書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 由乃

【マリみてSS(由乃×祐麒)】メッセージ 3

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~ メッセージ ~

 

 

 

 朝食の後、菜々は渋々剣道部の朝連に向かい、小母さまは祐麒くんの主治医に電話を掛けていた。
 訊いてみると今日の診察は午前中で終わるらしく、頼んでみると午後には時間が取れるとのこと。そこでお願いして、病院内の食堂で会う事になった。そこで午前中は祐巳さんと作戦会議、というかどのように話を切り出そうか相談を重ねる。
 自分たちの思いを伝えるというのはあるけれど、無茶の押し売りは出来ないし、お医者様に駄目だと言われた場合、どこまで食らいつくことが出来るか。あるいは妥協点を導き出すことが出来るのか。
 由乃はもちろん、祐麒くんに投げてもらいたいとは思っているけれど、そのためには多くの人の協力が必要になる。由乃一人の思いの為だけに多くの人に迷惑をかけるわけにはいかないし、無理強いをするわけにもいかない。いたいけな(と、自分が言うのもなんだが)女子高校生がお願いをすれば同情を誘うだろうし、そんなお願いを断る方が悪いという流れに持っていけそうな気はするが、それはなんか違うと思う。
どうせなら、ちゃんと皆に納得してもらい、嫌な気持ちにはなってもらいたくない。そう考えていると、意外なことに祐巳さんから諌められた。
「ねえ由乃さん、そんな都合の良い事ばかり考える必要はないんじゃないかな?」
「……え? どういうこと」
「だってさ、そりゃ関係者全員が納得して気持ちよく協力してくれたらいうことはないけど、何人も、何十人もいたら、そうじゃない人がいるのが当然じゃないかな」
「そ、それはそうかもだけど、それじゃあ」
「だから諦めろ、って言っているんじゃないよ。由乃さんにとっての一番は祐麒なんだよね? だったらさ、多少は相手を強引にでも巻き込んで、それこそJKという武器を使ってでも部隊を整えることを優先しちゃえばいいんじゃないの。私達みたいなただの女子高校生だけじゃたいしたことなんて出来ないんだから、目的を達成するための手段には少々目をつぶってもさ」

 祐巳さんの言葉に声を失う。
 同意こそされても、まさか反対意見を突き返されるとは思ってもいなかったのだ。
「それこそさ、そう突っ走ってこその由乃さんじゃない?」
 小首を傾げて下から覗き込むようにして由乃の顔を見つめてくる。ぴょこんと、ツインテールの髪が揺れる。
「ちょっ……そんなことを言う祐巳さんの方が、よっぽど暴走しているみたいだよ」
「いあぁ、だって、らしくなくブレーキ踏んでいるようだから」
「何それ、ひどいなぁ」
 言いながらも思わず笑ってしまいそうになる。
 だけどもそのお蔭か、少しだけ気分が軽くなったような気がした。確かに、由乃たちがこれから行おうとしていることは自分勝手なことであり、自分たちが良かれと思いこそすれ、他の人がどう思うかは分からない。だったら自分の好きなようにやった方が良いのかもしれない。
「大丈夫、少なくとも私とお母さんや山百合会の皆は良いと思うから協力するんだし、それに……祐麒も、由乃さんが祐麒のために考えて行動してくれたことなら喜んでくれる。それは姉として保証するよ」
「――ありがとう、祐巳さん」
 気持ちもすっきりしたところで時間的にも丁度良くなり、病院へと向かうことにする。話をしながらだと、思いのほか時間もかからず到着した。
「ふぅん……意外と近い場所にあったんだ……」
 その整形外科は、花寺からそう離れていない場所にあった。
「花寺と言えど荒事は少なくないみたいだから、病院が近いと安心なんだけどね」
 そんなことを言いながら病院の中に足を踏み入れる。病院独特の匂いと雰囲気が出迎えてくれる中、院内の地図を確認して約束をした食堂へと足を運ぶ。程よく冷房の効いた食堂に入ると、そこには初老の男性二人が待っていた。
 一人は白衣姿、こちらが主治医の先生だろう。
 もう一人は祐巳さんを知っている様子で、立ち上がって祐巳さんに声をかける。
「おぉ、祐巳ちゃんか! 祐麒は花寺で上手くやっているかい?」
「はい、お陰さまで……その節は弟がお世話になり……」
「……そう畏まらんでくれないかな……彼に後悔させない道を示せなかった」
 なんだか重くなりそうな空気を変えるべく、由乃は話に割って入る。
「祐巳さん、こちらの方は?」
「あぁ、ごめんね。こちらは祐麒が所属していたシニアの木澤監督」
「はじめまして、木澤です。こちらのお嬢さんは」
「はい、島津由乃です。祐麒くんとお付き合いさせていただいています」
 慌てて居住まいを正して自己紹介、そしてぺこりと頭を下げる。
「おお……祐麒のガールフレンドですか!? こんな可愛らしいお嬢さんを祐麒がね、いや、驚いた」
 まじまじと見つめられて頬が熱くなる。
「――それで今日は何を聞きたいのかな。私と木澤さんを呼んで祐麒くんのガールフレンドを紹介したかったわけではないよね」
 白衣を着た主治医の長谷川先生が優しい目を向けてくる。
 そこで由乃は祐麒の肩の状態や自身の想い、そしてサプライズの事を伝えた。

