書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

マリア様がみてる 中・長編

【マリみてSS(江利子・令・由乃・祐麒)】黄薔薇恋愛狂想曲 1

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 いよいよ街も冬の様相を呈してきた今日この頃。
 コートが待っていましたとばかりに誇らしげな顔をして姿を現し、マフラー、手袋だって活躍の場を与えられる。
 それくらい寒くなってきたということなのだが、今の祐麒にはそれ以上に、我が身に突き刺さる数々の視線のほうがよほど冷たかった。
 好奇の視線であったり、異物でも見るような目であったり、中には変質者でも見るような子もいたり。リリアン女学園の生徒たちはなかなかに正直であるようだ。
 祐麒は祐巳を恨んだ。
 そう、祐麒がなぜ、リリアン女学園の正門そばにいるかというと、それは姉である祐巳に事の発端があった。日直の当番でいつもより早く家を出た祐巳であったが、生来のおっちょこちょいのせいか母親の作った弁当を忘れてしまった。仕方なく、後から家を出る祐麒が持ってやってきたわけなのだが、さすがに女の園。学園祭の手伝いで何度も来てはいるけれど放課後のことであったし、学園祭の舞台劇では衣装を身につけて、しかも女装していた。
 圧倒的な女子生徒の中、あきらかに祐麒の姿は浮いていた。これでコートを着ていない時期だったら、さらに浮いていたことだろう。
 しかし、これからどうすればよいのか祐麒は思案に暮れていた。
 忘れ物を持ってきたところで、リリアンの敷地内に入れるわけではないのだ。かといって周囲をうろうろしていれば、何事かと疑われるだろう。数少ない知り合いが都合よく来るとも思えない。
 諦めて祐巳にはパンでも買ってもらおうかと思い、踵をかえそうとしたとき。不意に、名前を呼ばれた。
 振り向いてみるとそこには。
「ごきげんよう、祐麒くん。どうしたの、こんなところで」
 お下げの髪を揺らしながら、大きな目を丸くして祐麒のことを見ている美少女が。
「ひょっとして祐巳ちゃんに、何か用?」
 その隣には、ベリーショートの髪の毛を撫でながら祐麒のことを見下ろしている美少年、にしか見えない美少女が。
「おはようございます、令さん、由乃さん」
 軽く頭を下げる。
 顔を上げて並んで立つ二人を改めて見て、息を吐き出す。
 本当に、絵になる二人だ。美少年と美少女、お姫様と騎士、隣り合って歩く姿はお似合いのカップルにしか見えない。
 思わず見とれてしまった祐麒だったが、黙ってしまったせいか由乃さんが眉をひそめた。
「どうしたの?」
「あ、ああ、ごめん。そうそう、祐巳に忘れ物を届けに来たんだけれど」
「ああ、中に入れなくて困っていたわけだ」
「で、何を忘れたわけ、祐巳さんは?」
 問われて、祐麒が鞄の中から弁当を入れた手提げを取り出すと、由乃さんと令さんは最初、目を丸くしたが、すぐにくすくすと笑い出した。
「祐巳ちゃんらしいね」
「ホント、でも忘れたのに気がついたらどんな顔するかちょっと見てみたいかも」
 口元に手を持っていって笑いあう二人。ミトンの手袋をしている指は見えないけれど、もこもこと動く様が妙に可愛らしい。
 二人を眺めているのは大変、目の保養になるが、いつまでもこうしているわけにもいかない。他の生徒達の目も気になるところである。
「オーケイ。じゃあ、私が渡しておいてあげる」
「お願いします」
 そっと、手提げを渡す。
 受け取る由乃さん。
「うわっと、そろそろ行かないと遅刻しちゃう。それじゃあ、宜しくお願いします!」
 再度頭を下げると、花寺に向かって軽く走り出す。
 駆ける後ろ姿に向けて、美少女二人が手を振っていたことに祐麒は気がついていなかった。

