書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(令×祐麒)】BE MY BABY

更新日:

 

~ BE MY BABY ~

 

 

 衝撃的な告白、そして正式な彼氏彼女となった日の翌日は、一気に季節が冬に舞い戻ったかのような寒さに包まれていた。
 昨日は、あまりの嬉しさに興奮がなかなかさめなかった。大々的に告白してしまい、祐巳にも質問攻めにあい、夕食時には両親にもバラされて冷やかされた。父も母も色々と気になるようで、『今度、家に連れてきなさい』などと早くも言いだす始末。祐麒にしても令にしても、心の準備が出来ていないのですぐにそんなことは出来ない。二人とも奥手であり、ゆっくりとしたペースで歩んでいくしかないのだ。
「うー、寒っ!」
 マフラーに鼻から下を埋め、肩をすぼめて歩く。
 正直なところ、昨夜は興奮のあまり殆ど寝ることが出来なかった。何せ生まれて初めての彼女である。しかも、相手は支倉令。リリアン女学園の元・黄薔薇さまで、ミスターリリアンで、剣道道場の一人娘で有段者で、凛々しくてバレンタインデーには山ほどチョコレートを貰って、祐麒よりも背が高くて格好良くて。
 そう言うと、なんだか祐麒よりもずっと男らしいように聞こえるが、実際には誰よりも可愛らしい女の子だということを、祐麒は知っている。
 お菓子や料理を作るのが好きで、編み物が得意で、少女小説が好きで、可愛らしいものが好きだけれど自分には似合わないと悩んでしまうような、とっても可愛い一人の女の子なのだ。
 そんな素敵な女の子を彼女にすることが出来て、そりゃあ興奮して嬉しくて眠れもしなくなるというものだが、全く辛くない。多少、体はだるいかもしれないが、遥かに上回るほど心が軽やかだった。
 ついでにいえば、あと少し学校に通えば春休みになるわけで、休みになれば自由になる時間も増え、即ち令と会える時間も増えるので浮かれていた。祐麒も三年になれば受験が控えているわけで、この春休みこそが高校生として気楽に過ごすことができる最後の休みなのだから、ここで遊ばずにいつ遊ぶというのか。そういう意味では、令と付き合い始める時期としては良かったのかもしれない。
 まさに春である。
 近年まれにない程の浮かれようで、祐麒は花寺学院へと登校した。
 そして。

 

「――な、な、な、なんだこれっ!? 何するんだお前たちっ!!」
 祐麒は喚いたが、どうすることも出来なかった。
 事が起きたのは、教室に足を一歩踏み入れた直後のことだった。
「よう、ユキチ」
「おーっす。なんだ、今日は随分と……って、わっ!?」
 手を挙げて挨拶してきた小林に返事をしたところで、両腕を誰かに掴まれた。見ると、右腕を高田が、左腕をアメフト部の森野が抱え込むようにして掴んでいた。肉体派の二人に掴まれてしまっては、いくら祐麒が学園生活の中で荒事に慣れてきたとはいっても分が悪すぎた。
「おいっ、なんだ、やめろって!?」
 ずるずると体を引きずられて、椅子に強引に座らされると、がっちりと後ろ手にロープで縛られてしまった。手だけではない、両足もまた、椅子の足に固定するようにロープで結ばれ、四肢の自由を奪われる。
 体を動かしてみようとするも、ガタガタと椅子が揺れるだけで、いかんともしがたい。そうこうしているうちに、何人もの生徒に周囲を取り囲まれる。
 一体、何事だというのだ。まさか、祐麒に恨みを持つ者たちからのお礼参りか何かだろうか。確かに、生徒会長という役職をこなしていく中で、恨みを買うことが全くなかったとはいわないが、今日は卒業式ではないし、そもそも祐麒は卒業生ですらない。
 顔を上げ、改めて取り囲んでいる連中の姿を見回してみると、同じクラスの生徒もいるが、他のクラスの連中も随分といるし、卒業を間近に控えて登校する必要もない三年生の姿までちらほらと見える。
 まさかとは思うのだが、どこか剣呑な雰囲気も感じられて、本当に集団リンチが始まるのではないかと内心で冷や汗を流す。

