ノーマルCP マリア様がみてる 可南子

【マリみてSS(可南子×祐麒×美月(可南子母))】開幕戦

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~ 開幕戦 ~

  夏休み真っ盛りである。地球温暖化、猛暑といった単語が耳に馴染むようになって数年、今年も例外なく暑かった。
  今年の夏は、ひょんなことからずっと可南子のバスケの練習につきあっていて、気づいたら肌も真っ黒に焼けて、なんとまあ健康的なことだろうか。今日もまた練習を行うつもりでいたのだが、直前に可南子から連絡があって中止になった。リリアンに用事があるとのこと、夏休みだというのに大変である。もっとも、祐麒とて生徒会活動がしばしばあるわけだが。
  練習もなく、このまま家に帰るのも間抜けなようで、さてどうしようかと自転車でふらふらしているうちに、可南子のアパートの前までやって来ていた。なんとなく可南子の家のドアを見ていると、視線に反応したわけでもないだろうが、扉が開いた。
 「――あら」
  出てきたのは当然のことながら、可南子の母だった。
  軽く会釈をすると、アパートの集合ポストから新聞を取り出し、可南子の母は気さくに手を挙げて祐麒の方に歩いてくる。
 「おはよう、祐麒クン。どうしたの、可南子なら今日は学校よ?」
 「はい、知っています。なんとなく通りがかっただけなんですよ」
 「ふーん、あ、もしかして急に可南子に振られて暇しているんでしょう。そういやさっき可南子、こそこそと電話していたわ」
  可南子の母は、ニヤリと笑う。
  改めて、彼女のことを見てみる。
  女子高校生を娘に持つ母親とは、とても思えない。いうなれば、若いのだ。はっきりいって、二十代といっても通用するかもしれない。
  髪の毛は可南子と違ってセミロングだが、漆黒という点は同じ。顔の造形は、可南子をもっと愛想よくした感じで、親子ということだけあって似ている。
  体型も、可南子と同様に細身だが、身長は祐麒よりちょっと低いくらいと、長身の可南子とは比べるべくもない。
 「ん、何かしら?」
 「ああいえ、なんでもありません。ええと、それじゃあ俺はそろそろ」
  失礼にもじろじろと見てしまっていたことに気が付き、慌てて踵を返そうとする。
 「あ、ちょっと待ってくれない、祐麒くん」
 「はい?」
  自転車のサドルに跨りかけたところで呼び止められ、振り返った。そんな変な体勢であったためか、バランスを崩してしまった。
 「うわ、っと」
 「あ、危ないっ」
  体勢を整えようとしたが、自転車の上ということで完全には制御しきれず、へなへなと格好の悪い形で自転車とともに地面に倒れてしまう。勢いがあったわけではないので大した痛みも怪我もなさそうだが、軽く肘を擦りむき、ペダルで足をこすってしまって、それぞれから軽く出血していた。
 「ご、ごめんなさい、大丈夫っ?」
 「ああ、大丈夫ですよ、これくらい」
  慌てて可南子の母が駆け寄ってくるが、実際に大したことはない。野球部での練習や、生徒会活動とかのほうがよっぽど大変なことになるのだから。
  しかし、可南子の母にしてはそれで済まされないらしかった。怪我をさせてしまったことを詫びてきて、治療するから部屋に上がって行けという。
  よそ様の子供を怪我させてしまったと気にしているのだろうが、祐麒からしてみれば単に自分の不注意だし、大げさに治療などされるほどのことではないので遠慮したのだが、黴菌が入ってしまうしきちんと消毒しないと駄目だという可南子の母の強い意志に最終的には抗えず、手当てをしてもらうことになった。
 「本当にごめんねー」
 「だから大丈夫ですから、そんなに謝らないでください」
  消毒液を擦りむいた箇所に塗り付け、絆創膏を貼る。ただそれだけのことなのだが、可南子の母に接近されて妙に心臓の動きが早くなる。何を考えているんだと、内心で自分自身を責めようとしても、反応してしまうものは仕方がない。
  何しろ可南子の母は若く、夏だから薄着で、ちらちらと目に入る肌が非常に目に毒なのだ。さらに、ほんのりと香ってくる匂い。
