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ギャグ・その他 マリア様がみてる

【マリみてSS(祐麒・色々)】乙女はマリアさまに恋してる 第三話④

更新日:

~ 乙女はマリアさまに恋してる ~
<第三話 ④>

 

 

 いよいよエルダー選挙の当日となった。
 投票を行うのは高等部に所属している全生徒、724名。75%の得票率をえなくてはいけないのだから、543票が必要になる計算である。さすがに、ここまでダントツで支持を得られる生徒はいないものと思われる。
 生徒達の間では、誰がエルダーに選ばれるか、誰に投票するかでここ数日の話題は持ちきりであった。
 その中でも、先日の『祥子に向かって飛んできたソフトボールを受け止めて護った』事件の影響は大きく、瑞穂の名は日増しに高まっている。
 一方で、やはり旧来の三薔薇さまを応援する声も依然として多く、誰にも投票の結果は見えなくなっていた。
「選挙といっても、選挙活動とかはしないんだね」
「そうだよー、だからエルダーに選ばれるのは有名な方になっちゃうんだよね」
 祐麒は桂とともに体育館に向かいながら、エルダー選挙について話しをしていた。体育館でエルダー選挙の結果発表、ならびにエルダーに選ばれた生徒からの挨拶が行われるのである。
「ちなみに、祐紀ちゃんは誰に投票したの?」
「え? えーと、秘密だってば」
「えーっ、あたしにだけでも教えてよう」
「駄目だよ」
「いいじゃん、教えてくんないと、くすぐっちゃうぞー」
「え、ちょ、桂ちゃん? わ、わひゃっ、うひひっ」
 桂が腋の下をくすぐってきて、思わず変な笑い声を出しながら身を捩る。この手のスキンシップはドキドキするけれど、楽しい。あまり度が過ぎると男だとばれる危険性が高まるので、ある程度のところで線引きをする必要はあるが。
 ちなみに祐麒は、やはり自分の姉の姉にあたる蓉子に投票している。紅薔薇の蕾の妹だからというのも勿論あるが、そうでなくても蓉子はエルダーと呼ばれるにふさわしいと思っているから。
「ちょ、やめっ……か、桂ちゃんの方はどうなのさっ」
「あたし? あたしは……なーいしょっ」
「ちょ、ずるいっ。じゃあ私も桂ちゃん、くすぐっちゃうからね」
「え~っ、やだー、やめてーっ」
 笑いながら逃げようとする桂に手を伸ばしかけて、思いとどまる。祐麒の方から桂にそんなことをしたら、ただのセクハラだ。
「ん? どーしたの祐紀ちゃん」
「え、ええと、いや別に」
「いつまでも騒いでいると、他の方に迷惑ですよ」
 そこへアンリがやってきて声をかけてきた。
「あ、ご、ごめんなさい」
 なんというか、祐麒のことを見つめてくる視線が物凄く冷たい。祐麒は目をそらし、身を縮めるようにしながら大人しく体育館の中へと足を運ぶ。
 クラス所定の位置に座り、桂とお喋りをしながら待つこと十五分ほどでようやく壇上に人が登場した。

「……え~、マイクテス、テス。皆さま、お静かに願います」
 話し声の消えていく体育館内。この辺、今さらながらではあるが、リリアン女学園の生徒達の行儀良さが分かる。花寺学院のときなど、どれだけ言ったところでなかなか静かになどなってくれなかったというのに。
「え~、それでは皆様お待たせいたしました。これより今年度のエルダー選挙の投票結果発表を行いたいと思います。司会は僭越ながら私、新聞部部長の築山三奈子がつとめさせていただきます」
 パチパチパチと、拍手が起こる。
「……三奈子さま、こういうの好きだね」
「ご本人も楽しそうだし、いいんじゃない?」
 実際、壇上でマイクを手にしている三奈子は生き生きとしている。
 三奈子は改めてエルダー選挙のルールについて簡単に説明を行い、やがていよいよ本題へと移っていく。
「今回、有効投票数は724票――即ち、無効票はありませんでした。素晴らしいですね、ええ……ん?」
 司会補佐役らしい生徒がやってきて、三奈子の耳元で何か囁いている。
「ああ、いいのいいの、任せておいて」
「で、でもお姉さま……」
「ほら、もう皆お待ちかねなんだから」
 何やら文句を言っていたようだが、三奈子に言われて仕方なく舞台そでに引っ込んでいく女子生徒。
「なんだろうね?」
「さあ……」
 どうやら三奈子の妹である真美のようだったが、何かトラブルでも起きたのか。だがその割には、三奈子は何事もないかのように進行している。
「――さて、通常のエルダー選挙では得票率が20%を超えた方のみ呼び出していましたが、なんと今年は20%を超える方が一人もいらっしゃいませんでした」
 三奈子の言葉に、途端に館内の生徒達がざわめき始める。票が割れることはあっても、誰一人として20%に達しないというのは珍しい。よほど、各候補者が競っているということだろう。
「ですので、今回に限りルールを少し変更致します。得票率が15%を超えた方をエルダー候補としてお呼びします。呼ばれた方は、お手数ですが壇上までお越しください」
 再び、静寂が訪れる。

