ノーマルCP マリア様がみてる 栄子

【マリみてSS(栄子×祐麒)】クロスポイント

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~ クロスポイント ~

 

「すみませ~ん、遅れました~」
 店員に案内されて山村冴香が個室に顔を見せ、予定していたメンバーが揃った。
「山村先生、一番年下なのに一番遅れてくるとか、さすがね」
 笑いながらそんなことを口にしてきたのは、鹿取真紀。冗談で言っているというのは分かるが、先輩だけに冴香も口答えは出来ない。
「まあまあ、冴香ちゃんが態度大きいのは、昔からだから」
 真紀の正面の席で、これまた冗談交じりに軽口を飛ばしてきたのは、保科栄子。当たり前だが、今は白衣は着ていない。
 冴香はバッグを空いている席に置いてから、真紀の隣に腰を下ろす。この個室居酒屋は前にも使用したことがあり、料理のお酒もなかなか美味しくて、値段もそこそこで気に入っており、今日の予約も下っ端である冴香が行った。
 リリアンの教師陣の中で、この三人は比較的年代が近くて仲も良いので、こうして時々仕事帰りに飲みに行くこともあるのだ。
「すみません、色々と部活のこととかもあって。ゴールデン・ウィークに出勤! なんてことにしたくないですから」
「剣道部? 練習試合とか?」
「そうなんです、今度、太仲と、あ、生チュウお願いします」
 とりあえず、運ばれてきたビールを手にして、三人で改めて乾杯をする。
 真紀は二杯目のビール、栄子は焼酎に移っている。
 話は学校の行事のことや、同僚の教師のこと、困った生徒の話など仕事にまつわるものから始まり、明日からのGWの過ごし方、趣味や普段の生活なんかに移り、更にお酒が進んでいったところでまた別の話になった。
「ところで冴香ちゃんは最近、恋はしていないのかしら?」
「何がところでなのか分かりませんが……そうですねえ、仕事も忙しいですし」
「それは言い訳、そんなことばかり言っていると、真紀ちゃんみたいになっちゃうよ」
「ど、どういう意味ですか栄子先生! 大体、独身ということなら栄子先生だって同じじゃないですか」
 恋愛話である。
 まあ、いい年頃の独身女が三人集まれば、自然とそういう話にもなろうというもの。
「三人もいて一人も彼氏ナシとか、キミたちの女子力、大丈夫かね?」
「だから、それは栄子先生も一緒じゃないですか」
「まあ、そう言われると返す言葉もないけれど」
「でも保科先生って、絶対モテますよね? 女である私から見ても可愛いですもん」
「あ、それ分かる。栄子先生からはモテ女のオーラを感じる」
「そんなもの生まれてこの方、感じたことないわよ」
 栄子は既に三十歳を過ぎているが、童顔というか若々しく、どう見ても二十代にしか見えない容姿である。そこそこの美人で、それはむしろ超絶美人などよりよほど親しみやすく、男性からモテるであろうと想像できる。
「人生のモテ期はいつでしたか?」
「だから、そんなの、感じたことはないわね」
「でも、保科先生には清楚で清潔なイメージがあるから、男の手にかかってほしくない、いつまでも清らかな花でいてほしい、という気がします」
「あ、それも分かる分かる!」
「キミ達は、私をなんだと思っているのかしら……」
 はふぅ、とため息をつく栄子。
 実際、栄子の浮いた話というのは学園内でも耳にしたことがなかった。まあ、女子高だし、同じ教師に若い男の先生というのもいないのだが。
「もしかしたら栄子先生、今まで男性とお付き合いしたことないとか、そういう清らかな人なのではないかと」
「失礼ね、私だってそういう経験くらい……あるわよ」
「今、言い淀みましたよね」
「栄子先生……」
「ちょっと待ちなさい、何、その同情するような目は。だから違いますってば。大体、そういう冴香ちゃんはどうなの?」
「彼氏かぁ、私もめっきり、ないですねぇ」
「む? そもそも冴香ちゃんは付き合った経験はあるの?」
「え~っと……まぁ、ありますよ、それくらい」
「え、そうなの?」
「わ、鹿取先生までそんな驚くことないじゃないですか。まあでも、教師になって忙しくなって別れちゃって、それ以降は……」
「そうなんだ……」
 真紀は呟くと、串焼きを頬張ってから栄子に視線を向けて口を開いた。
「まあ、栄子先生、大丈夫ですよ」
「……何を言いたいのかしら、真紀ちゃん?」
「栄子先生……大丈夫ですよ、えぇと、ふぁいとです!」
「だから、冴香ちゃんも変な勘違いしないように!」
 女三人、姦しく飲み続ける。
「しかし、彼氏ねぇ……」
 真紀と冴香が何やら盛り上がっている時、ふと、呟く栄子。
 それは、随分と暖かくなってきた春先のこと。
 栄子にとって人生の転換期が半年以内に訪れるなど、夢にも思っていない頃のことだった。