「……すまない、ユキチ」
 小林が、わざとらしく涙を拭うような仕草を見せる。
「おい、どういうことなんだよ」
 小林の態度を見て、最悪の事態ではないと悟り、問いかける。
「諦めろ、お前だってこうなることは覚悟の上だったんだろう?」
「は? 何の話だよ、なんで俺がこんな目に」
 言いかけたところで、先ほど祐麒を掴んできたアメフト部の森野が一歩前に出てきて、椅子に縛り付けられている祐麒のことを見下ろしてくる。体格が良いだけに、今の位置関係だと圧迫感も倍増して感じられる。
「とぼけるなよ福沢、おま、お前、支倉さんと付き合うことになったんだとな――」
「えっ! あ……え」
「話はもう、学院中に伝わっているぞ。昨日、リリアンの校内放送を利用して、校内にいた人たち全員にアピールしたそうじゃないか、えぇっ!?」
 うっかりしていた。
 リリアンと花寺は昔から交流があって仲が良いし、男なら花寺、女ならリリアン、といった感じで入学させる親も多い。福沢家のように、娘と息子が両校に通っているという家もそれなりにいるはずで、令はリリアン生徒全員に知られている有名人且つ人気者なわけで、リリアンだけでなく花寺にも情報が伝わっているのはある意味必然のことであった。
 よくよく見てみれば、祐麒を取り囲んでいるのは支倉令ファンクラブの面々である。花寺では、非公式ではあるが山百合会メンバーのファンクラブが結成されており、生徒会長の祐麒もそれらを把握していた。写真を隠し撮りして売りさばいたり、ストーキング行為をしたり、といったような悪さはせず、単に同じ志を持った者達の集団なので放置しておいて問題なかった。
 見た目からして美少女な祥子や志摩子と異なり、少年のような令ではあったが、それでもファンの数はそれなりに存在しており、そんな連中に取り囲まれているわけだ。彼らにしてみれば憧れの女性を取られてしまい、憤懣やるかたないところなのかもしれない。

「福沢、お前どんな手段で支倉さんとお付き合いできるようにしたんだ?」
「ど、どんな手段って、別に」
「しらばっくれるな、福沢と支倉さんでは、明らかに釣り合いが取れないではないか……主に身長的に」
「ぐふっ!?」
 痛いところを突かれた。
 並んで歩くと令の方が背が高いわけで、こればっかりは今の祐麒ではどうしようもないし、今後も改善されるかどうかは怪しいところであった。
「せ、背の高さなんて関係ないんだよっ、気持ちさえ通じれば」
「ぐぬっ、この、恥ずかしいことを平然と口にしやがって……」
「お前らが言わせたんだろーがっ!」
 大勢の生徒に囲まれた中で、祐麒だって充分に恥ずかしいことは自覚している。昨日から一体どれだけ羞恥プレイさせられているんだと、叫びたくなる。
「くそっ、俺だって、支倉さんのことを」
「森野……」
「俺だって、凛々しい支倉さんから竹刀で強烈な一撃を受けてみたかった!」
「おい、森野……」
 呆れて方から力が抜ける。
 こいつらは、令の何を見ているというのだろうか。剣道以外で令が竹刀を振るうなど、するはずもないのに。
 とはいえ、浸っている目の前の連中に何を言っても耳を貸しそうもない。ここは、どうにか切り抜けるしかない。祐麒が見上げると、ちょうど森野と目があった。
「……福沢、おまえ本気なんだな。一生、支倉さんを愛せると誓えるか」
「誓えるっ」
 自分でも驚くくらい即答できて、さすがに周囲の生徒達もざわめいた。
「そうか……男が誓ったのだ、ならばもはや何も言うまい」
「森野さん!?」
「騒ぐな! 福沢は誓ったのだ、支倉さんを必ず幸せにすると。もしも支倉さんを泣かせるようなことがあれば、地獄の業火に焼かれ、未来永劫続く苦難を受けようとも構わないとな!」
 いやいや、そんなことは言っていないというツッコミをしたかったが、聞き耳持ってくれるような雰囲気でなかったため、諦めて口を閉じる。
「そこまで言うならば、俺たちも福沢の本気を認めないわけにはいかないだろう。それに、支倉さんが幸せになるならば、我々もそれが一番ではないのか? 花寺の生徒会長が言ったのだ、よもや反故にすることはあるまい」
 涙ながらに森野が力説すると、感染したかのように周囲の野郎共も泣きだし始める。もう、どうでもいいから拘束を解いてくれというのが本音だ。
「福沢……任せたぞ」
「ああ……任せろ」
 脱出するにはこの陳腐な劇を終わらせる必要があると考え、森野の言葉にあわせて返答をする。もちろん、熱い想いを込めた目で見つめ返してだ。
 すると案の定、森野は無言で頷いて祐麒を縛っていた縄をほどいてくれた。単に、授業の開始時間が近づいてきたからかもしれないが。
 意味もなく縛られた手首をぶらぶらさせていると、森野が正面に立った。まだ、何か言いたいことがあるのかと目で問いかけると。
「福沢。最後のけじめだ。一発殴らせる」
「はぁ!?」
 別に森野自身が令とどうこうあったわけでもないのに、なぜ、けじめをつけなければならないのか。それも、殴られるなんて、祐麒の方だけが殴られ損ではないか。だが、森野自身はそうは思っていないようで、これこそ男と男のけじめのつけ方だとか呟き、自分に酔うようにして涙を流している。
 更に周囲を見てみると、「俺も」、「いや俺も」、「それなら俺も」とか言いながら拳を握りしめている奴らが増殖している。
「待てお前ら、何だその手は、ってゆーかなぜ殴られねばならん??」
「一人の女性を巡っての恋敵だが、これをもって俺たちの支倉さんへの想いは封印することにする。さあ、福沢!」
「さあ、じゃねえーー!!」
 理不尽な安っぽい喜劇は、祐麒の悲鳴を無視して繰り広げられるのであった。

