書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(祐麒×志摩子)】ホワイトプリンセス・ロード <その2>

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 藤堂、という名前に恥ずかしながらも簡単に反応してしまった。
 幸いなことに、飛び上がるとか、大声を出すとか、ソファから転がり落ちるとか、そのような具体的な行動にはつながらなかったため、家族に気づかれた様子はない。
「祐巳ちゃん、志摩子さんから電話よ」
 母が受話器の送話口を手で抑えながら、祐巳の名を呼んでいる。
 当たり前だ、リリアンの学生から電話がかかってきたら、用事の相手は祐巳に決まっているではないか。それにも関らず、祐麒はつい、首を動かして電話を目で追ってしまった。
 片手の指で足りすぎるくらいの回数、二人で出掛けたことがあるだけで、それ以上でもそれ以下でもない関係。志摩子から電話をもらったことなどないし、電話をもらうような用事も思い浮かばない。今までの電話は全て、祐麒の方からかけていた。
 祐巳が電話を受け取り、口を開いて話し始める。親しき仲にも礼儀ありというのは充分に分かっていたし、いつもだったら祐巳の電話など特に聞こうとも思わなかったが、思わず聞き耳を立ててしまう。
「……何、どうしたの、用事忘れちゃったの?」
 戸惑うような祐巳の声が聞こえてきた。
 子機を持って自室に戻ることも多いのだが、今日は運よくリビングの親機を使用しているため、祐巳が話している内容は聞きとることが出来る。お茶を飲み、くつろいでいるふりをしながら、電話に耳を集中する。テレビをつけていなくて良かったと思う。
「志摩子さん、大丈夫? なんか、変みたいだけど。実は間違い電話だったとか? なーんて」
 何か志摩子の様子がおかしいのだろうか、話を聞いていても、いまいち祐巳とかみ合っていない様子が伝わってきた。祐巳も志摩子も、少し天然が入っているところがあるようだから、単にそのせいなのかもしれないが気になった。
「それじゃあ、おやすみなさい。また、学園で」
 そう言って電話を切る祐巳であったが、受話器を置いた後も、首を傾げていた。
「なーんか変だったなぁ、志摩子さん」
 呟きながら、祐麒の向かいのソファに腰をおろす。
「どうかしたの?」
 さりげない、いつもと変わりない口調をどうにか保ちながら、尋ねてみた。すると祐巳はやっぱり首を捻りながら口を開いた。
「ん、いや、別に。ただ、なんか志摩子さんの様子が変だったような気がして。あ、志摩子さんから電話だったんだけどね、うまくいえないけど変な感じだった」
「……気のせいじゃないか、祐巳はボケだからな」
「何よそれーっ、失礼しちゃう」
「わはは、んじゃ、な」
 頬を膨らませる祐巳から逃げるようにして、ソファから立ち上がって自室に向かう。階段を上がりながら色々と考え、部屋に入ってもベッドに座って考え続けた。
 もしかしたら、いやまさか、様々な思いがぐるぐると目まぐるしく回り続けていたが、しばらくしてやがて決心する。言い訳というか、間違っていた場合の理由も、少し苦しいけれど考え付いた。
 廊下に出て、子機を手に取り部屋に戻る。
 電話を見つめて、大きく一度、深呼吸。
 分かっている、なんだかんだ理由をつけて、電話をする口実が欲しかっただけだということに。
 机の引き出しからメモを取り出し、番号を間違えないように打っていく。

『――え、えすぱあですか?』
 受話器の向こうから、彼女が戸惑っているのが想像できる、なんか可愛らしい答えが返ってきた。
「はっ? いえ、あの、福沢ですけれど」

 こうして祐麒は、ひょんなことからクリスマス・イブのお誘いを受けることになった。

 

~ ホワイトプリンセス・ロード ~
<その2>

 

 

