思い返してみれば、昼間から兆候はあった。
仕事に従事しているとき、同僚から「貴女、何か変なことに手を出したりしていないでしょうね?」と訊ねられたり、「あの人とは、あまり深く関わらないほうがいいと思うわよ」と忠告めいたことを言われたり。
その時は何も身に覚えが無かったし、やましいこともなかったので気にも留めず、数刻の後には綺麗さっぱり忘れてしまったけれど、自分のあずかり知らぬところで事態は変化していたのだ。
動きがあったのは、次の日の夜だった。
夜も更け、読み進めていた分厚い書物を閉じ、就寝の準備にとりかかる。着替え、明日やるべき仕事の内容を整理しながら床に入る。寝つきはいいほうで、しばらくすると意識は闇に落ちていく。夢を見ることはあまりない。朝までぐっすりと十分な睡眠をとる。それこそが明日もまた充実した一日とする秘訣だと、蓉子は考えている。
しかし、今回ばかりは違った。
寝てからどれくらい経っただろうか。不意に、体が揺すられるのを感じた。
「……蓉子。……蓉子」
ささやくような声。
目を開けて横を向くと、すぐ目の前に人の気配があった。暗闇に目が慣れていないせいかすぐには判別できなかったが、耳にした声は聞き違えようがなかった。
「…………聖?」
「しっ、静かに」
と、口元をおさえられる。
状況を把握できずに、視線だけを動かして室内を見ると、聖の後ろにもう一人誰かがいるのが分かった。江利子まで、こんな夜中に人の家に忍び込んでくるとは、いったい何事なのだろうか。
蓉子の疑問を感じたのか、聖が最小限度の言葉で説明をする。
「蓉子は狙われているのよ」
思考が一瞬、硬直する。
狙われているとは、どういうことか。まだ神官見習いでしかない自分に、何がしかの刺客や追っ手がくるなどとは考えがたい。だが、聖も江利子もいつもの余裕ある表情は消え、ごく真剣な瞳で蓉子のことを見ていた。
「どういう――こと?」
「事情は後で。とにかく今は、すぐにここを出る準備をして」
「待ってよ。そんなこと急に言われても何がなんだか」
「お願い、あたしを信じて」
肩をつかまれ、正面から見つめられた。
ようやく闇に目が慣れてきて、闇の中にも星の光をあびて浮かび上がる聖の整った顔立ちに、思わず心臓が高鳴る。
「――聖、ヤバイ。来たわ」
窓際で外の様子をうかがっていた江利子が、細い声で注意をうながす。
「マジ? さすがに行動が早いわね。蓉子、もう準備している暇は」
「ちょっと待ちなさい。一体、誰が来たっていうの?」
「あ、だ、だめ、見ない方が」
制止する聖の手を振り切って起き上がると、音を立てずに窓際まで移動する。そして、カーテンの隙間からそっと外の様子を覗き見る。
夜とはいっても、人っ子一人いなくなるというほどではない。夜の商売もあるし、静かではあるが、ちらほらと明かりや人影が目に入る。そんな中、まっすぐにこの家に向かってくる一つの影。
「―――あれって、ルイーダじゃない? 酒場の」
妖艶なる酒場の女主人の姿は、夜の中でも見紛うことはなかった。
ルイーダの名を聞いて、背後でビクリと聖が身を震わすのがわかった。
「……聖。どういうこと?」
「え、いや、その」
「説明なさい」
有無を言わさぬ口調で睨みつけると、聖はしぶしぶ口を開いた。
「そ、それがそのう……実は借金のカタに蓉子の身体を」
「……はぁっ?!」
簡単に話を聞くと、数日前にルイーダの酒場で飲んでいた聖は、ちょっとしたことから他の客と喧嘩となり、その際に店の地下倉庫の扉をぶち破ったあげく、中に保管されていた貴重な酒、ワイン類を派手に破壊したとのこと。さらに衝撃で、占いも行うルイーダの商売道具、水晶球をも壊してしまった。かねてからのツケも加えて、とうとうルイーダの堪忍袋の緒が切れ、一括請求を求められた。