 

 

 10月だというのに未だ残暑で暑い中でも、保健室の中は空調が効いていて快適である。当たり前だ、生徒を癒し、治療する場所が高温多湿で不快な場所だったら、誰も行きたいと思わないし治るものも治らなくなってしまう。
 保健室の中、栄子は机に向かって書類を作成していた。
 仕事として忙しくなるのは健康診断の時期で、あとは体育祭や学園祭などのイベントの前から当日にかけて。それ以外の時でも、意外と生徒は保健室を訪れることが多い。特に女子校なので、生理中の重い子がやってきて休むことが多い。
 他にも、生徒の健康調査、伝染病などの報告、悩みを抱えた生徒の相談を受ける。また、仕事に必要な最新情報は常に取り入れるようにしなければならないし、生徒や保護者に向けた保健便りを作り、地域との連携も必要だし、各種事務仕事もありと、非常に多岐に渡る仕事がある。
 とはいえ、夏休みなどは生徒と同じように長期休暇を取得できるし、生徒との触れ合いも授業という硬いものを介さないので、意外と打ち解けてくれたりするのも嬉しい。全般的に、栄子としては仕事に関しては満足している。
 作成した書類を引き出しにしまい、一息つく。時間を見れば既に放課後、これからは部活動で怪我をした生徒などが来ることがある。時期的に学園祭が近づいてくるので、そろそろ注意が必要になってくる。特に備品の在庫には目を見張っていなければならない。
 立ち上がり、棚に整列してある備品の数をチェックしていると、保健室の扉が開いた。
「失礼します、保科先生……あ、いらっしゃいましたか」
 姿を見せたのは、黒髪をまるで日本人形のように切りそろえている女の子。さすがに学園の生徒全員は覚えられていないが、それでも彼女の名前は知っている。二条乃梨子、今の白薔薇のつぼみである。
「どうかしたの、二条さ……あら」
 保健室に入ってきたのは乃梨子だけではなかった。その後ろから続くようにして現れたのは、見たことのない生徒。当たり前だ、リリアンでは存在するはずのない、男子生徒なのだから。
「こちら、花寺学院の生徒会長の福沢祐麒さんです。学園祭のお手伝いに来ていただいていたのですが、準備をしている時に、怪我をされてしまいまして」
「いや、全然たいしたことないんですけれど」
「駄目です、ちゃんと手当してもらってください」
 祐麒は笑って大丈夫だということをアピールするが、乃梨子が冷静に突っ込みを入れて反論を封じ込めている。
 なんとなく理解した。
 男の子にとってみたら、きっと実際にたいしたことない怪我で、保健室で大げさに手当てしてもらうほどではないと思っているのだろう。だがリリアンの方にしてみれば、わざわざ手伝いに来てもらったお客様、しかも準備を手伝ってもらっているわけで、大丈夫だと言われたからといって、はいそうですかと頷くわけにもいかないのだ。
「それじゃあ、ちょっと見せてくれる?」
 椅子に座らせ向かい合い、出された手を見ると、確かに切り傷があり出血していた。紙か何かで切ったのだろうか、傷は深くないが出血があるので、酷く見えたのかもしれない。
 一応、怪我をした経緯をヒアリングした後、消毒をして絆創膏を貼って終了。このくらいなら、これで充分だ。
「ありがとうございました」
 ぺこりと、礼儀正しく頭を下げてくる祐麒。花寺もお坊ちゃん学校で、腕白盛りな男子高校生とはいえ、礼儀正しい子が多い。このようにきちんとしてくれると、栄子としてもホッとする。
 乃梨子と祐麒は保健室を出る前に再度、お礼を言って帰って行った。
 二人を見送り、備品をしまい、肩をほぐす。
 今日の仕事は、それで終わりだった。