  肘の消毒を終え、足の方にうつったところでようやく息を吐き出す。かなり、緊張をしていたようだ。
  足の方も消毒を終えると、テーブルの上に出された麦茶に口をつける。可南子の母親と二人きりという状況の中、何を話せばよいのかわからず、だからといってすぐに立ち去るのは失礼だとも思い、一人困惑する。
  とりあえず祐麒は、当たり障りのない話題を口にする。
 「今日は、仕事はお休みなんですか?」
 「そう、休暇を久しぶりに取得してね」
  救急箱をしまいながら返答してくる。
 「じゃあ、どこかに出かけたりされるんですか」
 「うーん、別にそういうわけでもなくて。たまたま、仕事に余裕が出来て休みが取れそうだったから取ったって感じ。休めるときに休んでおかないと、いつ休めるか分からないってのもあるのよ」
 「た、大変なんですね、やっぱり仕事って」
 「そうよ、祐麒クンも今のうちにたくさん、楽しんでおきなさい。社会に出ると、遊ぶ時間もぐっと減るんだから」
  なかなか新鮮な会話である。
 「あー、それにしても本当にごめんなさいねー。まったく、怪我させちゃうなんて、可南子に知られたら怒られちゃうわ」
  余程気にしているのか、可南子の母はまだそんなことを口にしている。
 「男ですし、これくらいしょっちゅうですから。謝りすぎないでくださいよ」
 「そうは言われてもねぇ」
 「そんなに気にされるんだったら、そうですね、じゃあお詫びに俺とデートでもしてくださいよ」
  可南子の母の気を楽にさせるための、軽い冗談である。さすがに祐麒も、本気でデートをするなどと思っていないし、そもそもそんな簡単にデートに誘えるような性格でなければ度胸もない。冗談だからこそ、あっさりと口にできたのだ。
 「はいはい、こんなおばさんをからかわないで頂戴」
  分かっているのか、可南子の母もそんな風に返してくる。
  当たり前だけど、祐麒の言葉など本気でとらえているわけもない。そんな可南子の母の態度に、なぜだか心が引っ掛かった。
 「そんな、おばさんだなんて、その、凄くお若いじゃないですか」
  これはお世辞でもなんでもなく、本心で思っていることである。
 「ありがとう、そう言ってくれると嬉しいわ」
 「あの、本当ですよ。凄く若々しくて、絶対におばさんなんかじゃないですよ」
  いまだまともに受け取っていない可南子の母を見て、祐麒の方はまたも少しムキになって言い返した。
  すると、そんな祐麒を見てさすがに何かを感じたのか、可南子の母の様子も変わる。
 「あら、じゃあもしかして、さっきのデートのお誘いは本気とか?」
 「あ、当たり前じゃないですか」
  今更否定することも出来ず、頷く。
  可南子の母の顔が、少し楽しげな感じになる。
 「私は可南子じゃないけれど、いいのかなぁ~」
  にやにやと笑いを見せながらそんなことを言ってくると、余計に祐麒もムキになってしまう。
 「もちろん、俺が誘っているのは可南子ちゃんじゃなくて、えと、細川さんですから」
 「――美月」
 「え?」
 「私の名前。可南子は名前で、私だけ"細川さん"だなんて、差別じゃない?」
  可南子の母、美月は、そういいながら楽しそうに祐麒のことを見つめている。完全に、からかって楽しんでいるとしか思えない。
  子ども扱いされているのかと考えると、悔しくなってくる。
  だから、恥ずかしくて顔が赤くなってきたが、それを上回る勢いで言葉を吐き出す。
 「お、俺が誘っているのは、美月さんですから」
  言ってしまった。
  言った後で、後悔する。
  完全に美月に乗せられ、転がされてしまった。羞恥に俯いてしまい、顔を上げることが出来ない。
  果たして、美月はどんな顔をして祐麒のことを見ているのだろうか。
 「――それじゃあ、どこに連れて行ってくれるの?」
 「……え?」
  思わぬ言葉に顔を上げる。
 「せっかくのデートのお誘いだものね、受けないのは失礼ってものよね」
 「え、あ、あの?」
 「あら、どうしたのかしら。まさか、やっぱりさっきのは嘘だったとか?」
  美月が、哀しげな眼を見せる。
 「そんな、嘘なんかじゃありませんよっ、もちろん本気ですっ」
  挑発と分かっていながらも、そう答えるしかない祐麒であった。

