<美月ルート>
ぐったりとした可南子が、クッションを枕にして床に横たわっている。
実の母である美月に随分とお酒を飲まされ、潰されてしまったのだ。アルコール中毒とか大丈夫だろうかと思うが、美月公認の元でしばしば飲むこともあるとのことで、美月は大丈夫だと呑気なもの。
様子を見ると、単に眠っているだけのようなので、とりあえず祐麒も納得することにした。
「ふふっ、寝ちゃった娘はほっときなさい。うーん、美味しい~」
実の娘を放置し、自分はお酒を美味しそうに飲んでいる美月。
椅子に腰かけ、テーブルに肘をついて手にしたグラスを揺らす。いつの間にかブラウスの二つ目のボタンまで外れていて、グラスを呷って顔を上に向けると首から胸元までが鮮やかに目に飛び込んでくる。僅かに赤みを帯びた肌、胸元のほんのりとした膨らみ。
更に椅子の上で膝を立てている格好のため、祐麒の位置からだとスカートの下、奥の方にストッキング越しに下着がチラチラと覗いて見えそうになっている。見てはいけないと思いつつ、それでもどうしても目がいってしまう。
ストッキングの光沢も艶めかしい脚が、生足とは異なる色気を醸し出している。
「どこ、見ているのかしら?」
越えに顔をあげると、美月が微笑を浮かべて祐麒のことを見ていた。
「い、いえ、別に……」
視線を横に向けると、今度は寝ている可南子の姿が目に入る。お臍を出し、無防備に晒している下半身は、ショートパンツの奥が見えそうで見えない。
「あら何、可南子? やっぱり若い方が魅力的よねぇ」
「そ、そういうつもりじゃ」
「ふふ、いいわよぉ、可南子にえっちな悪戯しちゃっても。男の子のいる前で、こんな無防備に寝姿を晒すなんて、何かしてくれって言っているのと同じようなものだからね」
「み、美月さんが飲ませたんじゃないですか」
自分の娘に悪戯をして良いだなんて、なんて母親だ。
「しなくていいの、勿体ない。チャンスだよ」
「し、しませんよ」
「それじゃあ……私に悪戯、する?」
「え――――?」
美月は椅子から立ち上がると、テーブルを回って祐麒の方に歩いてきた。
「な、何が、ですか」
「だから、可南子に悪戯しないんなら、私にする?」
「いや、い、意味わかんないんですけど」
「ええ~~、それじゃあ……」
美月は顔を寄せてきて、耳元で囁いた。
「……私が悪戯しちゃうぞ?」
くすぐったさに、体が震える。
これ以上はなんかヤバいと思い、慌てて椅子から立ち上がってソファの方に逃げた。しかし、逆にそれが美月をムキにさせてしまったようだ。すぐに追いかけてきて、祐麒の隣に腰を下ろす美月。
「逃げるなんてひどいじゃない。傷ついちゃったぞ」
「に、逃げたわけじゃないですよ?」
「ほんとぉ? それじゃあ、こうしてもいいよね~」
美月は祐麒の腕に自らの腕を絡め、体をさらに密着させてくる。暑い室内で、美月の触れている部分がさらに熱くなる。
お酒の入ったグラスを傾け、美味しそうに喉を鳴らす美月。
「飲みすぎじゃないですか、大丈夫ですか?」
「大丈夫よぉ、明日はお休みだし、誕生日なんだから好きなお酒くらい好きなだけ飲ませてよ」
祐麒の心配をよそに、グラスの中のお酒はどんどん減っていく。
「うふふ、でも本当、誕生日に祐麒くんみたいな男の子に祝ってもらえるなんて、幸せだわぁ」
「そ、そうですか? あ、そうだ美月さん。そういえば、コレ……」
と、祐麒はごそごそとポケットから取り出したものを美月に見せた。
「え、何?」
「誕生日プレゼントです。その」
さすがに誕生日パーティに呼ばれてプレゼントを用意しないほど迂闊ではない。とはいっても大人の女性に何をプレゼントしたらよいのか分からず、おまけに小遣いもたいして残っていなかったのでたいしたものは買えなかった。
袋を開けて美月が手にしたのは、ネックレス。はっきりいって安物だ。それでも一応、美月に似合いそうなデザインのものを選んだつもりだ。
しかし、渡した今になって後悔し始める。美月のような大人の女性なら、もっと高価で質の良いアクセサリーをするものではないだろうか。中高生じゃあるまいし、そんな安物を貰ったとして、普段身に付けるとは思えない。どうせ安いものしか買えないなら、もう少し実用的な物の方が良かったのではないかと。