 

 そして勿論、それが全ての始まりであったなどとは、今も、全てが終わった後でも気が付く由もないのであった。

 

~ 黄薔薇恋愛狂想曲 ~

 

1.狂騒の幕開け

 

 由乃がそのことに気がついたのはお昼休みだった。
 むしろ気がつかされたというべきか、情報源は写真部のエース、蔦子さんからだった。
「私が、男の子に手作り弁当を渡した?!」
「しっ、声が大きいわよ」
 声が大きいと言われた所で、すでに他の生徒達の噂にもなっているのではないだろうかと由乃は思った。
 由乃と蔦子さん以外にいるのは祐巳さん、真美さんと、いつものメンバー。冬に入ってからはさすがに寒いので、中庭に出てお弁当を食べることはなくなって、教室で机を寄せ合って食べている。すなわち、他の生徒も周囲に沢山いるわけであるが。
 四人、顔を寄せ合って声を潜める。
「そのお弁当って、これのことだよね?」
 祐巳さんが、まさに今、お箸をつけている自分の弁当をさす。
 由乃が祐麒くんから預かり、さらに由乃の手から祐巳さんにわたったものである。
「どこからそんな話になったのでしょうか」
 いつもは冷静な真美さんが、話しにくらいついてきた。スクープの匂いがしたのか、それとも単なる興味の延長か。
 蔦子さんの話を聞くと、生徒の噂になっているのはこういうことである。
 朝、校門の前で黄薔薇のつぼみである由乃が、花寺学院の男子生徒にお弁当を手渡したということ。
 本当は逆なのだが、様子を見た生徒が勘違いをしたのだろう。
 しかし噂というのは怖いもので、伝わっているのはその一つだけではなかった。
 そのお弁当を渡したのは、実は令ちゃんの方であったとか。渡したのは由乃だったけれど、お弁当を作ったのは令ちゃんだとか、その逆だとか。
 果てには、令ちゃんと由乃が一人の男性を取り合っているとか。
「噂って怖いわねぇ」
 しみじみと呟くと。
「そんな落ち着いていていいの?由乃さんのことだけじゃなく、令さまも巻き込まれているのよ」
「そう言われてもねえ」
 卵焼きを口に放り込みながら、由乃は行儀悪く頬杖をついた。
 確かに、学園祭のときに祐麒くんをめぐって、令ちゃんと一悶着あったのは事実だ。しかし、それもとうに解決したというか丸く収まったというか。根本的な解決はしていないかもしれないけれど、お互い、しこりになるようなことはなくて。
 しかも、今日のことは由乃も令ちゃんも当事者であるだけに、実態は分かっているのだ。いくら噂が流れようが、たとえリリアンかわら版でみょうちくりんな記事が書かれようとも、お互いが疑心暗鬼になったり、無様にうろたえたりすることはないだろう。
「大丈夫、人の噂も三日三晩ってね」
「意味不明よ、由乃さん」
 こうして笑い話にできるくらいなのだから、大丈夫。あの騒動を経て、由乃は成長したのだ。今は、少し落ち着いて考えてみようと思っている。祐麒くんのこと、令ちゃんのこと、その他いろいろなこと。
 偉そうなことを言ったところで、由乃も令ちゃんもリリアン育ちの世間知らず。男性のことだって、家族と学園の教師以外はほとんど知らないし、接したことが無い。だから、たまたま親しくする機会のあった同年代の男の子に惹かれるというのは、ある意味必然だったのかもしれない。
 逆に、本当に自分がどう思っていたのか、ということを考えると疑問が残るような気がする。きっと、令ちゃんも同じことだろう。
 だから少し、時間を置いて、距離を置いて、冷静に考えたいと思った。
「真美さんだって、こんなこと記事にしないでしょう?」
「そうね、だって事実は全く異なるし、当事者もこのとおりだし。お姉さまだったら喜んで飛びつきそうだけれど」
 真美さんも、さして興味なさそうに箸を動かしている。
「なんか、由乃さんも随分と落ち着いてきたわね」
「ま、それなりにね」
 お弁当の話については、それで終わりになった。新聞部も写真部も具体的に動かない以上、他の生徒達の噂もすぐに収まるだろうと思った。

