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ノーマルCP マリア様がみてる 栄子

【マリみてSS(栄子×祐麒)】伝えること

更新日:

 

~ 伝えること ~

 

 

 ゴールデンウィーク、天気も晴れて絶好の外出日和、祐麒も栄子ともに外出するという嬉しいはずの状況なのだが、相当に緊張していた。緊張するなと言う方が無理というモノだろう。
 これから生まれて初めて恋人の実家に行き、両親に挨拶をするのだから。
「うぅ……今からこんなに緊張して、大丈夫かなぁ」
「ふ……馬鹿め」
 隣に座っている栄子がニヒルな笑みを浮かべる。
「緊張というなら、私の方がよほど緊張しているぞ」
「いや、張り合う所じゃないでしょう。てか、実家に帰るえーこちゃんがなんで緊張しているんですか」
 栄子の実家へと向かう電車の中、緊張度合いを競い合っても意味がない。
「実家だからこそだ。生まれて初めて恋人を連れて行くんだぞ、しかも相手が君みたいな若い子だ、はたしてどんなことになるかを考えると、それだけで頭を抱えたくなる」
 がっくりと肩を落とす栄子。

 四月から大学が始まってすぐに栄子からGWの予定を尋ねられた。サークルにもまだ属していなかったし、仲の良い学友ができていたわけでもなく、予定など特にあるわけもなかった。当然、いつでも空いていると答えると、栄子は喜んだような困ったような実に複雑な表情をしてみせた。
 栄子の口からきかされたのは、家族に紹介するから一緒に実家に来いという言葉。栄子らしいのは、「来て欲しい」ではなく「来い」というところか。いきなりの展開に驚きはしたものの、家族に会わせるということはそれだけ栄子も本気でいてくれているということだろう、祐麒は喜んで承諾した。
 実家といっても都内にあってさほど遠くないらしいが、23区外なので意外と移動は面倒くさい。車で行くのかと思いこんでいたが電車とバス移動で、車だと途中でUターンしてしまうかもしれないからやめたという理由が可愛いと思えた。
「……ゆ、祐麒は、嫌じゃないのか? 私みたいなずっと年上の女の両親に会いに行くとか……何を言われるか分かったモノじゃないぞ」
 拗ねたように口を尖らせる栄子を見て、少し緊張がほぐれる。
「大丈夫です、どんなに反対されても俺の意思は変わらないですし、説得してみせますよ」
「いや、そういうことじゃないんだが……うん、いや、まあ」
「大丈夫ですって、えーこちゃん」
 そっと、隣にあった小さな手の甲を包み込んで握る。
 すると、じっと見つめてくる栄子。
 これはポイント高かったかと思ったが。
「……家では、"栄子さん"と呼べよ?」
 どうやらさほど高くないようだった。
 そんなこんなで電車を乗り継ぎ更にバスに乗って到着した場所は、東京都内とはいえかなり田舎な雰囲気を漂わせていた。
「とうとう着いてしまったか……」
「そこまで嫌なんですか」
「嫌というかだな……ああもう、ここまで来たらウダウダ言っても仕方ないな、行くぞ」

 どうやら開き直ったらしい栄子に続いて歩き出す祐麒。バスで来たから家まではもう近いのかと思ったが、それでも五分以上歩いて到着した栄子の実家は、木造二階建てで敷地はかなり広く、どこか懐かしい感じのするような家だった。作りは違うけれど、山梨の祖父母の家と雰囲気が似ているような気がした。
「入るぞ。準備はいいか?」
「はい、大丈夫です」
 家族からの様々な質問に対するシミュレーションもしたし、怒った場合、喜んでくれた場合、そういったシチュエーションも想像してきた。もちろん、実際に相手を前にしたらそんなことも吹っ飛んでしまうかもしれないが、出来るだけのことはしてきたつもりだ。
 相手は年上の大人の女性、その連れてきた相手がまだ大学生になったばかりだということであれば、様々な難問苦言が出来てもおかしくはない。あまりに背伸びする必要はないが、せめて恥ずかしくないような態度を見せなければならない。
 緊張と不安を胸に祐麒は保科家の玄関を跨いだ。