不安になる祐麒だったが、美月は。
「うわ……やばい、超嬉しい」
思いのほか、真剣に喜んでいる様子で祐麒の方が驚く。
手で口元をおさえ、ネックレスに目を落としている。
「や、安物ですし、その、なんかすみません」
逆に恥ずかしくなり、余計なことを口走る。
「そんなことないわよ。そりゃ、高価なブランドものしか恥ずかしいからつけたくないっていう人もいるけれど、私はデザインが好みなら値段もブランドも気にしないから。これ、私の好みをよく分かっているわね」
「え、あ、前に食事に行った帰りにそういうの見ていたから、好きなのかなって。あと、指輪とかも」
「うっ……凄いキュンとしている、私。こんな、私のことを考えて贈られたプレゼントなんて何年ぶりかしら」
アルコールで赤くなっている頬に手を添え、美月は小さな声で呟く。
「祐麒くん……やばい、私、今日の今という瞬間に本気で落ちたかも……」
「え?」
「ね、ネックレス、かけてくれる?」
しゃらんと、チェーンの音がする。手渡されたネックレスを広げ、美月の首を回して後ろで留める。
「……ね、祐麒くん」
美月の首の後ろに手を回したままの体勢で腕を掴まれた。祐麒の腕の中に収まっている格好の美月が見上げてきている。
「誕生日だから、もうひとつお願いしてもいいかな。プレゼントのおねだり」
「え? ま、まあ、俺にできることでしたら」
「それじゃあ……」
そう言って美月は長い睫毛を震わせながらゆっくりと瞼を閉じた。
「え…………ちょ、まっ」
明らかに今の体勢は、何か祐麒のアクションを待っている体勢。そして望まれているアクションとは、祐麒の考え違いでなければ。
ごくりと、つばを飲み込む。
どうすれば良いのか、固まったまま動けない。
そのまま、果たしてどれくらいの時間が過ぎたのか。焦れたように、美月が目を開いた。
「……もーっ、どうしてよ」
「ど、どうしてって言われましても……」
不満そうな表情を見せながら、美月は祐麒の両頬を手で挟み込み、胸を押し付け、顔をさらに近づける。
「やっぱり、私みたいなおばさん相手じゃ、嫌?」
「美月さんをおばさんなんて思ったことないですよ」
「本当に?」
「本当ですよ。だって実際、若々しくて二十代にしか見えないですし」
「二十代っていっても幅広いじゃない。二十代前半?」
「…………」
「何よ、黙っちゃって、ひどい」
「あいたたたたっ、わ、脇腹つねらないでくださいよっ」
「ふふ、うそ、二十代後半でも嬉しい」
そう言って、美月が抱きついてきてソファの背に押される。
「あの、美月さん、そ、そろそろ離れた方が」
「なんで?」
「なんで、って……」
そこで祐麒から体を離し、美月は見つめてきた。酔って頬は桜色に染まっているが、瞳からは真剣さが伝わってくる。ふざけている美月の様子ではない、真面目なものだ。
「ねえ、祐麒くん。私のこと、『可南子のお母さん』ではなく、『細川美月』として……福沢祐麒という一人の男として、私のことを一人の女として見て欲しいの」
「えっ…………そ、それって……」
意味は分かる。だが、すぐには信じることが出来ない。
そりゃあ、今までにも美月からは意味深なアプローチを受けていたし、キスだってしたこともある。もっと先に進みそうになってしまったこともある。
だけど、そこで止まっていた。ブレーキがかかっていた。美月も、あくまで冗談であってそれ以上はしてこないだろうと思っていた。
しかし、今。
「うん。私、祐麒くんのことが好きなの」
正面切って、はっきりと言われた。
「そりゃあ、祐麒くんからみたら倍も年上のおばさんだし、そんな私から告白されても嬉しくないかもしれないけど」
「そ、そんなこと……で、でも、なんで俺なんか……子供だし……」
「なんでって……なんでかしらね……」
考えるように間をあける美月。
