ノーマルCP マリア様がみてる 蓉子

【マリみてSS(蓉子×祐麒)】アナザーミステリー

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 うららかな春の日。マリア様だって午睡してしまうような陽気の中、私は呼び出しを受けた場所に向かっていた。
 正直、あまり気乗りはしないし、人づてに渡されたものだから無視しても良いのかもしれないけれど、やはり、応じてきちんと直接伝えることが最低限の礼儀だろうと思うから、そこに向かう。

 約束の時間に着くと、すでに人の姿があった。
 手紙を書いてくるなんて、今時、古風な人だと思った。だけどそれだけに、真面目な人柄というか、性格が文字から滲み出てくるように感じられて。実際に見て、やっぱり実直そうな表情、話し方、そういったものを前にして非常に心苦しくなったけれども、ここで嘘をついたり、心にも無いことを口にしたりするほうが傷つけてしまう。
 だから私は、正面からきちんと目を見つめ、深々と頭を下げた。

 ごめんなさい、貴方とお付き合いすることはできません。

 どうしてかって? それは……

~ アナザーミステリー ~

 

 

 ため息をつく。
 悪いことをしたわけではない、と心の中では思っていても、罪悪感らしきものが浮かび上がってくる。好意を寄せてくる相手を拒絶する。自分がもし、逆の立場になったらどんなに辛いだろう。考えると、心が苦しくなるけれど、どうしようもない。大学に入ってから何回目のことか、もう覚えていないけれど、決して慣れることはない。
 購入してきたパックの苺牛乳にストローをさし、一口すする。
 既に二限が始まっている時間だが、お昼までにはまだ時間があり、学食内に学生の姿はそれほど見えない。前期が始まったばかりなので、さすがにサボる人はまだ少ないようだ。ちなみに私は、二限の授業が休講のため、お昼までの時間を潰している最中である。
 図書館で借りている本の続きでも読むか、一限の講義の復習をするか、それともゼミの課題に向けて予習をするかと考えながら、バッグに手を差し入れたとき。
「―――よーうこっ」
 不意に、椅子越しに後ろから抱きしめられた。
「ちょっと、何処触っているのよ、せりか」
 隙を見せると、胸を揉んでこようとする手を引き剥がす。
「ちぇっ、つまんない反応」
「さすがに二年もやられ続けたら、慣れるわよ」
 肩をすくめると、あっさりと手を離し、向かいの席に腰をおろして形の良い脚を惜しげもなくさらすようにして組むのは、友人の氷野せりか。大学に入ってから得られた友達である。
 茶色い長い髪を背中に流し、薄い化粧だけれども、はっきりとした目鼻立ちは十分に人目を惹くくらい。テーブルに肘をつき、前かがみに身を乗り出してくると、Vネックの胸元が強調されて目に飛び込んでくる。これで、別に男の人を誘惑するつもりなんかないっていうも信じられないけれど、二年のつきあいで本当だということは分かっている。
「私、どっちかっていうと女の子の方が好きだし」
 とは、本人の談である。
「そんなことより蓉子さ、また告白されたんだって? で、また断ったみたいね。経済の相良くんっていったら、成績優秀、陸上部のホープと、文句なしじゃない。何が気に入らなかったの」
「……その、嘘みたいに早い情報はどこから仕入れるのかしら?」
「それは、企業秘密よ」
 気風よく昆布茶を飲み干すせりかを見て、私はため息をついた。彼女はどうしてこう、人が告白されることに敏感なのだろう。今まで、果たして何パーセントの確率で、告白されたすぐ後のタイミングを直撃されたことか。
 髪の毛を揺らし、せりかは唇を尖らせる。と
「蓉子さ、大学に入ってから全ての告白を袖にしているでしょう。そこまで頑ななのはやっぱり、特定の相手がいるんでしょう?」
「別に、そういうわけじゃないわよ」
「じゃ、じゃあひょっとして、やっぱり女の子にしか興味がないとか?」
「違うわよ。なんで、そんな期待に満ちた目をしているのよ」
 確かに自分も、性に関しては女性、男性をあまり問うほうではないと思う。だからといって、明らかに女性が好きだとか、そういうわけでもなく、なんか中途半端な感じである。恋人ができれば、またこの状態もすっきりするのかもしれないけれど、なかなかそういう予兆も無い。
 大学に入ってから早くも二年が過ぎ去り、大学生活の後半に向かう三年生。学業に、アルバイトに、充実した二年間を送ってきたと思っている。
「恋愛のない学生生活が、充実しているっていえるの?」
 という、せりかの冷たい視線は受け流して。
「恋愛が全てじゃないでしょう。別に恋愛を否定するわけじゃないけれど、他にも色々とやることはあるし。恋なんて、するときがくれば、するでしょう」
「甘いよ、甘い。今のうちじゃないとできない恋だってあるでしょう。若さに任せた、突っ走るような恋を!」
 そんなことを言いながら、実はせりか自身は純愛路線、恋した相手とは一途にお付き合いするということを知っている。その相手というのが、同じ女の子というのが他の人とは異なるけれど。
 結局、勉強するでもなく二人でお喋りをしているうちに、いつの間にか時間は過ぎ去っていた。ふと気がついて腕時計に目を向ければ、二限が終了する十分前。食堂内も、随分と学生の姿で賑わってきていた。
 私はせりかとのお喋りをきりあげて、とっくの昔に空になった苺牛乳のパックを手に取り立ち上がる。
 確か二限の講義は、堺先生だったから、きっかり五分前に講義が終了するはずだ。
「ちょっと蓉子、どうしたの。お昼、食べないの?」
 不審げに問いかけてくるせりかに軽く謝り、私は食堂を飛び出した。

