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ノーマルCP マリア様がみてる 菜々

【マリみてSS(菜々×祐麒)】あ~も~

更新日:

 

~ あ~も~ ~

 

 

「せ~んぱいっ、今度の土曜日、うちに遊びに来ませんか?」
 気になる後輩、というか言ってしまえば惚れた後輩の女の子にそんなことを言われれば、例えその日に予定が入っていたとしても全てをうっちゃって構わないと思う。もちろん、声や態度は可能な限り控えめに、だからといって全く嬉しさを表に出さないのも失礼である。まあ、隠していられるほど器用でもないのだが。
「…………実はその日、両親とも出かけて、帰ってこないんです」
 さらに、ちょっと恥ずかしそうな上目づかいでそのように付け足して言われたならば、期待せずにはいられないというものである。
 そして……

「せ、せんぱい、私はじめてなんで、もっと優しくしてください……」
「俺だって、それを言うなら初めてだから」
「そうなんですか? その割には、随分と手慣れているように感じますけれど……」
「一応、事前にネットで調べてきたから。どうすれば上手くいくかって」
「そうなんですか? じゃあ、私だけ本当に何も知らないんですね、なんかずるいです……あ、イタッ!」
「大丈夫? ごめん、ちょっと失敗」
「はい、大丈夫……です……あ、でも血が…………」
「菜々ちゃん……」
 と、そんなところで。
「はい、カァーーーーット! オーケイ、いいよ二人とも、初めてする時の初々しさが良く出ていた!」
 そんなことを言いながらOKサインを出して見せたのは、菜々の姉である瑠々。
 ここは菜々の家のリビング、先ほどの会話はもちろん祐麒と菜々の濡れ場なんてことはなく、ゲームをしている時の会話である。
 発売されたばかりの新作ゲームはオンライン対応だが、こうして皆で集まってワイワイと楽しむこともできるのだ。それ即ち、菜々に加えて瑠々だけでなく、寧々と百々も揃っているということで、菜々と二人きりの甘い時間など求めようもない。
「残念だったね祐麒、菜々と二人きりじゃなくて」
 にやにやと笑いながら、瑠々が背後からスリーパーホールドをかけてくる。
「ぐ……瑠々さん、当たってるんだけど」
 Tシャツ一枚の祐麒に、同じようにタンクトップ姿の瑠々、背中に押し付けられてくるのは紛れもない柔らかな胸の感触。
「当ててあげてるの。菜々じゃあ出来ないでしょう?」
「瑠々姉っ、どさくさに紛れて何しているですかっ」
 菜々の蹴りを横腹に受けて、「ぐえっ」とうめき声を上げながら床に倒れる瑠々。弾みでミニスカートの中が見えそうになり、慌てて視線をそらす祐麒。
「ちょっと瑠々、菜々、女の子なんだからもうちょっとお淑やかに、慎みを持ちなさい」
 長女らしく窘めてくる百々だったが、ホワイトのシャツの下にブラジャーが思い切り透けて見えていて目に毒である。ピンク色のブラジャーなのは、名前にあわせているのだろうか。
「まったく、男なんかのどこがいいのかしら。あ、祐麒くんが嫌いってわけじゃないわよ」
 ぶつぶつと文句を言いながらもゲームパッドを器用に操作しているのは、次女の寧々。肩あきデザインのTシャツにデニムのショートパンツ、ショートカットで活動的なイメージの瑠々には良く似合うが、男嫌い、というか女の子が好きな女の子。祐麒に対して冷たかったり、悪態をついたりすることはないが、どこか一線を引いている感じは受ける。
「――よっしゃ、あたしがトップ! 最下位は、祐麒くん! キタコレ!!」
「う、マジか……」
 コントローラを取り落す祐麒は、逆に嬉々として立ち上がった寧々に首根っこを掴まれて引き起こされる。最下位となった者に対し、勝者が一つ命令できるというルールで、これまで祐麒はビリにならずにすんでいたのだが、とうとう負けてしまった。しかも勝者が寧々となると、命令は決まったようなものである。