「それでは、まず。144票を獲得、得票率19.9%――三年椿組、水野蓉子さま」
 呼ばれるとともに、「おおっ」とも「きゃあ」ともつかない混ざり合った歓声が沸く。そんな中で蓉子は顔色一つに立ち上がると、静かに壇上へと上がって皆に向けて一礼した。
「続けます。続いては、143票……おお、なんと蓉子さまと僅かに一票差です! 得票率19.8%で、三年松組、宮小路瑞穂さま!!」
 なんだか三奈子のノリがよくなってきたが、呼ばれた名前は意外でもあり、納得できるものでもあった。それでもやはり生徒達の驚きは強いようで、蓉子が呼ばれた時よりもざわついている。
 壇上の瑞穂は、どこか困っているようにも見える。
「さて、続きましては、獲得票数139票、得票率19.2%で三年藤組、佐藤聖さま」
 おそらくファンの生徒であろう、黄色い歓声があがる。
 聖はへらへらと笑いながら壇上へと姿をあらわし、手を振って応えている。
「え~、すみません聖さま、次にいきますのでそろそろお控えになって……はい、すみません。それでは続きまして、138票、ってこちらも聖さまとはなんと一票差! 得票率19.1%で三年菊組、鳥居江利子さま」
 名前を呼ばれた江利子はゆっくりと立ち上がり、音もなく壇上にあがった。
 こうして並んでみると、江利子が一番背が低いということが分かる。
「さすが、選ばれるべき人が選ばれているって感じだね」
「壮観だよねー、麗しいしっ」
 四人が並ぶと桂の言うとおり、非常に見事だとしか言いようがない。誰も負けず劣らず美しい。
 しかし、物凄い接戦である。これなら得票率が20%に達しないのも分かる。
「さてさて、なんと、まだ15%越えの方がいます!」
 三奈子の発言に、どよめきがはしる。
「え、誰々? 他に三年生で誰がいるの?」
「わ、わかんないよ、あたしにも」
 隣の桂に尋ねてみたが、桂にも心当たりはいないらしい。
 どよめきおさまらぬまま、三奈子は満を持して発表をする。

「最後のお一人は、獲得票数135票、得票率18.6%を得ました一年松組の、福沢祐紀さんです!!」
 その台詞とともに体育館内は静まり。
 直後に。

「え、え、ええええええええええええええええっ!!!?」

 爆発したかのように歓声と悲鳴がわいた。祐麒の驚きの声すらもかき消すように。
「ちょちょ、ちょっと、どういうこと!? え、なんで!?」
「うわ、ゆ、祐紀ちゃん凄い! 凄いよ!」
「嘘でしょ、冗談でしょ!? なんで俺がっ」
 思わず「俺」なんて叫んでしまったが、周囲の歓声によって幸いにも誰にも聞かれずに済んだが、困惑は増すばかり。
「さ、福沢祐紀さん、壇上までお願いします」
「ほら祐紀ちゃん、行かないと」
「でも、いや、えっ?」
 戸惑いながらも、周囲から押し出されるようにしてフラフラと歩んでいく。壇上の手前で立ち止まり、見上げてみると。
 四人のお姉さま方が、それぞれの表情で祐麒を見下ろしていた。

(こ……こえぇっ…………!!)

