ノーマルCP マリア様がみてる 克美

【マリみてSS(克美×祐麒)】可愛い先生?

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~ 可愛い先生? ~

 

 高校二年の冬、二月から祐麒には家庭教師がつくようになっていた。生徒会長として多忙な日々を送っていたせいか、一年の頃に比べて成績が下降線を辿っていることに気がついた親が、息子のあずかり知らぬところで一計を案じていたというのが真相である。
 家庭教師と聞いて、やはり不安になった。学習塾に通うのと異なり、一対一での学習指導になるわけで、性格ややり方のあわない人が来ないようにと祈っていた。気まずい雰囲気の中で長時間、二人きりで勉強を教わるなど、拷問にも等しいと思ったから。
 そのような心配をしながら、家庭教師が来る初日を迎えていた。
 最初ということで、祐麒は身だしなみにも気を遣って、いざ、家庭教師がやってくるのを待っていた。そこまで気を遣っていたのは、もちろん、初対面だからというのもあるが、他にもう一つ大きな理由として、相手の家庭教師が女子大生だということが分かっていたから。
 祐麒とて高校二年生の一般的な男子。年上の、女子大生の、家庭教師に教えてもらうと聞いて、全く期待をしないわけがなかった。
 期待通りになることなんか無いとは思っているけれど、万が一、素敵な女性が来たときに備えて準備をしておくことは、決して無駄ではないだろう。祐巳などが聞いたら、浅ましい考えだと冷たい目で見てくるかもしれないが、男だったら多くの者が同じ気持ちになるであろうことは間違いないと、祐麒は思っていた。
 相手の情報は詳しくは知らないが、とにかく名門といわれる大学に現役で合格して通っていると聞くから、才媛なのだろうと思う。
 あまりに馬鹿なところを見せたら呆れられるだろうか、休憩時間になったらどんなことを話したらよいのだろうか、そんな下らないことを考えているうちに、家庭教師はあっさりとやってきた。
「――はじめまして」
 野暮ったいシャツにスカート、髪の毛は長いけれどどこか無造作に後ろで結び、黒縁眼鏡の下には冷たさを感じさせる瞳、そして女子大生だというのに化粧っ気のない顔。
 期待はあっさりと、打ち砕かれた。
 彼女は、感情を感じさせない声で、挨拶してきた。

「今日から家庭教師となった内藤克美です。よろしく」

 と。

 

 大丈夫だろうかと、不安で始まった家庭教師だったが、気がつけば早くも三ヶ月近くが過ぎようとしていた。
 今のところ、特に何も無くきている。
 克美も家庭教師は初めてということで、最初のころこそ多少の戸惑いはあったが、今では随分と慣れてきているし、元々、教え方も上手なようであった。
 ただ、時間を経過したところで克美の野暮ったさというものは治らず、どこかで期待していたような艶めいたことは、何一つ無かった。女子大生が家庭教師と聞いて、友人達は妙な期待を寄せていたようだが、応えられるようなネタは全く持っていない。本当に、ただ勉強をみてもらうことしかしていないし、休憩時間もほとんど雑談なんてできなかった。
 何せ、色気を感じない。
 克美はこの春で大学二年生に進級したということで、一年間、女子大生として生活してきたわけなのだが、華やかな感じはまるで見られないのだ。とにかく真面目で、真面目な人といえば誰か、などと問われたら真っ先に名前が出てきそうな感じ。
 もちろん、女子大生が皆、華やかである必要などないのだが、それにしても、もうちょっとどうにかなったのではないかと思う。もっとも、変な気持ちを起こさず、勉強に集中できるという点ではよいのかもしれないが。