 十二月最初の日曜日、私は駅前で祐麒さんのことを待っていた。どうにかボランティアに誘うことは出来たものの、当日になっていきなり訪れるというわけにもいかないし、そもそも電話で詳しいことを説明できていない。だからこうして改めて、説明する機会を設けることにしたのだ。
 時計を見ると、約束の十五分前で、少し早く到着しすぎていた。待たせるよりかはずっと良いと思い、ふぅと息を一つ吐き出す。
「ごめん、待った?」
 すぐ後ろからそんな声が聞こえて、ふと目線を向ける。
 祐麒さんの声とは全く違うので間違えようはなかったけれど、つい反応してしまうのは祐麒さんを待っていることに注意を払っているからか。
「おそーい、遅刻じゃん」
「ごめん、ごめん」
「ごめんじゃないよ、この前も遅刻したじゃない」
「悪い、ほら、好きなもん奢るから許してって」
 どうやら約束の時間に遅れたようで、女の人に男の人が頭を下げている。とはいえ、女性も本気で怒っているわけではないようで、すぐに笑顔を取り戻し、二人で仲良く歩き出した。
 こうして周囲を見てみると、私と同じように人待ちらしい人が沢山いることに気がつく。友達を待っているのか、恋人を待っているのか、いずれにしても誰かを待っていることに変わりはないわけで、心なしか皆そわそわとしているような、緊張しているような、そんな風に見えてくるから不思議だ。
 そう考えると、私も周囲からは同じように見られているのだろうか。でも、私と祐麒さんの関係は一体どのようなものになるのだろう。
 恋人なんてわけではない、友達というほど親しいかというと首を傾げてしまう、だけどただの知り合いというほど素っ気ない間柄でもない気がする。となると、やはり友達という線が一番強いのだろうか。
 考えているうちに、時間は流れてゆき、気がつけば約束の時間を過ぎていた。少しくらい遅れることはあると思ったが、不思議と落ち着かない気持ちになる。そわそわとする。やがて五分が過ぎると不安になり、十分が過ぎると怖くなってきた。
 もしかして途中で何か事故にでもあったのか、トラブルに巻き込まれでもしたのか。それとも、約束の時間を間違えたとか、私の方がむしろうっかりと時間を間違えて到着してしまったとか。あるいは、すっぽかされたとか。
 そんなことあるはずがないと思いながらも、嫌なことを色々と考えてしまう私自身が嫌だった。
 暗い考えに沈み込みそうになっていると。
「と、藤堂さん」
 声に、はっと顔を上げる。
 見れば、祐麒さんが欠けてくる姿。
 その姿を見た瞬間、今までの不安や恐れといったものが一気に消え去り、雲間から太陽の光が差し込んでくるように感じられた。
「す、すみません、途中でバスが事故の渋滞に巻き込まれまして、遅れちゃって……随分と、待たせちゃいましたよね」
「いえ、そんな、大丈夫です。祐麒さんも、災難でしたね」
「俺自身が何か被害を受けたわけじゃないですから」
 まだどこか、お互いに硬くてぎこちない会話。とてもじゃないけれど、先ほどのカップルのような雰囲気を出すことなど出来ない……と考え、あのカップルみたいな会話をしたいのだろうかと、自分自身の思考に赤面する。
「えっと、藤堂さん、どうかしましたか」
「な、なんでもありません。ごめんなさい、それでは行きましょうか」
 誤魔化すように笑い、歩き出す。祐麒さんも、隣を歩く。隣とはいっても、距離は五十センチくらいあるだろうか。
 確かに以前、遊園地と映画と、二回ほどデートらしきものをした。だけれども、私と祐麒さんはお付き合いをしているわけではないし、デート以外ではほとんど顔を合わせることも、話をすることもない。だから今、隣を歩いている距離は、適正なものなのだろう。
 別に嫌なことなんてない。
 だけど、距離を一気に近づけるほどの勇気はないし、緊張が解けることもない。
 父や母は祐麒さんのことを気に入ったようで、なぜか私との仲を近づけさせようとする発言すら垣間見えるけれど、私はどうなのだろう。
 ちらりと、少し前を歩く祐麒さんの横顔を見る。
 もちろん、嫌いなわけはない。だけど、好きなのだろうか。人としてではなく、男の人として好きなのだろうか。
 小さい頃から恋愛など全く経験したことのない私には、私自身の気持ちが一番、分からなかった。

