書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(江利子×祐麒)】イエロー・マジック・オーナメント <第六話>

更新日:

 

~ イエロー・マジック・オーナメント ~
<第六話>

 

 

 最悪の気分で目覚めた三日目の朝。
 怯え、絶望したかのような江利子の表情。江利子にあんな顔をさせてしまう自分自身が呪わしい。
 謝り、早く誤解を紐解きたいと思っているのだが、朝から美玲がずっと一緒にいるために二人で話す時間が取れないし、江利子も視線をあわせようともしてくれない。
 合宿で人数も多いから祐麒と江利子の異変に気付いている者はいなさそうだが、長い間続けばさすがにそうもいかないだろう。しかし、何も出来ないまま午前中が終わり、昼食をとり、午後になってしまった。

「――洞窟へ遊びに行かないか?」
 午後になってしばらくしてからそう言い出したのは、鵜久森だった。
 洞窟というのは、鵜久森が怪談話をした場所のことだ。そんな場所、大丈夫なのかとも思うが、鵜久森が地元の人に確認して特に危険などないことは確認しているとのこと。広めの通路を歩いていれば迷うようなこともないし、妙な生物がいることもない。ミス研として、不思議な話のあった場所が目の前に存在していて足を向けないなどありえないと、会長の鵜久森は力説する。
「いやいやいや、絶対にいかないですからっ!!!」
 全力で否定しているのは、この手の話がNGだと判明した宝来。大友も宝来を放っておくわけにもいかず不参加。二年生の二人組は今日も無駄にナンパに精を出しており不在、四年生の二人は面倒くさがってパス。
 結果、洞窟に入ってみることになったのは鵜久森、江利子、美玲、笹山、蔦子、そして祐麒の六人となった。
「まあ、男女ペアになれるし、大人数で入っても情緒がないから良いか」
「言っておくけれど男女ペアになんかならないわよ」
 鵜久森の言葉を冷たく一蹴する美玲。肝試しというわけでもないので、六人で適当に洞窟の中に足を踏み入れた。
 外はうだるような暑さが続いているが、洞窟の中は入った瞬間にひんやりとした空気が体に触れ、むしろ心地よいくらいだった。
 持ってきた懐中電灯で中を照らしてみると、確かに人が歩くには十分の広さがある。足元が濡れて滑りやすいことに気を付ければ、特に危なそうには感じられない。
「なかなか、雰囲気はあるよなぁ」
 呟く笹山。
 鵜久森の話を聞いていたせいか、特段、変わったところがあるわけでもないのだが、なんだか不気味に感じられてしまう。静かで暗くてひんやりとした洞窟なのだから、不気味でないわけがないのだ。
 更に歩を進めると、少し広い場所に出た。
「へぇ、ここは少し、光が入るのか……?」
 鵜久森の言うとおり、ほのかに明るく感じられる。天井に小さな隙間でもあるのか、そこから僅かに光が入っているようだ。洞窟の岩が光を浴びて浮かび上がる様は、どこか神秘的にも思える。
「綺麗ね……」
 蔦子も見入っている。
 明るいということもあり、しばしその場で周囲を見回ってみた後、さらに奥へと進んでみることにした。道もまだ細いわけでもないので、不安も覚えない。
「こっちだ」
 緊張感も少しは薄れてきたのか、歩く並びも乱れてきた。その時、祐麒はチャンスを見つけた。
 先ほどまで美玲と腕を組むようにして歩いていた江利子だったが、今は美玲と少し離れていた。更に、明るい場所から暗い場所に再び入り込んで視界は悪く、祐麒は最後尾を歩いていた。
 少し前を歩く江利子の腕をつつく。振り返った江利子が口を開く前に、口の前に人差し指を立てて喋らないようにとジェスチャーで示す。不審げな顔をする江利子の手首をつかむと、皆が進んだのとは別の道にこっそりと歩を進めた。
 誰も気が付かなかったようで、誰も追ってこない。
 進んでいくと、またしても少し広い場所に出たが、今度の場所は光の指す場所ではなく、祐麒が持つ懐中電灯の光だけが頼りだ。
「……どうしたの、いきなり」
 祐麒の手を振りほどき、江利子が問いかけてくる。
 その美しい額には絆創膏が貼られている。昨夜、祐麒にベッドから突き落とされたときの怪我だろう、痛々しい。
「ちゃんと、話をしないといけないと思って」
「話って……」
 祐麒から身を守ろうとするかのように横を向き、腕で体を掻き抱くようにしている。少しずつ、祐麒から距離を取るべくすり足で移動する。
 江利子は今まで、祐麒が何を言おうが自ら近づいてきていた。それが、こんな風に離れていく。
「くっ…………」
 胸が抉られるようで、苦しい。
「江利ちゃん」
「話なら、近づかないでも出来るでしょう」
 こんな拒絶は初めてだった。
 全ては祐麒が曖昧な態度を取り続けてきたことに起因するとはいえ、哀しくなる。
 すぐに口を開く気になれず、江利子を刺激しないように距離を取ったまま歩く。そうして江利子の背中を見る位置まで歩き。