 そして、三年生となって初めてのテスト、すなわち一学期の中間試験を控えた日のこと。時間前に克美から連絡があり、珍しく遅れるとの事だった。学校の方で教授につかまり、色々と手伝いなどをさせられたということで、結局、克美がやってきたのは完全に夜になってからだった。
 用事があるのならば、中止するなり日程をずらすなりしてもよいのだが、「中間試験前の大切なときだし、そういうわけにもいかない」とのことだった。
 そんなわけで、勉強が終了する頃には、随分と夜遅い時間になっていた。開始するのが遅かったこともあるし、中間試験前ということで試験対策に克美が力を入れていたということもある。
 帰り支度をして、部屋から出て行く克美を一階まで送っていく。
 すると母が、顔を出してきた。
「祐麒、先生を駅まで送っていってあげなさい」
「ああ、うん」
 すでに、バスも終わっている時間帯だった。夜道、女性を一人で歩かせることはさすがに抵抗があった。
「別に、大丈夫ですよ」
「駄目ですよ、こんな遅くまで勉強見ていただいたわけですし、これでも男の子ですから先生の身を守るくらいはできますから。本当なら、お父さんに車で送っていってもらうところなんですけれど」
 母が頬に手を当てて息を吐き出す。
 たまたま仕事の都合で父は家を空けていたから、車の運転手がいないのだ。
「ほら、行きましょうよ先生」
 まだ渋りがちな克美より先に玄関を出て、待ち受ける。
 これ以上何か言うメリットもなかったのであろう、克美は大人しく祐麒の後を追うようにして玄関を出た。

 

 福沢家は住宅街にある。
 駅まではバスを使うことが多いが、歩いていけないわけでもない。二十分くらい歩けば最寄り駅まで辿り着くことができる。
 暗い夜道を、無言で並んで歩く。
 こういうとき、何を話したらよいものか全く思い浮かばない。勉強の合間の休憩時間は、勉強の話や、母が持ってきた茶を飲んだりして時間をつぶせるのだが、どうしたものか。
 普通に大学のことを聞いたり、家族のことを聞いたり、趣味を聞いたりすればそれなりに話は膨らむのだろうが、生真面目そうな克美に対して、どうしても口が堅くなってしまうのだ。
 結局、何も口を開くことなく、道も半ばに差し掛かった頃。
 駅へのショートカットとして、人気の無い公園の中を横切っていると、ほぼ無風状態の中、すぐ側の茂みが不意に音を立てて揺れた。
「おわ、びっくりした。猫か」
 人の気配に驚いた猫のようだった。闇に消えていく猫を見ながら、ふと、反対側の克美に目を向けてみると。
 なぜか、祐麒の腕に触れるか触れないかくらいの位置に手を伸ばしている、という変な格好のまま、固まっていた。
 その手を見て、克美の顔を見て。
「……先生?」
「あ……な、なんでもないわ」
 慌てたように手を胸の前で動かすと、表情を隠すように横を向く。
「ひょっとして先生、怖いのとか、苦手です?」
「何を言うの。ただ、いきなりで驚いただけよ」
 言い繕うが、微妙に声のトーンが高いし、口調も早口になっている。
「…………」
「何、黙っているのよ」
 顎に手を当てて少し考えた後、祐麒は口を開いた。
「そういえば。この公園って変な噂があるんですよ。かつての大震災のとき、ここに逃げ込んだ人がいたんですけれど、地震で出来た割れ目に落ちたうえ、下半身が挟まり動けなくなった。地形も変わってしまい、その人の姿は外から隠され、発見されなかったらしいんですね。その人はどうにか体を抜こうとしたけれど、結局、助からなかった。落盤などもあったのか、その人の遺体は誰に見つかることもなかったんですが、数年前の地殻調査が行われたときにようやく人骨が見つかり、明らかになったわけです。ところがその人骨は、不思議なことに下半身部分だけで、上半身部分は見つからなかったんですね」
 話しながら、滅茶苦茶なことを言っているなあと思ったが、克美は息を潜めて耳を傾けてきている。
「……噂では、割れ目に挟まり身動きとれなくなった上半身だけが、無念の思いを込めて夜な夜なこの公園を徘徊しているんじゃないかって。そう、下半身がなくなったことに気づかず、ただひたすらに腕で這いずり回るようにして……」
 そういい終わった瞬間、タイミングよくまたも草むらがざわついた。小さな音だったが、静かな公園内ではものすごく良く響いたように感じる。
「ひゃあぁっ!?」
 飛びつくようにして、克美が祐麒の腕を掴んできた。
 だけど、すぐに祐麒の存在に気がつくと、慌てたように手を離そうとするが、音のした茂みの方に顔を再び向け、また祐麒の腕を見て、手を離しすぐに掴みなおし、最終的にはゆっくりと手を離したけれど、ぴったり祐麒に寄り添うようにして立ち尽くす。
「べ、別に、怖くなんか、ないけれど。ちょっと、その前の話があったから、びっくりしただけよ」
 言い訳するように、口を尖らせる。
 そして祐麒は思った。

