書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(令×祐麒)】君の温もり

更新日:

~ 君の温もり ~

 

 つい数日前までは、まだコートは必要なかったというのに、冬の足音は急速に大きくなってきて、慌ててコートを出したのがつい昨日のこと。本当に、一気に寒さが押し寄せてきたように感じる。
 先日、美容院に行ったために更に短くなった髪の毛のため、首筋が余計に寒く感じてしまう。指で後ろ髪を梳きながら、令は長い脚をいつもより速めに動かしながら目的地に向かっていた。
 目的地が近づくにつれて、心なしか身体が熱くなってくるのは、果たして身体を動かしていることによるものか、はたまた単に気持ちの問題なのか、令にはよくわからない。ただこの時期は、顔が多少赤くなったとしても寒さのせいだと言えるから、それは少しありがたいかもしれなかった。
 強めの風が正面から吹き付ける。
 コートのボタンはきちんととめてあるのに、思わず手で抑えてしまう。短くなった前髪がたなびき、剥き出しになっている耳がキーンと冷える。

 日曜日の午前中、厳しい寒さにも関わらず街中はそれなりに賑わっている。人というのは気が早いもので、既にクリスマスを意識している店もあちこちで見られるようになっている。年末のこの時期は、どこの店も稼ぎ時という訳である。
 令自身、クリスマスケーキやら、パーティ用の料理やら、プレゼントやら、色々とお金を落としていく一員ではあるのだが。
 街の賑わいに目を向けながらも、ふと時間を気にしてみると、約束の時間の十分ほど前。余裕はあるけれど、少しばかり急ぎ足になる。
 待ち時間が楽しいというのを、最近になって令は自身で実感した。人によっては、無駄な時間ということで苛々させられることもあるだろうが、令にとっては全く苦痛ではなかった。
 今日はこれからどうしようか、どこに行こうか、何を話そうか、向こうはどんな格好をしてやってくるだろうか、そんなことを考えているのが楽しくて、十分、二十分などあっという間に過ぎ去ってしまう。
 しかし残念ながら今日は、そんな時間はなさそうだった。待ち合わせの相手は、きっと何も無い限りは約束の時間に遅れるなんてこと、ないであろうから。
 待ち合わせ場所に近づくと案の定、約束の相手の姿は既にその場にあった。
 気持ち、駆け足気味で令は側に寄って手をあげた。
「ごめん、待った?」
 すると相手も令の姿を認め、僅かに照れたような表情をしながらも、笑って口を開く。
「いえ、こっちもさっき来たばかりですから」
 あどけない笑顔に、胸があたたかくなる。
 出会ってから変わることのない優しい笑みに、自然と令の口元も緩くなる。

 初めての二人で出かけたのは、夏。
 やはり今日みたいに、相手の方が先に待ち合わせ場所に来ていて、今と同じような会話を交わした。

 二度目、誘われたのは秋。
 今度は先に行って待っていようと、気合を入れて家を出たら待ち合わせ時間よりも小一時間ほど早くに着いてしまった。
 どこかの店にでも入って時間を潰すこともできたが、もしその間に相手が現れるようなことがあったら嫌だったから、令は待ち合わせ場所でずっと待っていた。
 四十分近くの待ち時間。
 それでも令は、長いとも思わなかったし、嫌だとも思わなかった。そうやって、待つことができるのがなぜか嬉しかった。

 そして今日、三度目は、冬。
 このままのペースだと、一シーズンに一回、年に四回しかデートできないのだろうか、などと変なことを考え、慌てて頭を振る。
 例え季節に一度だとしても、デートをしていることに変わりはないし、緊張することにも変わりない。
 現に、今日会わないかと誘われた日から、ずっと令は落ち着かなかったのだから。昨夜だって、今日は何を着ていこうか悩みに悩み、なかなか寝付けなかった。今だって、もちろん嬉しさはあるけれど、怖さもある。果たして令と一緒にいて楽しんでくれるだろうか、あるいは何か粗相をしてしまったらどうしようかとか、そんなことばかりを考えてしまうのだ。
 それでも令は、誘われれば断れない。
 だって、一度知ってしまった甘い味は、そう簡単には忘れられようもないから。
「ここ数日で、急に寒くなりましたね。体調とか大丈夫ですか?」
 二人並んで歩きながら、祐麒が当たり障りの無い話をふってくる。
 約束の相手は、福沢祐麒。紅薔薇の蕾である福沢祐巳の年子の弟。花寺学院の生徒会長。そして、令にとっては――なんであろうか。
 まだ、分からない。
 それでも分かることは、祐麒が今、令の隣にいてくれるということ――

