梅雨に入った。
毎日のように降り続く雨に、気分もふさぎそうになるが、毎日毎日、何かしらハプニングのようなものが発生し、飽きることもない。
もっとも、祐麒にしてみればもう少し静かに、落ち着いた生活を営みたいと思っているのだが、悪友の小林に言わせみればそれは。
「贅沢だ、馬鹿者」
と、いうことになるらしい。
祐麒の身にもなってほしいと思うのだが、外から見れば羨望の眼差しを向けられる立場であるようだ。
しかし今日もまた、由乃の膝蹴りやら肘撃ちやらパンチやらを受けて、朝から疲れているのである。
ということで、祐麒は机に突っ伏して寝ていた。
もちろん授業中である。もちろん、教師は教壇で授業を行っている。もちろん、本来はきちんと授業を受けるのが学生の本分である。
隣の席の真美は、落ち着かなかった。
教師がいつ、気がつくとも知れなかったから起こした方がよいとは思うものの、せっかく気持ち良さそうに寝ているところを起こすのは、可哀相な気もする。それに何より、祐麒の寝顔が可愛いのである。
授業を受けながら、真美はついつい、隣の席をちら見してしまって授業に身が入らなかった。
「さーて、それじゃ次の文の和訳をしてもらおっかなー。えーと、今日は」
英語の教師である聖が、出席簿に目を向ける。
そこで真美は、ハッとした。
よくありがちだが、聖もまた生徒を指名する際に日付と出席番号を紐付ける。そして今日は十五日、祐麒の出席番号は男子十五番。
「ふ、福沢君。お、起きた方がいいよ」
小声で言ってみるものの、全く気づく様子は無い。
「んじゃー、十五番、福沢祐麒!」
そうこうしているうちに、あっさりと指名されてしまった。
「ふ、ふ、福沢君、起きないと」
シャープペンシルのおしりの部分で腕をつついてみるが、やはり起きる気配はない。
「おーい、福沢祐麒、いないのかー」
後ろの方の席で突っ伏して寝ているせいか、前からは見えづらいらしい。聖が祐麒の姿を探して首をめぐらせている。
「福沢くん」
返事をしないため、他のクラスメイトも不審に感じたのか、祐麒の席の方に視線を送り始めた。
焦った真美は、少し強めに祐麒の体を揺すった。
すると。
「うーん、なんだよ……もうちょっと寝かせてくれよ、由乃……」
丁度、静まり返っていた教室内に、祐麒の寝言ともつかない言葉が響き渡った。
「なっ!?」
声をあげたのは、由乃だろうか。
一方で、歓声とも悲鳴ともつかない声もあがる。
「ま、まさかユキチのやつ、毎朝由乃ちゃんに起こしてもらってるんじゃ……」
「え、なになに、やっぱり由乃ってば世話女房?」
「うわ、最近の高校生ときたら……で、実際のところどうなの由乃ちゃーん?」
最後の一言は聖である。教師が率先してどうするというのだ。
一方の由乃は席から立ち上がり、真っ赤な顔をして手を振り回している。
「ち、ちがっ……わた、わた、わたっ」
何を言っているのかさっぱり分からない。
そんなことも知らずに、祐麒の寝言は呑気に続く。
「まだ学校間に合うだろ……大体、昨日も由乃がなかなか寝かせてくれないから……」
先ほどよりもずっと大きな衝撃が、教室内をはしりぬけた。
真美は、あんぐりと口を開けたまま硬直した。
「キャーっ、由乃ってば夜も積極的なのねっ」
「ゆ、許せん福沢のやつっ!」
「何々、由乃ちゃん、一体どんなコトをしたのか先生に教えてくれるかなー?」
最後の一言はやはり聖のものである。とてもじゃないけれど、教師の発する言葉だとは思えない。
「ち、違うわよっ! 昨日は一緒にゲームをしていただけなんだからっ」
耳まで真っ赤に染めながら、力説する由乃。
だが、毎朝起こしに行っていることは否定しようとしない。ということは、そちらの方は事実なのだろうか。
授業もそっちのけで大騒ぎとなって、ようやく祐麒も周囲の様子に感づいたのか、ゆっくりと顔を上げた。