「可南子と知り合ってウチに遊びに来るようになって、最初は何とも思わなかったわよ? でも、あの男嫌いの可南子が仲良くなった相手だから気になってね、自然とどんな子なのかなぁって思って目で追いかけていてね、段々と……でも直接のきっかけはやっぱり夏祭りのトキ、かなぁ。浴衣姿をね、祐麒くんに『凄く似合っていて綺麗です』って言われたとき、単純だけどキュンってきちゃったのよ」
言いながら、祐麒の手を握り、指を絡めてくる。
胸の鼓動が速くなる。
信じられないが、今、自分は生まれて初めて女性からの愛の告白を受けている。しかも、自分よりずっと大人で、魅力的な女性から。
「一緒に腕を組んで歩いて、弾みではあるけれど祐麒くんの腕に、胸に抱かれて、祐麒くんに男を感じて……自分自身の女を思い出しちゃって、それからはもう転がり落ちていくように一気にね。キャンプのときは、シャワーを浴びた後の祐麒くんの瑞々しい若さと男らしさにクラクラきちゃって、冗談ぽくしないともう抑えきれなくなっちゃって」
もう片方の手が膝に置かれる。
先ほどまでよりわずかに身を乗り出してくると、胸元が今まで以上に目に入るが、色っぽいというよりも美しいと感じた。
洗練された、出来上がった美しい肢体だ。
「まあ……なんだかんだいって理屈じゃないのよね、もう、落ちちゃったらそういうものだし。それに、やっぱり可南子とは母娘なのよ、好きになるタイプがきっと同じなの」
そう言って笑う美月は、間違いなく今まで見てきたどんな美月よりも美しかった。
「だからもう一度……」
美月はするりとポジションを変え、祐麒の膝の上に跨って座ってきた。そのまま頭を抱きかかえるようにして、至近から見つめてくる。
「祐麒くんのことが好きです。だから、キスして」
「あ……と、あの、この体勢だと俺、逃げられないんですけど」
「だって、逃がす気ないもん…………ん」
美月は祐麒の頭を抱えるようにして、そのまま唇を押し付けてきた。
3秒ほどで離れ、笑みを浮かべる。
「……ふふ、キスしてもらっちゃった」
「いや、今のは美月さんの方から」
「それじゃあ、今度はちゃんと祐麒クンの方からしてくれる?」
再び目を閉じ、待ち受けの体勢になる美月。
先ほど、ほんのちょっとだけしか味わえなかった唇に目が吸い寄せられる。てらてらと光り、ぷるんと艶やかさを持ち、瑞々しく潤ったその唇。それだけではない、上気した白い頬、覗いて見える首筋から胸元にかけての柔肌、軽く乱れた髪の毛。全てが色香を放って誘惑してくる。
ここでキスをしてしまうと、先ほどの美月の告白を受け入れることになってしまう。それで良いのか、すぐに決断することなど出来ない。
そんな祐麒の気持ちをはなから知っているのか、美月が片目を開けて言う。
「これは、私への誕生日プレゼントのキスだから、さっきの告白への返事とは関係ないから、ね?」
更に近づいてきて、触れるか触れないかのところで止まる。
そこまでお膳立てされては、祐麒も抗うことは出来なかった。
そっと、唇を押し当てる。
「ん……んっ、ちゅ」
祐麒の口づけに身を任せている美月。
おそるおそる舌を中に差し入れる。ぬるりとした美月の口内、生暖かく、どこか甘い気のする唾液。
「んんっ……ちゅっ、んふぅっ」
時折漏らす美月の喘ぎとも聞こえる声が興奮度を高める。
唇をついばみ、歯茎をなぞり、美月の舌に自分の舌を押し付ける。絡めるように動かすと美月も応じてくれて、二つの舌は互いを求めるように口内で蠢く。
「はぁっ……ん、祐麒、クン……」
一旦口を離すと、美月が物欲しげな瞳で軽く口を開く。
一瞬、何かと思ったが、すぐに美月の欲しているものを悟る。
美月の頬を手でおさえて口を近づけると、唇を重ねて溜めていた唾液を流し込む。美月は嬉しそうに、こくこくと喉を鳴らして飲んでゆく。
「嬉しい、祐麒クン……もっと、もっとキスしてほしい……ん」
おねだりする美月に応えてキスを続ける。
舌を差し入れ、今度は誘導するように美月の舌を自分の口の中に導く。美月の舌が祐麒の歯茎をなぞり、舐め上げ、舌を押して舌に絡ませ、口腔内の全てを味わうかのように蠢いて優しく蹂躙する。
