受験生、特に浪人生ともなれば本分は勉強以外に存在しない。当然、祐麒も朝から予備校に通って講義を受け、講義のない時間や講義終了後は自習室にこもってひたすら勉強に励んでいる。
高校の時も一日授業を受けていたから、予備校の講義だって大丈夫だろうと思っていたのだが、本気で講義を受ける一日、本気で自習をする一日というのは、高校の授業よりも脳の疲労は大きかった。手を抜くのも自分次第だが、決して安くはない金額を親に払ってもらっているわけで、あまり気を抜くわけにもいかない。
そんなわけで、一日を終えるとかなり疲れる。それでも疲労が報われれば甲斐があるというものだが、長い浪人生活、毎度毎度うまくいくわけもなく、がっくりと落ち込みたくなる時もある。
ファストフードの一角で、テーブルに突っ伏すくらいに落ち込むこともある。
「あぁ…………」
「ふぅ…………」
「ちょっと祐麒さん、真美さん、二人ともいい加減に立ち直ってよ!」
打ちひしがれている祐麒と真美を見て、典が叱咤の声をかけるが、二人が元気を取り戻さないのを見てとってため息をつく。
「まだ始まったばかりじゃない、これから成績をあげればいい話でしょう」
何のことかといえば、予備校が開始されてから初めての実力試験が行われたのだが、その結果として祐麒、真美ともに第一志望の大学の合否判定が"Eランク"だったのだ。即ち、問題外ということ。
ちなみに典はといえば、"Cランク"であった。
「うふふ……"Cランク"の典さんは、余裕でいいですよね」
「あのね、"Cランク"で余裕なわけないでしょう?」
「だったら、"Eランク"の私なんか、どうすれば」
なかなか気分を戻せない真美だったが、それでもナゲットを食べる手を休めることがないのはさすがというところか。
祐麒とて、さすがに最低ランクだとは思っていなかったので、ショックはある。それでも、どうにか前向きに考えていこうと気持ちを切り替えようとする。
「そうだよ、真美さん、典さんの言うとおり、これからだって。これ以上下がりようもないんだし、あとは上がるのみだって」
「そ、そうですよね、落ち込んでばかりいられませんよね……」
真美も気を取り直したように顔を上げる。
こういう時、やはり一人でないというのは強いと思う。浪人生活では友人づきあいをどうするかというのが一つの問題でもある。仲間がいれば、情報の連携や、辛いときや寂しいときに励ましあうといったことができる反面、つきあいに時間をとられて自分のための勉強時間が削られる可能性もある。
バランスをとることが重要なのだろう。
その点、今のところはうまくいっていると思う。予備校では勉強に集中しつつ、休憩時間には適度にお喋りし、予備校帰りに時には息抜きにお茶をして、休みの日は基本的に自宅で勉強して遊び歩いたりはしていない。
「……はっ!? ちょ、ちょっと待ってください!」
突然、真美が声を大きめにしてそう言ってきて、思わず祐麒と典は顔を見合わせる。
真美は頭を抱え、何やら唸っている。
「あれ……あの、祐麒さん」
頭を上げ、見つめてくる真美。
「私は、誰でしょう?」
「は? え、ど、どうしたのいきなり!?」
「いいから、私は誰ですか?」
「えと、だから、真美さんでしょ」
「じゃあ、こちらは誰ですか?」
と、典を手で指し示す真美。一体どうしたのかと訝しく思いながらも、とりあえず答える。
「典さん、だけど」
「そ、それです!」
「え。どれ?」
真美が人差し指をつきつけてきて、びっくりして思わず体をそらす。訳が分からず典の方を見てみるが、典も首を振るばかり。
「い、い、いつの間に、"典さん"なんて呼ぶようになったんですかっ!? こ、この前までは、"高城さん"でしたよね!?」