 広い大学校舎内だけれども、二年間も通っていれば作りは完璧に覚えている。他の学部でも、使用する部屋さえ分かれば、問題ない。頭の中で校舎の見取り図を広げ、迷うことなく進んでいく。
 目的の教室の並ぶ廊下までやってくると、丁度、堺先生が出てくるところだった。初老の域に入った先生の横を通り過ぎ、教室内に入り込むと、ちょうど講義が終わったばかりでお昼に入る時間のため、ざわついた雰囲気が出迎えてくれる。
 ぐるりと教室内を見回す。まだ随分と人が多いので、なかなか見つからない。なぜか、学生達がこちらを見ているような気がするが、いきなり三年生が入ってきたからだろうか。
 私はもう一度、室内を見渡して、ようやく目当ての人の姿を見つけ、歩みだす。すると、相手も私のことに気がついたようで、慌てたようにノートやら教科書やらを鞄にしまいだし、立ち上がろうとしている。
 とゆうか、逃げようとしているのか。
 大学の前期が始まってから二週間ほど、学部が異なれば学年も異なり、講義も重なることが無いからなかなか捕まえられなかったけれど、なぜ避けようとするのか。
 大股で歩み寄り、彼が準備し終える前に、席の近くにたどりつく。
「こら、祐麒くん、どこ行くの」
「よ、蓉子さん……」
 彼、福沢祐麒くんは、困ったような、あるいは何かを訴えかけるような顔をして、席から見上げてくる。
「ど、どうしてここに?」
「祐麒くん、これからお昼ご飯でしょう。どうするつもり?」
「どうするって……パンでも買ってこようかと」
「駄目よ、そんなの」
 ぴしゃりと、言い切る。
 やっぱり思ったとおりで、ちょっとばかり嘆息する。でも、大丈夫。そのために私は今日、やってきたのだから。
 バッグの中から、用意してきた包みを取り出し、差し出す。
「あの……これ、は?」
「お弁当よ」
 と、その瞬間。なぜか、教室内に異様などよめきが起きて、思わず視線を左右にふってしまった。
 すでに講義は終了し、お昼休みとなっているのに、教室内にいる学生の数がなかなか減らない。急がないと、学食も満席になってしまうのに、どうしたのだろう。
「い、いいですよ、そんな」
 そっぽを向く祐麒くん。
「よくないわよ。祐麒くん、あなた一人暮らし始めてから、インスタント食品とか、コンビニのお弁当ばかりでしょう。お昼も、食費浮かせるためにちゃんとしたもの食べてないみたいだし。そんなんじゃあ、体によくないわよ」
「や、やめてくださいよ、恥しい」
「何が恥しいのよ。体のことをちゃんと考えるのは、大事なことよ」
「そ、そういうことじゃなくてっ」
 ぶっきらぼうに言い放つ。なんだか、いつもの祐麒くんらしくない。祐麒くんはこんな話し方をする子じゃないはず。やはり、食生活が影響しているのだろうか。
「今日はね、けっこう、力作なのよ。言っておくけれど、私の料理の腕だって随分と上がっているのよ。二年前と同じとは思わないでね」
 言いながら、包みをほどこうと手を伸ばすと。
「わ、わ、分かったから。ありがたくいただきますんで、それじゃっ」
 言い捨てて、お弁当をひっつかみ、逃げるようにして教室から立ち去ってしまった。結局、最後まで私と目をあわせようとしなかったことに少し腹を立てながらも、私も教室を出ようと踵を返す。
「あ、ごめんなさい。失礼します」
 周囲にいる、多くの学生達に軽く会釈をして、間を抜けてゆく。随分と男子学生の割合が多いなと思ったが、そういえば祐麒くんは理工学部だった。それなら、男子が多いのも頷ける。
 さて、一緒にお弁当を食べようかと思ったのだけれど、祐麒くんはどこかへ行ってしまった。どうしようかと考えつつ、教室を出たところで、せりかに腕を掴まれた。
「んふふ~、こりゃ明日には評判になってるわよ。何せ、あの水野蓉子が、手作りお弁当渡すなんてね。そうか、すでに決まったお相手がいたわけね。だから、告白も全部断ってきたんだ。そっか、祐麒くんね、そういやそうか」