情熱的なキスに、祐麒の意識は飛びそうになる。応戦しようとするも、さすがに祐麒程度のにわか技術ではたちうちできない。
時に激しく、時に穏やかに。舌を絡ませたまま、次に美月は自身の口内へと祐麒を誘う。先ほどまでのお返しとばかりに美月の口内を舌で暴れ回るが、それさえも美月に誘導されているように思える。
美月は攻められる方が好きなようで、祐麒の舌が激しく動いているのに任せ、喜悦に震えているように見える。
再び望み通り唾液を流し込む。
「んっ……んくっ、んあっ」
嬉しそうに飲み干していく美月。それだけで、体をびくびくと震わせている。
飲みきれない唾液が口の端から零れ、垂れ落ちる。
口を離し、垂れた唾液を指で掬い取ってまた舐める。指をちゅぱちゅぱと美味しそうに咥えてしゃぶる姿が、えらくいやらしい。
「……本当はこのまま、押し倒してエッチしちゃいたいんだけど……」
ちらと視線を横に向けると、そこには未だ熟睡している可南子の姿。
「さすがにこの不意打ちじゃあ、可南子が可哀想すぎるから、そこは正々堂々、可南子に勝ってからにするわね」
とか言いながら、美月は唾液に濡れた指で祐麒のシャツのボタンを外し、前をはだけさせてくる。
「あ、あの、美月さん?」
「でも、このままじゃあ祐麒くんは中途半端で収まらないでしょう? 花火の時もキャンプの時も、申し訳なかったから、責任とって気持ち良くしてあげるから」
「いいいや、ちょ、美月さんっ!?」
「何よもう、ここまできて。それに、私も誕生日プレゼント、まだもらい足りないし……沢山、欲しいなぁ……だからご奉仕してあげるね……」
美月の瞳が妖しく、獣の光を放っている。
唇が、舌が、祐麒の胸を這う。
「うあ……あ、あ……」
抵抗する力が失われていく。
「ふふ、どうする? 指がいい?」
綺麗に塗られた爪、細くしなやかな指が艶めかしく動く。唇で吸いながら手が脇腹を這い、そろりとズボンの中に侵入する。美月の細く繊細な指は優しく握ってきて、ゆっくりと上下に動き出す。
痺れにも似た快感が襲い掛かってくる。
「……それとも、お口でして欲しい?」
ピンク色に光る唇、小さく開けられた口の中でてらてらと光り、ちろちろと生き物のように動いている舌。手の動きは緩めない。
「それともやっぱり、胸の谷間……?」
ブラウスの開いた胸元から覗いて見える、白く柔らかそうな膨らみ、そして谷間。ほんのり汗ばんでいるのが色香を増している。
「ねえ、祐麒くん?」
見つめてくる美月の表情は、まさに淫魔そのもののようで。
口の端を上げ、にんまりと微笑みぺろりと舌で唇を舐めとり、そのいやらしいとしか表現のしようのない唇を動かす。
「そっか、順番に一つずつしてあげて、最後はフルコースでしてあげればいいんだ」
「え……ちょ、美月さん、それって」
「若いし、それくらい余裕でしょう?」
美月の指が迫ってくる。
そうして。
――朝を迎える。
気づくと、既に陽は高く上っていて室内は明るくなっていた。
寝ていたリビングのソファから身を起こし、目を擦る。
「よーやく起きたの。だらしないわね」
可南子の声が頭上から響く。
首を後ろに倒して見上げれば、背後に可南子が立っていた。
「あれっ……えーと?」
「口開けてだらしなく寝こけていたわよ。ちなみに、もうすぐお昼だから」
「マジっ!?」
相当に寝ていたようだ。確かに昨日はお酒も入っていたし、仕方ないかもしれないが。
「お母さんもまだ起きてこないし、まったく」
ため息をつきながら肩をすくめる可南子。
美月といえば、昨夜――
「あ、ようやく起きてきた」
「っ!?」
びくっとする。
美月が近づいてくる気配があるが、目を向けられない。
一方で美月は実にすっきりとした、晴れやかで爽やかな笑顔を浮かべている。お肌もつやつやのすべすべ、足取りも軽く弾むようで、るんるんという音が聞こえてきそうだ。
「おはようお母さん……って、なんか随分と元気? なんか昨日と比べて肌もつやつやだし、何かあったの?」
「そう? 好きなお酒飲んで、沢山寝たからじゃないかしら」
弾むような美月の声。
軽い足取りが近づいてきて、ソファの祐麒の隣に腰を下ろした。