「……………………」
 無言だった。
 居間に通されて腰を下ろし、テーブルの上にはお茶が出されているが、非常に微妙な空気が室内を満たしていた。
「改めて紹介する。福沢祐麒さんだ」
「はじめまして、福沢祐麒です」
 隣の栄子がまず口を開き、続いて祐麒も挨拶をして頭を下げる。
 栄子の両親と祖父母、さらに栄子の妹さんが一人。本当は妹がもう一人に弟が一人いるらしいが、夕方くらいにやってくるということで今この場にはいない。
「……これはまた、随分とお若いようですが」
「だから年下だと前に説明したでしょう」
「いや栄子、そりゃ年下とは聞いたけれど……」
「随分と童顔なんですね、祐麒さん……でも、確か大学は」
 戸惑う父親の後を引き継ぐようにして母親が話しを違う方向に向ける。祐麒も内心では動揺しているが、若くて驚かれるのは想定内でもある。浅く息を吸い込み、軽く頷く。
「はい、E大学です。童顔だとは、よく言われます」
「そ、そうですよね……あら、確か大学は花寺学院って言ってなかった、栄子?」
「お母さんたちが勝手に早とちりしただけじゃない」
「そうだったかしら? でもお若くて、今でも大学生に間違われるんじゃないですか?」
 母親としては場を和ませようと軽い冗談交じりの口調で言っているのだろうが、さてどうしたものかと栄子にちらりと目を向けると、無言で目配せしてきて祐麒は理解する。
「えーと、あのう、大学生に間違われるといいますか、大学生なんです」
「――――え?」
「それも……この四月に大学生になったばかりで」
「――――――――」

 場が凍り付く。

 栄子はやけくそになったのか分からないが、腕を組んで偉そうにしている。
「えっ……と、それは本当に」
 かすれる声を出す父親。驚きで瞳孔が開きっぱなしになっているように見える。
「はい、本当です」
「ちょ、ちょっと待て……とゆうことはだ……」
 手の平で顔を隠し、唸るような父親。
 そんな状況を打破したのは、妹さんだった。
「うわっ、てことはお正月の時はまだ高校生ってこと!? 栄子姉ちゃんやるぅ!」
「黙りなさい幸花。栄子、お前まさかそんな……」
「な、何よ、文句でもあるの? ずっといかず後家だった長女がこうして恋人を連れてきたというのに」
「そうじゃない、いくらいかず後家だからって栄子、教え子に手を出すとは!」
「そうよ栄子、モテないからって何も知らない純情な男の子を捕まえるなんて、思いもしなかったわ」
「いやいや、栄子姉ちゃんはそれくらいしないと男なんて出来なかったんだって。むしろ、その思いきりに惜しみない賞賛を送りたいけど、あたしは」
「だから幸花は黙っていなさい! 栄子お前、教師が教え子に手を付けるとか分かっているのか!? いくら追いつめられていたからって、教師としての倫理はどうした、恥ずかしくないのか」
「だあああっ、ちょっと待て! よく考えてみて、私の勤め先はリリアン女学園、女子高よ。男の子はいないんだから」
「そうです、俺……私は花寺学院というリリアンの隣の男子校に通っていました」
 助け舟を出そうと祐麒が口を開くと、今度は家族の視線が一斉に祐麒の方に向けられ、ビクッと思わず後ずさりそうになる。
「祐麒くん、君はまだ若い。本当にこんな40近い娘でいいのか。後々、後悔することになるぞ」
「――おい。ちょっと父さん」
「そうよ祐麒くん、栄子にどんなことされたのか知らないけれど、無理に付き合ってくれる必要はないのよ。まさか栄子が教師の力を使って生徒さんと関係を結ぶなんて、思ってもいなかったわ」
「こら、ちょっとそこの母さん」
「冷静になるんだ、今はまだ……ギリギリ良いかもしれないが、君が大学を卒業して社会人になる頃には、栄子はもう40代になっているんだ。君、その若さで本気なのか、考え直すなら今のうちだ」
「ちょっと待て。なんで36になる娘が初めて彼氏を連れてきて、なんでそこまで拒絶しようとする!?」
「だってお前あたりまえだろう、こんな若い子に手を付けるなんて――」
「……っ、手を付けられたのは私の方だっ!」
 栄子のその一言に、皆が一斉に口を噤んだ。