「ん……なんだ、騒がしいな」
口の端についた涎を、手の甲で拭う。
寝ぼけ眼で教室内を見回す。
「えと……なんかあったの、山口さん?」
と、尋ねられた真美は。
「――知らないっ」
ちょっと怒ったように、顔をそむけるのであった。
ちなみにこの騒動は、隣のクラスで授業をしていた蓉子が耐えかねて踏み込んでくるまで続いたのであった。
「あーもう、祐麒のバカバカ、バカったら馬鹿!」
興奮した由乃が、怒りの声をあげる。
時は昼休み、場所は中庭。
いつもであれば教室で机を寄せ合い、皆で食べるのだが、直前の授業の騒動を受けていたたまれなくなった由乃は中庭に非難してきたのだ。
「いつもの癖が出ちゃったんでしょ、可愛いもんじゃない」
購買で買ってきたサンドウィッチをぱくつきながら、蔦子が応じる。
「か、可愛くなんかないわよ。お陰であたしがどれだけ恥しい思いをしたか……」
手にしたおにぎりを握りつぶさんばかりの由乃。
梅雨時ということもあり、天気はあまりよくない。湿気も高くじとじとしているので、中庭に生徒の姿は思ったよりもなかった。
「別にいいじゃない、今さら。皆だって、ただノリではしゃいでいただけよ」
「な、なんでそんなことが分かるのよ」
口を尖らす由乃。
確かに、由乃と祐麒は幼馴染で、そのせいで今までも色々と囃し立てられることはあった。だが、それでも毎朝起こしに行っていることは、誰にも教えたことはなかった。そんなことを知られたら、今まで以上に何を言われるか分からない。
「いやー、今さらそれくらいでガタガタ言わないって。むしろ、『あ、やっぱりそうなんだ』くらいにしか思わないって」
「え、そ、そうなのっ!?」
「そうよ。一年のときからもう二人は付き合っているって思われているんだから」
「そ、そんなんじゃないってのに」
頬を膨らませる由乃。
隣の蔦子は笑う。
「誰も信じないって、そんなの。ってーか、まだそんなこと言っているの? いい加減にくっついちゃいなよ」
「だから、そんなんじゃ」
「令さんとくっついちゃうよ?」
「…………」
無言になる由乃。
由乃だって、それくらいは分かっている。ずっと一緒に育ってきたし、ましてや令とは同じ女同士、祐麒と一緒にいるより長い時間を共にした。
だから、令が祐麒のことを単なる幼馴染とか、弟みたいな存在だとか思っている以上に、好意を抱いていることくらい分かっている。今まで一度も、そんなことは聞いていないし、あからさまな素振りを見せたこともないけれど、分かるのだ。
「いい加減、素直になったら?」
優しい目と口調で、諭してくる蔦子。
「う、う~~~~~~っ」
箸を握り締め、唸る由乃。
やがて。
「……だ、だから、あたしと祐麒はそんなんじゃないから」
その言葉を聞いて、蔦子は『やれやれ』と首を振る。
「まったく、本当に意地っ張りなんだか……」
言いかけたところで、蔦子の口が止まる。
どうしたのかと思い、蔦子の視線の先を追ってみると、一人の女子生徒が中庭を横切っている姿が目に入った。
腰まで届こうかという長くて黒い、美しい髪の毛。まっすぐと伸ばされた背筋からは、歩く姿にも気品というものを感じさせる。
「うわ……あいかわらず、分かっていてもつい見惚れちゃうね」
「ホント、ファンが多いのもわかるよね、うちの生徒会長」
藤堂志摩子とともに、学園No.1の美少女を争うといわれている、リリアン学園の生徒会長。
「でもちょっと、近寄りがたい雰囲気持っているよね」
「確かに」
そうこう話しているうちに、その姿は校舎内に消えていった。
「だけどあの人って、浮いた話って全くないよね」
「うん、潔癖って感じがするもんねー」
「それより由乃、祐麒くんのことだけど」
「だからそれは……」
少女たちの少女らしい会話は続くのであった。