「――――――きゃああああっ、素敵っ、可愛い、超可愛いっ!」
 テンションがマックスを突き破ったかのような寧々、一方でテンションだだ下がりの祐麒はといえば、提供された百々の洋服を着させられている。フリルシャツにプリーツのミニスカート、おまけにウィッグと化粧である。
「ああ、ヤバいヤバい、超あたし好みだわユウキちゃん! あたし、ユウキちゃん相手だったら処女あげてもいいっ!!」
「だああああっ、落ち着いてください寧々さんっ!」
 まるで人が変わったかのように迫ってくる寧々を押し返そうとするが、そうするとミニスカートが捲れそうになってしまい、慌てて抑える。
「え、その反応……まさか先輩、下着まで?」
「いや、女性物のパンツとか、出されても穿かないからね!?」
 とはいえ、今の所作はちょっとばかり失敗だった。
「大丈夫、次にあたしが勝ったら、パンツも穿いてもらうから」
「うわぁ……我が姉ながら、ど変態ですね」
 菜々が呆れた顔をして寧々を見つめている。その菜々と目が合う。
「……いや、これはこれで、こんだけ似合ってしまうのもちょっと……微妙ですね」
「しみじみと言わないでよっ!?」
 自分だって、女装させられた姿を鏡で見て、思いがけずに合っていることに落ち込んだりもしたのだから。
「でもせんぱい、残念でしたね。両親がいないって聞いて、私と二人きりって期待していたでしょう?」
「いや、なんとなくこんなことだとは思っていたけれど。両親がいないっていっても、お姉さんたちがいないとは一言もなかったからね」
「ちぇっ、つまんないの」
 期待をしなかったと言えば嘘になるが、菜々のことだから素直に喜んでいいとは思えなかった。冷静に考えれば、姉妹が沢山いる中で両親だけがいないと言われたところで二人きりになれないことはすぐに分かった。
「――そう? その割には祐麒くん、しっかりコンドーム持ち込んでるじゃん」
「ちょっ、何、勝手に人の荷物漁ってるんですか!?」
 慌てて瑠々の手を掴むが。
「なんて、うっそーん。その慌てぶり、本当に持ってきたな?」
 瑠々が持っていたのはただの手肌用クリームの小箱であった。カマをかけられ、見事に引っかかってしまい、急速に顔が熱くなる。
「ち、違うんだ菜々ちゃん、俺は別に持ってきてなんかっ」
「あ、本当にあったよ。えーと、『超うすうすくん』だって。へぇ~、初めて見た。8個入りってことは、あたし達4人だから1人2回ずつってことか」
「なんでそうなるんですかっ!?」

