<後編>
思いがけず、瞑子の部屋に泊まることになってしまった。僅かに動揺しつつも、顔には出さないようにして瞑子の部屋の中に入った。とはいっても寮の部屋、構造はゆかり達の部屋と変わるところはない。ただ、室内が非常にシンプルで、あっさりとしている。女の子らしさを感じさせない部屋だ。
とりあえず、すすめられるままにクッションに座る。瞑子が、お茶を出してくれる。
互いに、何を話せばいいのか、どう行動すれば良いのか分からず、戸惑う。
「音楽でも、聴く?」
瞑子も困っているのであろう、ゆかりの返事も聞かずにコンポのスイッチをいれる。流れてくるのはクラシック。
その後、話すこともなく、瞑子は文庫本を取り出して読み始める。ゆかりも、適当に本を借りて読み始めるが、内容は頭の中に入ってこない。
今頃、槙と炎雪は何をしているのだろうか。炎雪を相手に、ガールズトークを繰り広げてそのままお休み、なんてことはないだろう。お泊まりということは、やっぱり、あんなことやこんなことを、とか考えながら瞑子の方をちらりと見ると。
「――っ!?」
タイミング良く瞑子もゆかりの方に目を向けてきて、一瞬、目が合って咄嗟に下を向く。
なんでこんなに緊張しなくてはいけないのかと、内心で自分を叱咤する。
「ちょっと、お手洗い」
一言断って立ち上がり、トイレに向かう。
用を足し、洗面所で屈みに移る姿を見る。
「……もう、しっかりしなさい、ゆかりっ」
軽く頬を叩く。
一緒の部屋にいるだけで緊張するなんて、自分らしくない。別に、初めてだというわけでもないのだし。
落ち着きを取り戻したところで、部屋に戻る。瞑子はゆかりのことなど気にしない様子で本に目を落としている。
「…………ちょっと、何よ?」
ゆかりは、瞑子の隣に腰を下ろした。
驚いた瞑子が本を取り落とす。慌てて拾おうとする瞑子の手を、ゆかりが抑える。
「ね、瞑子さん」
名を呼ぶ。
「なっ、染谷さんっ!?」
「二人きりの時くらい、名前で呼んでもいいでしょう?」
「なんで、そんなのいいわけ……」
「いいじゃないですか、可愛いし」
逃げようとする瞑子を追うように、体を前のめりに倒していく。
どうやら恋愛関連に免疫がないらしい瞑子は、攻めると簡単に狼狽し、いつもの怜悧さも吹き飛んでしまうのだ。そんな瞑子の姿を見ることで、ゆかりは逆に落ち着きをどんどんと取り戻していき、さらにSっ気がむくむくと膨らんでゆく。
「だ、駄目だって言っているでしょう。わ、私、今日は疲れたからもう寝るわ」
ベッドに手をついて立ち上がる瞑子。
「そう。それじゃあ、仕方ないですね」
ゆかりが言うと、明らかにホッとした表情を見せる瞑子。もちろんゆかりは、これで終わりにするつもりはない。
「じゃあ、寝間着に着替えないと」
「そうね、ああそうだ、染谷さんは炎雪のスウェットでいいかしら」
「ええ、それじゃあ着替えましょうか」
「……じゃあ、洗面所に」
「ああ、気にしないでください、ここで着替えましょう。女同士なんだし、気にしなくていいですよね?」
言うなり、ゆかりは自分のシャツを脱ぎ始める。瞑子がおたおたしている内にシャツを脱ぎ棄て、キャミソール姿になる。
「どうしたの? 脱がせてあげましょうか?」
「自分で脱げるわよっ」
伸ばされたゆかりの手を避けるように背を向けると、後ろにいるゆかりのことをちらちらと気にしながら、着替えを始める瞑子。瞑子の着替えは気にはなったが、どうにか気持ちを抑えて視界の端にとどめる程度にしておく。それでも、瞑子の細くしなやかな肢体は目に眩しかった。
理性で堪え、お互いに着替えを終える。寝間着姿の瞑子というのも、なかなかに貴重なものだと思いながら、ゆかりは口を開く。
「氷室さんって、胸小さいですね」
「余計なお世話よ」
「Aですか?」
「……Bは、あるわよ」
「えー、本当ですかー? 私の見た感じ、Bまではいかないかと……」
