書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

マリア様の愛読書

マリア様がみてる 可南子

【マリみてSS(可南子×祐麒)】どうする?

更新日:

~ どうする? ~

 

 忙しい仕事をしている中、ランチタイムというのは束の間の休息を楽しめる時間である。特に女性にとって食事とは、あらゆる意味で楽しむための時間。新しいメニュー、新しい店を開拓するべく街を歩き、食後のデザートやコーヒーが美味しいお店も外せない。テイクアウトして外で食べたり、会社の会議室を使って食べたりすることもある。そして、女同士の尽きることのないお喋り。それもまた、午後の仕事への活力となるのだ。
 食事を終え、食後のアイスティーを飲みながら同僚たちとお喋り。映画やドラマの話、美味しいスイーツの店の話、恋愛話、様々な話題があるが、さて今日は。
「――あの、細川さん、一つ訊いてもいいですか?」
「ん、何?」
 細川美月は正面に座っている後輩を見る。
 同じ席についているのは、美月を含めて四人。残りの三人は全て後輩である。女性が働きやすい職場ではあるものの、それでもどうしても結婚退職する割合が多く、いつしか美月は部門の女性陣では最年長になっていた。
「細川さん、もしかして今日、デートですか?」
「は?」
 思わず、間の抜けた声が出てしまった。
 見ると、質問してきた子だけでなく、後の二人も興味津々といった感じで美月のことを見つめてきていた。
「え、なんで?」
「だって、細川さんいつもパンツなのに、今日はスカートだから」
「そうそう、私、細川さんのスカート姿、初めて見ましたよ」
「だから、朝から私達、今日はデートなんじゃないかって、話していたんですよ」
「う……」
 後輩三人から迫られて、たじろぐ美月。
 実を言えば、後輩の指摘は当たっていて、今日は祐麒とデートなのだ。キャンプでの一件以来、美月の中で祐麒は「男の子」と「男」の中間をさまよっている。
 娘の可南子が好意を寄せており、祐麒自身も可南子に好意を寄せているのは分かっている。そんなところに、いくら夫と別れて独身になったとはいえ、美月が手を出すなんてどうなのかという自覚はある。傍から見れば、バツイチ三十代子持ちの女がいたいけな男子高校生を誘惑している、という風にしか見えないであろう。
 頭で理解していても止められないものはあるわけで、からかい甲斐のある祐麒と一緒にいるのは楽しいし、何より自分自身が若くいられる。そういうこともあってデートに誘ってみたら、祐麒からもOKをもらえたというわけだ。
 しかし、迂闊だった。
 確かに美月は動きやすさを重視して、職場には常にパンツ系で出勤してきていたのだが、今日はスカートである。高校生の男の子を相手に、何を年甲斐もなく色気づいているのだと思わなくもないが、そこはやはり美月も女。デート当日にお洒落しないわけがない。
「まあまあ、私だってたまにはスカートくらい穿いてくるし」
「あ、やっぱりデートなんですね?」
「相手はどんな人なんですか、年上ですか年下ですか?」
「く、食いつくなぁ」
 女は同性の変化にも敏感である。いつもと異なる服装をしてきた美月を見て、デートと想像するなど考えられたことなのに、そこまで意識が回らなかったのは、やはり美月自身が浮かれていたせいか。
「教えてくださいよー、だって細川さん、今までそういう話、全然なかったじゃないですかぁ」
「仕事バリバリの細川さんの御眼鏡にかなった男って、どんな人か気になるよねぇ?」
「やっぱり、有能な青年実業家タイプとか」
「私はしぶーいオジサマじゃないかと思ってます」
「意外と、芸術家タイプだったりしてー」
「あははは」
 さすがに、誰も相手が高校生だなどとは予想も出来まい。そしてもちろん、そんなことを口にできるわけもない。言ったならば、それこそ大騒ぎして根掘り葉掘り尋ねてくるに違いないのだから。
「そうねぇ……年下の可愛い男のコ」
「えーっ、マジっすか!? 何歳くらいですか、まさかウチの会社の後輩とか?」
「細川さん、年下いけたんですか?」
「写真とかないんですか」
「ふふ、今はまだ内緒。まだつきあっているわけじゃなくて、アタック中だから」
「うわー、今度絶対、教えてくださいよー」
 そんな風に賑やかにランチタイムを終え、午後の仕事をがっつりとこなし、どうにか定時ちょっと過ぎたくらいで一日分の仕事を終える。
 後輩の女の子達の視線を受け、苦笑しながらオフィスを出る。と、その前にお手洗いに寄って、髪型、化粧、服をきっちりと直す。鏡に映る自分の顔を見て、笑顔を作る。
 職場のビルを出て、電車に乗って、待ち合わせ場所へと向かう道すがら、近づくにつれて少しだけ心臓の動きが速くなるのが分かる。いつ以来か感じていなかった、心地よい緊張感が体と精神を覆っている。
 結婚して子供を産んでいたって、相手が高校生の男の子だって、そんなことは関係ない。やはり、一人の女なのだ。
 待ち合わせの場所には、既に彼の姿があった。
 軽く深呼吸をして、足を緩めて近づいていく。
 美月は自分で気が付いていなかったが、自然と頬も緩んでいた。