 一人で勝手に喋り、勝手に納得しているせりか。どうやら、何か誤解しているようなので、慌てて否定しようとするが。
「そんなこといって、顔が赤くなっているわよ、蓉子」
「ち、違うわよ。祐麒くんはほら……弟のようなもので、心配だから……。せ、せりかだって、知っているでしょう?」
 そう、実は私とせりか、そして祐麒くんの三人は、しばらく前からの知り合いなのだ。出会ったのは、大学一年生の夏。私が初めてのアルバイトとして向かったのが、せりかが働いていたレストラン。そこで、やっぱりアルバイトで働いていた祐麒くんと出会った。
 入ったばかりの私の教育係となったのが祐麒くんで、しかも祐巳ちゃんの弟さんということで、すぐに仲良くなった。
 楽しい日々が流れ、祐麒くんが受験勉強を控えてアルバイトを辞めた後、しばらく会う機会もなかったけれど、なんと祐麒くんが私達の通う大学に入るというではないか。春休みの間にはアパートの場所を聞いて、せりかと一緒に引越しの手伝いをしたり、食事を作ったりしたけれど、大学が始まってからはお互いに慌ただしく、今日まで会う時間がなかったのだ。
 祐麒くんのことは、そりゃ仲は良いと思うし、色々と構っているのは確かだけれど、祐巳ちゃんからも頼まれているし、どちらかというと手のかかる可愛い弟というか、放っておけないという感じで。
「そう? 祐麒くん、しっかりしてるじゃん。それなのに、蓉子が必要以上に構いすぎている感じ」
「それは……せりかだって、同じじゃない」
「私は、蓉子に誘われてやってるだけよ。大体、一人暮らしの部屋に食材買っていって夕食を作ってあげるなんて、押しかけ女房以外の何物でもないじゃない」
「や、やだ。そんなんじゃないわよ。ただ、一人暮らしで大変かと思って」
 食事を作りに行ってあげたのは確かだけれど、それも春休みの間だけ。学校が始まってからは、自分の方も色々とあって作りに行けていない。少し残念だが、私の料理のレパートリーもさほど多くはないから、ある意味仕方が無い。今度、令に連絡して何かレシピを教えてもらおう。
「……何、私と行った以外にも、食事を作りに行ってあげたことあるの?」
「えっ……あ」
 思わず、余計なことを口走ってしまったようだ。慌てて口を抑えたが、時既に遅く。
「へぇ~、そうなんだ、積極的じゃない。ということは何、二人きりで晩御飯? 当然、それで終わりってコトは無いでしょう? お泊まりしたの? もう寝たの?」
「そ、そ、そんなこと、するわけないでしょうっ」
 お泊まりして寝た……って、ただ眠っただけ、という意味ではないだろう。祐麒くんと、そんな……いやいや、そもそもお泊まりなんてしていないんだから。
「うわ、つまんないー。祐麒くんも駄目ねえ、そんなチャンスなのに、なんでもっと強引にいかないのかしら。蓉子だって、男の人の部屋に夜あがるなんて、そういうことになってもいいっていう覚悟だったんでしょう?」
「ち、違うわよ。だから私は、純粋に祐麒くんのことを心配しただけで……」
「あー、分かった、分かった」
 もういい、とでもいうように手を振ると、せりかは腰に手を置き、わざとらしく大きなため息をついた。
 本当に、分かっているのだろうか。
 確かに、食事を作ってあげたことはあるし、掃除や洗濯もしたし、今日はお弁当も作ってきたけれど、一人暮らしの男の子なんてあまりそういった家事をやらなさそうだし、ちょっとお手伝いしてあげるくらい、変ではないだろう。それに、それ以上のことはないのだから。
「とにかく、行きましょう」
「行きましょうって、どこへ?」
 さきほどから、話しながらずっと歩き続けているが、せりかにお任せ状態であった。果たして向かっている先があるのか、思惑を込めた視線を横顔に向けると。
「もちろん、祐麒くんがいる場所に決まっているじゃない」
 得意げに、そう言うせりかであった。