「いやらしいわね、じろじろ見ないでよ」
ぷい、と横を向く瞑子。
そんな姿がまた可愛くて、ついからかいたくなってしまう。
「もっと、大きくしたいと思ったりはしないですか」
ゆかりの問いかけに、無言で応じる瞑子。
「そういえばよく言いますよね、好きな人に揉んでもらうと大きくなるって」
「別に、あなたに揉んでもらう必要なんてないから」
「あれ? 私が揉むなんて、一言も言っていないですけれど」
「えっ……あっ」
と、自分の発言の意味に気がついたのか、慌てて口を抑える瞑子。だが、その顔は既に真っ赤になっていた。
実はゆかり自身も驚いていたのだが、瞑子の慌てぶりをみて落ち着きを取り戻す。
「わぁ、氷室さん、私のこと好き、ってことですか?」
「ちっ、違う、そういうわけじゃないわよっ」
「だって今」
「ああああれは、あなたが目の前にいるから、あなたが揉もうとしているかと思ってしまっただけで、深い意味はないわっ」
どうにかクールに応じようとしているようだけれど、首まで赤くして、そわそわと落ち着きなく、パジャマのシャツの裾をぎゅっと握っている姿では、クールというよりキュートとしか言いようがない。
「素直に言ったらどうですか?」
「だから、違うと」
ゆかりが一歩近づくと、瞑子は一歩下がる。だが狭い室内、すぐに瞑子の背は壁につき追い詰められる。
そっと、肩に手を置く。上背のある瞑子に対して、ゆかりは見上げる格好になる。手に力を入れて肩をつかみ、ゆっくりと背伸びをしていくと、瞑子はギュッと目を瞑った。顔を背けるわけではなく、ただ細かに震えるようにして。
顔を近づけ、互いの唇が触れるか触れないかの距離で、吐息を吹きかけると。
わずかに瞑子の首が動き、唇が重なり合った。ゆかりは更に背伸びをして、少し強めに唇を、体を押し付ける。下着をつけていない寝間着同士、胸の柔らかさが伝わりあう。ささやかだが、確かな弾力がゆかりの胸に跳ね返ってくる。
「……ん、ふぅ……やっぱり私のこと、好きなんですよね?」
「ち、ちが」
「でも今、氷室さんの方からキス、してきましたよね。今までで初めてですね、私が言っていないのに、氷室さんの方からしてきたのって」
「だから、そ」
「じゃあ、今度は私の方からキスしますから。もし、私のことが嫌いだというのなら、拒絶してください」
「え」
再び、顔を近づけていく。
瞑子は明らかに動揺し、どうしたらよいのか困惑している顔。ゆかりは十分に時間をかけ、ゆっくりと迫っていく。
やがて。
唇が重なる。
舌を差し入れる。瞑子の唇は初め拒んでいるように閉じられていたが、何度か舌先で軽くノックすると、ゆるりと開かれた。中に侵入し、瞑子の舌に触れると、ビクリと瞑子の体が震えた。
怯えるような瞑子の舌を舐め、絡め、撫ぜていると、やがて徐々に瞑子の舌も動きが活発になっていく。機を見てゆかりは瞑子の舌を吸った。引っ張られるようにして、今度は瞑子の舌がゆかりの口内に入りこんでくる。生温かく、ぬるりとした感触が、ゆかりの歯ぐきをなぞってくると、背中がぞくぞくする。
瞑子の舌の動きはぎこちないが、それでも間違いなく、瞑子の方から舌でゆかりの口内を愛撫してきている。
興奮してきたゆかりは手を動かし、そっとゆかりの胸に這わせた。
「――っ!?」
瞑子の胸を包んだ瞬間、驚いたようにゆかりを突き放す瞑子。
腕で胸を隠すようにしている。
「私のキス、拒絶しなかったっていうことは、やっぱり私のことが好きなんですよね」
あくまで攻勢に出るゆかり。
「そうなんでしょう、瞑子?」
「なっ……!」
「やっぱり、これから二人の時は、瞑子って呼んでもいいですか?」
「何を勝手な」
「いいじゃないですか、ちゃんと他の人がいるときは今まで通り氷室さん、って呼びますから」
「だから勝手に決めないでちょうだい」
「駄目なの? め・い・こ?」
壁に手をついて間に挟むようにして、瞑子の顔を見上げる。