一方祐麒は、手早く昼飯を済ませて校舎内を徘徊していた。
自分では覚えていないが、寝言がかなりの波紋を呼んだようで、クラスメイト達が興味津々の目をして近づいてくる。由乃と蔦子が昼休みになるなりどこかへ行ってしまったこともあって近寄りやすくなったのか、特に男子が遠慮なくやってくる。
口に出すのは皆同じ、由乃のこと。
うんざりした祐麒は、後を小林に任せて教室から逃げ出してきたというわけである。
「しかし、どこに行こうか」
避難したのはよいが、行くあてがない。大体、昼休みは小林や由乃たちとお喋りしたり、カードゲームに興じたり、ぐだぐだしているうちに時間は過ぎ去ってゆく。
こうして一人で学園内を歩いていたところで、面白いことも特にない。考えをめぐらせ、図書室にでも行って本を読んで時間を潰そうかと、歩を進める。
滅多に図書室など行かないので、さてどこだったかと、顔を左右にふらふらと向けていたのがいけなかったのだろう。廊下の角を曲がったところで、誰かと肩をぶつけてしまった。
「あっ」
相手の手から、バインダが落ちる。
「すみません、不注意で」
慌てて、床に落ちたバインダを拾い上げて相手に差し出す。
「いえ、こちらこそ……」
受け取ろうとした相手の手が、中途半端な場所で止まる。不思議に思い顔を上げてみると、祐麒の目の前に立っていたのは超がつくくらいの美少女。
「あの……?」
目の前の美少女は、なぜか身を強張らせて祐麒のことを見ている。祐麒が拾ったバインダは受け取ってもらえず、さてどうしようかと思い始めていると、少女の背後に控えていた数人の女子生徒がいきなり出張ってきた。
「祥子さま、大丈夫ですかっ」
「お怪我はありませんか」
「祥子さまにぶつかるなんて、なんて失礼なんでしょう」
女子生徒たちはいきりたって祐麒を責めてくる。どうやら、美少女の取り巻きか追っかけといったところか。
一方、祥子と呼ばれた少女の方はといえば。
「あ、貴方はこの前の」
目の前にいる祐麒にだけ聞こえるような小さな声で、呟いた。
なんのことだろうかと思ったが、祥子の黒くて長くて美しい髪の毛を見て、ふと思い出した。屋上で給水塔から落ちてきた女子のことを。
「あれ、ひょっとしてこの前屋上で――」
給水塔に登っていましたか、と言葉を続けようとしたが、祐麒の声は祥子によって遮られた。
「よ、余所見をして歩くのは危険です。罰として生徒会室の掃除をしていただきます」
「はあっ!?」
「反論は受け付けません」
「え、ちょっと、あの」
さっさと背中を向けて歩き出す。その背中から無言の圧力をかけられているようで、後をついていかざるをえない気にさせられる。
「えと、あの、祥子さま?」
お付の女の子達も戸惑っているが、「貴女たちは戻っていいわ」という祥子の一言によって、渋々という感じではあったけれども解散していった。
そうして、いつしか祐麒は一人、生徒会室で祥子と向き合う形となった。
なぜ、こんな状況となってしまったのか首を傾げる。
初めて入った生徒会室内は、綺麗に整頓されていた。普段、生徒会などとは縁がないし、生徒会長など特に気にかける必要もなかったから、まじまじと顔を合わせるのは始めてであったが、その美貌には圧倒されそうになる。
思わず横顔に見惚れる。ここまでの美少女となると、憧れる女子生徒がいてもおかしくないなと思う。
「えーっと、それで、どこを掃除すればよいですか?」
「え? 掃除?」
なぜか、祥子は不思議そうな顔をして聞き返した。
「だって、それで呼ばれたわけでは」
「あ、ええそうね」
形の良い指を顎にあて、頷く。
「…………?」
なぜか、無言で見つめてくる。
心なしか、頬に赤みが差しているように見える。
この反応はまさか、自分に対して気があるのか。だから、二人きりになるために生徒会室に呼び出したのかと、祐麒は思いかけた。