 

 私達が入ったのは、駅から少し歩いた場所にあるショッピングセンター内のカフェ。休日ということもあり、それなりに混雑している店内の席に座り、注文をしたところで話を始める。
「今回は、突然のお願いで申し訳ありませんでした」
「いえいえ、そんな。全く問題ないですよ」
 祐麒さんは、本当に何も気にしてなどいない様子で、笑いながら軽く手を振る。
「養護施設のクリスマスパーティのお手伝い、でしたよね。藤堂さんは、こういったボランティアにはよく参加するんですか?」
「いえ、リリアンでの奉仕活動などには参加しますけれど、今回みたいなのは初めてなんです」
「そうですか、俺も学校主催のボランティアには参加したことありますけれど、やっぱり今回のようなボランティアは初めてなんですよ」
「ご迷惑では、ありませんでしたか」
「だから、迷惑だったら断っていますって。ところで、今回のボランティアって、他には誰かいないんですか?」
「いえ、私と祐麒さん、二人だけです」
「あ、そ、そうなんですか。二人だけ、ですか」
 なぜかそこで少し言い淀み、口を噤んでしまう祐麒さん。
 どうしたのだろうかと思ったが、私も祐麒さんも初めての参加ということでは、それは不安もあるだろう。今回は大勢の子供たちが相手ということもあるし、どのような形になるのか先が見えない部分もある。
「大丈夫ですよ、ボランティアは私達だけですけど、養護施設の先生もいらっしゃいますし、パーティの内容は考えてくださっているので、私達はそれに従ってのお手伝いですから」
「あ~、いや、はい、そうですね」
 祐麒さんの心配を取り除こうと思っての発言だったのだが、やっぱり祐麒さんの言葉はどこか歯切れが悪かった。ただ、表情を見る限り、不安とか心配とか、そういったものを抱えているわけではないように見えるけれど。
 そこで、注文していた品が出てきて、ちょっと会話は中断する。
 飲み物に口をつけ、一息ついたところで話を再開。
「それでですね、今回訪れる場所なんですけれど」
 言いながら私は、バッグから資料を取り出してテーブルの上に広げて見せる。
 養護施設の名前は『月の子学園』。子供の数は十六人で、その内訳は中学生が三人、小学生が八人、幼稚園以下が五人で、男女比は男の子が九人、女の子が七人。昨年、高校生の子が出て行ってから、最上級生が中学生になったとのこと。
 一緒に生活している先生と、アルバイトの人で十六人の子供たちの面倒を見ている。
 アットホームな雰囲気で、子供達同士、そして先生との仲も良く、児童虐待や非行といった悪い話も流れてこない。
 資料は他に、色々と注意事項なども記載されていた。
 子供達に変な同情心を見せてはいけないとか、踏み込んだ話をしてはいけないとか、様々なことが。
 一言に子供といっても、施設に入るまでの経緯はそれぞれであり、同じような経緯だったとしても受け取り方、感じ取り方は子供一人一人異なるし、性格だって違う。繊細な子も多く、傷つきやすい子もいる。
 注意事項を読んでいると、なんだかとても難しいような気がして仕方なかった。
「結構、大変そうなんですよね」
 ほぅと、息をつく。
「子供たちと対等の友達になれればいいんですよね。それなら俺、子供っぽいから意外と溶け込めるかもしれませんよ」
「子供っぽいだなんて、そんな」
「いやいや本当に。だって、親戚の子で五歳の男の子がいるんですけれど、俺、その子の子分扱いですよ、いやホントに」
「まあ、そうなんですか? 祐麒さんが子分……ふふ、なんか可愛いですね」
 微笑ましくて、つい笑ってしまった。
 その男の子は、よほど祐麒さんに懐いているんだろうなというのが簡単に想像できるし、遊んでいるイメージまで浮かんでくるくらいだ。
「じゃあ祐麒さん、子供のことは好きなんですね」
「そうですねー、少なくとも苦手ということはありません。藤堂さんだってそうなんでしょう?」