 

「――ああ、そういえばそんな噂が流れていたらしいね」
 机に向かっていた令ちゃんが椅子を回転させて振り向いた。手にしたシャープペンシルを軽く上下に振りながら、何かを思い出そうとするかのように、天井に顔を向ける。
 ここは、支倉家内にある令ちゃんの私室。
 帰宅して、夕食をとって、その後に由乃は令ちゃんの部屋に駆け込んだのであった。目的はもちろん、今日の昼間に蔦子さんから聞かされた噂のことを話すために。学校にいる間は、話す機会がえられなかったから。受験勉強しているときに乗り込んでしまったのはちょっと申し訳ないとも思うが、ずっと勉強ばかりしていても息が詰まるだろうし、休憩時間と思えば良いだろうと、由乃は都合よく考えることにした。
「どんな風な?」
 お下げをほどき、ちょっとばかりソバージュっぽくなった髪の毛を指でいじりながら、由乃は従姉の様子を観察した。
 勉強の邪魔をされた、なんてことはおくびにもださずに令ちゃんは少し考える。
「うーん、今、由乃から聞いたのと同じよ。私と由乃が、一人の男性をはさんで恋の鞘当をしているって。黄薔薇革命再びか、なーんてね」
 自分で言って、からからと笑っている。
 それを見て、由乃も声を上げて笑った。
 やっぱり、大丈夫だったから。令ちゃんも由乃も、噂なんかに振り回されることなく、ごく冷静に客観的に見ることができている。
「こうして聞くと、噂というか、想像力ってすごいね」
「ホント、ね」
 顔を見合わせて、また、笑いあう。
「でも、さすがにこれ以上、話が凄いことになったり、騒がれたりしたら困るかもなぁ」
「それは、大丈夫じゃないかな?」
「そうかしら?」
「私と令ちゃんが普通にしていれば、そんな噂すぐに消えてなくなっちゃうわよ。こーいうのは、当事者が何か言えば言うほど、変になるんだから」
 置いてあった猫の縫いぐるみの耳をつまみ、にらめっこをしながら由乃は頷く。
「きっと、週明けには噂もきれいさっぱり消えているって」
「……そうだね。由乃、強くなったね」
「そう?」
 令ちゃんが、由乃の頭に手をおいて髪の毛をくしゃくしゃっとするようにして撫でる。小さい頃は結構されたものだけれど、高校に入ってからは数えるくらいしかない。由乃は首をすくめ、目を細める。
「ちょっと令ちゃん、やめてよー」
「いいじゃない、これくらい」
 噂のことについては、これで終わると由乃も令ちゃんも思っていた。

 しかし、由乃の予想は半分当たり、半分は外れた。
 いや、お弁当のことだけに限るならば予想は完全に当たったのだが、お弁当のこととは全く別の事態が由乃を、令ちゃんを巻き込んで、またまたとんでもない騒動になっていくことなんて、想像しようがないではないか。

 

 それは週が明けてからのことだった。由乃の予想通り、お弁当の噂については当事者や新聞部が騒ぎ立てないために、ほぼ収束しつつあった。まだ、多少はひそひそと噂をする声が耳に入ってくるような気がしたけれど、気になるほどではない。無視できるレベルであったので、由乃としても一安心であった

 

