書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

ノーマルCP マリア様がみてる 栄子

【マリみてSS(栄子×祐麒)】誓い

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~ 誓い ~

 

「栄子先生、さようならー」
「さようなら、気を付けて帰るのよ」
 生徒達を見送ることは毎日のことであるけれど、今日一日は意味が違う。なぜなら今日は卒業式だから。
 リリアンを卒業していく女の子達を何十人、何百人と見送って来た。泣く子もいれば、笑顔で巣立っていく子もいるし、様々な思いを校舎と共に栄子も受けてきた。もちろん、栄子よりずっと長く携わっている学園長や他の教師に比べればささやかなものかもしれないが、それでも何年も勤めているのだから。
 養護教諭を勤めていたこともあってか、生徒達の悩みや相談にのることも多く、中には保健室登校をするような生徒もいた。そんな子が、卒業式の日にはクラスの皆と一緒に式に出て笑顔でリリアンを後にしてくれると嬉しくなる。
 賑やかだった学園内も少しずつ人が減り、静かになってゆく。まだ残っている生徒達もいるはずだが、おそらく保健室に寄って挨拶をしていってくれるのも先ほどの生徒達で最後だろう。
「さて……と」
 執務用の机に戻って椅子に腰を下ろし、置いてあったスマホに目を向ける。
 特に、変わった様子はない。
「ふん……」
 端末を開いて、中断していた仕事を再開する。卒業式だから仕事をしなくて良いわけではないのだ。
 カタカタとキーボードを叩いてデータの入力と整理、書類仕事を片付けていく。
 ちらとPCの時計を見るが、先ほどから殆ど時間が過ぎていない。こんなにも時間が過ぎるのが遅く感じるのは、仕事に集中できていないからだというのは分かる。ではなぜ、仕事に集中できていないのか。
 その答えが、スマホによってもたらされる。
 送られてきたメッセージを目にして、栄子は椅子を蹴りあげるようにして立ち上がった。

 そして、数分後。

「――だから、なんで連絡してきた時点で『校門の前』なんだっ?」
 後ろ手でドアを閉めながら少し強めの口調で言う栄子に、祐麒としては反論のしようもない。なぜならば確信犯だったから。
 卒業式を終え、クラスの友人や生徒会の仲間たちと話し、最後のバカ騒ぎをしている最中に抜け出し、すぐ栄子に連絡しようと思えばできたのだが、あえてリリアンに来てから連絡をしたのはこうして校舎内で栄子と会いたかったから。
 口では文句を言う栄子だが、校門までやって来た祐麒のことを無下に追い返すことはしないだろうと読んだのだが、どうやらその読みは当たっていたようだ。
「まったく、誰かに見られたらどうするつもりだ」
 など言いつつも、結局のところ校舎内に入れてくれたのは栄子なわけで、口調は相変わらずだけれどもやっぱり甘い栄子がなんだかんだで可愛い。
 すすめられた椅子に腰かけて栄子の姿を見て、祐麒は一人満足する。リリアンを訪れ、こうして栄子の働いている場所にやってきた目的の一つは、働いている時の栄子の姿を見るためである。
 黒系ギンガムチェックのオックスフォードシャツにレースのタイトスカート、もちろん白衣を上に着ている。髪はバレッタで後ろにまとめ、そして黒縁の眼鏡。仕事スタイルを見たことがないわけではないが、実際の職場にいる時に放っている雰囲気は、その場でないと分からないものである。
 普段とはちょっと異なる、働いている女の色気とでもいえるものを感じているのかもしれない。
「色々と悩みや相談に乗っていただいたお礼ということで、決してそれは嘘じゃありませんから」
「都合の良いことを……」
 机に肘をつき、足を組む栄子。ひざ丈のスカートだから太腿が見えるようなことはないけれど、ふくらはぎと脛が見えるだけでもそそられてしまう、それほどに祐麒は栄子に魅了されていた。
 眼鏡の下の理知的な瞳、ほっそりとしたうなじ、シャツの襟もとから少しだけのぞいて見える白い肌、大人の女を思わせる佇まい。
 しかし。
「えーこちゃんっ」
 不意を突いてがばっと抱き着くと。
「わわっ!? ば、ば、馬鹿者っ、いきなりさかるやつがあるかっ」
 腕の中でじたばたと暴れてもがく栄子。本気で変なことをするわけではなかったので、さっと体を離して見下ろしてみれば、白かった肌をうっすらとピンク色にして、目元をほんのりと潤ませて焦った様子の栄子がいて、いまだにそのような反応を見せるギャップが可愛くてたまらない。
 そう思うと、抑えようとしていた欲望がむくむくと大きくなっていく。高校生男子の健全な(?)妄想の一つとして、学校内で憧れの保健の先生と保健室でHなことをするというのがあり、今こそその機会ではないかという考えがよぎる。
「あの、えーこちゃん」
「ん、どうした……?」
 抱き着かれて乱れた白衣を直している栄子を、背後から抱きしめる。
「こ、こら、だから」
 文句を言おうとする栄子の胸に手を伸ばし、シャツの上から触れようとして。
「おぶっ!?」
 思い切り、腹に肘打ちをくらった。絶妙な場所に入り、思わずその場に蹲って声もなく痛みに耐える。
「やめんか、こら!」
「ううっ……」
 痛みを堪えながらも、まあそうだよなと思う。真面目な栄子だから、「神聖なる私の職場で破廉恥なことをするな!」などと一喝してくるだろう。そうやって叱られるのも実は嬉しいというのは、相当なものだろう。
「そ、そんなことされたら、困るだろうが」
 しかし、栄子の反応は少しばかり予想と違い、ふと上を向くと。

