「可南子ちゃん、横になって」
そう言って祐麒が指で示したのは、祐麒の太ももだった。
祐麒を見て、足に視線を落とし、そしてまた祐麒の顔を見て。
可南子はようやくその祐麒の言葉の意図を理解して。
「…………嫌よ、そんなの」
と、口にした。
それってつまり、膝枕をするということ。
冗談じゃない、なんでそんな、カ、カ、カップルみたいなことをしなければならないのか。
大体それなら、立場が逆ではないか。
どうせ膝枕をするなら、可南子の膝に祐麒の頭を乗せて・・・・
あ、いや、別に膝枕をしたいわけじゃあない。
大体膝枕なんかしたらエッチな祐麒のことが、可南子の太ももに頬をすりすりしたり、手で撫でてきたりするにきまっている。
そんなことされたら堪ったものではない。
だが、可南子の膝枕でだらしない顔を晒すであろう祐麒のことを上から見下ろしてやれるなら、それはそれアリかもしれないと、それだけである。
あるいは、そのまま寝てしまったら寝顔を思う存分見てやれるし、寝ている間にほっぺをつついたり、引っ張ったり、色々と楽しむこともできそうだ。
って、何を考えているのか。
これではまるで膝枕をしたいみたいではないか。
やはり頭を打ってちょっと思考がどうかしているのだ。
「ぜっっったいに、変なことしたり、触ったりしないでよね」
そう釘を刺して、可南子は横になった。
祐麒の足はやっぱりやわらかくなかった。
……男の人の……硬い……
触れて初めて分かることに、少しだけドキドキする。
だから、そうじゃなくて。
馬鹿な考えを振り払い、体を休ませることに専念しようとする。
そのまま少し横になっていると、徐々に落ち着いてくる。
祐麒の太腿は柔らかくはないけれど、寝心地が悪いというほどではない。
枕も少し堅めの方が好みなので、それもあるのかもしれない。
しばらくすると徐々に心地よくなってくる。
無意識に、祐麒の膝を手で撫でていたりもする。
うとうとしかけながら、ふと何かが気になった。
視線を動かしてみると、その先には。
中年の夫婦がにこにこと微笑んで可南子のことを見ていたり。
小さな女の子が指さしてきていたり。
その女の子の母親らしき女性が、「ママも若い頃はパパとね……」なんて言っていたり。
眠気が引いていき、顔に熱が上がってくる。
「ちょっ……じょ、冗談じゃないわよっ」
可南子は体を半回転させて祐麒のお腹の方に顔を向けた。
祐麒は何か文句を言っていたけれど、無視。こんな状況を誰かに見られるなんて、とんでもない。
こうして顔さえ見られなければ安心できる。
祐麒の体が近くなり、少し汗の匂いとか強く感じられるけれど、もともと運動部に所属していた可南子としてはそこまで気にならないというか、むしろ安心するというか、ちょっとくらくらするというか。
「…………ん、はぁ……」
「……可南子ちゃん?」
「な、なにもしてないわよっ!?」
「な、何も言ってないですけどっ?」
え、ちょっと待って、今自分は何をしようとしていたのか。
顔が真っ赤になっているのが自分でも分かる。
それを見られないよう、顔を下に向ける。
「あ、ちょ、可南子ちゃん、それヤバい、まずいからっ」
「う、うるさいうるさい、私はコレがいいのっ!」
今の顔を見られるわけにはいかない。
可南子はさらに意地になって、下に向けた顔を押し付けるようにした。
祐麒が、物凄くヤバい状態になっていることにも気が付かずに……
夏の終わり、夕暮れ時の公園の中、可南子は全くの自覚なしにエロエロだった。
おしまい