしておく祐麒だった。

 

 一方、家を出た真紀は。
「祐ちゃん、細いけれど胸板も結構、逞しいのよね……」
 などと手の平を見つめながら呟き、そして。
「…………ふふっ」
 なぜか笑みを浮かべ、ブラウスのボタンを留めたのであった。

 

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