 とまあ始終そんな感じで、二人きりはおろか良い雰囲気にすらなることなどありえなかった。他の友人達から見れば、四姉妹に囲まれて遊ぶなんてどれだけリア充なんだ、ハーレムでも作る気かと妬まれそうだが、事実として祐麒はいじられているだけだ。それが羨ましいという奴もいるかもしれないが、気苦労が多くて疲れるのが現実だ。
 四人と一緒にゲームして、お菓子を食べて、騒いでいるうちあっという間に夕方になっていく。二人きりというわけではないが、両親がいないのも事実で、帰るか帰るまいか少し迷う所である。本音を言えば、せっかくだから菜々ともう少し一緒にいたいのだが。
「――さてと、祐麒くん、夜ご飯食べて行くでしょ?」
「いいんですか?」
「今さら遠慮する必要ないし、今日は夜通し皆で遊ぼうよ」
「それじゃあ、お言葉に甘えて」
 内心で喜び、表面的には冷静を装ったまま頭を下げる。
 夕食は四姉妹によって作られたシーフードカレー、料理は長女の百々が上手なようで、妹たちに指示を出して手際よく作っていたし、魚介類も問題なく捌いていた。菜々はあまり料理が得意ではないのかもしれないが、それでもサラダをメインで作っていた。瑠々は途中で落ちこぼれてリビングに追い出され、祐麒と二人でゲームをしていた。ちなみに、女装は既に終えて着替えている。
 やっぱり賑やかな夕食を終え、片付けも済ませてまったりしたところで時刻は午後の八時くらい、まだまだ夜はこれからという感じのはずだったが。
「――よし、それじゃあそろそろ」
 と、腰を下ろしていたソファから立ち上がる瑠々。
「そうね」
 つられるようにして寧々も腰をあげ、続いて百々も。
「どうしたんですか?」
 何事かと思って問いかける祐麒に向けて、瑠々は何事でもないかのように告げる。
「ああ、あたし友達とオールでカラオケで遊ぶ約束してて」
「あたしは知り合いのサークルから助っ人頼まれていて。締切近いらしくて」
「私は友達の家にお泊まりで受験勉強会よ」
「え…………?」
「とゆうことだから祐麒くん、あとは菜々と二人でよろしくやっててね」
 瑠々が親指を立ててウィンクをし、寧々と百々もそれぞれ思わせぶりな笑みを浮かべて祐麒のことを見つめている。
「え、ちょっと、あの」
 さすがに驚いて腰を浮かせる祐麒。瑠々たちがいることで、落胆するのと同時に安堵した部分もあったし、実際に瑠々たちと一緒に遊んで楽しく、肩の力を抜いて過ごすことが出来ていたのだ。ここで二人きりにされたら、完全に意識しまくっていまいそう。もしやこれは、菜々たちに謀られたのかと思って振り返り菜々を見ると。
「ちょ、ちょちょちょちょっとお姉たち、ど、どーゆーことっ!?」
 祐麒以上に驚き、焦りを見せ、瑠々たちに詰め寄ろうとする。
「どうもこうも、言った通りよ。私達は用事があってそれぞれ明日まで帰ってこないから、二人で留守番よろしくね、ってこと」
「そんなこと、き、聞いてないもんっ」
「今、言ったでしょ。私達の気配りに感謝しなさいよ」
 すると菜々は、瑠々たちを見つめ、祐麒に目を向けて頬を朱に染め、慌てて姉の方に視線を向け、手を中途半端にあげて宙をさまよわせ、あわあわとしている。どうやら菜々も全くあずかり知らぬことで、姉たちに祐麒ともども一杯喰わされたということらしい。剣道大会の出迎えの時もそうだが、想定外の事態にはさほど強くないのかもしれない。
 などと冷静に考えている風の祐麒も、どちらかといえば突然のことに思考がうまいこと回っていないだけで余裕があるわけではなかった。
 二人が対応できずにいるうちに三人は相次いで家を出て行き、あっという間に二人だけが残される。先ほどまで賑やかすぎた空間が、一気に静けさに包まれ、菜々と祐麒の呼吸音さえもクリアに聞こえる気がしてくる。