  こうして、想像もしなかった美月とのデート、なんてものが現実化された。
  今は二人で駅前まで出てきているが、それまでも祐麒はかなりテンパっていた。
  何せデートすると決まった後、準備するから少し待っていてくれと言われたのだが、隣の部屋で美月が着替える衣擦れの音などが耳に聞こえてきて、落ち着かないことこの上なかった。
  駅に出てくるまでだって、自転車に二人乗りだったので会話する必要がなかったのは助かったが、お腹を掴む美月の手にドキドキしていたし、この後どこに行けばいいのか頭の中は混乱を極めていた。
  生まれて初めてのデートの相手が年上どころか人妻、いや、離婚しているから独身だけれど、高校生の娘を持っているなんて、ハードルが高すぎる。
  何を話せばよいのか、どこに連れていけばよいのか、全く分からない。そもそもお金だってたいして持っていない。
 「さて、どこに連れて行ってくれるのかしら?」
  楽しそうに見上げてくる美月は、刺繍使いのされたオフホワイトのブラウスに、ベージュのカーゴクロップドパンツ、サンダルといったスタイルになっている。髪の毛もセットされ、メイクもされて、先ほどよりもさらに若がえったように見える。
  それに比べて祐麒は着替えも何もないので、本当にただの夏休みの高校生としか見えない格好で、なんだか横に並んでいると情けなくなってくる。
 「ええと、そ、そうですね。そうだ、細川さん、行きたい場所は……」
 「"美月"でしょ」
 「は、はぁ……でも……ええと……」
  さすがに、呼びづらい。
 「もう、男らしくないわね。泣いちゃうわよ」
 「なんでしょう、美月さん」
 「あ、失礼ね祐麒クン」
  あっさりと陥落してしまった。この手のちょっと強引で我が道を行くタイプの女性には、どうにも弱いのかもしれない。
 「実はね、行きたい場所があって、今日はそこにつきあってもらいたいのよ」
  そう言って美月は先導して歩き始め、祐麒は慌てて追いかける。たいして歩くこともなく、美月の行きたい場所とやらに到着した。
 「カラオケですか」
 「そうなのよー」
  二人が入ったのは駅前にあるカラオケBOX。夏休みとはいえ平日の昼間なので、待たされることもなくあっさりと部屋に通された。
  外を歩いても暑いし、カラオケなら祐麒だって嫌いではないので良いのだが、なぜにカラオケなのかと問いかけてみると、どうも美月はカラオケにほとんど行ったことがないとのこと。
  学生の頃はカラオケBOXが現代ほど浸透していなかったこと、美月自身がさほど興味がなかったこと、そして可南子を生んでからはそんな余裕もなかったこと、色々な理由が重なって、行く機会が得られなかったらしい。
 「会社の飲み会も、私は大体、一次会で帰っちゃうからね。一人でカラオケというのも、そもそもカラオケ初心者には厳しいし、祐麒くんが付き合ってくれてよかったわー」
 「可南子ちゃんと一緒に行けばいいじゃないですか」
 「うーん、なんか言い出すのが恥ずかしくてね」
  そういうものだろうか。確かに、親が一緒にカラオケに行こうとか言ってきたら、始めは「え?」とか思うかもしれない。
 「まあ、そんなこといいじゃない。歌いましょうよ」
  美月は嬉々としてリモコンを操作し始める。
  美月の歌はそれなりに上手く、おまけに最新の曲も抑えていて少し驚かされた。祐麒の入れた曲にも色々と反応してくれるし、感想も言ってくれるし、黙々とお互いの曲だけを歌う、なんて状況になってはいない。祐麒も、知っている少し昔の歌なんかを入れたりして、そうすると美月が喜んでくれて、なかなかに楽しんでいる。
  会話をあまりする必要がないこと、歌っているうちに相手の好きな歌手や曲の傾向も分かり、曲と曲のつなぎの間はその辺の会話をすることで埋めることができる。
  だから、カラオケ自体には問題ないのだが、他で困った点があった。
  案内された部屋は、完全に二人専用の狭い個室で、二人が並んで座れるだけのスペースしかない小さなソファが一組あるだけだった。必然的に並んで座り、お互いの距離が接近するのだ。
  お互いに半袖だから、腕と腕が直接に触れ合ったりもする。おまけに祐麒の方が先に部屋に入ったので、奥の壁際に座ることになり、体を離すこともままならない。美月は歌っていると夢中になるのか、時にかなり寄りかかってきたりもする。
  美月の体の感触にも困るし、ほんのりと漂ってくる心地よい匂いにも困る。主に男性として。
 「あー、すっきりした。さ、次は祐麒クンの曲よ」
  歌い終え、満足げな笑顔を浮かべて見上げてくる美月。わずかに前かがみの姿勢の中、ブラウスの胸元から谷間が覗いて見えた。
 「よ、よしっ! いきます!」
  祐麒は何かから逃げるように勢いよく立ち上がり、マイクを握り締める。幸い、次に祐麒がいれた曲は激しいロックだ。弾丸ロックだ。気合を込めて立って歌うことに、何ら違和感はないはず。
  立ってしまえば、美月から距離を置ける。
  あんなに近い距離は、危険だ。
 「おー、格好いい!」
  拍手してくる美月。
  結局その後、祐麒は自分が歌うときは殆ど立って歌うことにした。

