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【マリみてSS(江利子)】イエローローズは眠らない <その1>

更新日:

 

 小さい頃から私、鳥居江利子はなんでもできた。

 

 

~ イエローローズは眠らない ~
<その1>

 

 

 などと言うと嫌味に聞こえるかもしれないが、それが事実だ。もちろん、小さい頃は特にそこまで意識したことは無かった。ただ、勉強にしてもスポーツにしても、『なんでこんなことが他のみんなは出来ないのだろう』、と思っていただけだった。(まあ、それも今考えれば、かなり嫌味なことを思っていたのだなと思うが)
 とにかくそういうわけで、幼稚舎から初等部まで私は、いわゆる『お山の大将』的な存在だったわけである。成績はトップ、運動だって運動部の子たちにさして劣ることもなく、学級委員をつとめ、先生からもクラスメイトからも頼りにされて。それなりに楽しかったし、充実もしていたとは思うが、中等部に進学するしばらく前から段々と考え方が冷めてきていた。

『ああ、また変わらない毎日が三年間つづくのか』

 ――と。
 同時に、私は自分自身の限界というものを悟り始めていた。まずそれが最初に分かり始めたのが、スポーツであり、美術や音楽といった分野であった。確かに私はどれをやっても、人並以上に身につけることが出来た。
 バスケットボール、体操、絵画、リコーダー、書道。
 でも、どれをやってみても、"自分以上の存在"が出始めていた。
 もちろん私だって努力をした。でも、どう頑張ってみてもある一定のラインを超えることが出来なかった。一定のラインまで到達するのは誰よりも早いのに、一線を越えることができるのは、後からやってきた誰かであった。
 これが駄目ならあれ。あれが駄目ならそれ。でも、どこまでいっても同じことの繰り返し。何をやっても、私は自分が最終的に到達する地点が、なんとなく見えてしまうのだ。そしてそれは、動かしがたい事実として私に突きつけられることになるのだ。だから私は幼いながらにも打ちのめされた。
 中等部に上がると、その瞬間に今度は勉学においても同じことが起きた。

 首席―――水野蓉子によって。

 学年トップの座を奪われたことは、それなりにショックだった。でも、外部から受験を受けた生徒の点数と、内部でエレベーター式に進級が決まっている私の点数では単純に比べられないと思い、一年の最初の中間テスト・期末テストでは自分でも初めてというくらい、真面目にテスト勉強をしたと思う。
 そしてその結果はというと―――どちらも惨敗。
 いや、負けたといっても蓉子がトップで私が二位。点差だって、十点もないくらい。周囲からすれば、『惜しかったね』の一言ですむかもしれないが、私としたら完膚なきまでに叩きのめされたとしか思えなかった。何せ、今までまともに試験勉強などしなかった私が、試験前にかなり勉強をしたにも関わらず、あっさりとその上をいかれてしまったのだ。私は底知れない衝撃を受けた―――と同時に、安堵している自分にも気が付いていた。
『優等生』というレッテルに、私自身、疲れていたのかもしれない。
 だから私は、これを機に、まとわりついていた『優等生』のレッテルを蓉子に明け渡すことにした―――と思ったのだが、それが実際に実現するのはこれからまだ、しばらく先のこととなる。

 何せ満場一致でクラス委員に選ばれた蓉子ときたら、もう一人のクラス委員に私を推薦したのだから。

 一年のときは、外部受験の蓉子がまだリリアンに慣れていないという理由から。二年のときは、なし崩し的に。その二年間で、私は水野蓉子にはいろんな意味で敵わないと思わされた。
 成績トップ、眉目秀麗、これだけで同性から嫌われる要素は十分のはずなのだが、嫌味ったらしいところが一つもない。気配りの人間で、どんな相手でも良いところを見つけて相手を立てる。それが、どう聞いても本気で言っているようにしか思えないのにわざとらしいところがなく。
 正直、これほど完璧と思える人間を見るのは、同世代に限らず初めてだった。もちろん、まだ中学生だから色々と足りない部分があるのは当然だけれど、それでもその思いは変わらない。しかも蓉子は、努力の人だった。努力の才能、なんて言葉を聞いたこともあったけれど、その言葉を実現する人間に出会うとは思ってもいなかった。蓉子は努力を惜しまず、そしてその結果を確実に自分自身で受け止めることのできる稀有な人間だった。私が努力しても破れない壁を、蓉子は壊すのではなく頑張って、頑張って、頑張って、頑張った末に乗り越えていくのだ。だから私は、蓉子には敵わないと素直に認めたのだ。
 後に特別な存在となる蓉子との出逢いが、皮肉にも自分自身に見切りをつけるきっかけとなったのだ。

 こうして私は、面白いともつまらないとも言えない中途半端な中学三年間を過ごすことになる。特に、蓉子とも、そして天敵とでもいうべき聖ともクラスの分かれた三年生のときは、一番つらい一年だったかもしれない。
 優等生のレッテルをまだ外せたわけでもなく、かといって素直に頑張れるほど気力が湧き上がるわけでもない。このときばかりは、早く高等部にあがりたいと切に願ったものである。