当然、支払うべき金など持ち合わせていない聖は、困った挙句に窮余の一策を講じた。即ち、前から蓉子にご執心だったルイーダに、蓉子をペットとして捧げると。
狂喜したルイーダに対し、準備をするから一週間ほど待ってくれと告げてその場から逃げ、今日がその一週間後にあたるということで、ルイーダは喜び勇んで蓉子を迎えに来たというわけだった……
「……ってちょっと待ちなさい聖。何、人のこと勝手に借金のツケにしているのよ!」
「だ、だって、そうでもしないと何されるかわからなかったから。ほら、ルイーダって数年前は伝説の妖術師だったわけじゃない」
「ほう、その伝説の妖術師に私を売ったってわけね」
「ほ、本当は今日までにお金を準備する予定だったのよ」
「それで、当たり前だけれど、間に合わなかったのね」
「それどころか聖ったら、借金を倍に膨らましたのよ」
「だから、助けに来たんじゃない! そ、それにあたしなんかまだマシな方よ。江利子なんかさ」
「あ、バカ、聖!」
すぐ隣にいた江利子が、身をすくめる。
「ふふふ、え、江利子は何かしら?」
「え、ええと」
と、問い詰めようとしたところで、ルイーダとは別の道から、また異なる人物が真っ直ぐに蓉子の家に向かって歩いてくる姿が目に入った。遠目でも、見誤ることはない。王宮でも、何度か見かけたことのあるその人。
「ミザリー?」
「うわぁ……来ちゃったぁ……」
江利子が窓から身を離し、額をおさえる。
「で、どういうことなの?」
もはや聞く気にもならないが、だからといって聞かないわけにはいかなかった。頭痛がするのをこらえて問いただす。
曰く、数日前に珍しくギャンブルで大勝をしていた江利子。ツキのあるときとはそういうもので、全く負ける気がしなかったらしい。後は語るまでも無いだろう、調子に乗った江利子は最後の最後に全てをひっくり返され、加えて何倍もの負けを背負い込む結果となったのだ。
「……だって、まさかあそこで親の5倍総取りが来るなんて、予想できると思う?」
「知るか」
「アタタタタタ! 死ぬ、蓉子、死ぬっ!」
江利子の顔面をとらえていたアイアンクローを解き、続きを促す。
「……ええと、だから、負けた相手というのがミザリーでぇ」
当然、負け分を払えるわけもなく、しかもミザリーは即金払いを要求してきた。困った挙句、江利子は一つの交換条件を出した。
蓉子を性奴隷として捧げるから、借金をチャラにしてくれと。
「アンタは何て事を約束しているのよっ!!」
「ほらミザリーもさ、蓉子にご執心だったじゃない? アカデミー時代から。いやー、でもまさか本気にするとは」
「ミザリーといったら、その手の噂は後を絶たないじゃない! 実際、自分の研究室には何人もの女の子を侍らせているらしいし、しかも夜な夜な、変な呻き声とも喘ぎ声とも聞こえる声が漏れてくるとか」
王宮お抱えの魔法医師ミザリー。その腕前は確かなもので絶大な信頼を寄せるに足るが、私生活や性格となると、問題がないとはいえない。公私を完全に区別しているし、その技術は確かに必要だから誰も強くは言わないが、彼女の手に落ちた少女は二桁を超えてくだらない。蓉子も、アカデミー時代に何度もアプローチされたことがある。
そのミザリーと、そしてルイーダが蓉子の家の前で鉢合わせた。
瞬間、窓がびりびりと震えるほどの空気が伝わってきた。おそるおそる、カーテンの隙間から見ていると、二人は向かい合ってなにやら言い合っている。表情はお互いに笑みこそ絶やさないが、目は笑っていなかった。
「……そういや、ルイーダとミザリーって同期で犬猿の仲だって聞いたなぁ」
