書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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ノーマルCP マリア様がみてる 江利子

【マリみてSS(江利子×祐麒)】イエロー・マジック・オーナメント <第五話>

更新日:

 

~ イエロー・マジック・オーナメント ~
<第五話>

 

 

 一体、何が起きているのか咄嗟には理解できなかった。
 目の前にいるのは間違いなく蔦子で、ほんのりと良い香りが漂ってくるのはおそらくシャンプーの匂いで、シャワーを浴びていたのか薄暗い中でも肌が少し火照っているようにも見える。
 そんな蔦子が祐麒のすぐ隣で横になっていて、見つめてきている。
 タンクトップのシャツの胸元からは膨らみが覗いて見え、ショートパンツから伸びた脚が祐麒の膝にあたっている。
「あ、あの……へ、部屋間違っているんじゃない? ここは俺と笹山の」
「ううん」
 寝たまま軽く首を横に振る蔦子。しっとりと、まだわずかに水分を含んでいるらしい髪の毛が揺れて首筋に張り付いている。
「間違っていない。祐麒くんの部屋だって知ってて来たから」
「え…………」
 ごくり、と唾を飲みこむ。
 ふと、先ほどからずっと柔らかな蔦子のお腹を触っていることに気が付いた。
「あ、ご、ごめんっ!」
 慌てて手を離す。
「……別に、いいのに。それくらい」
「えと、ど、どうしたの、急に」
 問うと、蔦子は腕を使って軽く上半身を起こし、上から祐麒のことを見降ろしてきた。
「……言わないと、分からない?」
「え、そ、そりゃあ……」
 夜遅く、男のベッドの中に潜り込んできた女。祐麒だって意図が分からないというわけではないが、合宿中で、他の人間とも同室だというのに、そんなことをしてくるだろうか。
「あの、つ、蔦子さん……」
 どうにか少しでも離れようと思ったが、気配を悟ったのか蔦子が祐麒の胸の上に上半身を乗せてきた。
 薄いTシャツを通して、蔦子のむっちりとした胸の感触が伝わってくる。
「ねえ、祐麒くん……ええと、あの」
 月明かりにうっすらと浮かぶ蔦子の顔は、頬が赤らんで見える。瞳も、きょろきょろとどこか落ち着きがない。大胆にも夜這いをかけてきた蔦子だが、余裕があるわけではないのだ。
「据え膳喰わぬは、っていうじゃない」
「だ、駄目だって蔦子さん」
「どうして? 私は……構わないのに」
 ここまでいきなり積極的になってきた蔦子に、祐麒は驚きを隠せない。
 一方で蔦子とて恥ずかしいが、友人達に背中を押され、こうして一発逆転を狙いに来たわけで、引き下がるわけにはいかない。
 既に祐麒には江利子という相手がいるわけで、それでも諦められないならば強引に奪うしか方法はない。別れるまで待ち続けるというのもあるが、蔦子の性には合わないし、江利子にあれだけ言ってのけ、いわば宣戦布告した身でそんな受け身はありえない。
 本当に本気なら、身体でメロメロにしちゃうしかないというのが、大友の考えだった。宝来は、略奪愛はどうかと否定的だったが最終的には蔦子の味方だった。
 玉砕する可能性は高い。だが、何もしないで引き下がるわけにはいかない。江利子が割り込んでこなければ、きっと大学が始まってすぐの段階で約束のデートは果たされ、二人の仲は自然と進んでいたはず。最近、祐麒と何度かデートをしてその思いを確実にした。
 大友と宝来に笹山を引きつけてもらい、こうして機会を作った。シャワーで体を清め、勝負下着を身に付け、勢いをつけるためにお酒も少し飲んできた。あとは、思い切って当たるだけ。
「ちょ、ちょっと蔦子さん、どいて……」
 上にいる蔦子を押しのけようと、祐麒は手を伸ばす。肩のあたりをつかもうとして、少しずれて胸の膨らみ部分に手が当たる。
「あ、ごご、ごめんっ」
「……い、いいよ、触っても」
 慌てて離す祐麒だったが、手首を掴まれて逆に胸に導かれた。
「…………っ」
 布地を通しても、手の平に吸い付いてくるような手触り、そして零れ落ちんばかりのボリューム。下着をつけていないことも分かる。
 蔦子の色香に頭がくらくらする。
 このまま、蔦子の体にむしゃぶりつきたい。だが、江利子の顔が脳裏に浮かぶ。
「や、やっぱり駄目だって、蔦子さん」
「何よ……こ、こんなにしているくせに」
「うっ……!」
 蔦子が膝をぐりぐりと動かす。そこには、既に大きくなった祐麒の股間があたっていた。
「だ、駄目だってば」
 強めに肩を押し返すと、蔦子の圧力が消えた。
 どうにか退いてくれたのかと思ったが、そうではなかった。
「え……つ、蔦子さんっ!?」
 蔦子は祐麒の下腹部のあたりに陣取り、ズボンを強引にずり下げ、さらにトランクスに指をかけた。
 止める間もなくトランクスのゴムを引っ張られ、暴れ馬のように飛び出す愚息。びっくりしたように見つめた蔦子だが、落ちかかる髪の毛を左手で掬い上げ耳にかけ、意を決したように顔を近づけ、可憐な唇を先端部分に接近させて艶めかしい舌を伸ばす。息がかかり、舌が敏感な部分に触れようとして――