「お気に召さないなら、メイちゃん♪ にしようかしら。どっちがいい?」
「そんなの、両方とも」
「両方とも嫌、なんて我がまま言わないでくださいよ。さ、どっちにします? 答えがない時はメイちゃんに決定ですから」
「いい加減に」
「はい、あと5秒です。4、3」
「え、ちょっと」
「2、1……」
「っ、め、瞑子、で」
「ふふ、はい、瞑子」
「…………」
「返事はないんですか、人に呼ばれて。瞑子?」
「……な、何よ」
「優柔不断な瞑子には、私の呼び方は私が指定してあげるね。そうね、じゃあ今度から二人きりの時は、ゆかりお姉さま、にしましょうか」
「なんで、後輩のあなたのことをそんな風に」
「だから、二人きりの時だけですってば。それが嫌ならそうですねえ、ご主人様でもいいですけれど?」
「ば、馬鹿馬鹿しいっ」
ゆかりの腕を退けると、瞑子はゆかりの脇を足早に通り過ぎ、二段ベッドの下段の方に逃げるように潜り込む。
「私もいつも下の段なんですよね。上の段だと落ち着かなさそうだし、一緒に寝てもいいですか?」
「な、何を言っているの、駄目に決まっているでしょうっ」
毛布をかぶりかけた瞑子が、慌てて言い返してくる。
「えーっ、別にいいじゃないですか、ね、瞑子?」
「駄目よ」
「どうして、瞑子?」
「どうしても何も」
「いいじゃない瞑子。ねえ瞑子、せっかくなんですし、瞑子ってば」
「駄目よそんな、私、まだ」
「あら、まだ、何なんですか、瞑子。ねえ教えてくださいよ瞑子、瞑子?」
「そんな連呼しないでよ」
「ん? 何をですか瞑子? め・い・こ?」
耳元で、息を吹きかけるようにして問う。
「…………っ」
「え、なんですか瞑子?」
「一緒に寝るなんて恥しく出来ないって言っているのよっ……さ、ゆ、ゆかりお姉さま…………」
最後の方は消え入るような声だったけれど、それでも確かに聞こえてきた。
しかし、ゆかりは意地悪する。
「え? なんていいました、瞑子? 声が小さくてよく聞こえませんでした」
言いながら、ベッドの中に半身を入れ、瞑子の背中から抱きかかえるようにして腕を伸ばす。お腹のあたりを撫で、やがてゆっくりと下腹部へと移動していき、股間の大事な部分の方に指を少しずつおろしていく。瞑子の手が、ゆかりの手の甲に添えられる。防御しようとしているのだろうが、全く力が入っておらず機能を果たしていない。
このままではゆかりも辛抱し切れず突き進んでしまうと思っている中、羞恥に打ち震え、真っ赤な顔をしながら、それでも瞑子はようやくのことで口を開いた。
「だ、だから、一緒に寝るなんて出来ないって言っているの、ゆっ、ゆかりお姉さまっ」
言いきった途端、枕に顔を埋めてしまう瞑子。
ゆかりは内心、飛び跳ねるほどの感動と興奮。
それを押し隠すようにして、身を離す。
「分かりました、瞑子は恥しがり屋さんですねぇ」
梯子を上って、上のベッドに体を移す。
一緒の布団で眠ることはできなかったが、ゆかりとしては大満足であった。
週明けの月曜日。
朝から槙は上機嫌であった。
「あぁもう、スゥちゃんたら本当に可愛くて、本当に猫ちゃんみたいで、切なげな瞳で見つめてくるのが堪らなくて」
「はいはい、もう分かりました、何度も聞きましたからいい加減にしてください。もう、学校内なんですよ」
興奮気味の槙を、ため息交じりにあやすゆかり。
土曜のお泊まりの後、日曜日に顔を合わせてからずっとこんな感じなのである。嬉しいのは構わないが、知っている人同士の行為を簡単に告げられても、反応に困る。もちろん、槙は生々しいことを口にするわけではないが、それでも土曜の夜に槙と炎雪の間で何が行われたかくらい想像に難くない。
「もう、ゆかりったらまだ怒っているの? ごめんなさい、ゆかりのお気に入りの枕カバーを汚しちゃって」
「ああもう、いいですからっ」
部屋に戻ったゆかりを待ち受けていたのは、ある意味、惨状だった。