 それでも逆らうことも出来ずに、壇上にあがる。
 圧倒的な生徒の視線を浴びて、よろめきそうになる。なんだこれは、何かの間違いに決まっている。
 江利子の隣に立とうとしてふと三奈子と目があい、助けを求める。
「そっ、そうだ! 三奈子さま、確かエルダーって、手本となるべき『最上級生』を決めるんですよね? わ、私は一年生ですから資格ありませんから!!」
「そう……本来なら祐紀ちゃんの言うとおり、祐紀ちゃんに入れられた票は無効となるべきなんだけど……事実として他の方々と同等の票数を獲得している。だから、特別にエルダー候補としてお呼びしました!!」
「なんでえーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!?」
 叫びつつ、ふと視線を横に向けてみると、舞台袖で真美が申し訳なさそうな顔をして頭を下げていた。
 どうやら三奈子の独断らしい。そして悔しいことに、体育館の盛り上がりは三奈子の判断が成功していることを物語っている。
「だっ、大丈夫。ふ、普通に考えて、お、俺がエルダーになんかなるはずないし……」
 ぶつぶつと呟きながら、進行に身をゆだねる。
「それではこれより、候補となられた皆さまのご意見をうかがいたいと思います」
 三奈子が言うと、真っ先に聖、そして江利子が手をあげた。三奈子はマイクを渡し、聖、江利子の順に発言する。
「え~、あたしに票を入れてくれた人、ありがとう。嬉しいんだけど、全校生徒のお手本ってなると、やっぱりちょっとあたしじゃ違うかなって。ほら、全校生徒のお手本が、可愛い女の子を口説いたり、抱きついたりしちゃったらまずいでしょ?」
 聖が言うと、くすくすと笑い声が出る。
「ということで、やっぱりエルダーは真面目な水野蓉子さんが相応しいと思います。あたしの票は、水野蓉子さんに譲渡します」
 続いて江利子が口を開く。
「……鳥居江利子です。まさか、私にこれほどの票が集まり、こうして壇上にくることになるとは想定外でした」
 江利子の発言に、苦笑ともいえない何かが漏れる。
「私は、同じ寮で宮小路瑞穂さんのことを見てきました。学園内でも。そして、宮小路瑞穂さんはエルダーになるに相応しいお方だと思いました」
「そ、そんな、江利子さん」
 瑞穂が困って口を開きかけたが、それを見て江利子は「ふ」と意味深な笑みを浮かべ。
「――それに、薔薇様ではない、今年編入してきたばかりの宮小路瑞穂さんがエルダーとなった方が、今までの慣例を打ち破ってくれそうで面白そうだと思いました。だから私、鳥居江利子は、宮小路瑞穂さんに票を委譲したいと思います」
 これまた江利子らしい言い方だった。
 しかしこれ、拒否権というものは無いのだろうか。だとしたら、完全に早い者勝ちということになりはしないか。
 蓉子と瑞穂は、何も言わず顔を見合わせている。
「さて、これで蓉子さまが283票、瑞穂さまが281票ということになりましたが……」
 これでも二人の得票率は75%に達しない。となると、続いての祐麒がどちらに票を譲るかが大事になってくるのか。だが、祐麒の考えは決まっている。既に蓉子に投票していることもあり、素直にそう言えばいいのだ。
 そうして祐麒が手をあげようとしたとき。