外の二人はとうとう、なにやらお互いに怪しげな術か魔法を使い始めた。わずかに聞こえてくる会話の端々から、どうやら蓉子の身体をめぐっての諍いとなっているようだ。まったく、嬉しくないが、ある意味チャンスかもしれなかった。
強大な力を持つ二人が共同したり、あるいは単身でも乗り込まれたりしたら逆らう術などないかもしれない。しかし、互いに敵対心むき出しにやりあっている今なら、こっそりと逃げられるかもしれない。
「もう、しょうがないわね……二人とも、こっちよ」
必要最低限のものを手早くバッグに詰め込んで部屋を出る。向かった先は、台所。床には貯蔵用のスペースの穴があり、扉でふさがれている。扉を開き、中に詰められていたものを手早く取り出し、中の敷板を外してめくるとその下に取っ手が現れる。取っ手に祈りをこめて力をくわえると、下に向けて空間が開いた。
「――へえ、隠し通路?」
「まさか、本当に使うことになるなんて思わなかったけれど……その辺の荷物は目立たない場所に隠して」
隠し通路の痕跡をできるだけ残さないようにして、三人はそっと暗闇の中に身体を滑り込ませた。
地下用水路をつたって小走りに無言で進むこと小一時間。
外に出てみると、そこはすでにリリアンの城下町を遠く離れた場所だった。
「……どうやら、追ってはきていないみたいね」
「いくら魔術の腕が立つといってもここまでは分からないようね。良かったわね、蓉子、あたしたちのおかげで間一髪、助かって」
「ええ、本当に助かったわ……」
と、笑いかけて。
「……なんていうわけないでしょうが、このウスラトンカチ! なんで私が、こんな夜逃げみたいなことしなくちゃいけないのよ!」
ルイーダとミザリーのしつこさ、執念深さはリリアン内でも有名だった。蓉子の目の前にいる二人が借金を完済しない限り、リリアンに、少なくとも城の近くに戻ることは危険だった。
ちなみに借金の額を聞いてみると、それはそれは、泣きたくなるような金額だった。
「ああ、ほら、旅に出るきっかけで出来たと思えばいいじゃない。災い転じて福となす、って諺にもあるし」
「どこが福なのよ! 大体、すべてあなた達のせいじゃないっ」
「蓉子、いつまでも過ぎたことをクヨクヨ考えても仕方ないわ。人間、前を向いて、いかにして今日を過ごすかを考えていかないと」
「だから、あんた達が言うなっ!」
泣きたいのをこらえながら、蓉子は叫んだ。
何かの冗談だと、誰かに言ってほしかった。
「それより蓉子、その目に毒な格好、どうにかしたほうがいいんじゃない?」
「あたしはそのままでも嬉しいけれど……」
「っ!!」
言われて自分の姿を見てみれば、ちょうど就寝していたということで薄着一枚きりで、下着がちらちらと覗いて見えた。
「うきゃーーーーーーっ?!」
頭を抱える。
こうして。
広大なリリアンの片隅で、ひっそりと三人の旅は否応無く始まり。
今日も今日とて、トラブルは蓉子に降り注ぐ。
「……こりゃ、とんでもない上玉が三人もいたもんだな」
目の前の雑な顔をした男が、下卑た笑みを浮かべる。つられるようにして、周囲にいる男たちも下心丸出しの笑い声をあげる。
リリアンを出れば、やっぱり強い男の方が多く、女だけの冒険者グループというのは少数派である。男たちが優位を確信するのも、まあ、分からない話ではない。実際に人数は相手の方が多いし、体格だけ見ても腕っ節には自信があるようだ。
「大人しくしてりゃあ、痛い目にはあわないですむぜ。むしろ、気持ちよくしてやるからよ」
冗談にも聞き取れない下品な言葉を吐きながら、まず目を向けたのは江利子だった。
ロングボウを背負い、スティレットを手にした江利子が三人の中で一番、戦闘的なスタイルであり、まずは戦闘能力を奪おうという意味合いもあっただろうが、おそらくそれ以上に露出度の高い格好に目がくらんだに違いない。