 やばい、なんかこの人、可愛いかも、と。

 明らかに虚勢をはっていると分かるその顔は、暗い夜の中だけれどほんのりと赤くなっているのが見て取れる。こうして改めて近くでみれば、ほとんど化粧もしていないと思われるのに、月明かりにてらされた肌は艶やかで綺麗だし、切れ長の目に薄い唇など、派手さはないが各パーツはバランスよく配置されている。
 様子を窺うように祐麒のことをちらちらと横目で、わずかに上目遣いで見てくる様は、勉強中には見せたことが無い仕種で、まるで小動物のようで。
 こんな顔もするのだなと、どこか心の中で感動する。
 ぶっきらぼうな物言いや、野暮ったい服装や髪型などで感じなかったが、よくよく見ると結構、可愛らしい女性なのではないかと。
「な、何よ、人のことを見て。ぼーっとしていないでさっさと行きましょうよ、終電になっちゃうわ」
 克美は背を向け、逃げるように歩き出した。
 その背中に向けて。
「あ、先生の足元っ!」
「ひぃっ!?」
 飛び上がるようにして驚く克美。
「あー、空き缶転がっているんで気をつけてください」
「な、な、な」
 身をすくませるような格好で凝り固まっている克美。その表情に、徐々に怒りとも羞恥とも見て取れるものが浮かび上がってくる。
「福沢君、あなたね……」
 声を震わせる。
「すみません、駅、急ぎましょう」
 何か言いたそうな顔をしていたが、結局、何も言わずに克美はまた歩き出した。
 そのまま駅までは、無言で歩いた。克美が、「話しかけてくるな」的オーラを出しているように感じたのだが、それはどこか拗ねているというか、恥しいのを誤魔化しているようにも見えた。
 駅の改札口で、一言だけ挨拶をかわして別れる。
 克美は振り返ることなく、中に消えてゆく。
 その、揺れる髪の毛を見て。

 ほんのわずか数分のことだったけれど、これまでの数ヶ月の数十倍も克美のことを知ったように思える祐麒なのであった。

 

 三日後、中間試験前最後の家庭教師の日。三日前の公園のことなどなかったかのように、いつもと変わらない勉強風景が祐麒の部屋に広がっていた。
 克美はあいかわらずイマイチ冴えない格好をしていたし、表情は変わらないし、無愛想である。勉強については的確に教えてくれるが、先日、感じたような可愛らしさというものは消え去っている。
 勉強に集中しながら、それでも時折、思い出したように克美の様子を窺ってしまう。問題を解いている祐麒から少し離れたところで、克美は参考書を開いて内容を確認している。試験範囲と、その内容について最後まで見てくれているのだ。
 椅子に座り、静かに参考書を読んでいる克美の姿が、どうしても気になってしまう。そんな様子が伝わったのだろう、克美が立ち上がり、背後に近づいてくる。
「どうしたの、どこか分からない?」
「あ、はい、ちょっとこの問題で」
 実際、問題に行き詰っていたから集中力が散漫になっていたというのもある。祐麒は、困っていた問題を指し示す。
「どれ? うーんと、この問題は……」
 後ろに立った克美が、問題を覗き込んできて考える。
 克美の顔が、斜め後ろに寄ってきて、滑らかな頬が視界に入る。公園での時よりも明るい場所で間近に見て、心が跳ねる。
 眼鏡の下の瞳は真剣に参考書の問題を追い、思いのほか長い睫毛は、綺麗に上を向いている。
「ここはこの公式を使って、xに代入を……」
「でも、その通りにやったんですけれど、うまくいかなくて」
「本当に?」
「本当ですよ。ほら、こうして、こうでしょう?」
「あら、本当ね……えーと、ちょっと待ってね」
 自分の思っていた通りにいかず、克美は眉をひそめて更に身を乗り出してきて、参考書を睨みつけるようにしながらノートにシャーペンで計算をしていく
 克美の顔が、祐麒の斜め前横くらいにまで出てきた。前に落ちる髪の毛を指ですくい上げ、耳にかける仕種がやけに色っぽく感じる。真剣に考える克美の表情は生き生きとしているようにも見える。
 そして何より、肩に押し付けられている感触。
 身を乗り出してきて、いつの間にか克美と体は密着する形となり、その胸があたっているのだが、問題に集中しているのか克美は気がついていない。
 決して大きいわけではないが、間違いなく女性としての膨らみが、肩に伝わってくる。
 教わっている最中だというのに、克美の吐息を感じ、柔らかさを感じ、下半身が素直に反応しかける。
「ああ、分かったわ。この計算式の考え方が間違っていたのよ。ここは……」
 すっ、と克美の気配が体から離れてゆく。横顔も、口調も、いつもと変わらないと思ったけれども、問題を解けたことに満足したのか、わずかに口元が緩んだように見えた。
 そして、そんな些細な変化を見つけて喜んでいる自分がいることに気がつく。
「どうしたの? 分かった?」
「はい、ありがとうございます」
 答えながら。
 心の中では全く別のことを考えていた。

