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【はやて×ブレードSS(順×綾那)】背中合わせ

更新日:

 

~ 背中合わせ ~

 

 

 日曜の昼、外は快晴、言うこと無しの天気なのだが、目を室内に向けてみればいつものごとく恋愛シミュレーションゲームのキャラに罵声を浴びせている綾那の姿。
「綾那ー、休みの日に朝からゲーム、しかも美少女ゲームなんて不毛だと思わないの?」
「思わない」
 振り向こうともせずに答える。
 画面では、綾那が嫌いな『甘えん坊妹タイプ』のキャラが、主人公に甘えたことをお願いしていて、綾那がイラついているのが手に取るように分かる。
「くっそ、こいつ邪魔だから出てくるなってのに」
「ねえ綾那ってばー、落とすなら生身の人間相手にしなよ。ほら、幸いなことにすぐここに順ちゃんという魅力的なヒロインがー」
「ああ落としたいな、地獄に」
「くはーっ、昼から厳しい一言」
 立ち上がり、伸びをする順。
 綾那のことを色々と言ったものの、実は順とて暇を持て余している。休みの日とはいえ、学園の寮住まいであって特にすることもない。トレーニングをするほど真面目ではないし、勉強する気も起きない、外出するほどお金があるわけでもない。
「まあいいや。とりあえず洗濯物でも干しますか」
 寮での生活は、食事以外の殆どは自分達でやらなくてはならない。洗濯もその一つで、制服などはクリーニングに出すが、私服となると各自で実施することになる。クリーニングはお金がかかるので多くの者は寮に置かれている洗濯機を使用するので、休日ともなると洗濯機の待ち行列が出来るのだ。
 だから順は、朝早めに行って順番を予約していた。忍者は抜かりがないのだ。
 洗濯籠を持ってベランダに出て、干し始める。
「洗濯か……あたしもやらないと駄目だな」
「あ、大丈夫。一緒にしといたげたからー」
「おお、気が利くな……ってちょっと待て!」
「あやなのぱんつは水玉ぱんつ♪ パステルカラーがおすきですっね、どがはぁっ!!」
 順が機嫌よく歌など口ずさみながら洗濯物を干していると、背中を激しく蹴り飛ばされてベランダの手すりに顔面を強打した。
「おぶっ、は、鼻がっ!」
「まったく、油断も隙もないな」
 洗濯籠の中から自分の下着を取り出して干す綾那。どうせ一緒に干すのだから変わりないと言うのに、そこまで嫌がることもなかろうに。
 見上げれば、元気よく顔を見せている太陽。この陽気ならば、陰干しとはいっても、下着が乾くのも速いことだろう。
 寮暮らしで周囲は同性ばかりとはいえ、あまりに恥しいことはできない。一応、タオルを外側に干して、下着が直に見えないようにする。
 もっとも、中にはやっぱり安心して特に警戒もせずに干している子も多いわけで、こうして晴れた日に各部屋のベランダを眺めてみれば、色々な下着が干してあり、意外な好みが分かったりするものだ。
「……最近現れているという変質者は、やはりお前だったか」
「ご、誤解ですよ、綾那さん」
 後ろから首を絞めにかかってくる綾那。
 背中にあてられる柔らかな感触が気持ちよいが、そのうち意識が遠くなって別の意味で気持ちよくなってくる。
「……って、マジ落ちるから!?」
 直前のところで、腕から抜け出す。
 綾那も、本気で締め落とすつもりまではないから、簡単に抜け出すことができる。たまに、本気でしばかれるときもあるが。
「まったく」
 髪の毛をかきまわしながら、綾那は再びテレビモニタの前に陣取り、ゲームを再開する。順は、肩を落とす。
「あーあ、せっかく天気は良くて絶好のお出かけ日和なのに。順ちゃん、寂しい」
「どこか徘徊してくればいいだろ」
「またそんな、人を怪しい人物みたいに」
「十分に怪しいだろう」
「綾那ーん、デートしようよ、デート」
「なんであたしがお前とデートしなくちゃならんのだ」
「そんなゲームの女の子なんかより、生身の身体のほうが絶対にいいって」
 無視される。
 こういうとき、無視をされるのが一番へこむ。
 力なく、床に仰向けになって寝転ぶ順。
「そんなところで転がっているな。死体が転がっているみたいで、鬱陶しい」
「…………」
「おい、順」