 

 

 一方、保健室を出て薔薇の館へと戻る道中、我慢できなくなった祐麒は乃梨子に問いかけていた。
「随分と若い保健の先生なんですね」
 もちろん、口調や表情は変えないように心掛けている。
「保科先生ですか? そうですね、私もお歳は知らないですけれど、可愛らしい先生で生徒からも慕われていますね」
 見た目、二十代半ばから後半といったところに思えたが、正直な所女性の年齢というのは見ただけでは良く分からない。清潔で皺一つない白衣を着て、それが大人びた雰囲気にもよく似合っている。口調は優しげであり、尚且つ親しげでもあるのは、養護教諭として生徒の身近な相談にも乗ってあげることが多いからだろうか。
 綺麗で優しい保健室の先生、その響きだけでも非常に魅惑的だというのに、それに加えて、手当てをしてくれている時に近づいてきたうなじ、僅かに覗いて見えた鎖骨の凹みなどに、微細な色香を覚えた。
 元々、年上好みの祐麒である。はっきりいえば、栄子のことが気になったのだ。
 とはいえ、そもそも学校が違うわけで会う機会などないに等しい。そこで祐麒は、学園祭の準備期間を最大限に活用することにした。
 即ち、リリアンに来るたびに何かと理由をつけて保健室に出向くということである。さすがに毎回、保健室に行くようでは不自然すぎるので、リリアンに訪れる回数そのものを増やすことにもした。
 二回目の時は荷物を足に落とし、三回目は劇の練習中に転倒、四回目はやはり劇の練習中に道具が倒れてきた。祐麒の計算通り、と言いたいところなのだが、恐ろしいことに祐麒が仕組んだわけでなく、全て本当に他のメンバーの手によって発生したのである。
 さすがに栄子に呆れられているが、実際に起きているのだから仕方がないし、わざとでないことは同行してくれるリリアンメンバーが証言してくれている。
 そうして保健室に通いながら、栄子と僅かばかりの会話を楽しむ。たいしたことは聞き出せないが、それでも栄子と話していると何だか楽しかった。
 リリアンに訪れるたびに保健室にやってくるわけだから、栄子も祐麒の意図を察しているかもしれないが、それでもいつも変わらぬ態度で接してくるのはさすがである。
 そして、またも今日はリリアンを訪問しての合同練習。例年に比べてリリアンに来る回数がやたら多いという意見も出ているが、質の高い劇を見せるためと言えば文句も出ないし、そもそもリリアンに来るのを嫌がる花寺男子など存在しない。
 練習は順調に進んでいるが、祐麒にも余裕はなくなってきていた。なぜなら、劇も大分こなれてきたときになって、いきなり祥子が「男女配役を逆転する」などと言い出したからである。
 台詞も改めて覚え直しだし、演技だって変わってくる。お蔭で、全員がてんやわんやの大騒ぎとなった。
 そんな中で、祐麒はここ数日の多忙さによる寝不足、配役変更による台詞や演技の覚え直し、更に力仕事を手伝い疲労が蓄積されたのか、徐々に体調が悪くなってきた。
「ちょっと祐麒、大丈夫? なんか顔色悪いけれど」
「大丈夫、大丈夫。こう見えても体力にはそれなりに自信が」
「やだ祐麒くん、青白い顔しているよ。そういう顔色のときは良くないのよ、私、自分が体弱かったから分かるの」
 祐巳、更に由乃にまで心配される。
「だから、これくらいなら大丈夫……」
 言っているそばから、不意に眩暈がして体がふらつき、テーブルに手をついて咄嗟に体を支える。
「ああ、ほら言っているそばから! 少し休みなよ、保健室連れて行ってあげるから」
 学園祭も迫ってきている中で余裕もないし、大丈夫だと言い張ろうとしたが、全く説得力がないし逆に迷惑をかけてしまう。祥子や令にも諭されて、祐麒は祐巳に付き添われながら保健室へと向かった。