「……こ、困ったお姉さんたちだね。こんな、だまし討ちみたいな感じで」
「全く、本当です。人を困らせて楽しむなんて、性格が悪いですよね」
「菜々ちゃんがそれ言う?」
「どういう意味ですか?」
「よーし、これからスペシャルミッションでも挑戦しないか? 今日は確かイベントがあったはずだし」
 ジト目で菜々に見られて誤魔化すように言うと。
「――そうですね、望むところです。私の『オフレッサー』のバトルプージが火を噴きますよ?」
 菜々ものってきてくれた。先ほどまでの微妙な空気を元に戻すには、やはり共通で盛り上がれるこの手の話題の方が良い。多少不自然だったかもしれないし、まだお互いに意識している部分はあるが、随分とマシにはなった。後は、ゲームをしているうちにいつものようになるだろうと期待して、いざプレイを開始した。
 ゲーム自体には熱中するのだが、ミッションの合間や休憩のタイミングなどでふとゲーム世界から日常に戻った時、隣に菜々がいることを意識してしまう。それは菜々も同じなのか、言動がいつもと異なるように思えた。
「あっ……と、ごめん」
「い、いえ、こちらこそすみません」
 お菓子を取ろうとして手が触れ合ってしまい、互いに慌てて引っ込めて照れるなんてテンプレ的なイベントまで発生させてしまった。
 そうしてゲームを黙々とプレイして時間だけが進む。このままゲームをし続けるというのも一つの選択肢ではある。徹夜でプレイなんてのは今迄にだって経験している。ただ、すぐ隣同士でいるというのにゲームしかしないというのはどうなのか。祐麒だって、それでいいとは思っていないが、無理矢理どうこうするのは嫌だ。
 今のうちに帰るという選択肢もあるが、それはヘタレすぎるか。何はともあれ行動を起こさないことには今の状況がずっと続くであろうことは想像でき、そんなわけで祐麒はとりあえず、テーブルの上に置かれたまま放置されていた避妊具に気が付き、今さらながらしまおうと手を伸ばした。
「っ!?」
 それを見た菜々が、ビクリと反応をした。やはり祐麒も思考能力が鈍っていたのだろう、この状況でそんなものを手に取ればどう思われるかは明らかだったのに。
「あの、菜々ちゃん」
 誤解させ、怯えさせてはいけないと釈明しようとする祐麒だったが、コントローラをぎゅっと握りしめたままうつむいた菜々が先に口を開いた。
「だ、駄目ですせんぱいっ。私、まだお風呂入ってないですし」
「そ、そうだよね、ごめんっ」
 再びゲームに戻ろうとするが、菜々の発した言葉が頭に残る。

「………………ん?」
「………………あ」
 そうして隣に座る菜々を見ると、ほぼ同時に菜々も祐麒の方を向いてきた。口を開け、目をどこか潤ませ、顔を真っ赤にして声もなく口をパクパクさせている。菜々にしては珍しい、というよりも初めて見せる表情だった。
「ちちっ、違いますからねっ。そ、そういう意味で言ったわけでは、な、なくてっ」
「ああ、うん、そうだよね、うん」
「わた、私、そんなつもりじゃっ」
「分かってる、大丈夫だから落ち着いて菜々ちゃん、凄い汗出てるし」
 美しい額から頬を垂れ、さらに首筋にも汗の玉が噴き出ている。
「そ、そうですね、暑いですしなんか汗かいちゃったから私、お風呂入ってきますね」
 コントローラをやや乱暴において立ち上がる菜々。
「――――」
「あ…………だ、だから、ただ汗かいたからお風呂に入りたいだけで、深い意味はないですからねっ」
「分かってるから、菜々ちゃ……」
 祐麒の声が届いたのかどうか分からないが、逃げるように菜々はリビングから出て行ってしまった。
 呆然とその姿を見送りながら、祐麒は動きが激しくなりそうな胸を懸命におさえる。菜々のあの発言、そしてあの反応は、どっちにとらえたらよいのだろうか。経験のない祐麒には自信がなかったが、それでもさすがに拒絶とは思えなかった。
 ドキドキしながら待つ時間は長く感じられたが、それでもやがて菜々が出てくるのが気配で分かった。
「……せんぱい」
 ひょこっと、リビングの入口から顔だけを見せる菜々。湯上りでほんのりと肌は桜色、髪の毛はしっとりと濡れて光っている。
「せ、せんぱいもお風呂、どうぞ。私、自分の部屋に行っていますから……っ」
 それだけ告げて、菜々はバタバタと足音を立てて去っていく。極力、何も考えないようにして風呂に入り、持参してきた新品のシャツと下着を身に付けて菜々の部屋に向かう。