『……きゃあああああああああああっっ!!!!』

 絹を裂くような悲鳴が轟き渡ったのはその時だった。
「な、な、なんだなんだっ!?」
「え、えっ?」
 祐麒は跳ね起き、蔦子も戸惑ったようにキョロキョロしている。
 何事か分からないが、とにかく尋常ならざることが起きているに違いない。祐麒は悲鳴の発生した場所へ向かおうとして、下半身がとんでもない状態になっているのに気付いて慌てて直し、部屋から飛び出た。
 すると、他の廊下からもメンバー達が顔を出していた。
「今の声、誰? 何があった?」
「いや、俺も今出てきたばかりなんで」
「と、とにかく全員いるか、探そう!」
 ドタバタと騒がしくなる別荘内。
 てんやわんやの騒ぎであったが、真相はあっけないものだった。
 笹山とともに別荘の外に出ていた宝来が、不意に飛び出してきた動物らしきものに驚いて悲鳴をあげたのだ。元々怖がりのところ、夜の怪談話があり、ちょうど宝来の足元あたりを通り過ぎていったので過剰に反応してしまったのだ。
 真相が分かると、宝来は顔を真っ赤にしてひたすら平謝りだったが、笑いごとで済んだので誰も気にしていない。
 祐麒も、とんでもないことになりかけていたのを曖昧にしてくれて、非常に助かっていた。あのまま続けられたにしろ、祐麒が止めたにしろ、気まずくなっていたことは間違いないだろうから。
 蔦子は微妙な表情を見せながらも、大友、宝来と連れ立って部屋に戻って行った。
「くそーっ、せっかく散歩に連れ出せたのにな」
 首を捻りつつ戻ってくる笹山。
「……笹山、サンキューな」
「は?」
 こうして、合宿一日目を終えた。

 

 二日目の午前中はサークル活動に精を出した。
 先に遊んでしまうと、疲れてやる気をなくすからだ。
 祐麒たち一年生は五人で集まり、会誌に向けて話し合いをした。どのような作品を作るか、アイディアを出しあい、どのような役割分担でいつまでに何をするか。
 ここで意外に活躍したのが宝来である。ミステリーが好きなのか、それともこの手の活動が好きなのか、幾つもの案を出してくれた。
 誰よりもそつがないのが蔦子で、役に立っていないのが大友と笹山である。宝来はアイディアこそ出すもののリーダーシップには欠けるので、なんとなく祐麒がとりまとめ、それを蔦子がサポートする感じに自然となっていた。
 席も隣であり、相談していると必然的に距離が近くなるので、どうしても気になる。時に腕や足が触れそうになると、必要以上に反応しそうになるのをどうにか堪えているという状態だ。

 一方で蔦子も、表情にこそ出していないが内心は穏やかでない。勢いを出すためとはいえ少しお酒を飲み過ぎたか、まさかあそこまで突っ走るとは自分でも思っていなかったのだ。いきなり口でしようとするなんて、単なる痴女だと思われなかっただろうか。そして、あんな状態で終わってしまったのは、良かったのか悪かったのか。簡単に引くわけにもいかず、こうして今日も微妙な接触アプローチをしているものの、やはり昨夜のことが気になってしまう。
 宝来はしきりに謝ってきたが、好きでもないのに笹山の気をひきつけてくれたのだ、文句など言えるわけもない。
 こうして表面的には和やかに、内心では微妙に荒れたまま午前中の活動を終えた。