 こんなボランティアに参加するくらいだから、嫌いなわけがないだろう。祐麒さんの言葉の裏には、きっとそういう気持ちが込められているのだろう。
 だけど私は、即答できない。
「……どうなんでしょう。よく、分かりません」
 私の回答に、祐麒さんの口が止まる。
「私は、あまり人と付き合うのが得意ではないですし、リリアンの幼稚舎の子たちとは全く異なるでしょうし、正直なところ、良く分からないのです」
 恐れがある。
 ボランティアに参加した養護施設で、子供達に嫌われないだろうかと。子供達にうまく接することなどできないのではないかと。もしかしたら、子供たちと接することを嫌だと思う自分がいないだろうかと。
「大丈夫だと、思いますよ?」
 正面から、私に静かな微笑みを投げかける祐麒さんがいた。
 どうしてですかと、目で問いかける。
「だって藤堂さん、前に遊園地で会ったひとみちゃんと、仲良くできていたじゃないですか」
 ひとみちゃんとは、前の祐麒さんとの遊園地デートで出会った、小さな女の子。両親とはぐれているのを見つけて、知り合って、少しだけ一緒に遊園地で遊んだ。だけど、ひとみちゃんはむしろ祐麒さんに懐いていて、だから一緒にいた私とも仲良くなれたのだと、私は思っている。
「それに」
 祐麒さんは続ける。
「クリスマス・イブに志摩子さんを見たら、子供達はきっと驚きますよ。マリア様が現実に現れた、って」
「祐麒さん……」
 私は祐麒さんを見つめ。
「……多分、子供達はクリスマス・イブだったら、サンタさんくらいしか想像しないのではないかと思います」
 カトリックならともかく、月の子学園は別にそういった信仰を持っているような施設ではない。となると、子供達がクリスマスにマリア様のことを思い浮かべるとは、到底思えない。
「あ……ははっ、そうですね」
「え、ええーーっ、な、なんで笑うんですかっ?」
 正面の祐麒さんがなぜか笑いだして、私はびっくりしつつ少し憤慨する。そんなにおかしいことを言ってなどいないのに。
「いえ、すみません。確かに……藤堂さんの言う通りなのかもしれませんね」
「まだ、笑っています」
 今度は、少し恥しくなってきた。
 実は私が気付かないだけで、変なことを言ってしまったのではないかと不安になる。前、由乃さんに、『志摩子さんは天然さんだから』と言われたことを思い出したから。
「本当に、ごめんなさい。でも、やっぱり藤堂さんなら大丈夫だと思いますよ。藤堂さんと子供が一緒にいるのって、想像すると凄く絵になりますから」
「そうですか? 私は、祐麒さんの方がよく似合うと思います」
 先ほど、親戚の男の子の話を聞いたせいだろうか、小さい子供と一緒になって楽しそうに遊ぶ祐麒さんの姿が、頭の中で容易に想像できる。
「すごく良いパパ、って感じがします」
「そ、そうですか、ははっ」
 笑いながら、照れたように赤くなる祐麒さん。
 赤面するほどに凄い褒め言葉だったろうかと、ふと考える。
「………………」
 考えて。
「っ!?」
 思いついて。
「っ、違いますよ、べ、別に私がママとかそんなんじゃないですからっ!」
「お、落ち着いて藤堂さん、そんな俺、言ってませんから」
「え、あ、や……!?」
 首筋から頬、目の周囲まで一気に熱くなる。
 とんでもない私自身の発言に、羞恥で逃げ出したくなる。
 さらに。

「……あらやだ、あの若さでパパとママですって?」
「まあ、最近の若い子は本当に……」
「計画性もないから、すぐそんなことに」

 後ろの席から、そんな声が聞こえてきて。

 私と祐麒さんはともに赤面しながら、逃げるようにしてカフェを後にしたのだった。

 

 

その3に続く

 

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