「……な、菜々、ちゃん?」
 ノックをしながら出した声が上擦る。
「どっ、どどっ、どうぞっ」
 応じる菜々の声もいつもより少し高い。
 一度、大きく深呼吸してからゆっくりと扉を開けて菜々の部屋に足を踏み入れる。何度か入ったことのある部屋、沢山のゲームと本、アニメのCDにブルーレイ、同人誌の束、前と変わらないはずなのに変わって見えるのは、部屋の主の格好が始めて見るものだからだろうか。
 ピンクのギンガムチェックのシャツに、同じ柄のショーパンというパジャマスタイルで、ベッドの上にちょこんと座って菜々は待っていた。
「菜々ちゃん、パジャマ姿可愛い……」
「そ、そゆこと平然と言わないでください」
「褒めたのに駄目なの?」
「駄目っていうか、普段は気が利かないくせに、こういう時だけ褒めるとか、ずるいです」
 だが実際、ピンクのパジャマを身にまとった菜々は可愛いのだから仕方ない。あまりピンク系が好きというイメージもないところ、パジャマも1サイズ上なのかだぼっとしているところも萌えポイントで、さらにもじもじと恥ずかしがっているのが堪らない。
 祐麒は少し悩みつつも、そんな菜々の隣に少し距離を置いて座った。
「…………」
「…………」
 無言の間が緊張感を高める。
「…………あの。こ、これから、どうします?」
 沈黙に耐え切れなくて先に口を開いたのは菜々だった。
「ど、どうって言われても……」
 濁しかけて、それではいけない、ここは自分の意思をはっきり告げないと駄目だと思い直す。
「俺は……な、菜々ちゃんと、その、したいと」
「…………」
「こんな状況で言ったところで信じてくれないかもしれないけれど、俺……菜々ちゃんのこと、す、好きだから」
「……それは、態度を見ればバレバレでしたから、信じますけど……」
「…………あ、そうですか……」
 それはそうかもしれなかったが、言われるとやはり小恥ずかしい。
「でもせんぱい、瑠々姉や百々姉のおっぱいにデレデレしてるじゃないですか。私ほら、胸小さいですし」
「そ、そんなことないよ、菜々ちゃんだって確かに大きくはないかもしれないけれど、胸の大きさで女の子を好きになるわけじゃないから!」
「……でもせんぱい、ゲームで選択するキャラは巨乳が多いですよね」
「あ、あれは、キャラデザがそもそも巨乳ばっかなだけだし、二次元と現実は違うし、俺は実際に触ることのできる方が好きだしっ!」
「うわぁ……結局、手近でえっちぃことが出来るから、私の方が良いと……」
「だあああっ、だからなんでそうなるの。ってゆーかそもそも、菜々ちゃんは俺のことをどう思っているのか聞かせてほしい。俺の告白に対する答えを」
「え…………と、それ、言わないと駄目ですか……」
「そ、そりゃ、言って欲しいよ」
 生殺しのままというのは辛いものである。今まで中途半端な間柄で遊び続けていたが、いつまでも生ぬるい関係を続けていきたいわけではない。確かに、居心地よくて浸かっていたくなるけれど、それ以上の仲になりたいのだ。
「分かりました……じゃあ、向こうを向いて目を閉じてください」
「え、なんで?」
「せんぱいの背中に、マルかバツを書いて伝えますから」
「わ……わかった」
 口で伝えるのが恥ずかしいのか、わざわざ手間をかけるやり方にも素直に頷き、体の位置を少しずらして菜々に背を向ける。
 大丈夫だ、今までの付き合い、流れからして、今さらバツを返されることはない、そう思っているのに胸のドキドキ、バクバクは果てしなく大きく激しくなっていく。思いを伝える時よりも、今の方がよほど緊張してきた。
「……それじゃあ、返事、しますね」
「うん……」
 ごくりと唾を飲み込み、背中に意識を集中させる。菜々のことだから、「円」とか「罰」とか漢字で書きかねないし、いやそもそもバツを想定していてはダメだろう。待つだけの時間が、そんな益体もない考えを脳裏に思い起こさせ――

(――――――っ!?)