「ふーむ、なるほど……」
「どう、でしょうか?」
 考え込む長谷川先生と黙って天井を見上げる木澤監督に不安を覚える。
 先に口を開いたのは木澤監督だった。
「現在の状態は分からないけれど、私が祐麒の肩が悪いことを知った時は既に重度の野球肩になっていた」
 肩の故障にも当然だが軽症の場合と重症の場合がある。軽症であれば、一か月程度のノースローの調整で痛みも和らぎ、大体は元に戻るそうだ。だが祐麒の場合、肩の痛みを覚えたのがエースの座を奪いかけた頃であり、ここで肩が痛いなどと口にしたらせっかく奪いかけたエースの座を失ってしまうと思って言い出せなかった。また、祐麒が下手に根性があったものだから痛みに耐えてしまい、分かった時には重症になってしまっていた。
 今時、単なる根性論が流行る時代でもないし、怪我であれば早期発見早期治療が最大の近道だというのも根付いてきているが、だからといって人の気持ちがそう簡単に納得できるわけでもない。外から見ている立場ならいくらでも言えるだろう、「無茶をするな、今は休め」と。でも、当事者はそう思わないのだ。
「確かに、ボールが今までと少し違うような気はしていたが、成長期で身体の大きさもどんどん変わってくるから、その変化による影響だろうと思っていた。指導者として、些細な変化にももっと気を配るべきだったのに」
「木澤さん、今その話をしても何も変わりませんよ。それより木澤さんが気にされているのは、今の彼の状態ですね」
 頷く木澤監督。
 野球肩になった際、治すために重要なことは「投げないこと」と「肩関節機能強化」である。
 トレーニングを続けていたというが、それはきちんとリハビリを経て徐々に投げる強度を増していくようにしていたのか。治る前に投げ込みを開始していたならば症状を悪化させている可能性もあるし、その辺のことが不明であるから安易なことを口に出せない。
 復帰を目指してずっと専門の医者に診てもらって計画的にリハビリを行っていたのなら良いのだが、祐麒は野球を諦めて離れてしまっているから分からないのだ。もちろん、それで祐麒を責めることなどは出来ない。
「――でも、野球を辞めて高校に入っても祐麒は運動部には所属せず、生徒会活動をしています。わたしも、少なくとも祐麒が野球をしているところを見たことはありません。夜中や早朝に家を抜け出して練習しているようなのも無かったと思います。もちろん、知らないところで練習していた可能性が無いとは言い切れませんが……」
 フォローを入れてくれたのは祐巳さんだった。さすがに、祐麒くんと付き合う前のことは由乃には分からないから有難かった。
「しかし、確実なことを言うならば、やはりレントゲンを撮って確認する必要があるが、サプライズにはならないか」
 長谷川先生の言葉に、考え込んでしまう。
「――祐巳ちゃん、島津さん、祐麒の行動を私に事前に教えてくれたら、偶然を装って私が祐麒と会おう。その際に、レントゲン撮影するように仕向けてみようか。実際、私が祐麒の肩に責任を感じているのは事実だし、可能ならばまた野球をして欲しいと思っているのも本当だ。多少の違和感を覚えるかもしれないが、それでもサプライズがあると察するほど不自然ではないと思う」
「え……」