「あの――――」
 いざ口を開いた瞬間、濡れてぬめった足元が滑り、体がフワリと宙に浮いたような感覚。段差でもあったのか、はたまた穴でも開いていたのか、いずれにせよ声を上げる前に顎と額をしたたかに打ち付けてしまった。
「きゃっ!?」
 江利子にとっては、不意に暗闇に落とされた感覚だった。
 懐中電灯は祐麒しか持っておらず、その祐麒が足を滑らせて転んで懐中電灯のスイッチが切れたからである。
 背中を向けていたこともあり、祐麒が足を滑らせたと知らない江利子はいきなり闇の中に突き落とされて狼狽した。
「え……ちょ、ゆ、祐麒、くん?」
 江利子の声を耳にして、祐麒は意識を取り戻す。頭を打った衝撃で、わずかではあるが気を失っていたらしい。
 声を出そうとするが、倒れた時にどこかぶつけてしまったのか、うまく声が出せない。周囲を手で探ってみるが懐中電灯も見つからない。
「や、やめてよ祐麒くん、冗談なんで…………しょ?」
 闇の中に響く、弱々しい江利子の声。
 早く安心させたくて、なんとか起き上がろうとする。どうやら、段差になっている部分で足を滑らせて落ちてしまったらしい。幸い、高さ自体はそれほどでもないので、なんとか這い上がることは出来そうだが。
「ちょ、ちょっと祐麒くん? いないの、ねえ……」
 怯えたような江利子の声。
「ほ、本当は、いるんでしょう?」
 江利子の気配が近づいてくるのを感じる。闇の中でも、おそるおそる動いて祐麒のことを探しているようだが、下手をすると祐麒と同じようなことになりかねない。祐麒は身を起こして岩に指をかけて上がろうとする。濡れた岩は滑るし、転んだ拍子に何かが手に絡みついてそれも滑る。
「や、やだ、嘘でしょ? 祐麒、くん……」
 明らかに心細くなっている声だ。江利子のこんな声を聞いてなどいたくない。
 腕に力を入れて上半身を引き上げる。更に手を伸ばすと、硬質な何かに触れた。どうやら懐中電灯のようだ。
「うぅ…………」
 怯え、焦っている様子が伝わってくる。
 それはそうだ、どんなに気丈だといっても真っ暗な洞窟に一人で取り残されれば、恐怖に包まれる。江利子はごく普通の女の子なのだから。
「……ゆ、祐麒く…………きゃっ」
 足を滑らせたのか、江利子が転んだ気配を感じた。
「うっ……痛…………」
 江利子の名を呼ぼうとしたが、口や喉を変にぶつけてしまったせいか、くぐもったうめき声のような物しか出なかった。
「ひっ!? な……何っ?」
 江利子を怯えさせてはいけない、自分だということを認識させる必要がある。懐中電灯をつければよいではないかと、ようやく思い当たる。
 先ほど触れた懐中電灯を手探りで探す。すると、江利子が遠ざかろうとする気配。祐麒は咄嗟に手を伸ばした。
「ひいぃぃっ…………!!?」
 江利子の悲鳴。
 同時に、懐中電灯の明かりがつき、江利子の姿を視界にとらえる。
 転んでしまったので、四つん這いになっている江利子。その靴を祐麒の手は掴んでいて、更に腕に絡みついていた海藻が足首から脛のあたりに張り付いている。
「ひ……あ…………」
「え……?」
 と、祐麒の見ている前で。
 江利子のクロップドデニムの股間の中心部あたりに黒い染みが浮かび、周囲に広がり、太ももの方に筋を作ってゆく。更に、生地で吸収しきれなかった分が溢れ、デニムから直接、地面に滝を作って零れ落ちている。
 地面から跳ねた水滴が祐麒の腕にかかり、生暖かさを伝えてくる。
 呆然と見つめる中、随分と長い間、江利子の放出は続いたような気がした。
 ようやく止まると、江利子は自ら作り出した水たまりの上に力なくぺたんとお尻を落とし、そして。
「……ふぇえぇぇぇんっ、う、うぁぁぁぁぁんっ」
 泣き出した。
「ふぇぇぇ~~~っ、ぇっ、ひぐっ、あ、うぁ」
 まるで幼子のように、ただ、泣く。