 

 今日のデートの行き先は、映画館。
 初めてのデートも、二回目のデートも映画を観にいっているから、いい加減に違う場所にすればと言われるかもしれないが、仕方が無い。
 二人はまだ高校生で、行ける場所なんてある程度限られる。令も祐麒も、騒がしい場所よりかは静かで落ち着けるところを好んだし、映画そのものだって嫌いではない。加えて言えば、映画を観ている間は会話をしなくていいし、見終われば映画の話が出来る。
 これは別に、話すのが嫌だとかそういうわけではない。お互い、異性に慣れていないというのは同じで、何を話したらよいのかいまだに戸惑うのだ。そんな互いの内心が、声に出さすともお互いに何となく理解できるので、素直に映画館に足が向く。
 今日の映画は、ミニシアターで上映されている、どちらかというとマイナーなもの。少年少女が織り成す、淡くて青い、群像劇。
 少女趣味を自認している令は、この手の物語は大好きである。
 もし、自分があの場にいたならば、彼らの仲間に入っていたならどうしていただろうかと、妄想にも近い想いを重ねながら見入る。他の人に話したら、きっと笑われてしまうような考えも、祐麒は真面目に、そしてごく普通に受け入れて聞いてくれる。令にとってはそれがとても嬉しいことだった。ミスター・リリアンという偶像を求められているのではなく、令自身を見てくれる祐麒の目が、くすぐったくも嬉しくて。
「面白かったね」
「はい」
 当たり前の会話に、心が弾む。
 映画館を出れば、少し遅めのランチ。
 さすがにこの時期、お弁当を外で食べるというのも辛いので、近くのファミレスに入ってくつろぐ。
 映画の話、学校の話、友人の話、テレビの話、他愛もない会話がこんなにも楽しいと感じるのは、なぜだろうか。友人や、山百合会の仲間と同じようなことを話していて感じるのとは違う気持ちが湧き上がってくるのは、なぜだろうか。
 あっという間に、流れ過ぎ行く時間。
 暖かいファミリーレストラン店内から一歩外に踏み出せば、忘れていた寒気が体を包み込んでくる。
 この後はどこに行こうか、歩きながら話す。
 ウィンドウショッピングか、ゲームセンターやボーリングで遊ぶのも悪くはない。寒いけれど、冬の街中を歩くのだって、それはそれで良いような気がする。
 二人ともいまいち優柔不断というか、お互いの意見を尊重しようとするから、なかなか決まらない。優しいのは良いけれど、たまには強引さで引っ張ってくれてもいいのにと、自分勝手に思ったりもする。あるいは、年上である令がリードした方がよいのだろうか。
「ねえ、祐麒くん」
「はい……っくしゅ」
 可愛らしいくしゃみをして、鼻をこする祐麒。その仕種を見て、自然と顔が笑いの形になってゆく。
「ほら、襟元が寒いんじゃない? マフラー貸してあげる」
「え、いいですよ、そんな」
「いいから、寒いんでしょう。今、くしゃみしたばかりじゃない」
 祐麒の正面にまわり、黄色を基調としたマフラーを巻き、首をきちんと防護してあげる。少し長くなった祐麒の髪の毛を指で整え、これでよしと令が頷くと、祐麒は顔を赤くして俯いてしまった。
「ちょっと、恥しいですね」
「いいじゃない、似合っているよ」
 レモン色のマフラーは、男の子には可愛すぎるのだろうか。恥しがっている祐麒を見ていると、悪いとは思いながらも笑いが漏れてしまいそうになる。