 顔を赤くした栄子が、白衣の裾をぎゅっとつまんでもじもじしながら、口を尖らせる。
「ここでしたら、仕事中に思い出してしまうではないか……し、仕事に集中できなくなったら、困るし」
 栄子の言葉の意味を考えるなら。
 今ここでエッチな行為に至ってしまったら、仕事中にそのことを思い出して困るという。即ち、仕事中にエッチな妄想に襲われて一人自分を慰めて――
「う、や、ヤバ……」
 自分の想像の破壊力が危険だった。栄子の肘打ちの痛みがあって良かったと思う。もしもなかったら、下半身がやばかった。
「どうした、そんなに痛かったか? す、すまん」
「あ、いえ、大丈夫です、むしろそのお蔭でなんとか正気を保っていられますんで」
「…………?」
 はて、といった感じで小首を傾げる栄子。
 それがまた可愛くて、ついキスをしそうになって。
「――はぶっ!?」
「あ、す、すまん、つい」
 思い切り頬を平手で叩かれた。
 恋人であるわけだし、いくら不意を突かれたとはいえ引っ叩かれるというのはさすがにちょっとばかりダメージがでかかった。
「うぅ……キスも駄目なんですか?」
「だ、駄目だ。し、仕事中に思い出して、にやにやしているところを他の先生や生徒達に見られでもしたら、どうする」
「……にやにや、するんですね」
「ばっ……ちがうちがう、そんなんじゃないからな」
「あれ、でもここでだったらホワイトデーの時にキスしましたよね」
「ええい、うるさいうるさいっ、これ以上変なことを言ったら別れるぞっ」
 照れ隠しなのか、腕を組んでそっぽを向いてしまう栄子。
 この天然記念物的に破壊力抜群の彼女に、祐麒は一人蹲ったまま身悶える。男が身悶えたところで気持ち悪いだけかもしれないが構わない、この場には栄子しかいないのだから。
「そ、そんなにまだ痛いのか?」
 俯いて震えている祐麒を見て栄子は勘違いをし、様子を窺うように身を屈めてきた。栄子の影がかかるのを感じ、心配させては悪いと顔を上げる祐麒。
 その頬に、先ほどは引っ叩いてきた栄子の小さな手が添えられ、そして。

「………………」
「…………ん」
 くっついていた唇がゆっくり離れていくと、あわせて近すぎた栄子の顔と距離が出来てよく見えるようになる。
 眉を吊り上げて怒った顔をしつつ、どこか恥ずかしそうに頬を桜色に染め、目元も赤くなっている。
「えーと……キスも駄目だったんじゃないんですか?」
「駄目だが、私からするのはいいの」
「え、何が違う……」
「全然違う。だって、祐麒がしてくると舌とかいれてきてエッチだし……」
「でも、仕事中に思い出しちゃうからって」
「え、エッチなのは駄目だけど、普通のなら、仕事が辛かったり大変だったりしたときに思い出して、頑張れるし……」
 もう駄目だ、こんな可愛い生物を放してなんておけるはずがない。
「――え、えーこちゃん!!」
「だああっ!? だ、だから駄目だといっているだろう、懲りんやつが!」