「だって力が出ないんだもーん」
「お前な」
 大きく息を吐き出す綾那。
 テレビの画面からは、甘ったるいアニメ声が響いてくる。
「起きろ」
「順ちゃんの体力は底を突きました。目覚めるには、綾那のキスが必要なのです」
「阿呆か」
 冷たい声をかけられる。
 それ以後は、無言。
 ゲーム機が唸る音と、ゲームの女の子が喋る声、そして時折聞こえてくる鳥の囀りや、寮にいるほかの子のよく聞き取れない話し声。
 せっかくの休日だというのに、うら若い乙女が何をしているのだろうか。

 こうして目を閉じて横になっていると、陽気もあって眠くなってくる。

 昼寝をするのも、悪くないかもしれない。

 ゆったりと、何も考えずに……

 襲い掛かってくる睡魔に身を委ねそうになる直前、やっぱり寝ちゃうのは勿体無いかな、などと思って順は目を開けた。

「――――」

 すると、なぜか綾那の顔が目の前にあった。上下逆さまの向きで、髪の毛が順に落ちかからないように手で撫で付けながら、ゆっくりと顔を近づけてきているところだった。
 眼鏡の先の瞳と、視線が絡む。

「あや、な?」
「――――っ、ばっ」

 素早く、身を離す綾那。
 順は目をぱちくりさせながら、ゆっくりと身体を起こす。
「綾那? 今、何を……」
「な、何もしていない! だ、大体、寝ていたんじゃないのか!?」
 綾那の顔が、真っ赤だった。
 こんなにも狼狽している綾那を見るのは、珍しかった。
 同時に、脳裏に閃くものがあった。まさか、とは思ったけれども、それ以外に考えられない。
「綾那、もしかして……キス、しようとしていた?」
「そ、そんなわけないだろうっ!」
 強く反論するが、態度からして間違い無さそうだった。先ほどの順の言葉を真に受けたのかどうかは分からないが、順の唇を奪おうとしていた。
 それを理解すると、目の前の綾那に負けず劣らず、順の顔にも血が集まってくるのが分かった。
 お互い、顔を赤くしながら見つめあう。
 まともに顔を見るのは恥しいけれど、先に顔を逸らしたら負けてしまうような気がして、でも結局はお互いに我慢できなくなって同時に横を向く。
 なんだろう、この気まずさは。
 今までは、悪ふざけをしたところで綾那の激しいツッコミを受けて終わるだけだったが、こうなるとどう反応してよいものか、順にも分からなかった。
 先ほどの綾那の行動は、なんだったのか。
 順が眠ってしまったのを確かめようとしただけなのか、あるいはそれとも本当に、順の言葉通りにキスしようとしていたのか。
 あとほんの少し、目を開くのが遅かったら、綾那のあのうす桃色の唇の感触を味わうことが出来たのだろうか。
 考えれば考えるほど、恥しくなってくる。
 綾那は綾那で、頬を朱に染め、横を向いて黙ったきりである。
「……あ、綾那」
「な、何よ」
 近づく。
 綾那は硬直したように、動けないでいた。
「ば、ば、バカ、何、を」
 後ろに身をそらすが、追うようにして重心を前に移してゆく順。
 目の前には、顔を赤くした綾那。

 順は。

「あ、あたしとお医者さんごっこしよう!」
「アホかーーーーーーっ!!」

 綾那懇親の右ストレートが頬に食い込む感触。
 次の瞬間には床を転がり、鼻血を噴き出しながら大の字になって転がっていた。

「す、すまん。つい、全力で」
「い、いえ……あたしが悪いから」
 頬をおさえ、ティッシュを鼻につめながら起き上がる。
「本当だな。まったく、なんでわざとあんな」
「にゃはは」
 笑いを浮かべる順を見て、綾那はゲームのコントローラを手に取り、再びゲーム画面へと向き直った。
 順は這うようにして、綾那の方に近づく。
 一瞬、身を硬くする綾那であったが。
「よっと」
「……おい、重いぞ」
「そお?」
 綾那の反対側で、綾那の背中によりかかるようにして座る。反発する綾那が押し返してきて、やがて中間地点でバランスが取れる。
 かかる圧力が、どこか心地よい。
 床に置いてあった本を手に取り、膝の上で広げる。
「何、読んでいるんだ?」
「知りたい?」
「どうせいかがわしい本だろう。いい」
「なによー、綾那から聞いてきたくせにー」
「気が変わった」
 晴れ渡った、とある休日。

 聞こえるのは、テレビからのゲームの音楽と、コントローラのボタンを押す音。たまに、他の学生の喋り声。

 感じるのは、互いの髪の毛がからまる感じと、背中の温もり。

 

 たまにはこんなのも悪くないと思いながら、後頭部で綾那の頭をグリグリと押してみる順なのであった。

 

 

おしまい

 

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