一体どんなプレイを行ったのか知らないが、シーツやらなんやらが酷い有り様。それも、ゆかりが使用している下段ベッドの方。
中でも、ゆかりの枕は被害が一番激しく。
「スゥちゃん、激しく噴いちゃって……あぁ、でもあの時のスゥちゃん、とってもかわいかったぁ、はふぅ」
もはや処置なしといったところだ。
「ゆかりだって、氷室さんと上手くいったんでしょう? 何せ一晩、同じ部屋だったんですものね」
「だから、何もありませんってば、もう」
ハイテンションな槙を半ば無視して足を進めていると、噂をすればなんとやら、前方に瞑子、炎雪のコンビの姿を発見した。
「スゥちゃん、氷室さん」
ゆかりが止める前に、槙が能天気な声をあげてしまった。
「……何かご用?」
いつも通りの表情、怜悧な声で瞑子が応じる。炎雪の方も、いつもと変わらず何を考えているのか分からない顔をしていたが、槙の姿を認めるとつかつかと歩み寄ってきて、いきなり顔を接近させる。
「わ、ちょっとスゥちゃん、他の人のいる前じゃ駄目だって言ったでしょう?」
何の前置きもなくキスしようとしてきた炎雪の顔を両手で挟み込んで止め、慌てたように槙が小声で言い聞かせる。
炎雪は一瞬、考えたようだったが、納得したのか素直に身を離す。
「うわ、一触即発、って感じだね」
「Aランク同士って、やっぱり怖いねー」
どうやら周囲の生徒からは、炎雪が槙に喧嘩を吹っ掛けに行ったようにでも見えたのか。ちらりと瞑子を見てみるが、やはり冷たい目をした瞑子になっている。
「炎雪、行くわよ」
無言で、一瞥することもなくゆかりの横を通り過ぎる。
その、刹那。
「炎雪みたいにキス、したくはなりませんか、瞑子?」
「――っ!? ちょ、あなたっ」
顔色を変える瞑子。
「大丈夫ですよ、遠いし、聞こえていませんよ」
くすりと笑う。
瞑子に対しては、強気で出た方がよいとわかっているから。権謀術策はともかく、こちらの方面に対してはとんと疎い瞑子だから。
「ほら、みんな遠巻きに見ているだけですよ。私と瞑子が、火花を散らし合っているように見えるんじゃないですかね。本当は、そんなんじゃないんですけど。ねえ、瞑子?」
「だ、からっ、声が大き」
わざと、先ほどより声を大きくしているのだ。瞑子の視線が落ち着きなくなってくる。
「あまりおどおどしていると、不審に思われますよ?」
「べ、別におどおどなんて……ちょっ、と!?」
周囲の生徒から、ざわめきの声があがる。
それもそのはず、瞑子の手をゆかりが掴んだから。慌てた瞑子が手を振り上げたところを、咄嗟に掴んだだけなのだが、周りから見たら攻撃に出ようとした瞑子に対し身を防いだゆかり、という構図に見えるかもしれない。
「このまま引き寄せてキスしたら、みんなどう思うでしょうね?」
「や、やめなさい、そんなこと。冗談でしょうっ?」
「私は別に、構わないですけれど……瞑子は?」
本当は、ゆかりの心臓も動悸が激しくなっているのだが、表情には出さないようにして瞑子を見上げる。
「馬鹿馬鹿しい」
顔をそらし、足早に歩いていく瞑子。手を掴んだままのゆかりを引っ張るようにして、階段の踊り場に身を滑り込ませる。すると今度は、ゆかりの方が瞑子の腕を引いて階段を駆け上がり、屋上の扉へと続く踊り場までやってきて、足を止める。
「ちょっと、何よ、こんなところに」
「こんなところだから、他に誰も来なくて安心ですから」
「ど、どういう意味……」
たじろぐ瞑子。
「たいしたことじゃないですよ。昨日、プレゼントした下着を身につけたところを見せて欲しいなって思っただけですから」
「何を言っているの貴女は!? そんなことできるわけないでしょう」
「拒否するというなら、そうねえ、これを私の知り合いに見せちゃうわよ?」
「そっ、それは――」
