<1>
社会人二年目、まだまだ分からないことばかりで大変な日々だけど、毎日頑張っている。同期の友人達との付き合いも順調。
「そういえばさ、福沢って彼女、いるっつってたっけ。ちなみにどんな子? 大学時代からのつきあいとかだっけ?」
「え~っと、年下の可愛い系かな? 同じ大学じゃあないけれど、まあ、前からのつきあいであることは確か」
「なんだよそれ、まさか高校生とかじゃないだろうな!? 今度、その子の友達とか紹介してくれよな!」
そんな会話に、曖昧な笑みを浮かべて適当に応じて誤魔化す。正直な話をできるわけもないのだから。
土曜日、会社は休みなので彼女のことを迎えに行く。学校までは行かない。変態だと間違われる可能性があるから。
「あ、センセーお待たせ」彼女が祐麒のことを見つけて、笑顔で走り寄ってくる。
「学校お疲れ様、亜紀ちゃん」祐麒は軽く手を上げ、隣まで小走りに駆けてきた彼女の手を握る。
しかし、傍から見たらどのように思われるだろうか。まさか親子はないだろうが、やはり兄妹といったところか。
祐麒と手を繋いでいるのはセーラー服の女の子。彼女の名前は山辺亜紀、中学一年生。
知り合ったのは大学二年の時、ちょっとしたボランティアで小学生に勉強を教えたり、一緒に遊んだりしたことがあった。
その時、妙に懐かれ、既に携帯を持っていた亜紀とアドレス交換して、メールのやり取りが始まった。
亜紀に頼まれ、宿題を見たり、日々の勉強を見てあげたりするようになった。ただのお子様でしかなかった亜紀。
しかし、今日びの小学生は成長が早いというか、大人びているというかで、いつしか付き合うようになっていた。
というか、亜紀に手を付けてしまったというか、手を付けられたというか。
「失礼だなー、センセーは。センセーの方が、えっちな目で私をみていたでしょう。今みたいに」
亜紀の家の亜紀の部屋で、祐麒の膝の上に乗った亜紀が、上目づかいで見上げてくる。
そんな亜紀を後ろから軽く抱きしめる。なんだかんだいって、まだまだ甘えたいのだろう
「センセー……えっち。おっきくなってる」ジト目で見られた。
「違う! ってか、さっきから亜紀ちゃんがお尻を押し付けてきて動くから……って、こら、やめろって」
「えーやめていいの? 今日ね、お父さんとお義母さん、帰りがおそくなるって言ってたよ?」
小悪魔の囁き。これに屈してはいけない、何せ相手はまだ中学生なのだ。今更かもしれないけれど。
「もー、ガマンして! さっきから私の太腿とかおっぱいさりげなく触ってばかりのくせにー。私が責任もって、してあげよっか?」
笑いながらぺろりと舌で唇を舐める亜紀。無邪気なその仕草が、祐麒を狂わせた原因なのであった。
<2>
「はい、OKです、お疲れ様です!」
その声を聞いて、ようやく祐麒は肩の力を抜いた。見れば、隣にいる令も同じようなことをしている。
やはり、どれだけやってもなかなか慣れないのは性分のようだった。
いつの間にか背中まで伸びた髪の毛を揺らめかしている令を、美少年と見間違える人は今やいない。
何せ令は、二十代の女性から非常に人気のあるモデルになっていたのだから。
元はといえば三年ほど前、街を歩いているところをスカウトされたのがきっかけ。
凛々しい美人で背が高く、剣道をやっているから姿勢もよく体つきもスマート。声を掛けられないわけがない。むしろ遅いくらい。
しかし令の性格からモデルなど頷くわけもなかったが、相手も諦めなかった。そこで、恋人である祐麒に目をつけられた。
祐麒が一緒ならと、令は頷いた。祐麒は、令の後押しをするためだけだと思っていたが、冗談ではなかったのだ。
「はい、Reiちゃん、Yukiちゃん、二人ともお疲れ様! 今回も非常にいい画が取れましたよ!」
そう、令がモデルをやる条件として祐麒も一緒にというのは、祐麒もモデルとなるということだった。
まさか女装してモデルして、おまけに人気が出るなんて全く予想もしていなかった。いいのか、これで?