  カラオケを終えて外に出ると、また嫌になるくらいの暑さが全身を包み込むように襲い掛かってくる。
 「あー、楽しかった。満足、満足」
  それでも美月は楽しそうに笑っている。
 「それじゃあ、お茶でも飲んでいきましょうか。あ、もちろんそれくらいご馳走してあげるわよ」
 「いえそんな、俺が出しますよ」
 「学生さんが、気にしないの」
 「いやほら、デートですから女性に払わせるわけには」
 「私はね、一方的に奢られるのとか嫌なの。だから、割り勘にしましょう」
 「はぁ」
  二人で入ったのは、駅ビルにある喫茶店。
  そこでケーキセットを注文して、話をする。話をするのはカラオケのことと、可南子のことが中心。お互いの共通の話と言えば、今のところそれくらいだろうから。
  喫茶店を出たら、後は帰るだけだ。早いかもしれないが、美月は夕食の支度もあるし、そうそう遅くなるわけにもいかないのだろう。
  駅前の駐輪場に向かいながら、二人並んで歩く。
 「今日はこんなおばさんに付き合ってくれて、ありがとうね」
 「だから、美月さんはおばさんなんかじゃないですし、今日は俺が誘ったんですし」
 「ありがとう、何、もしかして私に惚れたか?」
 「えっ! あの、そ、え」
 「冗談よ、そんな真に受けないで」
  お腹を抑えて笑う美月。
  一方、美月の言葉に本気で狼狽えていたことに気が付く祐麒。
 「まあ、実際に私もまだまだ若いつもりだけどね。とはいいつつ、もう33だしねー」
 「そうですか……って、えっ!?」
  聞き流しそうになったが、慌てて美月に目を向ける。
  すると美月は苦笑しながらも教えてくれた。
 「私、高校卒業と同時くらいに可南子を生んだのよ。だからまあ、カラオケとかそういうのあまり行ったことない、っていうのもあるんだけれどね」
 「いや、そんな……本当に、20代にしか見えないですよ」
  衝撃であった。
  見た目若いとは思っていたが、可南子の母親だし、さすがにアラフォーだと思っていた。ところが本当に若くてまだアラサーだ。見た目20代で、全くおかしくないのだ。
 「ありがとう、それじゃあ帰りましょうか」
  祐麒の言葉はあっさりと流される。
  そのまま自転車に乗り、帰途に就く。
  特に会話もなく、駅前の繁華街を抜け、だんだんと住宅街に入っていき、何事もなく美月たちの住むアパートに到着する。
  自転車を降り、向かい合う。
 「送ってくれてありがとう。あと、今日は誘ってくれて。お蔭で、有意義な休みの日を過ごすことが出来たわ」
  笑顔で美月がお礼を言ってくる。
  それに、何て応じたかよく分からない。
  ただ、手を振って部屋に入ろうとする美月を見ていたら、気が付いたら追いかけてその腕を掴んでいた。
 「どうしたの、祐麒クン?」
  不思議そうな顔をして見つめてくる美月。
 「あのっ……ええと、良かったらまた今度、俺と一緒にどこか行きませんか?」
  咄嗟に、そう言っていた。
  一方で、言われた美月は目を丸くしていた。
 「えーっと、でも、祐麒クン?」
 「美月さん、ど、独身ですし、と、特に問題とか、ないですよねっ」
  何かを言われる前に、言ってしまう。
 「確かにそうだけど、可南子が……って、はぁ」
  祐麒の言葉を聞いて、何かを言い返そうとした美月だったが、困ったように頭をかいて大きく息を吐き出す。
  困らせたいわけではない。
  それでも、言わずにはいられなかった。おそらく、今日のこのタイミングを逃したら、二度とないだろうと思ったから。
 「ん~~、ごめん、今日デートとかしない方が良かったかな。祐麒クンはさ、きっと年上の女の人に憧れる時期で」
 「ち、違いますよ、そんなんじゃっ」