ゆかりが取り出したのは、プリクラだった。先日のデートで、槙がなかば強引に連れ込んで撮ったものだが、学校では見ることのできないようなプリティな瞑子の姿が写っている。瞑子にしてみれば、とてもじゃないが他人の目に晒せるようなものではなかった。
「友達と交換とか、普通ですよね?」
勿論、隣にはゆかりも写っている。
「くっ……」
歯噛みする瞑子。
「どうしますか、瞑子?」
「そ、それは……」
「はい?」
ひらひらと、プリクラを見せつける。
本来の瞑子であれば、プリクラを奪取していたかもしれない。それだけの俊敏さ、力を持っているのだが、ゆかりに対しては強気に出ることが出来ない。そう、二人きりでいるときは。
「わ、わかった、わよ」
「ふふ、そうこなくちゃ。あ、一瞬だけとか駄目ですよ、ちゃんと、十秒は見せてもらわないと」
「…………っ!」
俯き気味に、屈辱と羞恥に唇を噛む瞑子。
その手がスカートの裾を掴む。
「早くしないと、予鈴鳴っちゃいますよ? 時間までに出来なかったら、次は一分ですからね」
「くぅ……」
そろそろと、瞑子の手が上がっていく。ゆっくり、じわじわと太腿が露わになっていく。スパッツは穿いていないようで、まずは安心する。
瞑子の顔は、朱に染まっていく。
怒りか、悔しさか、恥しさか。
だがどれでも良い、ただそんな瞑子の表情が、ゆかりを痺れさせる。
そうして、やがて。
「…………」
瞑子の下着が、姿を見せる。
カットレースをあしらったピンクのパンティ。間違いなく、ゆかりがプレゼントをしたものであった。
あの瞑子が、羞恥にうち震えながら自らスカートを持ち上げて下着を見せてきている、そんな状況に圧倒的な快感を覚えるゆかり。
「それじゃあ、かぞえるわね。いーち、にーぃ」
「そ、そんな、早くして……」
もちろんゆかりは瞑子の言うことなど聞かず、殊更にゆっくりと数を数えていく。落ち着かないのか、もじもじとする瞑子。
「ろーく……えと、次は何だっけ?」
「ふざけないでよっ……」
恥しい姿を見せているからか、瞑子の声にも力が無い。
満足感を覚えながら見つめていて、ゆかりは気がついた。
瞑子のパンティの股の部分に、うっすらとだが染みのようなものが浮かびあがって来ていることに。
「最高だわ、瞑子……」
うっとりと見つめるゆかり。
瞑子自身は気がついていないかもしれないが、間違いない。最初に見た時は、そんな染みはなかった。
「も、もう十秒以上過ぎたわよっ、いいわよね」
スカートの裾を下ろす瞑子。
咄嗟に間合いを詰め、ゆかりは瞑子の手首を掴んだ。もう片方の手をスカートの裾の下に入れて内股を撫でる。
「何をするっ、や、約束は果たしたじゃない」
「そうね……でも、瞑子のココは」
「っ!? や、やめっ……」
細い脚だが、鍛えられてしなやかな筋肉を纏っている。指が肉に食い込む。
揺れる瞑子の瞳は左右に振れ、徐々に頬を上気させながらゆかりだけに届く小さな声で、絞り出すように言った。
「……や、やめて、ゆ、ゆかりお姉さ……ま」
次の瞬間、予鈴が鳴った。
階下から、人の気配が伝わって来る。
「ゆかり、何をしているの」
素早く身を離し、視線を転じると、槙が下から呼びかけてきていた。
「なんでもありません、今、行きます。じゃあ、戻りましょうか、瞑子」
「…………っ」
口元をキュッと締め、何も言わずに後ろからついてくる瞑子。
廊下まで出てくると、教室に向けて別れることになるのだが。
「次はもっと、瞑子が喜ぶようなこと、してあげますからね」
そっと、囁くように言うと。
瞑子は言葉もなく、ただ頬を赤く染める。
「ちょっとゆかり、どうかしたの?」
「別に、どうもしませんよ」
「本当に? あやしいなぁ~」
槙が色々と尋ねてくるが、ゆかりは去りゆく瞑子の後ろ姿を見つめて。
「はぁ……か、可愛いっ。や、やばい、可愛すぎて漏れそう……っ」
完全に脳内がトリップしているゆかりは、内股になってもじもじと身を震わすことしかできないのであった。
おしまい