「……貴方」
「は、はいっ」
正面から見つめられ、身を硬くする。
祥子は半歩、近くによる。
「……こ、この前のこと、誰かに言ったかしら?」
「この前って……給水塔の?」
そう口にすると、祥子の頬の赤みはさらに増した。
「いえ、別に誰にも言っていませんけれど」
「そう……」
あからさまに、ほっとした様子を見せる。
一体、あのような場所で生徒会長が何をしていたのだろうか。多忙さを癒すために昼寝でもしていたのだろうか。
「それなら良いのだけれど。まさか、私が苦手を克服するためにあんなことをしていたと皆に知られたら、なんて思われるか」
「――え。ああ……ひょっとして高いところが苦手……なんですか? そ、それで、給水塔に登って」
想像する。
高いところが苦手なのを克服するために、昼休みに一人、こっそりと給水塔の上に上ってゆく美人生徒会長。
美しいが故に、頭の中で描いたイメージがあまりにアンバランスで、祐麒は堪え切れなくなってしまった。
「――あ、はははっ、そ、それであんなところにいたんですか」
祐麒の笑い声が、室内に響く。
あまり笑っては悪いと思いながらも、抑えることが出来ない。生徒会長は美人だけれども厳しくて少し怖い、なんて噂も聞いたことがあったから、余計に可笑しく感じてしまうのかもしれない。
まるで発作のように笑い続け、ようやく治まってふと視線を上げてみると。
「~~~~~~っ!!!!」
顔を真っ赤にして、身を打ち震わせている祥子の姿。
これはまずい、と思ったときには遅かった。
「――――で、で、出てゆきなさいっ!!」
室内を揺るがすような声が響き、祐麒は逃げるように生徒会室を後にしたのであった。
一日の授業を全て終え、放課後に入ったところで、祐麒は小林を呼び寄せて聞いてみた。現在の生徒会長とは、一体、どのような人物なのかと。
「なんだお前、小笠原さんを知らないのか?」
返ってきたのは、驚きの表情と声。
そんなに有名なのかと先を促すと、立て板に水のごとく流れ出す小林の口上。
曰く、現在の生徒会長である小笠原祥子は、眉目秀麗にして成績優秀、頭に『超』がつくくらいの美少女ぶりは、芸能界から何度もスカウトがきたとか、いやハリウッドの監督が直々に口説きにきたとか、大げさな噂がつきまとうほどとのこと。
それは大げさにしても、実際、女子生徒の熱狂的ファンも多いらしいし、勿論、男子生徒にも人気はあるが、実際に近づこうという男子はほとんどいないらしい。
小笠原家という、日本に名だたる名家の一人娘という正真正銘のお嬢様で、近寄った男は知らぬ間に始末されるとか、あまりに美人すぎて逆に近寄りがたいとか、とにかく男を寄せ付けないオーラが全身から出ているのだそうだ。
「取り巻きの女子もいるし、それに彼女自身も男嫌いだって話だけど」
「へえ……」
知らなかったということもあるが、祐麒自身は祥子に対して、『近寄りがたい』というイメージをあまり抱いていなかった。
「なんだユキチ、お前まさか、小笠原さんのこと狙おうなんて馬鹿なこと考えているんじゃないだろうな。確かに、超逆玉だけど、絶対無理だって、やめとけ」
「誰もそんなこと言っていないだろうが」
小林を肘で小突きつつ、祥子が皆からそんなイメージを抱かれているのだとしたら昼休みのことは他言するべきではないな、などと考えていた。
そんな祐麒の肩を、小林が叩く。
「お前、素直に由乃ちゃんとイチャイチャしていろ。一体、何が不満なんだ?」
訊ねられて一瞬、答えに詰まる。
別に、由乃に不満があるとかいうわけではないのだ。だが、ここで何も言い返さないと由乃とのことを認めてしまうようで、とりあえず思ったままのことを口に出す。