上半身を守るのは胸当てのみ、下半身はパンツの上から皮の防具を当て、ブーツで足元を固めているが、全体的に肌を見せている部分が多い。胸当てからはみ出た膨らみ、おへそは丸出し、パンツからのびる滑らかな太腿。三人の中で一番、体の凹凸がある江利子が扇情的な格好をすれば、普通の男であれば目もくらむというものだろう。
江利子は、突進してきた男の攻撃を紙一重でかわす。立て続けに繰り出される、棍棒による力任せの攻撃を正面から受けることなく、スティレットで受け流す。まともに受けたら、叩き壊されてしまうだろう一撃を、涼しい顔でしのいでいく。
最小限の力で、最大限の効果を。
体力的にはどうしても劣りがちになる部分を補うには、それが一番だ。そして、江利子は最も効果的に実践する。
複数の相手を同時にするような愚をおかすことなく、江利子はまるで踊るかのようなステップで身をかわし、攻撃に転ずる。攻撃も、武器を持つ手を刺し、足を斬り裂いて動きを止め、目を傷つけ視界を塞ぐ。別に、致命的な一撃を与えなくても、戦闘能力を奪ってしまえばよいのだ。
江利子が一筋縄ではない相手だと悟ると、相手は標的を聖に変えた。レイピアを手にしているとはいえ、リュートを持っていた聖はそれほど戦闘能力がないと踏んだのであろう。しかしそれもすぐに、過ちであったと気づかされる。
江利子と異なり、聖は相手の攻撃を待つことなく、自ら先手を取って斬り込んでゆく。剣戟のスピードは、所詮歌い手だろうと侮っていた相手の想定を遥かに超えていたことだろう。
もともとレイピアは、突き刺すことを主眼とした武器である。攻撃は線ではなく点であり、なぎ払うような線の攻撃に比べれば攻撃範囲は狭く、見切ってしまえばかわすのは容易である。
しかし、速度が上がればその点を弾くことは著しく難度を増す。聖の突きは、回数を増すごとに速度も増す。さながら、真横から降り注ぐ凄烈な雹のごとく。落ちてくる雨を生身で避けることなど不可能なように、それをかわすことは不可避。
だが、相手もそれなりの修羅場を潜り抜けた猛者。かわすのが困難であると判断すると、武器を封じる手段に転じた。すなわち、自らの腕を犠牲にして聖の攻撃を封じようと試みたのだ。
それは成功したかに見えた。レイピアは男の太い腕に突き刺さったものの、力を込めたその腕から抜けなくなった。
勝ちを確信した男が、無事な反対の腕に手にした片手斧を振り上げる。
が、次の瞬間には激痛とともに斧を落としていた。男の手首にはダガーが刺さっていた。聖はすぐに手段を変え、空いている左手でダガーを投じたのだ。刺された男は目を見張る。マントに隠されていたが、聖の腰周りにはずらりとダガー、ナイフ類が並んで収められていた。
そんな男には目もくれず、聖はレイピアの柄を力強く握ると男の体を蹴り飛ばし、後方宙返りで着地する。勢いで抜けたレイピアの刃は、紅く、妖しい光を放っている。
江利子と聖の戦闘能力を目の当たりにした下っ端らしき男が、背を向けて逃げ出した。遠ざかってゆくその背中を目にして、江利子はロングボウを手に素早く構え、迷い無く矢を放つ。
飛翔した矢は見事に男の足を貫き、その場から動けなくする。
「くっそ……!」
予想外の事態を目にした首領らしき大男は、蓉子の方へと目を向けた。
「最初から、コイツを狙えばよかったんだ……!」
毒づきながら、男は突進してくる。
神官のローブを身にまとった蓉子の姿は、誰がどう見ても戦闘には不向きであるし、ひ弱な神官が戦闘など出来るはずもなかった。
―――普通の神官ならば。
迫り来る男の拳を、身を低くして避ける。重たい一撃が唸りをあげて頭上を通りすぎてゆくのを感じながら、蓉子は反撃に出る。