「ん? え、あー、それは」
特に劇的なことがあったというわけではなく、つい先日、予備校に向かう際に典と駅で会い、一緒に歩いて話しているうちにそういう話の流れになったのだ。曰く、「私もリリアン生だし、名字だと逆に落ち着かないので、真美さんと同じように名前で呼んでほしい」という要望を受けて、名前で呼ぶよう努めることにしたのだ。
幸いというか、祐麒もリリアン生とは親交があり、名前で呼ぶということにさほど抵抗がなかった。
経緯を話すと、真美は今度は典の方にぐっと顔を寄せた。
「つ、典さんっ、これはどういうことですか。きょっ、協定は?」
「別に私、真美さんと同じように名前で呼んで欲しいとお願いしただけだけど。そう考えると、今までは真美さんの方が抜け駆けしていたんじゃぁ……」
「そ、そそそ、そんなことないですっ」
「協定? 抜け駆け?」
「え、あ、いえっ、なんでもないですっ」
しばし真美はあわあわとした後、席で大人しくなった。典は、そんな真美を見て可笑しそうにして、笑いたいのを堪えている感じだ。
「それより、一つ提案があるんだけど」
ひと段落したところで、今度は典が切り出してきた。
真美と共に、続きを促す。
「試験も終わったことだし、軽く打ち上げでもしない? 私達、予備校入ってから全然遊びに行っていないじゃない。たまにはそうゆう息抜きがあってもいいと思うの」
そう言いだしてきて、祐麒は少し意外な感じがした。どちらかといえば、典はストイックに勉強をしていくタイプに思えていたからだ。
「私だって、たまには遊びたくもなるし、勉強ばかりのストレスを解消させたくなるわよ。ね、どうかしら?」
「そう、だなぁ」
典の視線を受けて真美の方を見ると、真美もまた祐麒のことを見て、「どうします?」と目で問いかけてくる。
少し考えるふりをするが、実は心の中ではとっくに結論は出ていた。慣れない予備校生活、勉強漬けの毎日、試験でのふるわない結果、改めて頑張ろうとするにしてもエネルギーの重点は必要だという言い訳。
「たまにはそういうのも、いいよね」
その一言で、決定した。
ぱーっとやるといっても予備校生、お金があるわけでもないし、長時間怠けているわけにもいかないとうことで、カラオケにやってきた。お金もあまりかからないし、思い切り歌うことでストレス発散も出来るだろう。
「それじゃあ、歌いましょうか。どうぞ、真美さん」
「え、え、私からですか? なんか恥ずかしいです、典さんからどうぞ」
「まあまあ遠慮せずに」
「で、でも、何を歌おうか考えてなくて」
「それじゃあ、これなんかどう?」
「えーっ、無理、絶対に歌えません!」
テーブルを挟んだ向かい側で女の子が二人、きゃあきゃあ言いながら選曲している姿を眺める祐麒。
灰色の予備校生活を予想していたが、まさかこんな風に女の子二人と遊ぶことになろうとは思ってもいなかった。二人とも可愛いし、まさに両手に華、などと考えそうになって慌てて頭を振る。たまたま知り合いがいて、同じ浪人生として励ましあおうというわけなのだ、余計な欲を持ってはいけない。受験生、且つ浪人生にはそんな余裕はない。今日は単に気晴らしに来ただけで、相手が女の子二人というのも偶然なのだ。
そうこうしているうちに、ようやく選曲したのか音楽が流れ始める。
「――ということで、はい、曲入れておいたからね、祐麒さん」
と、典にマイクを渡される。
「って、俺っ!?」
「頑張って、祐麒さん」
見れば、真美も笑って手を叩いている。
「格好いいところ見せてねっ」
典が囃し立てる。
なんとなく歌わざるを得ない感じがして、仕方なくマイクを受け取り、画面を見て歌い始める。幸い、メジャーな曲で知っているので無事に歌うことが出来た。