「おはよう、祐麒くん。よく眠れた?」
「あ、は、はい、おかげさまで……」
横目で見ると、美月の笑顔は輝いて見えた。
「……ね、祐麒くん」
キッチンに向かう可南子の背中を見ながら、身をわずかに寄せて美月は口を開く。
「昨夜は沢山気持ち良くなってくれたね?」
その台詞に、一気に顔が熱くなる。
やはり、夢でも幻でもなかったのだ。
蘇ってくる、美月しなやかな指使い、ねっとりとした唇、絡みついてくる舌、しっとりと吸い付くように包み込んでくる双丘。
「ふふ、私も沢山、祐麒くんの熱くて美味しいの飲ませて貰ったから、凄い元気になれた。ふふ、やっぱり若いのね?」
「うっ……」
微笑まれて赤くなる。
「実はね……祐麒クンが寝ちゃっている間にも、しちゃった」
「ぶっ!? な、何してんですか美月さんっ」
「だって、寝る前にもう一回、欲しかったんだもん」
全く気が付かなかった。それくらい疲れていて熟睡していたのだが、それでもしてくるとは恐るべきは美月だった。
「でも、おかげで凄く若返った気持ち」
「み、美月さんはもとから充分に若いですよ」
「嬉しい」
ちゅ、と頬にキスしてくる美月。
慌てて美月の顔を見ると、気にした様子もなくウィンクしてくる。
「今日も暑いわね~」
キッチンで麦茶を飲んだ可南子が手で顔をぱたぱた仰ぎながら、今度はトイレへと消えてゆく。
するとまた美月は素早く身を寄せてきた。
「ね、昨夜の私の気持ち、本当だからね?」
「あ、は、はいっ?」
「とりあえず今夜、可南子とちゃんと話すから……勝負はそれから、かな。それでも可南子が認めないようなら、遠慮なく祐麒くん貰っちゃうから」
「は、はは……」
祐麒としては答えようもない。
「うーん、でも可南子がライバルってのもねぇ…………あ、そうだ!」
ぱちん、と胸の前で手をあわせる美月。
「いいこと思いついた!」
「な、なんですか?」
変な予感しかしない。
「祐麒くんが可南子を選んだ場合でもさ、私を愛人にしてくれればいいのよ。ちょっと悔しいけれど、愛してさえくれれば立場はそれでもいいから」
「あ、あの、美月さん……」
「そうよ、逆に私を選んでくれたときも、可南子を愛人としてくれれば」
「あの美月さん、とんでもないこと言っているの、分かってます?」
「あ、そうよね、私は一度結婚しているしいいけれど、可南子はそうすると結婚できなくなっちゃうから……むしろ雌奴隷くらいにした方が幸せ?」
「ど、ドレイ!?」
「あ……私も愛人じゃなくて雌奴隷ってのもいいかも……」
なぜか恍惚とした表情を浮かべる美月。
「みみみ、美月さんっ!?」
「…………はっ!? あ、ごめん、ちょっとトリップしてた。あはは、ほら私、ドMでしょう? それもいいかなって。多分、可南子も私の血が流れているから」
「いやいやいやおかしいでしょうその考えっ!?」
「何よう、どちらにしても祐麒くんにとっては悪いことじゃないでしょう」
何コレ、何てエロゲ!?
祐麒は頭を抱えた。
「そんなに悩まないで、好きなようにしちゃっていいのよ、祐麒くんは……」
昨晩のことで何かが吹っ切れたのか、それともこれが本来の美月、美月の本性なのだろうか。
トイレの水が流れる音がして、目を向けると可南子がトイレから出てくるところだった。すると美月が身を寄せてきて。
「……大丈夫、私、ソッチ系のアブノーマルなプレイも受け入れられると思うから、したかったら遠慮なく、ね?」
ぼそりと、祐麒の耳元で囁く。
「そ、そんなこと思ってないですから!!」
赤くなりながら、飛び退くように美月から離れる。
「何してんの?」
「な、なんでもないよ、可南子ちゃん!?」
「はぁ……変なヤツね」
「そんなこと言っていていいのかしら、可南子。ふふ、今夜にはちゃんと話すからね」
「何が? なんか今日は朝から変よ、ユウキもお母さんも」
「そう? そう見えるとしたら、誰かさんのせいかしらね、ふふっ」
楽しそうに笑う美月は更に若返ったかのように溌剌としていて。
胸元に揺れるシルバーのネックレスとともに、窓から差し込む太陽を浴びて光り輝いて見えた。
おしまい