 

 

 祐麒が保健室に姿を見せた時、栄子は、やっぱりまた来たのか、と思った。
 というのも、祐麒を含む花寺学院の生徒会メンバーが校内に入っていくところを見かけていたし、今まで毎回のように何かしら怪我をして祐麒は保健室に来ていたから、なんとなくまた今日も来るのではないかと思っていたのだ。
 これがリリアンの生徒なら、サボるために毎回何かしらの理由をつけて保健室に来ているのではないかと疑りたくもなるが、わざわざ花寺からやってきた生徒がそんなことをする理由はない。それに、祐麒の怪我は毎回、正当な理由があってのものだった。そういう、なぜか分からないが運の悪い子がいるということも、栄子は知っていた。大抵、真面目で頑張りやで、皆の苦労を背負ってしまうような子はオーバーワークしがちだ。
 今日の祐麒は保健室に姿を見せた時から顔色が悪く、疲れのせいであろうと予想はしたが、それでもきちんと診断をして、しばらく保健室で休んでいるようにとベッドに寝かせた。一緒に付き添ってきた祐巳は、本当に申し訳なさそうな顔をして頭を下げてきた。
 なるほど、祐巳の弟だったのかとここで納得する。見れば、確かに非常によく似た顔立ちをしている。
 栄子は祐巳を安心させるように微笑み、後は静かに休ませておけば大丈夫だからと言って戻らせた。
 祐巳を見送り、ベッドの方に足を向けると、祐麒はベッドの上に横になった状態で栄子に視線を向けてくる。
「……すみません、ご迷惑をおかけして」
「いいから、休んでいなさい」
 仕切りのカーテンを閉め、栄子は仕事に戻った。
 学園祭が近づいてきているということもあり、その後、何人かの生徒が軽い怪我をして保健室にやってきて、栄子はその対処をする。
 そうこうしているうちに時間はあっという間に過ぎ、夕方になっていた。そろそろ仕事も終わりというところで、保健室の扉が開き、もう一仕事かと思って入口を見てみると、祐巳が立っていた。
「すみません、ええと、弟を引き取りに来ました」
 ぺこりと頭を下げて中に入ってくる。
「ああ、そうね。でも……」
 ちらと、カーテンに隠されたベッドの方を見る。
 祐巳がとてとてと歩いてカーテンをそっと開け、中を覗き見る。栄子もその後ろからべベッドの様子を窺って見た。
「祐麒ったら、呑気に寝ちゃって……もう、起きないと」
「あ、ちょっと待って福沢さん」
 今にも祐麒のことを揺さぶり起こそうという勢いの祐巳を止める。
「疲れているのでしょう、まだ休ませておいてあげて、いいわよ」
「え、でも」
 祐巳が時計を見る。
 既に17時30分で、18時には学校を出なくてはならないのだから、もう起こさないといけない時間だ。
「私が見ていてあげるから。少し仕事も残っているし、誰かが一緒に学校を出てあげればいいのでしょう」
「そ、それはそうですけど、保科先生にそんなことしていただくわけには」
「疲れている子を無理に起こすわけにはいかないわ、養護教諭としてはね。それに、私が帰るときにはさすがに起こすから」
 そう諭して、祐巳を帰らせる。
 実際、祐麒は疲労であるから、すっきりするまで休ませたほうが本人にも良いだろうし、今日は日中忙しかったので、書類仕事が進まなかった。だから、少し残業していこうというのも本当であった。
「――しかし、気持ちよさそうに寝ているわね。羨ましいくらい」
 祐麒の容態をもう一度確認しようとベッドサイドの椅子に座って寝顔を見下ろし、栄子は髪を指で梳きながら呟いた。
 若いのだから、ちょっとの疲れくらい寝て休めばすぐに回復する。実際、祐麒の顔色は既によくなっており、目が覚めればなんで保健室で寝ていたのかと、疑問に思うくらい元気になっているかもしれない。
「若いってのはいいわよね、私はもう、そうはいかないんだから」
 ここ数日、学園祭目がけて色々と生徒達が保健室を訪れる機会が多かった。書類仕事は学校でなかなか捗らず家に持ち帰り、新しい技術や情報の勉強もしなければならない。栄子自身、無理はしていないつもりだが疲れてはいる。
 だからつい、ベッドに腕をつき、顔を埋めて目を閉じてしまった。別に、寝るつもりなどないが、ちょっと一息つくだけのつもりだった。
 しかし、冷たいシーツではなく、暖かな祐麒の温もりが伝わってきて、心地よくなってしまった。どうにか抵抗しようとした気はするが、ほんの2、3分休むくらいならと思ってしまい、栄子の意識はすぐに閉ざされていった。