「……ふぅっ、と、次は真美さんか典さんの……って、どうしたの?」
歌い終えてマイクをテーブルに置き、視線を二人に向けると、なぜか妙な表情をして祐麒のことを見ていた。そんなに音痴なつもりはないが、変だったのだろうか。
「ど、どうしましょう、典さんっ。か、格好いいですよっ?」
「う……不覚……」
真美が隣に座る典の腕を掴んでゆさゆさと揺さぶり、典は拳を口元にあてて睨みつけるようにして見てきているが、ほんのりと頬が赤い。
「え、と、あ、次の曲はじまってますよ」
「私がいれた曲ね、分かっているわよ」
なぜか怒ったような典が、マイクを握り締める。
祐麒が最初に歌ったためか、典も真美もとりあえずは普通に歌うようになった。典は演劇をやっているだけに非常に良い声をしているが、意外なことに歌はさほどうまくなかった。真美は自信がないのか、少し声が小さい。
それでも何曲か歌っているうちに硬さもとれ、喉の方も慣れてきたのか声も出るようになる。
小一時間ほどが経ち、今は真美が歌い、典はお手洗いのために席を外している。真美はしっとりと穏やかな曲が好きなようで、その手の曲を多くリクエストし、典はどちらかというとアップテンポの曲が多かった。
部屋の扉が開き、典が戻ってきた。
典は、先ほどまで座っていた場所に行くと思いきや、不意に祐麒の座っているソファの方へとやってきて隣に腰を下ろした。
「っ!?」
びっくりしたように、真美が口を止めて典を見つめる。
「ほら真美さん、曲、続いているわよ。気にせずに歌って」
典に促され、真美は続きを歌い始めるが、先ほどまでとはうってかわって歌声が乱れている。
隣に腰を下ろした典はドリンクを口にして、ソファの背にもたれかかる。
「ふぅ……なんか室内、暑いわね」
「温度下げようか? あ、でもこの部屋単体じゃ操作できないのか。じゃあフロントに電話して」
「あ、大丈夫」
言いながら、典はセーターを脱いだ。
それだけなら別に良かったのだが、何を考えているのか、典はセーターの下に着ていたブラウスのボタンまで外し始めたのだ。
「つっ、典さんっ!?」
祐麒が声をあげるよりも先に、マイクを通して真美の大音量の声が室内に響き渡る。
「ちょっと典さん、それ以上はまずいっすよ!?」
祐麒も慌てて顔を横に向ける。
視線を背ける直前のことだが、胸元の開いたブラウスの下に典の下着が見えて、顔が熱くなる。
「だって、暑いんですもの、仕方ないじゃない」
ぱたぱたと手で胸元を扇ぐ典。
「あわわわ、あわわわわっ」
もはや歌どころではない真美。
「つっ、典さん、協定違反ですよっ!?」
「え、なんでぇ~、ただ暑いから脱いだだけで?」
しかし、そんなにも熱いだろうかと祐麒は思う。確かに、激しく歌ったりもしたし、多少は室温もあがっているが、そこまで熱いとは感じない。
「真美さんだって、暑いでしょう? ほっぺた赤くなってるわよ」
「え? そ、そうですか? って……確かに、少し暑いかもです……」
狼狽したように、真美が左右に落ち着きなく視線を泳がせる。
「祐麒さんも、暑くないですか?」
典が祐麒の腕にもたれかかってきた。
さすがに、なんだか様子がおかしいと思い始め、ふとテーブルの上で目が留まる。典が先ほど口にしたグラス、最初の一杯は紅茶だったが、今置かれているものは色が異なる。
「あ、ちょっと典さん、これお酒じゃないっすか!?」
「え? カラオケ屋さんで出るサワーなんて、お酒のうちに入らないでしょう?」
これで完全に理解できた。典は酔っぱらっているのだ。しかも、典が言うとおりアルコール度の低い、氷で薄められたようなサワーを四分の一ほどしか飲んでいないというのに、随分と酔いが回っているとは相当に弱いらしい。