「何って、大体由乃のやつ、ガサツだし、料理は出来ない、裁縫は出来ない、掃除洗濯の家事類だってまともに出来なくて、怒りっぽくて勝ち気で我が侭で、時代劇や格闘技が好きですぐに俺に技をかけてくるし、みんな、本当の由乃のこと知らないんだよ」
頭を振る。
しかし、祐麒のそんな言葉を聞いても、小林は表情を変えない。むしろ、頬杖をついた表情には余裕の笑みさえ見える。
「……で? そんな本当の姿を知っているお前は、そんな由乃ちゃんが不満なのか?」
更に問われて、またも言葉に詰まる。
「別に、不満とかいうわけじゃ」
「じゃ、家事全般をそつなくこなし、清楚で大人しくて控えめで、恋愛物が好きで、よく気の利く由乃ちゃんだったら?」
「げ、やだよそんなの気持ち悪い。そんなの由乃じゃないよ。確かに色々と言ったけれど、それが嫌だって意味じゃない。なんだろ、さっき言ったような女の子が由乃であって、俺はそんな由乃の方が、なんというか、まあ気に入ってはいるし」
そこまで言うと、小林がにやりと笑った。
そして視線を、祐麒の背後に送る。
「……だってよ、由乃ちゃん」
「えっ!?」
小林の言葉に振り向くと、拳を握り締めて振りかぶり、今まさに振り下ろそうとでもいう体勢で固まっている由乃がいた。
その顔が真っ赤になっているのが、怒っているせいではないというのは、表情を見て分かった。
途端に、祐麒の顔にも熱が昇り始めた。考えてみると、物凄く恥しいことを口にしていた気がする。
「うふふ、良かったね、由乃」
由乃の斜め後ろに立っていた蔦子が、由乃の両肩を抱くようにして顔を近づけ、笑いながらそんなことを言っている。
真っ白な肌を朱に染めた由乃は、酸欠状態の金魚のように口をパクパクさせているのみ。
「さてと、それじゃあ私たちは先に帰るからね」
「え、ちょ、ちょっと待ってよ、蔦子」
「んじゃな、ユキチ」
「おい、こ、小林」
呼び止めるものの、小林と蔦子は立ち止まることなく去っていってしまった。教室を出る際に、わざとらしい笑みを浮かべて。
一方、残された祐麒と由乃は。
「えーと、帰るか」
椅子から立ち上がり、鞄を手にして、由乃の顔を見ないようにして言う。他に、いうべき言葉が見つからない。
「う、うん」
やはり、祐麒と反対方向に顔を向けながら頷く由乃。
祐麒が先に教室を出て、一歩遅れて由乃が続く。ほぼ無言で廊下を歩き、下駄箱で靴に履き替え、外に出る。
「……別に、深い意味はないからな。ただ、本当のこと言っただけで」
「わ、分かっているわよ。どうせあたしは、ガサツだし、女の子らしくないし」
お下げを指でいじりながら、口を尖らせている。
「……でも、そうか。祐麒は、そんなあたしが好きなわけね」
「はあ!?」
見れば、なぜか得意げに薄い胸をはっている由乃。
「馬鹿、なんでそうなるんだよっ」
「だって、さっきの聞いていたら、そうじゃないの。まあ確かに、あたしの魅力を間近で感じていたら、仕方の無いことよね」
「おいこら、何、調子にのってんだよ。誰もそんなこと言ってないだろ、勘違いするなよ」
「照れているの、祐麒ってば」
「ふざけんなって、こら待て、逃げるな」
「あはは、ばーかばーか」
可愛らしい舌を出して、あかんべえをして逃げ出す由乃。
軽く舌打ちをして、追いかけだす祐麒。
「調子に乗るなよ、さっきのはやっぱり取り消しだ、ちょっとは清楚で控えめになれ」
「知りませーん」
二人、じゃれあうようにして駆けてゆく。
そんな二人を見つめる、また二人の影。
「おーおー、やってるやってる。まだ学校敷地内だってこと、分かってんのかね」
「本当、所構わずああやっていちゃついているから、皆から噂されるのにね」
小林と蔦子が、苦笑しながら眺めている。
梅雨の合間の、いつもと変わらぬ日常なのであった。
<判明ステータス>
小笠原 祥子 (new) ・・・ 生徒会長、お嬢様
<発生イベント>
祥子 『生徒会長のヒ・ミ・ツ』