「私だって何度も同じようなことを言ったのにそれでも諦めずに追ってきて、だから……って…………あ……」
 そこまで口にしたところで気が付き、途端に顔を真っ赤にしてゆく栄子。
「え……栄子さんの言う通りです。栄子さんは、私のことを思ってくれてずっと断られていたんですけれど、私は諦められずずっと追い続けて……だから、栄子さんが教師としての立場で私に何かをしたというのは決してありません」
 口を閉ざしてしまった栄子のかわりに、慌てて祐麒はフォローするべく口を開いた。若すぎる、いまだ学生で給料も稼いでいないような男など駄目だと反論されることは覚悟していたが、まさかこんな想定と全く異なる方向性で反対されるとは思ってもいなかった。
「そ……そうですか」
 突然の祐麒の言葉とその迫力に押されたのか、栄子の父親も母親も乗り出していた体を元の位置に戻した。
 取り乱していた様子を恥じるように一つ咳ばらいをし、お茶に口を付ける父親。
「それでは本当に栄子のことを……?」
 いまだ半信半疑といった表情をしている父親に向けて、最大限の勇気を振り絞って本命の言葉を告げる。
「はい。ですから……栄子さんとの結婚を許してください」
「――ぶはっ!?」
「ちょっ、なんで栄子さんが驚いているんですか!?」
 飲みかけていたお茶を噴き出した栄子に、むしろ祐麒が驚いた。
「い、い、いきなり何を言っているんだ、結婚とか」
「え、だってそのために来たんじゃないんですかっ?」
「今日は、ただの顔合わせというか紹介するだけのつもりで」
「でもどうせ近いうちに言うんですし、いいじゃないですか。それに栄子さんだって、絶対に俺から離れないって――」
「うわああああっ!? 何を口走っているか馬鹿者!!」
「あ痛っ!!」
 わき腹を手刀で突かれ、思わず身を捩る。というか、恋人である女性の実家にやってきて、二人してこんな醜態を晒してしまっては呆れられないだろうか。そう思い、わき腹の痛みを堪えて顔を上げると案の定、呆れた様子の父親と母親が見つめてきていた。
「へえ……栄子姉ちゃん、心配なさそうじゃない? ねえお祖父ちゃんお祖母ちゃんもそう思うでしょう?」
 幸花が今まで一言も喋らずに見守っているだけだった祖父母に尋ねると、穏やかな口調で祖母が言う。
「最初から心配なんかしとらんよ、栄子が連れてきたんだからねぇ」
 その一言で、なんとなく有耶無耶な感じで祐麒と栄子の仲は認められたようだった。

「――本当に君は大した傑物だな。まさか栄子姉ちゃんを嫁に貰ってくれるなんて、さあもっと飲んでくれ」
「いえ、あの、俺は未成年なので」
「気にするな!」
 夕食時、栄子の弟である和春にビールを注がれて遠慮するが、関係なく飲まされてしまう。
「和、そんな強気に出ていいの? もうすぐ"お兄ちゃん"になる祐麒さんに対して」
「そ、そうだった……が、これで栄子姉ちゃんも少しは女らしくなって、粗暴なところがなくなってくれると思えば、嬉しくもなるじゃないか」
「ほう……和は私のことをそんな風に思っていたのか?」
「いやいや和の言う通りでしょう」
 次女の霧もやってきて、それぞれの奥さんや旦那さん、そして子供たちもいてと非常に大人数で賑やかな食事となったが、主役はやっぱり祐麒と栄子であった。
「ねえ祐麒さん、実際のところどうなの? 祐麒さんの前だと姉さん、しおらしかったりするの?」
「え、ええ、とても可愛らしいと思いますけれど」
「マジか!? 可愛らしい栄子姉ちゃんとか想像できん!」
「和……お前、よほど痛い目にあいたいらしいな」
「ほら見てくれ、この怖さ! 頼む"義兄さん"、助けてくれ!」
 酒も入って上機嫌になっている和春がふざけて絡んでくる。
「若くて可愛いお兄ちゃんが出来るなんて、なんか素敵ね」
 霧もまた冗談めかして言う。
「ぐっ…………この……」
 そして栄子だけが言葉に詰まり、赤面して拳を震わせる。振り上げた腕の降ろし場所に困り、仕方なくビールの入ったコップを掴んで勢いよく飲み干す。
「くそっ、やはり思った通りだった。だから来たくなかったんだ……」
 ぶつぶつと不満そうに漏らしている栄子だったが、そんな姿を見て霧が笑う。
「もー、栄子姉さんったら何が不満なのよ。こんな若くて可愛い彼氏が出来て、からかわれないわけないじゃない。ご祝儀だと思って受け取るしかないよ、だって結婚式や披露宴なんかしたら、私達の比じゃないよ?」
「う……それは……」
「あはは、こんな若い恋人を作ったんだから、それくらい受け入れないとね」
 宴は続き、結局お酒を飲まされた祐麒は保科家に一泊することになってしまった。