「あの、すみません、ちょっとよろしいでしょうか」
 その時、不意に声をかけられて振り向く。
 すると目の前には、男女の二人組みが立ち、令と祐麒のことを見て納得したように笑顔を浮かべた。
 二十代半ばから後半くらいと見えるその二人、一体何物かと、思わず半身で祐麒の身を隠すようにしてかばう。
 だが令のそんな様子も気にかけず、男の方が口を開いた。
「いや、いきなり驚かせてすみません。実は私達――」
 男が口にしたのは、令も聞いたことのある雑誌の名前だった。若者向けのファッション雑誌で、最近部数を伸ばしていると、どこかに書いてあった気がした。
 雑誌の編集者だと名乗った男にかわり、少し派手な感じの女性の方が、続いて説明してきた。
「雑誌の特集で、"街で見かけた美男美女カップル"っていうのをやっていて、その二人のファッションチェックをしているんですよー。それでー、お二人のことが目に入ってー」
「か、かっぷるって」
 祐麒と顔を見合わせ、はかったように同時に赤面する。
 二人のそんな様態など無視して、女性編集者は細い目をさらに細くして言葉の攻撃を畳み込んでくる。
「お二人みたいに絵になるカップルって、そうそう見ないんでー、是非写真とか撮らせて欲しいんですけれど、あ、もちろん気持ち程度ですが謝礼はしますよ、えーとこれ、ウチの非売品の携帯ストラップ、結構人気なんですよ、可愛いでしょう」
「ええと、あの、ちょっと写真とかは……」
 断ろうとするが、女性はなかなかに押しが強く、会話の主導権を握ろうとしてくる。
「少しアンケートもお願いしたいんですけれど、あ、簡単なものですよ、お名前とか年齢とか交際歴とか、あと好きなファッションとか。本名出すのが嫌なら、下の名前だけとか、それもカタカナにしたりとかできますしー、あ、ちなみになんていう名前かしら? 掲載する、しないは別にして教えてくれませんか?」
「あ、れ、令です」
「祐麒です」
 勢いに押され、思わず二人とも名前を教えてしまった。
 言わなければ良かったと思ったときにはもう遅い、女性は二人の名前をメモしていた。そして手にしたペンを令と祐麒に交互に向ける。
「はい、レイ君に、ユウキちゃんね、いやー見た目どおり格好良くて可愛い名前ねー」
 無邪気に言った女性であったけれど。
 その言葉に、令と祐麒は思わず首を傾げそうになる。
「レイ君は本当に格好良いわよね、アイドル顔負けというか、そこらのアイドルより素敵、お姉さんがもう少し若かったらなー、あ、ひょっとして芸能事務所とか入ってる?」
 驚き、何も応えられない令を無視して、今度は祐麒へと矛先を変える。
「ユウキちゃんも自慢でしょ、こんな格好いい彼氏じゃ。あ、もちろんユウキちゃんも可愛いわよー、とってもキュート! レイ君自慢の彼女なんでしょう?」
 祐麒もまた、目を大きく見開いて何も言えずにいる。
 令と祐麒は同時に顔を見合わせ、そして同時に理解した。
 どうやら目の前にいる雑誌編集者の二人は、令のことを男と、祐麒のことを女と勘違いをしているようだと。
「二人はどうやって知り合ったの、同じ学校?」
「……あの、ホント、失礼します」
「ああ、ちょっと待って、お願いせめて写真掲載だけでも駄目? 二人みたいな美少年、美少女は本当になかなか見かけないのよー」
 手をあわせてお願いしてくる女性だったが。
 令も祐麒も、もちろん願いを聞く気などないのであった。