 

 広い大学内、簡単に人の居場所など分かるものかと思っていたのに、せりかに連れられていった場所には本当に祐麒くんがいた。
 私も驚いたけれど、祐麒くんもびっくりしたようで、動きが止まっている。
 私達がやってきたのは、大学図書館の裏側。普通であれば、なかなか立ち寄らない場所だというのに、迷わずにやってきたせりかと、本当にその場にいた祐麒くん。
 どうして、分かったのだろうか。ひょっとして二人は、この場で何度も会っているのではないだろうか。そう、二人だけで会うためのお決まりの場所として。
「違うから、そんなに怖い顔して睨まないでよ」
 やけに怯えるせりか。そんなに私、怖い顔をしていたのだろうか。
「そもそも、この場所を教えたのは私なのよ。で、外で食べるときは大抵、ここで食べるってこの前言っていたから、いるかなと思って」
「ふぅん」
「やあねぇ、本当だってば。独占欲強いんだ、蓉子って」
「だ、だからそうゆうのじゃないから」
「わかったってば。わかったから、お昼にしようよ。お腹すいちゃった」
 私の言うことを聞いているのかいないのか、せりかは勝手に祐麒くんの隣に腰をおろし、いつの間に購入したのか、サンドウィッチとコーヒー牛乳のパックを取り出して昼食の準備に取り掛かっている。
 それを見て、祐麒くんを挟むようにしてせりかと反対側に腰を下ろす。バッグから自分のお弁当を取り出しながら、ちらりと横目で見てみれば、祐麒くんの手にはきちんと私の渡したお弁当があってちょっとほっとする。まだ、食べ始めたばかりのようで、ほとんど減ってはいないが。
「んじゃ、いただきましょうか」
 せりかの言葉を合図に、私もお弁当をあけて食べ始める。
 けれども、やっぱり隣が気になってしまう。
「どうかしら。今日は、結構上手にできたと思うのだけれど」
 正直に言うと、料理はさほど得意というわけではない。レシピがあればその通りには作れるのだが、それだけだ。例えば令のように、何かアレンジしたり工夫をしたりといった気の利いたことが私は苦手だった。
「ええ、美味しいですよ」
「こら祐麒くん。美味しいんだったら、もっとそれらしく言いなさいよ。蓉子が見ているわよ」
「ちょっと、せりか」
 明らかに、せりかは祐麒くんをからかって楽しんでいるのだが、祐麒くんはあたふたしてしまっている。その反応が、せりかを喜ばせているというのに。
 いじられることを嫌がったのかどうかは分からないけれど、祐麒くんは物凄い勢いでお弁当を口に運んでゆく。私とせりかが、まだ半分も食べ終わらないうちに、お弁当箱の中はすっかり綺麗になってしまった。
「ご、ごちそうさまでした。それじゃ、俺、行くんで」
 お弁当箱を手に、そそくさと立ち上がる。
「あ、祐麒くん。お弁当箱」
「洗って返しますから」
「いいわよ、そんなの。私が洗ってあげるから」
「ちゃんと、俺が洗いますから。じゃ」
 手を差し伸べかけたものの、すり抜けるようにして、祐麒くんはあっという間に消えてしまった。
 あんなに急いで食べて、何か約束でもあったのだろうか。
 そう思っていると、横にいるせりかがお腹をおさえ、声を殺して笑っていた。
「なんで、笑うのよ」
「いやぁ……祐麒くんの気持ちも、少しは分かるかな。ま、でも可愛いもんじゃない」
「さっぱり、分からないわ」
 私は、残りのお弁当を食べてゆく。
 一生懸命作ったお弁当をあっという間に食べられてしまったのは、嬉しいような、少し残念なような複雑なところで。
 でも、美味しい、と言ってくれたのは本当だろう。祐麒くんは、嘘をつくのがとっても下手なのだから。そう思うと、自然とまた頑張って作ってきてあげようという気になってくるのであった。