 ―――と、思ったのは登校して教室の自席に座ってから、ほんのちょっとの間だけだった。

 鞄の中から教科書を出して机の中にしまっていると、なぜか妙な胸騒ぎが。ふと、目を教室前方の扉に向けると、お嬢様学校らしくない激しい足音を立てて教室に飛び込んできて、せわしなく頭を左右に振って由乃のことを確認すると、一目散に駆け寄ってくる親友の姿が。
「よよよよ由乃さんっ?!」
「どうしたのよ祐巳さん、そんなに慌てて。昨日の『白虎隊スペシャル』見逃したの? 大丈夫、ちゃんと録画してあるから貸してあげるわよ」
「そ、そんなマニアックな番組観ないよー」
 む、まあ祐巳さんが観るとは思ってはいなかったけれど、マニアック扱いすることないではないか。白虎隊はその悲劇性からファンも多いというのに。随分と前に放映された年末時代劇特番はよい出来だった。観たのはビデオだけど。
「それはともかく置いておいて」
 何もない空間にある物体を持ち上げて横にどける動作をする。そういうお約束なことをしてくれる祐巳さんが好きだ。
 ……それで結局、何が起きたのだろうか。
「き、昨日、うちに来たのよ! いや、来られたのよ!」
「はあ?」
 まったく、要領を得ない。
 首をかしげていると。
「だから、なんと昨日、祐麒を訪ねて来られたの」
「祐麒って……祐巳さんの弟の、祐麒くん?」
 黙って頷く祐巳さん。
「花寺の生徒会長の?」
「そう」
「ええと、で、それで?」
「それで……って、由乃さんは何とも思わないの?」
「いや、そう言われても、何をどう思えばいいのかさっぱり」
 祐巳さんの話はさっぱり意味がわからない。というか、興奮の余り、色々と単語が抜けているような気がする。きっと、彼女の中では話は確定していることであり、わざわざ言うまでもないという意識が無意識のうちに働いてしまっているのだろう。
 まあ、ここは冷静に考えてみよう。
 祐麒くん、というのは考えるまでも無い、今年度の花寺学院の生徒会長にして祐巳さんの年子の弟さん。男の子にしてはなかなかに可愛らしい顔をしていて、今年のリリアンの学園祭では『とりかえばや』を主演して、実は秘かにリリアンの女生徒たちに人気がある。そして由乃や令ちゃんも、学園祭のときには色々と振り回されたものである。令ちゃんとの仲も今までに無いような緊張感を持ち、ひょっとすると今まで築き上げてきたものが全て崩壊してしまうのではないか、という恐れさえあった。
 結果的には、最後は全て丸く収まり、それどころか今まで以上に由乃と令ちゃんはお互いのことを分かり合えた、と思う。
 そして、その祐麒くんを訪ねて祐巳さんのお家にやってきた人がいると。いや、祐巳さんは確か「来た」から「来られた」というふうにわざわざ言い直していた。ということは、目上の人なのだろう。そしてきっと、リリアンの関係者。
 うーむ。
 そこまで考えてみても、さっぱり分からない。
 しかし次の祐巳さんの一言が、由乃の冷静さを一気に180度覆す。だって、そりゃあそうだろう。
「だから、祐麒を訪ねてうちに来られたのよ……黄薔薇さま、ううん、前黄薔薇さまであられた、鳥居江利子さまがっ!!」
 一瞬の静寂の後。

「えええーーーーーーーーーーーーーーーーーっ?!」

 という悲鳴とも絶叫とも歓声つかない声が、由乃を含む教室のあらゆるところから発せられた。
 祐巳さんときたら、みんなが聞こえるくらい大きな声で言うから、既に登校していたクラスメイト達みんなの耳に入ってしまったではないか。しかも前薔薇さま方といったら当然、今の二年生は知っているわけで、ファンも多かったわけで。それは"あの"江利子さまといえど同じことで。
「―――あ、しまった」
 ようやく気が付いたのか、祐巳さんは頭をかいているが。

 由乃自身、思いも寄らなかった祐巳さんの一言に、ただただ頭の中が真っ白になって何も反応することができなかったのであった。

 

続く

 

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