 

 ドーナツ店に入り、お互いが選んだドーナツとドリンクをテーブルに置いて席についたところで、どちらからともなく大きなため息をついた。
 沈んだ空気はもちろん、先ほどの雑誌編集者達に性別を間違ってカップルに見られたこと。
 確かに、令の方が背は高く、髪の毛だって令の方が短い。令はミスター・リリアンと称されるくらいの容姿の持ち主だし、今日の格好もパンツである。だから、令の方はまだ分かるというか、今までにもそういう経験はあった。
 しかし、祐麒の方は。
 いくらコートで体型が隠れ、マフラーで首や顎が隠れて、全体的に男女の差異が分かりづらくなっているとはいえ、女と思われるとは。
 まあ、令自身も可愛いなと思っていたくらいだし、令の横に並んでいたことと、"カップル"という先入観により、女の子と見られてもおかしくはないかもと考えたが。
「……俺、そんなに女の子みたいですかね?」
 笑うしかない、といった感じの力ない笑みを見せる祐麒。
 令は慌てて首を左右にふり、否定する。
「そんなことないよ、ホラ、私が隣にいたから、そう思い込んじゃったんじゃないかな」
「でもそれって、俺が支倉さんよりも男らしくないってことですよね」
「あー」
 フォローしようとしたが、失敗したようだった。
 どうすればよいのか令も困り、とりあえずドーナツを口にする。
 しばらく、無言でドーナツを咀嚼していると、ようやく祐麒が次の言葉を口にした。
「……すみません、なんか愚痴っちゃって。俺なんかより、支倉さんのこと見間違うなんて、失礼ですよね」
「え、どうして?」
 令は、リリアンの制服を着用していてさえ美少年と見間違われるのだ。由乃と一緒に出かければ、かなりの高確率で男女カップルだと思われたし、不思議なことではない。令も半ば当然のことだと受け入れていたのだが。
 祐麒はテーブルの上にわずかに身を乗り出し、力をこめて言った。
「どうして、って、支倉さんみたいな可愛い女性を男と間違うなんて、失礼じゃないですか」
「か、可愛い? 私が? まさか」
 笑って飛ばそうとしたけれど。
「可愛いに決まっているじゃないですか、だから俺、支倉さんのこと」
 勢いこんでそこまで言ってから、祐麒は急に口を噤んだ。
「わ、私のことが……な、何?」
 急に、胸の鼓動が激しくなってくる。
 祐麒ははたして、令になんと言おうとしたのか。令のことが、なんだというのだろうか。先の言葉を期待して、じっと祐麒を見つめる令。
 しかし祐麒は、わずかに顔を横に向け、照れ隠しをするかのように顔の前で手を振る。
 祐麒が何を言おうとしていたのか知りたい、だけど先を聞くのが怖い、そんな気持ちが令の心の中で渦巻く。
「と、とにかく、支倉さんはとても可愛らしくて素敵な女性だということですっ」
 早口でそれだけを告げる祐麒。
 誤魔化されたのかとも思ったが、よくよく発言内容を吟味してみれば、今の祐麒の台詞だってかなり恥しい内容である。
 そして、それを面と向かって言われた令もやはり、恥しい。
「嘘だあ、だって私、こんなでかくて、こんな男の子みたいなのに」
 令もまた照れを隠すように、ドリンクに口をつけて顔を下に向ける。
 顔を上げるのが、なんだか恥しい。
「そんなこと、ないですよ。少なくとも――」
 ちらりと目だけを上げて、何かを言いかけている祐麒の顔を見る。
 そして祐麒は、告げる。

「少なくとも、フラッシュイエロースムージーなんて可愛いのを飲んでいる支倉さんは、とても可愛いと思いますけれど」

 一瞬の後。

 言った方も言われた方も、顔を真っ赤にするのであった。

 