 昼食を挟んで午後は海に遊びに出ることにした。
 一年生五人は水着に着替えて砂浜に出て行く。自由行動なので他の学年はどうしているかというと、二年生の二人はナンパに出かけ、江利子と美玲は日陰で優雅に読書にいそしみ、鵜久森は一人でどこかに消え、四年生二人は釣りに行った。
 祐麒達はビーチバレーを楽しむ。
 男女二人のペアに分かれ、余った一人が審判をする。
 大友も宝来も意外と運動神経が良かったが、運動音痴の蔦子は一人で散々に足を引っ張ったが、それでも素人で二人制なら大して差が出ることもなく、問題なく楽しむことが出来た。
 蔦子とペアを組んだ時、ボールを追いかけて接触してしまったときは、ちょっとばかり気まずくなったりもしたが。

 遊び終えて戻った後は別荘内で休憩し、夕食後に砂浜に出て花火を楽しんだ。
 一人で複数の花火を同時に持って騒いでいる笹山を横目で見て苦笑いしつつ、祐麒も新たな花火に火をつけようとする。
 隣に、誰かがやってくる気配。
 目を向けると、意外にも美玲が花火を手にして立っていた。
「あ、ど、どうも」
 頭を下げるが、美玲は反応しない。蝋燭から花火に火をつけ、派手に火花を弾け飛ばしている花火を無表情に見下ろしている。花火の光に浮かび上がる顔が、どことなく憂いを帯びて見える。
「……私が言ったこと、覚えている?」
「え?」
 花火の弾ける音に邪魔され、よく聞こえなかった。美玲は、もう一度同じことを口にした。
「えと、それって……」
「いい加減にしないと、私は本当に怒るわよ」
「なっ……」
 眼鏡の下にのぞいて見える目が、ぞっとするほど冷たい。
「お、俺は別に、何もしていませんよ?」
 蔦子とのことは未遂で終わっている。
 多少の後ろめたさはありつつも、事実だけにそう答える。
「そう。福沢くんは、そう思っているのね」
「え。どういう、意味ですか?」
 問い返すが、美玲は口を開かない。
 そろそろ終わりかけ、勢いのなくなった花火を見つめている。
 やがて、完全に花火の明かりが消える。
「……分からないようなら、もう駄目じゃない?」
 突き放すように言うと、美玲はゴミとなった花火を持って離れて行った。呆然と、その後ろ姿を見送る。
「なんで……どういう意味だ」
 分からずに、項垂れる。
 楽しく続いている花火の中で、祐麒の気分は落ち込んでいた。

 花火を終え、リビングで先輩達を交えてミステリー談義に耽る。といっても、祐麒を始めとする一年生たちは、実はそれほど詳しくないのだが。先輩達は一年にもわかりやすい題材を選んでくれたが、酒が進むと徐々にマニアックな内容となり、ついていけなくなってくる。
 夜も更け、なんとなく流れ解散的に一人また一人と減っていくが、それでも会話を続けている者達もいる。祐麒も適度につきあってから部屋へと戻った。最後の方は段々と単なる飲み会のような感じになっていたが、そんなもんだろう。
 笹山はまだ先輩達と飲んでいたから、部屋には祐麒一人しかいない。どうしても昨夜のことを思い出してしまい、後ろを振り返ってみるが、当たり前だが蔦子はいない。
 笹山が戻ってくるまで鍵をかけるわけにはいかない。かといって、今さらリビングに戻る気も起きないし、外に出かけるには時間が遅すぎる。
 昨日のようなことを起こさないようにするためには、あとは起きていて不意をつかれないようにするくらいだ。昨日は寝ていてベッドへの侵入を許したが、こうして起きていればそのようなことも発生しない。
 昨夜のことは衝撃的だった。まさか、蔦子があのような行動に出るとは思わなかった。そして、行動の真意といえば一つしかない。
 宝来の一件であやふやになってしまったが、蔦子が本気であるならばあやふやなまま終わるということはあるまい。必ずまた、接触を試みてくるだろう。その時、祐麒はどうすればよいのか。
 江利子という恋人がいるのだから、毅然として拒絶するのが正しい態度なのだろう。こういうときに無駄な優しさは相手を一層傷つけるだけ。だが、いまだに江利子とは完全な恋人なのか疑問が残っている。
 ならば、重要視するのは自分自身の気持ち。