「……うぅ、私も、あ、暑いですぅ」
「ちょちょちょっ、ま、真美さんっ!?」
正面に座っている真美が、いきなりスカートの裾を持って上下に扇ぎはじめた。スカートの下、太ももとその奥の下着がチラチラと目に入ってくるように感じられる。
慌てて真美の前に置かれているグラスを手に取り、口に付けてみると、これもアルコールが入っている。見た目、てっきりオレンジジュースだとばかり思っていた。
「つ、典さん、ずるいですぅっ。私も、そっち行きます!」
スカートから手を離した真美は立ち上がり、つかつかとテーブルを回って祐麒達の座っているソファの方にやってきた。
「典さん、そこ、どいてくださいよ」
見下ろしてくる真美の目が据わっているように見える。
「私はここがいいの」
「じゃあ、私もっ」
強引に典の隣に座ろうとする真美。真美に押されて典が祐麒の方にしなだれかかってきて、慌てて祐麒は更に奥へと位置をずらす。
しかし、典にはそれが気に入らなかったようで、袖を掴まれる。
「ちょっと祐麒さん、なんで逃げるんですかぁ」
「逃げてるわけじゃなく、狭いから、奥に詰めようとしただけで」
「それって、私や真美さんが太っているって意味ですか」
「えぇっ!? ひ、酷い……た、確かに最近、お腹のお肉が気になりますけど……」
「誰もそんなこと言ってないでしょうが!?」
祐麒は頭を抱えたくなった。二人とも、相当にアルコールには弱いらしく、瞳がとろんと潤んでいるし、頬は紅潮しどこか声も熱っぽい。
体を寄せてこようとする典を押し返そうとして、胸元からのぞいて見える白い肌にぎょっとする。完全に見えているわけではないが、ほんのりとした膨らみは分かるし、ちらちらと下着らしきものも目に入り、非常に困る。
そんな典を引き留めるように、真美が典の背後から抱きつく。
「典さん、駄目ですよ、ずるいですー」
「何よー、離してよ真美さん」
「だーめーでーすー」
真美が典を押さえてくれている間に、祐麒は反対側のソファへと避難する。スピーカーからは、音楽だけが空しく鳴り響いている。
とりあえず祐麒は、これ以上酷いことにはならないようにしようと、典と真美の飲み物を手に取ると、残りを一気に飲み干した。
「あーっ、祐麒さん、私たちのジュース勝手に飲まないでくださいよ」
「ジュースなら、新しいの注文しますからっ」
バックに流れているのは激しいロック調の曲。祐麒が好きな曲だったのだが、とてもじゃないが歌っている場合ではなかった。
「あっ、そーだ真美さん!」
突然、典が大きな声をあげた。これ以上、何をしようというのか、ハラハラしながら典のことを注意して見る。
「試験の結果なんて忘れちゃう、良いことがあるわよ」
「え、なんですか?」
首を傾げる真美に対し、典は満面の笑顔を見せると大きく両手をあげた。そして、おもむろに真美を両手で押した。
「――ほら、"Eランク"なんてとんでもない、真美さんの胸は立派な"Aランク"じゃないの!」
いや違った、両手で胸に触ったのだ。
硬直している真美。
「ちなみに私は"Bランク"、ほらー」
何がおかしいのか、典はケラケラと笑いながら真美の腕を掴み、ブラウスの中に引っ張り込んだ。
「祐麒さんも確かめてみますかー? AランクとBランクの差を」
ぐるりと首をこちらに向ける典の顔は真っ赤だった。そして、そのままゆっくりと真美をソファの上に押し倒していく。
「え、ちょ、ちょっと典さんっ? あ、私、や、そんな……重っ……」
体重をかけてのしかかられ、抵抗も空しく倒れる真美。さすがにこれ以上はまずいと、典を押しとどめようと立ち上がった祐麒だったが、近づいて見ると典は完全に寝てしまっていた。
注意して典の身体を起こし、乱れた服装を真美が直す。