「え、江利ちゃん!!」
 ようやく我に返った祐麒は、慌てて江利子に這いより抱きしめた。
「ごめん、ごめん江利ちゃん。怖がらせるつもりなんてなかったんだ」
「ふぇっ、え、い、イヤ、見ないで…………うぇぇぇぇんっ」
 イヤイヤをするように首を振り祐麒を拒絶しようとするが、離さない。
 ズボンが生暖かく濡れるが、全く気にならない。今は、江利子を安心させることが第一だ。
 ふと、目に入った江利子の足に絡みつく海藻をはぎ取る。もしかしたらこれが、怪談の時にきいた女性の髪の毛のように感じられたのかもしれない。
「大丈夫だから、ね、江利ちゃん、俺はここにいるから」
 鼻水までたらして泣いている江利子の頭を優しく撫でる。
「ひっく、うぇ、ゆ、祐麒くんが、い、いなく……うっ、いなくなっちゃったって……ひぐっ」
「俺はここにいますから。もう、大丈夫ですから。江利ちゃんの側を離れたりして、ごめんね」
 震える江利子の肩と背中を強く抱きしめる。
 しばらくそうしていることで、ようやく江利子も落ち着きを見せ始めた頃。
「……おーい、鳥居、福沢、こっちか?」
「ったく、どこ行ったんだよ。まさか洞窟で二人きりだからって、い、いやらしいことでもしているんじゃないだろうなっ」
「ちょっとやめてよ笹山くん! 祐麒くん、江利子先輩、どこですか?」
 鵜久森たちの声が洞窟内に反響しつつ、近づいてくる。
 江利子が顔を上げると、蒼白になって震え出す。
「や……やだ…………やだぁ…………」
 祐麒は懐中電灯で周囲を素早く照らすと、江利子を抱えて立ち上がった。
「えっ、ゆ、祐麒く……きゃっ!?」
 滑らないように、それでも可能な限り急ぎ足で移動する。
「ごめんね江利ちゃん、ちょっと冷たいかも」
「な、何が……ひゃんっ!?」
 広場の隅の方に見つけた水たまり。深さは二十センチくらいであろうか、そこに祐麒は自分の体と一緒に江利子の体を浸した。太陽の光のささない洞窟内の水は冷たく、肌につきささるようだった。
 下半身だけでなく上半身も水で濡らした後、そそくさと水たまりを抜け出す。
「どこに行った……お、いたいた、何やってんだよ」
 懐中電灯の光が向けられ、眩しさに顔をしかめる。
 鵜久森たち四人が祐麒達に向かって歩いてきて、二人の姿を近くで見て目を丸くする。
「江利ちゃん、ずぶぬれじゃない。どうしたのっ!?」
 地面にへたり込んでいる江利子に駆け寄ってくる美玲。
「す、すみません。俺の不注意で足滑らせて、そこの水たまりに転んじゃって。バランス崩した時につい、江利ちゃんのこと掴んじゃって一緒に……」
「うおっ、お前もびしょ濡れじゃないか!」
「江利ちゃん大丈夫、うわ、体冷たい! 震えているし、早い所戻らないと」
 美玲が江利子を支えて立たせようとしているが、どうやら腰が抜けてしまっているようで立てないようだ。美玲たちは、単に体が冷えて具合が悪くて立てないと思っているようだが。
「俺が背負って行きます」
 江利子の前で腰を屈めると、江利子も文句を言わずに背中に抱きついてきた。確かに、随分と体が冷たくなっている。やむを得ない措置だったと思っているが、申し訳ない。早い所、外に出る必要がある。
 それでも、周囲は暗く足元は滑りやすいので、洞窟の外に出るまでそれなりに時間がかかってしまった。
 背中から江利子の震えが伝わってきて、心ばかり焦る。
 ようやく洞窟の外に出ると、既に陽も落ちかけてきている。暑さこそまだ残っているものの海からの風が強く、濡れた体から体温を容赦なく奪う。洞窟から別荘まで歩き、驚いて迎える宝来や大友を押しのけるようにして江利子を部屋まで運んだ。
「あとは私に任せて」
 美玲にそう言われ、祐麒としては頷くしかない。
 去り際に見た江利子の顔色は蒼白になっていた。