 夕方となると、今の季節は空が暗い。
 近づく別れの時間を惜しみながら、令と祐麒は並んで歩く。夕飯は家で家族と食べるのが常であるし、ディナーを一緒にと誘われるほどの仲に進展しているわけではない。
 だが、それは言い訳であることを、令自身がよくわかっていた。
 今時、中学生だって外で夕飯くらい食べるであろうし、令だって友人と外食くらいしたことはある。
 誘われれば、行ってしまうだろう。だから、誘われる前に無理だと断っている。そんな自分は卑怯だろうかと、内心で問いかけるが答えなどなく。
 祐麒は優しいし、正直だ。だから何をそんなに、令は怖がっているのだろうか。令自身が、よくわからなかった。
「あの、今日はありがとうございました。受験を控えて大切な時期に、こんな付き合っていただいて」
「ううん、そんな。私も楽しかったし、たまには息抜きしないとね」
 確かに受験勉強はあるけれど、今の言葉は本心。
 だけどなぜか、祐麒の顔は浮かない。
 少しばかり不安になり、令はどうしたのかと聞いてみた。
「いえ、あの……今後はあまり誘わない方が良いですよね……?」
 令の受験勉強を気にしてのことであろう。これから先、受験に向かってラストスパートをしなければいけないのだ、余計な時間を割かせるわけにはいかないと、祐麒は考えているのだろう。
 だがそれは同時に、令のことをまた誘いたいと思っているともいうことだ。
 令は考え、ゆっくりと応じる。
「そうね……祐麒くんはもう、私なんか誘いたくない?」
 ずるい、逆の問いかけ。
「そんなわけないです! でも、支倉さんの勉強の邪魔するわけには」
「うん。でも、無理だと思ったら私も断るから……誘ってくれないっていうのは、ちょっと、その……寂しいかな」  臆病者の自分は、きっと自ら誘うことなんて、出来ないに違いない。
 そして卑怯な自分は、誘われたなら断ることなんて、出来ないに違いない。
 だけど。
「わ、分かりました。それじゃあ、あの、なるべく邪魔にならないよう、気をつけますので、お誘いしてもいいですか?」
 きっと祐麒なら、令のことを気遣い、受験の妨げとならないよう色々と考えて声をかけてくれるだろう。
 だから令は、祐麒のその答えを聞いて、目を細めて頷いた。

 

 帰り道は暗く、祐麒に送られてゆく。
 やがて、自宅の近くまで来たところで、別れを告げる。あまり家の近くに行き過ぎると、家の中から由乃にでも見られてしまう危険があったから。
「それじゃあ、今日はありがとう。おやすみなさい」
「はい、おやすみなさい」
 軽く手を振り、離れようとしたそのとき、背を向けかけた令を祐麒は呼び止めた。振り向き、再び祐麒と向かい合う。
「どうしたの?」
「俺、もっと男らしくなりますから」
「え?」
「俺がもっと男らしかったら、今日みたいなことなかっただろうし。その、時間はまだかかるかもしれないけれど、もっと男らしく」
 街灯に、真剣な瞳が光る。
 そんな祐麒の表情を見て、令は頬を緩める。
 一歩近づき、そっと祐麒の頭に手を置き、男の子にしては柔らかな髪の毛を撫でる。ひんやりとした手触りが心地よい。
「……馬鹿ね、祐麒くん。祐麒くんは十分に、男らしいよ」
「え、でも」
 何か言いかける唇を、指でおさえる。
「祐麒くんも、私に言ってくれたでしょう? 容姿とかじゃないよ、男らしさっていうのは、きっと」
 指を離す。
 温もりが、離れてゆく。
「それじゃあね、また」
 寂しいけれど、寂しくない。
 なぜなら、また会うことが出来るから。また誘ってくれると、祐麒は言ってくれたから。次に会うときはきっと、もっと楽しい気持ちになれるに違いないから。
 歩き出し、家へと向かう角を曲がろうとしたとき、後ろから足音が近づいてきた。
「支倉さん、待って」
「ど、どうしたの、祐麒くん? 忘れ物?」
 小走りでやってきた祐麒は、白い息を吐き出しながら、にっこりと笑う。
「忘れ物は、支倉さんの方ですよ」
「え?」
 戸惑う令の目の前、祐麒は巻いていた黄色いマフラーを外した。そして今度は昼間とは逆に、祐麒が令にマフラーを巻く。
 身長差が逆のため、背伸びをしながらマフラーを巻いてくれる祐麒の顔が、下から至近距離に近寄ってくる。吐息を感じる。
「ずっと、かりっぱなしでしたからね。それじゃあ、また」
 ぺこりとお辞儀をして、背を向けて駆けてゆく背中は、あっという間に夜の闇の中に消えていってしまった。
 一人、残された令はといえば。
「もう……」
 突然の出来事に驚きながらも。
「祐麒くんたら、巻き方滅茶苦茶」
 苦笑しつつ、自らの首に不恰好に巻かれたマフラーに手を添える。
 そんなことを言いながら、それでも巻きなおすようなことはせず、マフラーに鼻を埋めるようにする。
「ふふ、あったかい」
 それは言葉以上の意味を持つ。

 

 黄色いマフラーには、二人分の温もりがあるのだから。

 

おしまい

 

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