「いいに決まってるじゃない、可愛いですよ、Yukiちゃん?」にやにやと笑っているのは専属カメラマンの蔦子。
「ふ……ふふ、いいんだけどね、もうね……」がっくりとうなだれる祐麒。
何せ体型的に、令が格好いい系の服をメインにするのに対し、祐麒は可愛い系の服をメインにしているのだから。
今回も、春のゆるふわ系コーデとかいって、可愛いものを沢山着せられた。
「そ、そうだよ、祐麒くん、凄い可愛かったよ! もう……抱きしめちゃいたいくらい!」
やや興奮気味の令が、頬を赤くして熱い目で祐麒のことを見つめる。まあ、令が喜んでくれていることが救いだ。
剣道の道場もあるので、モデルは限定活動だけど、色々とオファーはきているようで、断るのに苦労しているらしい。
「他人事だけど、Yukiちゃんにもオファーはきてるよ。そろそろ水着モデルしてくれって」
「それだけは絶対、無理だから!」蔦子は、アングルやデザインで写真だけならどうにでもカバーできるというが御免だ。
色々と気苦労も多いが、このモデル業は意外な副産物をも生み出していた。それは……
「Yukiちゃん、震えているの。恥ずかしいのかしら、でも大丈夫、凄く可愛いから……」
「うっ……あぅ、れ、令ちゃん、そ、そこは駄目……」令がうなじにキスしながら、指を太腿に這わせてくる。
なんというか、女装祐麒を襲うプレイをするようになったこと。令は女役だったり、男役だったり、どちらもある。
普段は何度体を重ねても恥じらいを見せる令なのに、祐麒が女装すると一転して攻めてくるのだ。
女物の下着まで身に付けさせられ、恥ずかしいからこそ感じるのか。令の舌が、指先が、祐麒を昂らせていく。
色々と風変りではあるが、幸福な日々を過ごしている二人なのであった。
<3>
「たっだいまー!」
玄関から三奈子の明るい声が響いてきた。祐麒は立ち上がり、玄関まで妻を迎えに出て行く。
「お帰り、三奈……んっ!?」
充分に身構えていたが、三奈子の勢いを受け止めてよろけそうになる。いつも通り、抱き着いてきてお帰りのキス。
「へへーっ、ただいま祐麒くん。んーっ」
さらにもう一度、唇を重ねてくる三奈子を抱きかかえるようにしたまま、リビングへと移動。
「絆ちゃん、亜優ちゃん、良い子でお留守番していたかなー? はい、お帰りのちゅーっ」
愛する娘二人にも、続いてキスをしていく。非常にご機嫌である。
その後、祐麒の作った夕食を囲んで家族で楽しく食事。賑やかで、明るくて、幸せな時間。
三奈子は二度の出産をしながら、まだ働き続けている。祐麒も三奈子を出来る限りサポートしている。
それだけでなく、専業主婦をしている祐巳、祐麒の母も色々と子供たちの面倒を見てくれているからできているのだ。
祐麒も働いている身、幼い子供二人だけを家に残していくなんてこと、出来ないから。
今日は祐麒が仕事から早く帰ることができ、二人の子供を実家から引き取って帰ってきた。
不満などない、あるわけがない生活だが、実は一つだけ祐麒も欲しいと思っているものがある。
「ねえ、三奈」子供たちとお風呂に入り、子供たちを寝かしつけ、やがて二人だけの時間になって祐麒は言う。
「ん、何? あ、わかった、大丈夫、仕事で疲れているけれど、全然問題ないからっ」
「いや、そうじゃな……あぁ、うん、まあそれも関係あるんだけど」すり寄ってくる三奈子を見つめる。
「何々、どうしたの?」
「いや、実はさ……俺、男の子が欲しいと思って」
絆も亜優も可愛くて、まさに目に居れても痛くないと思っているが、それはそれとして息子が欲しい父親としての気持ち。
しかし三人目、経済的な問題もあるし、更に三奈子の仕事の問題もある。産むとなると、また仕事を休まなくてはならない。
「うん、じゃあ、今夜からまた頑張っちゃおうか? えへー、ゴム付けないの、久しぶりだね」
と、既に取り出していた避妊具をしまうと、三奈子は微笑みながら祐麒のシャツの下に手を入れてくる。
「って、いいの? ほら、仕事とかさ、あるじゃん」
「大丈夫、今ね、在宅の方に切り替えようと思ってるから。外を歩き回らなくても書けるものもね、沢山あるんだよ」
三奈子は笑う。それこそ、なんの曇りもない笑顔だ。
「ただねー、祐麒クンには悪いんだけど、次も女の子の気がするんだー。それでも、いい?」
「そ、そんなのまだわからないだろ。いいさ、よし、ならそれを確かめようじゃないか」
「あ、やだもー、祐麒くんのえっちーー」
二人でじゃれあうようにしてベッドに倒れ込む。勿論、予言は三奈子の方が当たることになるのであった。