 そして進級した高等部。
 当たり前だけど、高等部に上がったからといったって退屈しなくなるわけではなかった。周囲はほとんど、中等部から持ち上がりの同級生たち。環境が変わって、先生が変わって、制服が変わって、授業内容が変わって、でも私自身は何も変わらなくて。
 ちょっと物珍しかったのは、ほんの最初の間だけ。すぐに退屈な日常となり、こんな毎日がまだ三年間も続くのかと考えただけでうんざりし始めた頃。変化は突然に現れた。

 

「こんにちは、鳥居江利子さん」
「…………は?」
 我ながら間抜けだと思ったが、数秒、反応できなかった。それは、リリアンで聞きなれた『ごきげんよう』という挨拶ではなかったからか、はたまたその声がマリア像の後ろから聞こえてきたからか。
 私が戸惑っていると、マリア像の後ろから一人の女性が姿を現した。別にマリア像が声を発したわけではない。当然だ。それでも、意表をつかれたのは確かだった。
「…………ああ、どうも」
 自分自身、戸惑っていたのだろう。普段だったら学園内で口にしないような挨拶を返してしまった。
「あははっ、ごめんごめん、驚かせちゃった?」
 その女性はよほど私のことが可笑しかったのか、けらけらと笑い、お腹を押さえながらゆっくりと近寄ってきた。
「いやー、でもいいタイミングだったわ。他に人がいたら恥ずかしくてあんなこと出来なかったし」
「……私は、いいのですか?」
「勿論。だって、貴女のためにやったんだもの」
 この人は一体、誰だろうか。上級生だというのは分かる。しかし、今までに関わったことがあるだろうか。ひょっとして、中等部時代のクラブの先輩か何かだったのか。全く、記憶になかった。
 目は少し吊り上がり気味ではあるが、全体的には美人の類に入る顔立ちだった。スラリとした肢体に、肩から背中にかかるくらいの髪の毛。でもやっぱり、見覚えはなかった。
「あまり、ウケなかったかしら」
「いえ、ウケるとかウケない以前に、単純に驚いているだけです」
「あら、退屈な日々に飽き、刺激に飢えている……と噂では聞いたのだけれど」
「それはまあ、そうですけれど……」
 だからといって、いきなりマリア像の後ろからマリア様のフリをして(?)こっそりと声をかけてくることもないと思うが。
 私の思惑など気にした様子もなく、彼女は口を開く。
「鳥居江利子さん。成績は常に学年トップクラス。運動だって何でもこなし、各クラブからのお誘いも引く手あまただけれど、今だ何のクラブにも属さず。また当然のごとく姉妹の申し込みが多数、発生するも、誰とも姉妹の契りを交わさず現在に至る」
 すらすらと話すその内容を聞いてぴんときた。今までにも何人かいたけれど、妹にならないかというお誘いだろう。
 私自身はそんなに意識はなかったのだが、どうやら私は、それなりに上級生たちに知られているらしく、クラブにも委員会にも属していないにも関わらず、姉妹の契りを申し込まれることが度々あった。しかしながら、今まで差し出されたロザリオを受け取ったことはない。
 申し込んで来た人たちは、陸上部のエースだったり吹奏楽部の部長だったり、聞くところによると誰も皆、下級生なら憧れてしかるべき人たちだったという。しかし失礼だとは思うが、受け取りたい、と感じられるような人がいなかったのだからしようがない。
 そして今、目の前にいる人。今まで申し込んできた誰とも異なる雰囲気を持っているが、だからといってこの場で即決できるわけもない。私はどう言ったらいいだろうかと、思案を巡らせる。
 すると。
「ああ、そんな考え込まないで。別にロザリオを渡そう、っていうわけじゃないから」
「あ、そうなんですか」
「そりゃそうよ。いくら貴女が素敵でも、私は貴女のことを何も知らないのだから。私好みかどうかも分からないし、私の妹理想像に合うかもわからない、今の段階で渡したりしないわ。でもきちんと貴女を分析して、本当に渡したいと思ったら、貴女が嫌と言っても受け取らせるけれどね」
 なんと強引な人だろうか。でも、決して悪い気はしない。
「そうですね。私も、貴女を姉にしたいと思ったら、貴女に断られても、なんとしてでもロザリオを貰い受けますから」
「あら、その時点ですでに私に妹がいたら?」
「そうしたら諦めます。縁がなかったということで。修羅場を作りたいとも思いませんし」
「淡白ねー。ま、いいか、今日は顔見せということでとりあえずこの辺で」
 最後に「ごきげんよう」と一言、優雅に会釈をしてその人は去っていった。何者だったのだろうか、という疑問が晴れるのはその翌日だった。何しろ彼女が教室に来た途端、『黄薔薇の蕾よ!』という、まさに黄色い歓声が教室内に大きく響き渡ったのだから。

 

 そう、私に声をかけてきた女性は、黄薔薇の蕾だったのだ――――

 

 

その2へつづく

 

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