 

「……くっそ、酷い目にあった。今日は最悪だな」
 痛む体をさすりながら、帰りのHRを終えた教室を出る。
 朝だけでなく、昼休みにも朝に間に合わなかった連中が押し寄せてきて理不尽な攻撃を受けた。
 リリアンの山百合会といえば美少女揃いで有名で、今まで在学中に山百合会メンバーと交際することになった花寺学院生徒の話など聞いたこともないので、余計に羨望と嫉妬を買っているのかもしれない。
 正式に付き合うこととなっての初日、最高の気分で家を出たはずなのに、なぜこんな形で学校を出なくてはならないのか、ぶつぶつと文句をこぼしながら校舎を抜け、正門を通り抜ける。
「…………くんっ」
 三月とはいえ、まだ冷たい風が頬を撫で、思わず肩をすくめる。
「あ、あわ、あああのっ、ゆ、祐麒くんっ」
「え? て、令さんっ!?」
 呼び止められて振り返ると、そこには令が立っていた。まさかいるだなんて思っていなかったので、驚きで動きが止まってしまう。
「良かった、気付いてくれて~」
 安堵した表情を見せ、歩み寄ってくる令。
 学校帰りではないようで、デニムのパンツにコートとマフラーという出で立ちは美少年の見た目で、花寺の生徒達も令だと気が付いていないのか、それとも単に恐れ多いとでも感じているだけなのか、近くには誰もいなかった。
「今日は、ど、どうしたんですか?」
 驚いていた祐麒は、慌てて馬鹿なことを口にしてしまった。
 付き合い始めた相手が学校の校門で待っていてくれた、そこにどんな意味があるかなど、聞かなくても分かるであろうに。
 だが令も緊張しているのか、祐麒の失礼な発言にも特には気分を害した様子もなく、照れたようにもじもじとした仕種で口を開く。
「あの、祐麒くんを迎えに……」
「俺を、ですか」
「うん、その……一緒に下校するっていうのを、一度でいいからやってみたくて」
 令のそんな可愛らしい願望を耳にして、祐麒は思わず立ち眩みそうになる。
「ほっ、本当はね、私も学校帰りが良かったんだけど、もう授業もないし、寄り道は基本的に禁止されているんで、だから、その、私服でゴメンね」
「そんな、全然問題ないですよ、はい、是非に一緒に帰りましょう」
「そう? よ、良かった」
 ほっと、安堵の表情を見せる令だったが、祐麒の顔を見つめて眉尻を下げる。
「祐麒くん、どうしたのその痣? 怪我したの?」
 日中、学院の野郎どもに散々な目にあわされて、頬や額の一部に痕が残ってしまっていて、それを令が見とがめたのだ。
 とはいえ、真実を語るわけにもいかない。まさか令のことが原因だなんて知られたら、令がショックを受けるだろうし、悲しむに違いないから。
「いや、大丈夫ですよ、別にかすった程度ですから」
 心配させないよう、笑って誤魔化そうとするが、令の表情は晴れない。
「本当に? 痛そう、大丈夫?」
 令の指が伸びてきて頬に添えられる。細くしなやかだけれど、剣道によって鍛えられた優しい令の手が、傷で熱を持った肌には冷たくて気持ち良い。更に心配そうな表情を浮かべた令が、祐麒の顔を覗き込むようにしてくる。
 間近に迫ってくる令の整った綺麗な顔に、自然と顔が赤くなっていく。令は純粋に怪我の心配をしてくれているのに、変なことを考えるなと心の中で自分に必死に言い聞かせる。
 そんな時、ふと近くにいた生徒が漏らした声が聞こえてきた。
「……え、何アレもしかしてソッチ系? 腐女子喜びそうな」
 声の方を睨みつけると、相手の生徒は慌てて目をそらして逃げるようにして去って行った。一方で令を見ると、やはり耳には入っていたようで、困ったような諦めたような表情をしている。
「令さん、行きましょうか」
「う、うん」
 歩き出す。
「あの、令さん」
「ん、何?」
「俺……好きな女の子と一緒に帰るだけじゃなくて、一緒に寄り道するのが夢だったんですけど、付き合ってもらえますか?」
「え!? あ、う、うんっ、もちろん、喜んでっ!」
 恥ずかしながらも言うと、令はすぐに頷いてくれた。
 その後二人、僅かに顔を赤くして俯きながら歩いた。