「…………くそっ!」
 思わず悪態をつき、壁を殴りそうになったがどうにか堪える。
「一体、何があったんだよ。大体、なんて鳥居先輩とお前だけ二人で違う場所に行っていたんだ?」
「……ちょっと、探検してみたくなっただけだよ。ああくそっ、俺がそんな余計なことしなければ」
「ほ、ほら、大怪我したわけでもないし、そこまで福沢くんが気に病むことでもないんじゃない?」
「違うんだよ宝来さん、俺のせいなんだよ……」
「え?」
 強く拳を握りしめ、自分自身を殴りつけたい衝動に耐える。そんな姿、皆に見せたら何と言われるか分からないから。
 宝来に言われたとおり、話した事象だけ考えれば滑って転んで濡れただけと、大げさなことではないかもしれない。だが事実は、江利子を傷つけただけだった。
 何も出来ない自分が恨めしく、皆と話していられる気分でもなかったので部屋へと戻る。
 そんな祐麒の後ろ姿を、蔦子はじっと見つめていた。

 夕食に江利子は姿を見せなかった。
 美玲が言うには、体が冷えたせいか頭が痛いので寝て休んでいるとのこと。部屋に戻って熱いシャワーを浴びさせたものの、一旦冷え切った体は思いのほかダメージを受けていたようだ。
 様子を見に行きたかったが、拒絶されてしまった。
 江利子自身、美玲以外は部屋に入れないでほしいと言っているらしいので、仕方ない。気にはなるが、たいしたことはないと知ってホッとする一同。多少気兼ねはするものの、他の面々が気にしすぎても仕方ないので、騒ぎすぎない程度に夕食後の団欒を楽しみ、就寝する。

 翌日、江利子は微熱を発していた。
 元々合宿の最終日でもあり、江利子の体調を鑑みて早めに出発することにした。江利子は恐縮していたが、残っていたところで遊ぶだけだし、元々インドア系サークルなので体力もそこまでなく、異論は出なかった。
 三台の車に分乗して帰途についたが、江利子とは違う車に乗ったために様子も分からないまま都心に戻り、それぞれの自宅方面に向けて解散となった。
 江利子は先輩の車に乗ったまま自宅まで送り届けられた。
 祐麒も一人暮らしのアパートに帰り、荷物を置いてベッドに腰を下ろす。携帯で江利子にメールを送る。
 シャワーを浴びて疲れを落とし、冷蔵庫から麦茶を出して飲んでいるとメールを着信。『大丈夫』というような簡単な内容のものだった。
 濡れた頭をタオルで拭きながら、部屋の中を見る。
 江利子が来るたびに掃除、整頓をしてくれるのでいつも綺麗な室内だが、ここのところ江利子の足が遠ざかっているので少しずつ乱雑になってきている。
 それでも、部屋の端々に江利子の姿が垣間見える。
 可愛いからと江利子の買ったティッシュカバー、小さなキャラクターのぬいぐるみ、もらい物ではないシンプルながらもセンスのあるマグカップ。決して目立ちはしないが、祐麒一人だったら部屋の中にあるはずのないようなものが、調和を乱さないように置かれている。
 江利子の服、下着、化粧道具。既に江利子の匂いがこの部屋には染み込んでいるのだ。
「ああ、くそ…………っ」
 吐き捨てるように呟き、祐麒はベッドの上に横になり。
 携帯の画面に再び、目を向けるのであった。

 

 

第七話に続く

 

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