 そこで思いがけず木澤監督から助け船があり、まじまじと見つめてしまう。確かに、由乃や祐巳さんがいきなりレントゲンの話を切り出すよりも、かつて野球で師事していた監督さんから言ってもらった方が遥かに自然だ。
 サプライズで喜ばせたいという思いはあるけれど、だからといって無理をして欲しいわけでも、ましてや投げることによってまたも悪化させ取り返しのつかないことになんてさせるわけにはいかない。素人の由乃が無責任に投げさせるわけにはいかないのだ、専門の長谷川先生の考えにきちんと従って無理のない形で実現させたい。
「それなら良さそうじゃない、由乃さん」
「それは勿論そうだけど、そこまでしていただいてご迷惑ではありませんか? 木澤監督だってお忙しいでしょうし、長谷川先生だって。それに、診察を受けるといっても、お金だってかかるわけだし」
「レントゲンだけならそれほどかからないよ」
 長谷川先生から告げられた金額は数千円というもので、確かに思っていたほど高額ではないけれど、高校生にとって安い金額ではないし、既に野球を辞めている祐麒が簡単に出す金額とも思えない。
「――わかりました。診療代はあたしが出しますから、祐麒くんにレントゲンを受けてもらうようにお願いします」
 頭を下げ、改めてお願いをする。
「そこは私に任せてくれ、祐麒の性格も分かっているしなんとかなると思う。でもそうか、これで本当に試合をすることが出来たら、アイツと祐麒を引きあわせる良い機会でもあるかもしれないな」
 木澤監督は、何やら閃いた様で、長谷川先生に意見を求めた。
「――7回までだな」
「先生、いったい何の話を……」
 疑問符を浮かべたような表情の祐巳さんが尋ねると、長谷川先生は手で頬をさすりながら答える。
「あぁ、中学3年の投手なんだが、祐麒君と同じ部位を負傷して、ウチの病院に掛ってるんだ」
「だから、その子と祐麒くんを引きあわせたいと?」
「安易な考えと思うかもしれないが、人というのは自分と同じような境遇の人がいると親しみを覚えるし、その人が出来るならば自分もと思うものだ。体を治すためには、心がしっかりしている必要がある。こればかりは、医者である自分にも難しいことなのだが」
 長谷川先生がちらと由乃に目を向ける。
「……きっと祐麒くんなら、その子の力になれると思います。ね、祐巳さん」
「そうだね。先生、その子の為にも、今回の件、ご協力お願いします」
 由乃と祐巳は深々と頭を下げる。
「二人とも顔をあげてくれ。先ほども言ったが、私だって自分が教えた子がまた野球をやってくれるようになって欲しいと思っている。例え、怪我をする前の状態に戻れないとしても、野球を嫌いになって欲しくない。プロになることや甲子園に出ることが全てではない、ただ、野球をプレイする楽しさを思い出してほしい。それが、祐麒を指導してきた私の偽らざる気持ちなんだ。むしろ祐巳ちゃんたちが今回のような提案をしてくれて、有難いと思った」
「君は良いかもしれないが、私には特にメリットがないのだが」
 長谷川先生の言葉に、声がぐっと詰まる。
 そうなのだ、診療代を払ってレントゲンを受けてもらうのはともかく、それ以外のことで長谷川先生に動いてもらう理由はない。他の患者さんを診察しないといけないし、暇なわけでもない、今日だって貴重な時間を割いてもらっているだ。私的な理由でほいほいとお願いを訊いてもらうなんて、虫の良い話なのだ。
「先生、そんな似合わない意地悪を言わなくてもいいじゃないですか。ほら、私との将棋で幾つの貸しがありましたっけ?」
 何も言えなくなった由乃にかわって口を開いたのは、木澤監督だった。
「……やれやれ、まあそういうことだな。だが、それでチャラということで良いですな」
「チャラはないでしょう、どれだけ負け越していると思っているんですか」
「それはそもそも、君のゴキゲン中飛車は滅茶苦茶で」
「いやいや、それで勝っているんですからね。先生の棒銀は――」
 突然、野球とも怪我とも関係のない将棋の話で盛り上がり始めた二人に、先ほどとは別の意味で何と言ったら良いのか分からなくなって黙ってしまう。
 すると、困惑している由乃たちに気が付いた木澤監督が長谷川先生との将棋談話をやめ、少し照れたように笑って言う。
「そういうわけだから島津さん、サプライズ、出来るといいね」
「――――はい、ありがとうございます」
 改めて頭を下げ、礼を言う。
 自然と、目頭が熱くなっていた。

 

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