 

 翌日、ゼミの教室に向かっているところで、不意に声をかけられた。軽く左右を見ても、人の姿が見えない。首を傾げていると、再び、私の名を呼ぶ声がする。
「……祐麒、くん?」
 人気のない階段の陰に、祐麒くんは辺りを憚るようにして立っていた。
 どうしたのかと、近づこうとすると。さっと、差し出される腕。胸の前に突き出されたモノを、思わず反射で受け取ってしまう。
「ご馳走様でした。あの、本当に、美味しかったですから」
 それだけを口にすると、周囲を気にしながら、音も無く立ち去ってしまった。いきなりのこと、素早い動きに、私が何も反応しないうちにどこかへ行ってしまった。
 残されたのは、手にしたお弁当箱。
 昨日、洗って返すと言っていた、私が渡したお弁当箱。本当に、きちんと綺麗にして返してくれたのだろうけれど、空っぽのお弁当箱のはずなのに、何かカサカサ音がする。仕切りのプレートにしては変な音だなと、何気なく蓋を開けてみたのだけれど。

「……わぁ」

 思わず、声が出る。
 中にはなんと、ビニール袋に包まれた、小さくて可愛らしくも色鮮やかなマカロンが二つ、私のことを見つめるように、ちょこんと収まっていたのだ。
 どうやら、お弁当のお礼にと入れてくれたみたいだ。
 そんなに、気を遣ってくれなくてもいいのに。

「……でも、お礼にマカロンだなんて、誰に教えられたのかしら」
 男の子一人で思い浮かぶ発想とは、なかなか思えない。ひょっとして、前にも同じような経験をしたことがあるのだろうか。女の子にお弁当をもらって、お礼に……ううん、祐麒くんの高校は男子校だから、それはあまり考えにくい。
 となると、自分で色々と考えてくれたのだろうか。それとも、恥しがりながらも同級生の女の子にでも聞いてみたとか。どちらにせよ、きっと私のために考えてくれたのだと思うと、ちょっと嬉しくなる。
 お弁当箱の中で微笑んでいるマカロンは、色からするとシトロンと……ピンク色なのはローズ風味だろうか。ひょっとして、私が紅薔薇さまだったから?
 分からないけど、自然と頬が緩んでくる。
 一つ、つまみあげる。
 食べようかな、とも思ったけれど、やっぱり中に戻す。

「……だって、せっかく二つあるんだし」

 お弁当箱の蓋を閉じ、バッグの中にしまい、私はまた歩き出す。

 ゼミの教室に向かってではなく、祐麒くんが去っていった方向に向けて。

 

 鞄の中では、きっと、可愛らしい音がひっそりと鳴っている。

 

おしまい

 

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