 ――そんなことを繰り返し、外に出た時には空も暗くなっていた。
「まったく、不毛な時間を過ごしてしまった」
「そんなこと言わないでくださいよ」
「こら、あまり近づくな。まだ学校が近いんだから」
 周囲が闇に包まれつつあるとはいえ、栄子の用心がとかれるわけではなかった。祐麒もその辺はわきまえて、あまり大胆な行動には出ないよう控えていた。
 それでも学校を離れ、人の目の少ないところまで来たならば手を繋ぐくらいは良いだろうと、栄子の手を握ろうとしたところで。
「――卒業、おめでとう」
 立ち止まった栄子が、正面を向いたまま口にした。
 数歩、先に歩いた祐麒が振り返ると、月あかりを浴びた栄子が口もとだけを緩めた大人の笑顔を浮かべ、祐麒のことを見つめていた。
 保健室の時の姿から、白衣ではなくジャケットに変えた格好で、眼鏡もかけた、祐麒の大好きな栄子のままで。
「いや、なんだ、ちゃんと言っていなかったからな……」
 照れたように頭をかき、風で揺れる髪の毛を指で梳き、斜め下に視線を向けた栄子。その視線の先には、影が伸びている。
 祐麒は姿勢を正した。
「――栄子さん」
「ん……どうした、急に」
「俺は今日、高校を卒業しました」
「ああ、そうだな……どうした、改まって。祝いの言葉ならさっき告げたぞ」
「ありがとうございます。でも、俺が聞きたいのはその言葉ではなく、約束に対する答えです」
「約束……」
「俺が卒業した後に、答えてくれるっていいましたよね」

 告白をして、付き合っていることは間違いない。
 だけど祐麒が本当に求めていたのは、もっと先のことだった。
「クリスマス・イブの日の告白、そしてその時の答え、覚えていますか。俺は栄子さんに、『結婚を前提に付き合ってください』と告白しました。栄子さんは、俺が卒業しても本気でそう思っているならば、その気持ちに答えようと。全てを受け入れようって言ってくれました」
 雲で月に影が差し、栄子の表情が分からなくなる。
 それでも祐麒は続ける。
「おっ、俺の気持ちは……変わりました」
 その言葉に、栄子の体がビクリと震えた。
「そう……か。そうだよな、やっぱり私みたいなおばさんじゃなく、若くて可愛い――」
「あの時よりずっとずっと強く、栄子さんのことを好きになっています!」
「…………え?」
「あの時はまだ、結婚って言ったけれどそんなに現実感はなくて、気持ちだけが先にある感じでした。でも今は違います、高校卒業してこれから大学に入って、栄子さんと正式に結婚したいと考えています。もうすぐ俺も結婚できる年齢になります。だから、改めて言います。保科栄子さん、俺と、結婚してください!!」

 ひゅぅっ、と変な呼吸音が聞こえた気がする。

 栄子は絶句しているのか。
「確かに、まだ働いてもなく稼ぎもない、将来どうなるかもわからない俺ですけれど、給料三か月分の指輪も今は持っていないけれど、それでも栄子さんを絶対に幸せにします。それだけは死んでも守ります。だから、お願いします」
 伝えたいことを全て出して、頭を下げる。
 沈黙の時間が辛いが、祐麒は待ち続けるしかない。
 果たしてどれくらい過ぎただろうか、不安な気持ちが増幅して溢れそうになった頃、栄子が靴で地面をぐりぐりとする音が耳に入り、さらにしばらくしてついに栄子の声が聞こえてきた。

「――私は、もう今年で36歳になるんだぞ。アラサーどころか、アラフォーだ」
「何歳でも、俺には栄子さんが一番です」
 頭を上げ、答える。
 栄子はお腹のあたりで両腕を組み、僅かに斜めを向いて口を開く。
「スタイルだってそんな良くないし、胸だって大きくないし、肌艶だって十代の子とは比べ物にならないし」
「それがどうしたんですか、そんな栄子さんが俺のどストライクですから」
 揺れる前髪を手でおさえ、続ける栄子。
「それに……わ、私は、重いぞ?」
「え? 軽いですよ、このまえ上に乗ってしてくれた時も……」
「ばばば馬鹿者っ、そうじゃない! そうじゃなくてだな……わ、私はさっきも言った通りもう36になる。しかも、36で君が初めて出来た恋人で、この年齢で君に振られたらおそらく結婚なんてもう出来ないだろう。つまり後がないわけで、だから、この先もしも君がやっぱり私に飽きた、やっぱり若い女の子がいいなんて言っても、絶対に離したりはしないぞ。そんなこと言いだしても認めないし、相手の女に嫌がらせしちゃうかもしれないし、そんな重い女なんだぞ。それでもいいのか?」
 一気にそれだけ言って、栄子はやや乱れた呼吸を正しながら祐麒に真っ直ぐ目を向けてくる。
 一歩、栄子に近づく。
「……私を捨てたら、末代まで呪うぞ?」
「望むところですよ」
「十年経ったら、私はもう五十路の方が近いんだぞ。君はまだ三十前だというのに……その時になって後悔しても遅いぞ? もう、君の人生がどうなろうと、私はすがりついてでもひっついていくぞ!?」
「む、むしろ嬉しいですよっ、その方が」
「そ、それにだな――」
「ああもうっ!」