「すみません、よろしいでしょうか」
 次に手をあげたのは、なんと蓉子だった。
「……私は、私の票を宮小路瑞穂さんに譲渡したいと思います」
 何の前置きもなく言い切る蓉子。今まで以上のざわめきが館内を満たす。
「よ、蓉子さん、なんでっ!?」
 慌てているのは瑞穂。それを手で制して、蓉子は続ける。
「別に、瑞穂さんに押し付けようとかそういうつもりではありません。もし、私が最初の投票で75%を獲得していたら、私はエルダーの位をありがたく受け取るつもりでした。ですが今回のこの投票結果を見て、そして瑞穂さんの今までの学園での生活を見て、やはり瑞穂さんがエルダーにこそ相応しいと思ったから譲渡するのです。皆さんもご存じでしょうが、瑞穂さんは文武に優れているだけでなく、礼儀作法も身に付けておられ、私から見ても非の打ちどころがないように思えます。冷静に考えて私以上に相応しいと判断したので、譲渡したいと思います。以上です」
 あまりに冷静に告げられて、瑞穂も咄嗟には言い返せないようだった。館内からもやがてまばらに拍手が起き始めたかと思うと、やがてそれは全体に伝播し、満場の拍手となった。さすがに瑞穂もこれでは断れないようだった。
「三奈子さん。これで瑞穂さんの票数は?」
「え? あ、はいっ、ええと……」
 素早く真美が駆け寄ってきて、カンペを手渡す。
「えっと、564票で77.9%……見事に75%を超えています!」
 満足げに頷くと、蓉子はちらりと祐麒に視線を送った。
 これなら瑞穂はエルダーとしての資格を得ていることになる。さすがに一年生の祐麒に票を譲渡するなんてことないだろうし、そして祐麒もあえて誰かに票を譲渡する必要もない。一年生である祐麒に気を遣わせないようにとの蓉子の計らいに違いない。さすが蓉子だと、感謝と尊敬の意をこめて軽く頭を下げる。
 訳が分からないうちに壇上に引きずり出されたが、どうやらこれで無事に終了らしいと胸をなでおろしかけたその時。
「――よろしいでしょうか」
「え? は、はい、なんでしょうか、江利子さま」
 ここで再び江利子が挙手をした。
 既に大勢は決したというのに、ここで何を発言しようというのか注目が集まる。
「私自身が瑞穂さんに譲渡した通り、瑞穂さんがエルダーに相応しいというのは私、並びに皆さんも異論はないかと思います。これで瑞穂さんが納得いただければ、今年度のエルダー・シスターは決まりでしょう。ですが、ここでもう一つ、忘れてはならない要素があると思います」
 一体、江利子は何を言いたいのか。内心で首を傾げつつ、江利子の主張に耳を傾ける。
「そう、それは皆さんの目にも映っている通り、福沢祐紀さんがこれだけの支持を得て私達と並んで立っていることです」
「っ!?」
 不意に名前を出されて、慌てて江利子を見る。すぐ隣に立っている江利子は、祐麒の驚きの視線を受け止めると、祐麒にだけわかるよう不敵な笑みを浮かべて続ける。
「最上級生が選ばれるエルダー選挙で、一年生である福沢祐紀さんにこれだけの票が入るということは、それだけ皆さんが福沢祐紀さんのことを認めているということでしょう。かくいう私も彼女には危ないところを助けられました。文武はもちろん、その勇敢さ、決断力、行動力は素晴らしいものがあります」
「あああああの、江利子さま、ななな何をするつもりで……」
 震えながら小声で言うも、江利子は止めてくれない。
「ですがもちろん、最上級生がなるべきエルダー・シスターに福沢祐紀さんがなれるべくもありません」
 一旦そこで、反応を見るように一呼吸を置く江利子。生徒達は誰もが皆、江利子に注目している。
「しかしながら――『妹』ならばどうでしょうか?」
「!?」
「そうです、『妹』です。『エルダー・シスター』が全校生徒の手本となるべき最上級生を指すように、祐紀さんにも全校生徒の愛らしい妹という意味を込めて、『アドラブル(adorable)・シスター』という名を贈るのは」
 まるで舞台女優のように右手を大きく広げ、左手を胸にあて、江利子は高らかに言い放った。
 静まり返る一同。
 そりゃそうだ、訳が分からんと思う祐麒だったが。
「おーっ、それはいい! それってさ、あたしも祐紀ちゃんのこと妹として可愛がることが出来るってことでしょう?」
 真っ先に反応してノッてきたのは聖だった。
「ちょっと、江利子も聖も何を勝手なことを。祐紀ちゃんの気持ちも少しは考え――」
「そうすると、蓉子は祐紀ちゃんのことを孫と妹、双方のポジションに置けるってわけか」
「――――なるほと、奇抜なようだけれど、良いアイデアかもしれないわね」
「蓉子さまっ!?」
 あっさりと寝返られた。
 そして驚くことに、会場内から拍手が巻き起こり、やがてそれは割れんばかりの大拍手、大歓声となって祐麒を包み込む。
「……これでもう、逃げられないわねぇ?」
「ええええ江利子さまぁ~~っ」
 横から睨みつけるも、もはやこの勢いと流れは祐麒に止められようもなかった。
 大騒ぎになっている会場を、どうにかこうにか三奈子が大人しくさせる。
「え、えーと、前代未聞の事態となっておりますが……要はこういうことになりますね。本年度のエルダー・シスターには宮小路瑞穂さまが、そして新たにアドラブル・シスターとして福沢祐紀さんがなられ、このお二方こそが全校生徒のお手本となるべきお姉さまであり、そして妹であると!」
 三奈子が宣言した一瞬の後。
 今までより更に大きな拍手、歓声、祝福の声といったものが体育館内に轟き渡った。
 そしてそれを、信じられない思いで受け止める祐麒。
 思わず瑞穂に顔を向けると、期せずして瑞穂も祐麒のことを見ていた。瑞穂の表情には、困惑、驚愕、唖然、即ち祐麒と同じものが浮かんでいた。
 蓉子、そして聖と江利子が脇に退き、祐麒と瑞穂は並んで立たされる。
「「……う、うそん…………」」
 こちらも期せずしてハモる呟きであった。

 