「はぁ……すまないな、こんなことになって」
「いえ、大丈夫です。それよりご家族に受け入れて貰えて良かったです」
 お風呂もいただいた後、祐麒と栄子は客間で寝ることになった。もともとの栄子の部屋もあるのだが、霧が泊まりに来るとその子供たちの寝室になってしまっている。実家とはいえ長く離れているので、もはやお客さん扱いに近くなるのは仕方ないところだろう。
 緊張もあったし疲労もしている、少し早いが二人とも布団の中に入りこむ。
「……はぁ、せっかくの連休だというのに」
「いいじゃないですか、俺は楽しかったですよ」
「い、いや、そうじゃなくてだな……」
「はぁ、なんですか?」
「せ、せっかく連休で二人で過ごせると思っていたのに……って」
 電気は消され、室内は既に闇に覆われているが、それでも栄子が頬を赤らめているだろうことが想像できた。
「えーこちゃん…………あ、もしかして、だから昨晩はいつも以上に長い時間」
「ば、馬鹿、変なことを言うなっ、そんなことはない、さっさと寝ろ」
 と言い放ち、身体をぐるんと回転させて祐麒に背を向ける格好で寝に入る栄子。祐麒はそんな栄子の布団の中に入り込み、背中から抱きしめる。
「こら、勝手に入ってくるな」
「えーこちゃん、こっち向いて……」
「し、知らんっ……こら勝手に触るな」
 胸に伸ばしていた手の甲をつねられて離すと、渋々といった様子で栄子は体の向きを変えてくれた。正面から抱き合い、唇を重ねる。
「…………んっ……馬鹿……ここまでだぞ? 場所をわきまえろ」
「えー、でも」
「でもじゃない、わ……私だって我慢しているんだ、祐麒も我慢しろ」
「…………すみません、今の一言で我慢できなくなりそうです」
「なんでだっ…………むっ!?」
 口を塞ぐ。
「~~~~~~っっ! い、いい加減にしろっ」
 またも怒られ、さすがにここまでかと思って肩を落としかける祐麒であったが。
「……帰ったら、沢山可愛がってやるから我慢しろ……な?」
 などと言われて。
 興奮するけれど我慢しなければならない状況に、悶々と一夜を過ごすことになったのであった。

 

 翌日、お昼ご飯までご馳走になってから帰ることになった。
 なんだかんだとからかわれ続けたが、それでも受け入れてもらえたことにホッと胸を撫で下ろす栄子。
「さて、帰るか」
「はい……次回は俺の家ですね」
「は、何がだ?」
「え? だから、今回は俺がえーこちゃんのご両親に紹介されたんで、次は俺がえーこちゃんを家族に紹介する番ですよね」
「――――――――」
「えーこちゃん?」
「いっ……いやいやそれは無理だろう!? だって、祐麒のお母さんはいったい何歳だ?」
「えっと、確か――」
 その年齢を耳にして絶望する。
「無理無理無理っ、息子がいきなり自分の年齢に近い女を恋人だって連れてきたらどう思うっ!? そもそも私がリリアンの教師だと知ったら……」
 それに祐麒の姉はリリアンで栄子のことも知っている祐巳である。どんな顔をして挨拶に行けというのか。
 頭を抱える栄子に対し。
「言っておくけれど、逃がしませんからね」
 キュッと手を繋いでくる祐麒。
「――――それは、私の台詞だからな」
 握り返す手に力を入れる。
 そうだ、誰に何を言われようと逃すつもりはない。こんなこと、今後絶対に二度とあるわけがないのだから。
「だ…………だからといって、何でも言うことを聞くと思うなよ」
「そんなこと思ってないですよ」
「ふん、どうだか」
「なんなんですかもー、言いたいことがあるならハッキリ言ったらどうなんですか」
「い、言えるか、そんなことっ」
 言いたいことだけを素直に口にすることが出来たらとは思うけれど、色々な制約や自重があって出来る筈もない。
 それでも、言うべきことは口にしないと伝わらない。
「……わ、分かった、私も覚悟を決めて君の家に行くから……そのかわり、ちゃんとフォローしろよ? どう考えても、君のご両親からしたら年増のいきおくれ教師が世間知らずの少年を毒牙にかけた、としか思わないだろうからな」
「そんな風に思うとは思いませんが、約束しますよ」
「いや、むしろ祐麒がフォローすればするほど、私の毒牙にかかっていると思われるのか? うう、悩ましい……」
 髪の毛を掻き毟り唸る。
 世間体やら何やら、全て理解したうえで踏み切っているはずだけれども、現実的には、頭で分かっていることとは勝手が違う。
「大丈夫ですよ、えーこちゃん。俺はえーこちゃん一筋ですから」
「わ……私だって、君一筋だからな」
 恥ずかしいけれど、離したくないからきちんと伝える。
 お互いの気持ちは言葉に乗って、そして繋がれた手によって確実に伝わっている。そう信じる栄子だった。

 

 

おしまい

 

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