 

 まだ何か言おうとする栄子の前に一気に歩を進め、抱きしめる。胸に栄子の顔を埋めさせ、頭の上から告げる。
「ぐだぐだ言わず、俺にしとけばいいんですよっ! えーこちゃんもう36で後がないんだから、18の俺なんて超お得じゃないですか!」
「う…………ああ……うん」
 胸の中で栄子が小さく頷くのが感じられた。
「あ……やばい、超嬉しい…………」
「わ……私だって…………」
 腰に回された栄子の手がぎゅっ、と強く抱きしめてきた。
 本当に受け入れられたのだと分かり、心の奥底から幸せな気持ちがじわじわと滲み出てくるのを感じる。
 同時に。
「…………え、マジ? なんか凄いね」
「女の方が36で男の子は18だって? 倍じゃん」
「迫力あったねー、撮影とかじゃあないんでしょ?」
 そこでようやく、周囲がざわついているというか、何人かの野次馬が出来て見られていることに気が付いた。
 いくら人気の少ない場所だったとはいえ、誰もいなかったわけではないし、大きな声を出していれば注目もひく。
「え……あ、わ、ちょっと…………」
 栄子も状況を察したらしく、祐麒に引っ付いたまま真っ赤になった顔で左右をきょろきょろと見回している。野次馬の中にはスマホを向けてきている者もいて、もしかしたら写真あるいは動画を撮られていた可能性もある。
「こ、こんなところをネットに拡散でもされて学校に知られでもしたら、どうしよう!?」
「落ち着いてえーこちゃん、俺はもう卒業したし、大丈夫――」
 動揺する栄子を落ち着かせようとした祐麒だったが。

「――聞いた今の? 先生と生徒みたいよ」
「そうゆうのって本当にあるんだな。それも、先生の方が女って」
「禁断の関係、ってやつだ」
 ざわざわとした声が更に大きくなる。
「――まあでも、おめでとうお二人さん」
「頑張って、応援するわよっ」
 さらに二人を応援する声までかけられて、栄子は耳から首まで真っ赤になって完全に硬直してしまった。
「す、すみません、失礼しますっ!!」
 栄子の手を握り、強引に引っ張ってその場を逃げ出す祐麒。
 しばらく走ったところで止まり、乱れた呼吸を整える。

「はぁっ……び、びっくりしましたね」
「び、びっくりどころじゃない。顔も見られたし、もう……」
「知った顔はいなかったですよ……多分」
「そういう問題じゃない! ああもう……っ」
 がりがりと髪の毛を掻き毟る栄子だったが、急に振り向くと祐麒に指を突き付けてきた。
「で、でも、もう遅いからなっ! 例え動画が拡散されても、もう逃さないぞ」
 人差し指の先端を見つめつつ、下から睨みあげてくる栄子に笑いかける。指をそっとつまんで下ろさせ、乱れた髪の毛を撫でる。
「俺こそ、逃しませんよ?」
「…………そっ、それから一つ、文句がある」
 祐麒にされるがままながら、はっきりした口調で栄子は言う。
「あのな、『死んでも』とか簡単に口に出すな。君が死んだら、私は絶対に幸せになれないんだからな、私よりずっと若いんだし私より先に死ぬことは許さない。私を一人にするなんて、絶対に許さないからな」
「はい…………すみません、あんなこと口走って。俺も、えーこちゃんが一緒じゃないと幸せになれないですから、一緒に幸せになりましょう」
「………………ん」
 こつん、と額を胸に押し当て、小さく頷く栄子。
 こうして高校卒業を無事に終えたこの日、祐麒と栄子の関係はさらに一歩、進んだのであった。

 

 

おしまい

 

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