 

 そうして、試験対策に費やした勉強時間が終了する。帰りの支度をしている克美を見ながら、祐麒は考えていたことを思い切って口にした。
「ねえ先生、実はお願いがあるんだけど」
 克美が顔を上げる。
「お願い?」
「はい。試験にやる気を出すためにですね、次の試験で良い点をとったら、お願いを聞いてくれませんか?」
「何、そんな不純な動機で試験に臨もうというの?」
 あからさまに不機嫌というか、不愉快というか、そんな表情をする克美を見て、慌てて祐麒は言い訳を付け加える。
「それは、考え方じゃないですか? 大学入試だって、大学に入ったら何をしたい、この先どうしたいという思いがあるからやる気も出るんじゃないですか。試験だって、同じことだと思うんですよね」
 祐麒の言葉を聞き、わずかに考え込んで、克美は軽く肩をすくめた。
「屁理屈みたいだけれど、まあ、言いたいことは分かるわ。でも、お願いを聞いてほしいって、何を?」
 まだ少し不審そうな目をして、訊ねてくる。
「試験の結果が出て、その結果が良かったら、その次の日曜日にちょっと行きたいところがあるので、付き合ってほしいんですけれど」
 平静を装って、でも少し緊張しながら、告げた。
 克美はといえば、予想していたとはいえまさにその想像通り、眼鏡の下で目をわずかに見開き、意味が汲み取れないとでも意思表示するような顔をしていた。
「なにそれ、それがお願いなの?」
「はい。駄目ですか?」
「駄目っていうか……そもそも、結果が良かったらってどういう基準?」
「そうですね、平均75点越えでどうでしょう」
「駄目」
 祐麒の成績は平均より少し上というところなので、目標地点としては悪くないと思ったのだが、克美はすぐに却下した。
「そうね、全教科72点オーバーでどうかしら」
 微妙なラインである。点数的には祐麒の提示したものより落ちているが、基準が全教科でという設定になっている。平均点であれば、一つの教科が悪くても、他の教科でカバーできるが、全教科で目標点数越えとなると、一教科失敗するだけで達成できなくなるのだ。しかも三年生となり、各教科の難易度もあがっている。
 だが、克美が提案したということが重要であり、祐麒としたらこのタイミングを逃すわけにはいかない。即座にその条件をのむことにした。
「それにしても、変な子ね。で、ちなみに行きたいところって何処なの?」
 鞄を肩にかけ、立ち上がりながら克美が聞いてくる。
「それは、結果が出るまでのお楽しみということで」
 誤魔化すように言ったが、実際のところはまだ何も決まっていなかった。
「ふーん」
 興味なさそうに、それだけ呟くようにしてから部屋を出ようとして、振り返る。
「そういえば。目標達成できなかったら、私にはどんな得があるの?」
「え?」
「だって、ペナルティがないと、そういうのって不公平じゃない」
 眼鏡の位置を直しながら、克美がもっともなことを言う。
 祐麒はわずかに思案し。
「じゃあ、達成できなかったら先生の言うことを何でもききます」
「別に、特にないんだけど……まあいいわ、何か罰ゲームでも考えておくから」
 克美の考える罰となると、本当に真面目で勉強に関することなのだろう、などと予測するが、そんな風に思いをめぐらすことも楽しく思える。克美の口から『罰ゲーム』という言葉が出てくるとも思ってなかったので、また意外性が楽しい。

 とにかく、やる気が倍以上に燃え上がってきたのは事実なのであった。

 

おしまい

 

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