 驚きのエルダー選挙を終えて部屋に戻ると、祐麒は疲れて力なくとベッドに座り込んだ。時間にしてみればたいしたことないが、精神的な疲労は大きかった。何をしたかもよくわからないまま眠りにつき、起きてからの翌日。
「大丈夫、祐紀ちゃん? はい、これカモミールティー。美味しくて落ち着くよ」
「ありがと、桂ちゃん」
 桂が淹れてくれた紅茶を口にしてホッと一息。
 今日は学校は休み。静と三奈子は疲労している祐麒に気を遣ってくれたのか、二人とも外出して部屋には桂と二人きりだ。
「あ~~もう、なんでこんなことになるかなぁ」
「あはは……それだけ祐紀ちゃんが皆から愛されているってことだと思うよ?」
 隣に腰を下ろした桂が、やはり紅茶を一口啜って言う。
 結局、断ることなどできようはずもなく、『アドラブル・シスター』なるものになってしまった。アドラブルというのは英語の『adorable』、即ち"愛らしい"というような意味らしい。
 正体は男だというのに、愛らしい妹なんて名称を付けられ、全校生徒の妹的存在になるなんてと、落ち込みそうになる。というか、昨夜は落ち込みながら眠りに落ちた。
「でも、瑞穂お姉さまがエルダー・シスターで、祐紀ちゃんがアドラブル・シスターかぁ。凄いよね二人とも。それに比べてあたしなんか」
「ちょ、か、桂ちゃんっ!?」
 またしても自分を卑下し、距離でも置こうとするのではないかと心配して声をかけると、思いのほか桂は明るい笑顔で見返してきた。
「あ、大丈夫だよ、もう同じ間違いはしないって。確かに、祐紀ちゃんは凄くて可愛い皆の妹かもしれないけれど……あたしにとっての祐紀ちゃんは、誰よりも可愛くて、頭が良くて、格好良くて、でも実はちょっとドジな、大好きな大好きな、親友の祐紀ちゃんなんだから」
「桂ちゃん……ありがとう。私も、桂ちゃんのこと、大好きだよ」
 邪な気持ちなど一切なく、純粋な気持ちでそう言い切ることが出来た。
「わーい! 嬉しいっ、これであたしと祐紀ちゃんは両思いだねーっ」
 抱きついてくる桂。
「祐紀ちゃん、大好き~~、ん~~っ」
「え、わ、かか、桂ちゃんっ!?」
 祐麒に抱きついたまま桂は、なんと大胆に頬っぺたに唇を押し付けてきた。柔らかくてふにょんとした桂の唇に、祐紀は頬が熱くなる。
「ね、ね、祐紀ちゃんからもして」
「え、で、でもっ」
「祐紀ちゃんもあたしのこと、好きなんでしょう? だったら、その証拠っ」
「う、うぅ……う」
 顔を横に向けた桂が、ほらここと言わんばかりに頬を強調する。
 顔が真っ赤になるのを自覚しながら、祐麒は桂のほっぺたに唇をつける。温かくてふにふにした桂の頬が心地よい。
「えへへーっ、祐紀ちゃんと、ちゅーしちゃった!! 今度はお口同士でちゅーしちゃう?」
「わっ、え、か、桂ちゃん、それは駄目だって!?」
 押し倒されてベッドに仰向けになる。桂の顔が間近に迫る。
 祐紀は思わずギュっと目をつむり、肩をすくませて体を強張らせる。
「………………」
 だが、しばらく待っても唇には何も触れてこない。おそるおそる、うっすらと目を開けると。
「~~~~っっっ!!! あぁん、祐紀ちゃんってばホントに可愛いなぁ、もうっ!!」
 身悶えている桂の姿。
「ちょっ……か、桂ちゃん、か、からかわないでよっ!?」
「ご、ごめーーーーんっ!!」
「許さないから、ほら、くすぐりの刑だ!!」
「わーーーん、や、やめてっ、あはははははっ!!!」
 そんな風にベッドでいちゃつく祐麒と桂を。
「…………本当に、女子高校生になっちゃってんじゃねぇのか?」
 いつの間にかやってきたアンリが、冷めた目で見つめていた。

 大騒ぎになったエルダー選挙も終わり、リリアン女学園も本格的な夏へと突入する。

 そう、薄着の夏へ!!

 

 ――ちなみに瑞穂はといえば。

「……な、なんで僕が全校生徒のお手本の『お姉さま』に……っ!?」

 当然のごとく、部屋でorzだった。

 

 

第三話 おしまい

 

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