「……ちょっと意外だったな、典さん、酒癖悪いんだ」
「本当ですね、びっくりです」
「あれ、真美さんはもう大丈夫なの?」
「えっ!? あ、は、はい、すみません、大丈夫ですっ」
髪の毛が乱れ、顔もまだ赤いが、真美は落ち着きを取り戻したようだった。
「で、これからどうしようか」
困ったように典を見る。
穏やかな表情で完全に典は寝入ってしまっている。時間はまだ三十分ほど残っているが、大きな音楽を流して歌ったら、起こしてしまいかねない。
「それじゃあ……少し、お喋りでもしていませんか?」
真美のそんな提案に、祐麒は笑って頷いた。
結局、典は時間まで目覚めず、仕方なく揺さぶって起こすことにした。会計を済ませて外に出ると、既に陽は落ちかけている。
「うぅっ、頭痛い……」
余程に具合が悪いのか、珍しく背中を丸めた姿勢の悪い格好で典はふらふらと歩いている。水のようなサワーをグラスの三分の一ほど飲んだくらいでこの有り様では、とてもじゃないが今後、酒を飲ませるわけにはいかないだろう。
「……ねぇ、私、酔っている間、何か変なことしなかったかしら?」
憂鬱な表情で尋ねられ、思わず浮かんでしまうのは典の悩殺ショット。普段は凛々しい典だけに、そのギャップがまた非常に男心をくすぐるのだが、とてもそんなことは口にできない。
「え、えと、典さん、とっても可愛い寝顔でしたっ!」
「うわっ、やめて、恥ずかしいっ……ゆ、祐麒さんも、見たの?」
両手で顔を抑える典。
「あはは……ま、まあ、うん、なかなか可愛かったですよ」
返答に困りつつもそう言うと、典は更に首筋から耳まで真っ赤になってしまった。
「うぅ……お、お酒はもう、飲まない」
「そうですよ、私も今日、ちょっと酔っちゃって、お酒はやめた方がいいかなって思いました」
悔しそうに唇を噛む典を慰めるように言う真美だが、そんな真美に対し、典はきょとんとした目を向ける。
「あれ、真美さんもお酒、飲んだの?」
「へ? だって、あの典さんが注文したやつ……」
「ああ、あれノンアルコールカクテルよ。さすがに私も、人のを勝手にお酒にしたりはしないわよ」
「…………」
「…………あれ。と、いうことは」
と、真美の方を見てみると。
真美は面白い表情をして固まっていた。
カラオケボックスでのことを思い浮かべてみる。スカートの裾をつまんで扇いでいた真美、あれは実は酔ってなどいなかった素の状態だったのか。いや、典の状態や場にあてられて酔っていたのかもしれないが。
そういえば、真美のドリンクを飲んだ時、アルコールっぽさは全く感じなかったと今更になって思い出した。
「真美さん、えと、俺、何も見てないですから、いや見たけれど忘れますっ!!」
言うと、真美の表情がふにゃぁっと崩れていき、真っ赤になって、体がぶるぶると震え出した。
「え、何、真美さんが何かしたの?」
「な、なななっ、何もしていませんから、ホント、典さんほどのことは」
「え、何、私やっぱり何かしたの?」
詰め寄られた祐麒は、勢いに押されてつい、言わずもがなのことを口走ってしまった。
「あ、その、『合格判定』を」
「『合格判定』……?」
「っ!?」
首を傾げる典に、直立不動となって硬直する真美。
「あーっ、だ、大丈夫です、ふ、二人とも十分に合格でしたから、俺的には!」
追い打ち的に失言を放ってしまう祐麒。
典は相変わらず意味がわかっておらず困惑し、真美は卒倒しそうになっていた。
「――ねえ真美さん、一体どういうことなのかしら?」
「は、はわわわっ、はわわわわわ……」
典が尋ねるが、真美は熟れた林檎のような顔をして、意味不明なことを呟くばかり。
浪人生活、勉強漬けの合間の一幕であった。
おしまい