相手も、まったく予想していなかっただろう。神官の蓉子が反撃をするだけならまだしも、その反撃方法が―――直接的な格闘技術であるなんて。
蓉子が身につけているローブには、腰のあたりから大きなスリットが入っている。普段はめくれないよう繋いでいるが、いざという時にはすんなりと切り離れるようになっている。そのスリットから飛び出した脚が、見事な蹴りを男の顎に的中させる。ダメージは少なくとも、脳を揺すられた男の動きは笑ってしまうくらいスローモーになる。
「……何か言い残したいことは、ある?」
余裕を持って微笑むと。
「色気のねえ……パンツ……」
「っ!!」
蓉子はホーリーバッシャーを両手で握り、思いっきり体を捻った。そして腰の回転と遠心力を最大限に利用して、相手の腹目掛けて振りぬいた。頭を狙わなかったのは、せめてもの情けだ。
男は、声もなく数メートル吹っ飛び、転がり、倒れ伏した。
もしも頭を狙っていたら、脳漿をぶちまけて絶命していたことだろう。
「……あ~あ、よりによって一番怪力の蓉子を狙うなんて」
「本当、一番、容赦の無い蓉子に歯向かうなんて」
遠くで二人が、なにやらこそこそと言い合っているが、あえて気にしないことにした。
「さてと、戦利品でももらおうか。向こうから仕掛けてきたんだから、いくらか貰ってもいいよね~」
倒れている男たちに手を伸ばし、多少なりとも金目のもの、役に立ちそうなものを選別していく。
やっていることはまるで野盗だが、聖が言うとおり相手の方から仕掛けてきた戦闘なのだから、文句もあるまい。それに正直に言えば、貧乏冒険者にとって、お金やアイテムは切実に必要なものなのだ。
「あれっ、なに、これ?」
大男の懐を漁っていた江利子が、何かを手にして首を傾げていた。蓉子と聖も近寄って見てみると。
「……え、これって、カサンドラの騎士団の紋章じゃない?!」
「そういやぁ、他に倒れている連中も同じのしているなぁ」
「こんな野蛮な連中が、騎士団? 間違いじゃないの?」
「分からないわよ。カサンドラといえば、もともと賊の成り上がりが築いた国で歴史も浅いし、騎士団といっても山賊あがりみたいな奴らも沢山いるという話だし」
「ふうん、こいつらがねぇ」
「落ち着いている場合じゃないわよ、私たち、国の騎士団連中をのしちゃったのよ!」
「いいじゃん、別に。悪いのはこいつらなんだし」
「そんなことが通用すると思う? 三人の女にやられたなんて、連中のプライドが許さないわ。躍起になって探してくるわよ、きっと」
「蓉子は心配性だなぁ、来たらまたやっつければいいじゃん」
「逆に、やられたなんて恥しくて口外できないんじゃない? それにそもそも、全員の記憶を奪っちゃえば? 聖のあの怪しげな歌の術でさ」
「あれ、消耗が激しいんだけどな~」
「この際、そんなこと言ってられない……って、あれ? 一人いなくない?」
蓉子が、遠くに視線を向けている。それは、江利子が矢で射抜いた男が倒れていた場所だった。しかし、いつの間にかそこに男の姿はなかった。
「……逃げられたわね」
「冷静に言っている場合じゃないでしょ、ああもうっ!」
「まあまあ、これであたしたちもまた有名になるし」
「"また"、って、全て悪名じゃない!」
「悪の女神官・デス・ヨーコ。いい響きね」
「ええい、このスットコドッコイども!」
蓉子の叫び声が、男たちが倒れている野原に虚しく響き渡る。
「いやあ、今日も冒険日和だわぁ」
「まったく、まさにあたしたちは空を流れ行く、自由気ままな雲ね」
聖と江利子も、いつも通りマイペースで。
広大な大陸の上で、リリアンを発した三人の悪名高き旅は、まだまだ続くのであった。
―――とりあえず、おしまい