「……俺がしっかりしないといけないんだよな」
 分かってはいるのだが、相手のことも考えてしまう。この辺が祐麒の、良く言えば優しい所であり、悪く言えば八方美人で優柔不断な所である。
 色々なことを考える。だが考えているうちに、散々遊んだことによる疲労、加えてアルコールが入っていることもあって、いつしか睡魔に包まれてゆく。目を開けようとするが、瞼が重くて開かない。
 ベッドに横になり、知らず知らずのうちに眠りへと誘われてゆく。意識が飛んではふと目が覚める、そんなことを何度か繰り返しているうちに意識も途絶える。
 次に意識がうっすらと戻った時、特に何も考えていなかった。ここまで来ると眠くて余計なことなど考えられなくなる。目を閉じ、そのまま再び眠ってしまおうとしているその時、ふと人の気配を感じた。
 ベッドで祐麒が寝ているすぐ横に誰かがいる。
 気持ち良く寝ようとしているのだから放っておいてほしい、無視して眠りの世界に舞い戻ろうかとしたとき。
 体に触れられ、瞬間、昨夜のことが脳裏によみがえってきた。
 またしても来たのか。
 このまま身を任せてしまうのはまずいと咄嗟に考える。
「――ちょ、だから、そういうのはもうダメだって!」
「きゃあっ!!」
 勝手に体が動き、身を寄せてこようとしていたところを腕で押しのけていた。しかし、半分寝ぼけていて力の加減ができなかったせいか、想定外に相手は勢いよくベッドの下に転がり落ちてしまった。鈍い音が響く。
「あっ……ご、ごめんっ……!」
 ゴスン、というよう思いのほか重い音に驚き、慌てて身体を起こしてベッドの下に目を向け、祐麒は言葉を失った。
 頭をおさえて呻いているのは、蔦子ではなく江利子だった。
「うっ…………」
「えっ! ご、ごめん江利ちゃん、大丈夫っ!?」
 祐麒が手を差し伸べようとすると、ビクリと怯えたように体を縮ませる江利子。
「違うんだよ、あの、今のは蔦子さんと間違えて……」
「蔦子ちゃんと? なんで蔦子ちゃんと間違えたの?」
 額を手でおさえたまま、祐麒を見据えてくる江利子。
「なんでって、それは……」
「やっぱり、蔦子ちゃんとはそういう仲だったんだ。祐麒くんのベッドに潜り込んでくるような……」
「ち、違う。誤解だって、そんなんじゃないって」
「じゃあ、なんで昨夜は祐麒くんの部屋から蔦子ちゃんが出てきたの?」
「え……」

 江利子の言葉に固まる。
「昨夜、宝来さんの悲鳴が響いて、驚いて部屋から外に出たすぐあと、この部屋の扉も開いて祐麒くんが出てきた。そうしたら、その少し後に蔦子ちゃんも出てきたのを見たのよ。蔦子ちゃんの後には誰も出てこなかったし、誰も部屋の中に残っていなかった。どういうことだったの」
「な、何もないって、変なことはしていないよ」
「じゃあさっき、私を蔦子ちゃんと間違えて、『そういうのはもうダメ』って言ったのは何? そういうのって何? もうダメってことは、一度はしたってこと?」
 疑いの目を向けてくる江利子。そんな表情を見たのは久しぶりのことだった。前は、麻友との仲を誤解されたときだった。その時と、同じような顔をしている。
「…………っ!」
 言葉の出ない祐麒に何を思ったか、江利子はいきなり立ち上がって部屋を出て行こうとした。
「待って、江利ちゃん!」
 逃げる江利子を捕まえようと追いかけ、部屋を出ようとしたところで。
「――ぐほっっっ!!?」
 江利子によって勢いよく閉じられた扉がモロにぶつかり、もんどりうってその場に倒れてしまった。
 しばし悶絶した後、ようやく立ち上がって江利子の部屋に向かったが遅かった。部屋の扉は閉じられ、その前に美玲が立ちふさがって祐麒のことを冷たい目で見てきている。
「紺野先輩……」
「色々言いたいことはあるだろうし、こっちも言いたいことはあるけれど、今日はもう帰って頂戴」
 踏み込む隙もないような、冷たく凍りつくような声。
 祐麒は何かを言おうとして、でも何も言葉にすることが出来なくて、肩を落として美玲に背中を向ける。
「すみません……また、出直します」
 先ほど扉にぶつかって痛む体を引きずるようにして歩く。その背中に、美玲の視線が突き刺さっているのが分かる。
 どうして、こんなことに。
 そのまま最悪の夜を過ごして最悪の朝を迎えるしかない祐麒だった。

 

第六話に続く

 

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