 

 どこか、心地よかった。
 ついぞ感じたことのない気持ちだ。
 温かな指が栄子の髪の毛を梳き、優しく頭を撫でられている。子供じゃないんだから、と思いつつも不思議と嫌な気持ちにはならない。
「……んっ…………」
「あ、やべ、起き……」
 手が、離れる。
「ん、なん……で……」
 どこか寂しくて、離れていく手を掴み、もう一度頭へと導く。その手は戸惑っていたようだけれど、やがて再び栄子の頭を撫ではじめる。
「……可愛いなぁ、栄子先生……」
 声が聞こえてくる。若い、男の子の声だ。
「………………」
 ようやく、意識が覚醒してきた。
「――――っ!?」
 がばっ、と顔を上げると。
 戸惑うような顔をして栄子を見ているのは、可愛らしい顔をした男の子、祐麒だ。
「な……」
「あ、いや、栄子先生、よく寝ていたし、起こしたら可哀想かなって……」
 見れば、どうやら祐麒のお腹あたりを枕代わりにして寝こけていたらしい。それで祐麒は起きることができなかったようだ。
 かあっと、顔が熱くなる。
 よりにもよって生徒、しかも他の学校の男子生徒の上で寝こけていたなんて。
「元気になったら、さっさと支度して帰りなさい。もう、遅い時間よ」
 誤魔化すように素早く立ち上がると、背を向けて机の方に戻る。背後で祐麒がベッドから立ち上がり、制服の上着を着ているのが分かる。
「あの、栄子先生。俺、また来てもいいですか?」
「ここは遊び場じゃないのよ。用事もないのに来られても困るわ」
「生徒の悩みも聞いてくれるんですよね? それとも、他の学校の生徒の悩みは聞いてくれませんか」
「真剣な悩みなら、まあ、聞かなくもないけれど」
「もちろん、真剣ですよ。それだったら、相談に応じてくれますか」
「当たり前だ、真剣な悩みを茶化すようなことはしない。例えリリアンの生徒ではなくても、私を頼ってくれるのなら、きちんと応える」
「良かった。それじゃあ……っと、今日はもう遅いですから、それでは次回にお願いします」
「そうね。もう遅いから、早く帰りなさい」
 相変わらず祐麒に油断なく目を配り、及び腰で栄子は言うが。
「えーっと、あの、一緒に帰りませんか?」
「は? 何を言っているの。そんなことできるわけないでしょう」
 早口で言う栄子。
「えーと、でも」
「でももへちまもないわ」
「だって、栄子先生が一緒に帰ってくれないと、俺、リリアンから出られないんですけど」
 頭をかく祐麒。
「あ…………」
 口を開ける栄子。
 そして次の瞬間、とんでもない間違いを勝手にしてしまったことに気が付き、体を打ち震わせる。
「……そ、そうね。少し待っていて頂戴」
「はい、いつまででも」
 祐麒は答える。
 祐麒が見ている中、落ち着かない様子で帰り支度をする栄子。既に人気の感じられなくなった校内、静かな中で栄子の身支度のために動く音だけが耳に届いてくる。

 祐麒と、栄子。
 まるで接点などなかったはずの二人の線がクロスした、その日こそが始まりの日であった――

 

おしまい

 

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