 思考が止まる。
 目を開けると。
 後ろにいるはずの菜々の顔が目の前にあって、「してやったり」といった感じの表情を浮かべ、前屈みの格好で祐麒を見つめている。だが、余裕そうに見せてはいるものの、ほんのりと頬が赤くなっている。
「せんぱいってホント、引っかかりやすいですよね。でも、そーゆーところ悪くないって……うわぁ!?」
 たまらなくなって菜々を正面から抱きしめた。
「菜々ちゃん、そんなことされたら俺、我慢できないよ……?」
「え、ちょ……うああ、こ、こんなおっきく、硬くなるんですか、本物は……っ?」
 ギュっと抱きしめると、下腹部あたりに押し付けられたものを感じたのだろう、菜々は顔を真っ赤にしながら体をもじもじさせる。いやそもそも、あんな可愛らしいことをして、しかも前屈みになった時にパジャマの隙間からささやかな膨らみと、その頂にあるピンク色の突起を見せてきた菜々が悪いのだ。
「わ……私は、その、まあ、お風呂にも入りましたし……」
 OKと受け取った祐麒はさっそく菜々に触れようとして、大事なことに気が付いた。例のものをリビングに置きっぱなしにしていたのだ。いざという時になってアレがない、取りに戻るなんてことになったら間抜けすぎる。
「ちょっと待っててくれる菜々ちゃん?」
 菜々から一旦身を離し、素早く取りに行って戻ってこようとした祐麒だが。
「――――うわぁっ!?」
「きゃあっ!」
 部屋の扉を開けた瞬間、瑠々、寧々、百々の三人が中に倒れ込んできた。
「え…………?」
 折り重なるように倒れている三人を、目を丸くして見る祐麒と菜々。
「あ~~っと、あたし達のことは気にせず、続きをどうぞ?」
「そうそう、いないものと思っていいから」
「あ、それともいっそのこと5Pしちゃうとか?」
 どうやら外出したと見せかけてこっそり戻ってきて、菜々達の様子を出歯亀していたのだと知り、菜々の表情が変わり、そして。
「お、おっ、お姉ぇぇぇ~~~~~~っっ!!!!??」
 菜々の絶叫が、深夜の田中家に響き渡った。

 

「――ごめんってば菜々、機嫌直してよ」
 翌朝、食卓の場でも菜々の機嫌は戻っておらず、むすっとしたまま無言で朝食を口に運んでいた。
「いや、謝るなら祐麒くんに対してでしょ。だって、菜々とエッチする気満々でいたのに、おあずけになっちゃって」
「あの後あたし達退散したんだから、気にせず続きをしてくれればよかったのに」
 あの状況、雰囲気の後で出来るわけがないではないか。
 祐麒も無言で白米を咀嚼する。
「あ、じゃあお詫びに、百々姉と寧々姉とあたしとで祐麒くんにご奉仕してあげるってのはどう? 祐麒くんて中性的だし、ショーパン履いてもらえば百々姉、寧々姉、二人の要望にも添えると思うし」
 ショタ属性の百々、百合属性の寧々、双方に応じるのがショーパンだと瑠々は言うのだ。やめてほしい。
「た、確かにそれなら……」
「アリ……かも?」
 ごくりと唾を飲み込む寧々、ぽっと赤面する百々。
 そんな姉たちの勝手な会話を無言で訊いていた菜々だったが、静かに箸を置くと。
「そ……んなの、アリなわけないでしょーっ!!? せんぱいは、わたしだけのせんぱいなんだもん!」
 その場に立ち上がり、大きな声で言った。
「おお、菜々の独占欲!?」
「えぇ~、いいじゃない菜々ちゃん、私達姉妹でしょう、今までだって好きなものは仲良く分けあってきたじゃない」
「百々姉、今回のはちょっと違うけど……ま、まあ、ショーパン履いて、あとニーソとチュニックとかもつけてくれたら、私もやぶさかではないけれどね」
「だ~~か~~ら~~っ、あーもーっ!!!」
 ぷくーっと頬を膨らませて、じたばたと地団太を踏む菜々。
 祐麒と二人のときは見せないような表情、態度だけど、それもまた可愛らしいと感じる。
「せんぱいも、何ヘラヘラしているんですか!」
「ご、ごめんなさい」
 怒られて謝りつつも。
 やきもちを焼いてくれていると思うと嬉しくなる祐麒なのであった。

「――別に、やきもちなんかじゃなないですもん!!」

 

 

おしまい

 

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