 緊張して会話もぎこちなかったが、駅に到着する頃にはいつも通りに近くなっていた。いつも通り、やっぱり少し緊張しているという状態ではあるが。
「どこか行きたい場所とか、あります?」
「え? あの、祐麒くんに任せます」
「そうですか? 遠慮しないでくださいね」
「うん……あ、違うの。その、リリアンって寄り道禁止だし、私の家も近いから、どういうところに行けばいいのか、分からなくて」
 あわあわと言い繕う令が可愛くて、またも祐麒は一瞬、気を失いそうになった。
 誤魔化すように携帯を取り出して画面をいじる。
「それじゃあ、ケーキでも食べに行きます? どこか良い店がないか探してみますね」
 令とデートをするようになったとはいえ、どうしても甘い店などには詳しくない。行ったことのある店なら覚えているが、それ以外は頭に入っていないのでネットに頼る。
 操作をしていると、画面に影がかかった。
「――あ、ごめん」
 令が画面を覗き込んできていた。
「凄いね、いまどきのは。やっぱり、便利?」
「そうですね、頼りすぎるのもどうかと思いますけれど、ないと困るような状態になっちゃってますね、今では」
「あの……ね。私、大学に入る前に携帯電話、買おうと思うんだ。大学に行くと、今まで以上に帰りが遅くなることもあるだろうし、色々と必要だろうし。それに……祐麒くんともっと、メールとか電話、できるようになるし」
 顔を赤くしながら小さい声で言う令。
 本当にこんな可愛い人が彼女でいいのだろうかと、魂が口から出そうになる。
「で、でもね。私、今まで持っていなかったからよくわならなくて、何が良いのか一緒に選んでくれると嬉しいな」
「も、もちろんです、よし、じゃあ今から行きましょうっ!」
 令と携帯でメールが出来るようになるなんて、願ったり叶ったりである。もしかしたら今後も週に一回くらいのメールしか出来ないんじゃないかと、不安だったのだ。
「今から? え、じゃ、じゃあケーキは?」
 情けない顔をする令を見て、祐麒は微笑む。
「……もちろん、ケーキも一緒に食べましょう」