 「きゃっ」
  否定する美月の言葉に焦り、思わず美月の腕を握っていた腕に力が入る。引っ張られる格好になった美月が、祐麒の胸に顔をうずめる格好となる。
 「そ、そういうのもあるかもしれませんけれど、その、でも俺は美月さんの」
  思いがけない接触に、ガチガチになって動けなくなる祐麒。さすがに、このまま抱きしめるなんてことは出来ない。
  しかし、すぐに逃げるかと思った美月も、じっとしたまま動かずに祐麒の胸に顔を押し付けている。
 「祐麒クン、すっごい心臓がバクバク言っている」
 「そ、そりゃあそうですよ」
 「…………あ~~、これはまずいなぁ」
  祐麒の胸に額を押し付けて、そんなことを呟く美月。
  ぐりぐりとこすり付けてくるように動き、ため息をつく。
 「こんな風にさ、男の子の匂い……感触……久しぶりだもん、ずるいよ」
 「え、あの、美月さん?」
  意味が良く分からないが、失敗したのだろうか。
  困惑していると、美月が祐麒のシャツの胸元を掴み、くっつけていた額を離して見上げてくる。
 「娘と同じような年頃の男の子だよ? そりゃあ、私の好みだけどさ、世間体的にはちょっとねぇ……でも可南子も大きくなったし、私もそろそろ自分の幸せを……むしろこんな若くて可愛い子逃さないように……いやいや青少年の未来を……」
  何やらぶつぶつ言いながら祐麒のことを見つめてくる美月に、心臓が早鐘を打つ。
 「えーっと、とりあえず今日は棚上げにしましょう。祐麒クン、初めてのデートで舞い上がっているのよ」
 「それは」
 「だから、もし、そうじゃないことを証明してくれたら……まあ、うん」
  わずかに照れたように、ほんのりと頬を薄桃色に染めて頷く美月。
 「ほ、本当ですかっ!?」
 「いや、でも娘がライバルか……うぁぁあ」
  頭を抱えてしゃがみこんでしまう美月。
  しばらく、ぶつぶつと何事か言いながら髪の毛をかきむしっていたが、やがて不意に立ち上がり。
 「……とにかく、もしも本気で本気なのだとしたら、その時はどうなっても知らないからね、祐麒クン?」
 「は、はぁ」
  意味が良く分からないが、とりあえず頷いておく。
  一方で美月は、先ほどまでとは変わって、どこかすっきりしたような表情。
 「ああ、なんだかそれはそれで楽しみになってきたかも。やっぱり私も女よねぇ。会社じゃあロクな男がいないと思っていたけれど、こういうこともあるから人生って面白いわよねぇ」
 「そ、そうですね」
  良く分からないが、とりあえず否定されたわけではないと分かり、胸を撫で下ろす。
 「お母さんとユウキ……何しているの、こんなところで」
 「うわっ、か、可南子ちゃんっ!?」
  いつの間に帰ってきていたのか、制服姿の可南子が怪訝そうな顔をして祐麒と美月のことを交互に見ていた。
 「可南子、まさかあなたとこんなことになるとは」
 「何を言っているの、お母さん?」
 「それは……って、考えてみれば平日は毎日、可南子は祐麒クンと一緒じゃない。いや、それどころか可南子ったら、よく祐麒クンを家に引っ張り込んでエロいことをしているわよね。これ、ずるくない?」
 「ちょ、何を言っているのよお母さん、私がなんでユウキを家に引っ張りこんで変なことをしないといけないのよっ!?」
 「若さ、肌の瑞々しさで、ってわけね……可南子、我が娘ながら、おそろしい子っ!!」
 「一体、なんなのよ!?」
  夏真っ盛りのある日の夕暮れ時。

  思いもかけないところから、新たな物語は幕を開いたのであった。

 

おしまい

 

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