 携帯ショップで色々な機種を見て回る。とはいっても、祐麒と同じ会社の機種にすることは確定しているので、あとはデザインや機能で選ぶことになる。正直、いまどきのモノであれば、機能的に困ることはない。となるとあとは使いやすさや好みが選ぶ際の大きな条件になるくらいだ。
 令は特別な機能は求めていないということなので、デザインで決めればよいのではないかと進言すると、可愛らしいポップな感じのデザインのものを手にとっては楽しそうに眺めていた。
 今日はあくまで下見ということで購入はしないが、それでも候補は幾つかに絞れたようだ。令が手にしている二つの機種を祐麒も見つめる。
「ううん……こっちの方がデザインが可愛いけれど、カラーはこっちの方が好みなんだよね……うぅ、迷う」
「その二つだったら、機能的にも問題ないですよ。左手側の方は少し重いけれど電池のもちはそっちの方がいいはずです」
「そっかー、どうしようかな、うー」
「焦って今日決めなくても、パンフレットもらってまた改めて考えればいいですよ」
 二人でああだこうだと言いながら選んでいるだけなのに、物凄く楽しかった。そんな雰囲気の中、ふと感じる視線。
 見ると、ショップ内にいる女子高校生らしき三人組が、祐麒と令のことを見て何か言っているようだった。
 二人はちょうど、身を寄せ合って携帯を見ていて、傍から見ればいちゃついているように映るかもしれない。しかも、女子高校生の反応を見るに、少し腐女子的な匂いを感じる。
「――私、間違われるの慣れているから」
 女子高校生の方に目を向けていると、令がそんなことを零した。サンプルの携帯電話を元の場所に戻した令の横顔は、笑っているけれどどこか寂しげにも見える。小さいころから男の子と間違われ、確かに慣れているのかもしれないが、嬉しいわけがない。
 祐麒はそっと、令の手を握った。
「え、ゆ、祐麒くん」
 後ろで小さく黄色い声があがったような気がするが、関係ない。
「行こうか、令さん。次は、ケーキ」
 令の手を引っ張って、店を出る。
「ごめんね祐麒くん、私のせいで変な風に見られちゃって」
「え、何がですか」
「私、私服でスカートとか全然持っていなくて……ご、ごめんね」
 しゅん、とする令。
「なんで謝る必要あるんですか? 令さんのズボン姿、俺好きですよ」
 立ち止まり、更に強く手を握る。
「それに俺、今日で改めてわかりました。令さんはやっぱり、凄く、物凄く、滅茶苦茶に可愛いって」
「かかかか可愛いって、そんな」
「だから、実はむしろ実は結構、良いんじゃないかって」
「へ? 良い……って?」
 体を半回転させ、正面から向かい合う。
 見下ろしてくる令は、目をぱちくりさせている。
「だって、俺だけが可愛い令さんを独占できるから……他の人たちは、こんな可愛い令さんのこと、分からないんだって」
 言いながら、顔が熱くなってくる。それでも、手は離さない。
「令さんは気にしているかもしれないけれど、俺は、嬉しいかも。それじゃ、やっぱり嫌ですかね? 俺の我が儘ですかね。俺の、俺だけの可愛い人でいていてくれれば……って」
「は……う…………」
 顔から湯気が出るのではないかと思うほど、真っ赤になる令。もっとも、それは祐麒とて負けていないのだが。
 どれくらい、無言で二人、俯いていたであろうか。やがて、ようやく令の方が口を開いた。
「えと、じょ、条件があります」
 思いがけない回答に顔を上げると。
「ちゃ……ちゃんと名前を呼んでくれたら……」
「え? あっ、ええと」
 何のことだろうと思ったが、すぐに理解する。
 不慣れであることと気恥ずかしさがあり、どうしても自然に口にすることが出来ないでいたのだ。
 呼ばれる令の方もまだ慣れていなくて、恥ずかしくて、呼ばれるたびに狼狽えてしまうのに、それでも求めてくる。
 そんな彼女がやっぱり愛おしくて。

 祐麒は彼女の名を呼ぶ。

「――令ちゃん」

 と。

 

おしまい

 

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