 

「お待たせ、祐麒くん」
 声を受けて振り向くと、美月の姿があった。
「あ……」
 思わず、言葉を失う。
 オフホワイトのブラウスは、胸もとのたっぷりフリルに縁取りがあしらわれている。ボタンがアクセントとなっているスカートに、大きなバックルのベルト、シンプルな中にも小悪魔的な色っぽさを備えている。何より、初めて見る美月のビジネス的な姿に、自然と目が奪われてしまうのだ。
「ごめんね、待たせちゃった? それにしても今日も暑いわね」
「いえ、お仕事お疲れ様です。あの、今日はありがとうございます」
「お礼を言うのはこちらでしょう、誘ったのは私なんだから」
 ひらひらと軽く手を振って微笑む美月。
 そして、二人並んで、歩き出す。
 向かう先は映画の試写会が行われる会場。丁度、父親の仕事関係でもらったものが手元にあったので美月に話したところ、是非観に行きたいと言ってくれたのだ。開始時間が比較的早いので心配だったが、どうにか間に合いそうである。
 試写会会場に到着し、飲み物を購入して適当な席を見つけて座り、映画のことを話しているうちに作品が始まった。
 作品はサスペンス・ホラーとでもいえばいいのか、観ていて緊張感があって、時に恐くてなかなか見ごたえはあるのだが、仕事で疲れた後に誘う映画としては失敗だっただろうかと、内心で反省する。しかし、美月は観たいと言っていたし、本当に好きなジャンルだったら良いのだがと、作品の内容と同じかそれ以上に美月の心の内が気になる。
 とはいいつつ、上映中にまじまじと様子を調べてみるなんて出来るはずもなく、やきもきしていると、不意に肘掛の上に置いた手に温かな感触。
 心臓が跳ねる。
 美月の手が、重ねられてきていたのだ。
 逸る心をどうにか抑えながら、横目で美月の方を見てみるが、あくまで真剣な表情でスクリーンに目を向けて映画に見入っている。どうやら、無意識の動きのようだ。女性の中には、ナチュラルにスキンシップをとってくる人も多いと聞いたことがあるし、美月もその類なのであろうが、触られた祐麒の方はたまったものではない。
 結局、映画が終わるまで美月の手が離れることはなく、必然的に祐麒の緊張も途切れることがなかった。映画が終了すると、あっさりと温もりは離れ、美月は何事もなかったかのように振る舞うから、本当に特別な意味などないのだろう。祐麒は自分自身の高揚と失望を悟られないよう、平静を保つことにし注力する。
 試写会が終わるとさすがに随分と空腹になっており、少し遅めの夕食をとることにした。今日のためにどういった店が良いか考えてきたのだが、そんな思惑をあっさりと美月にひっくり返される。
「試写会に誘ってくれたお礼に、いいお店に連れて行ってあげる」
 と。
 連れて行かれたのはイタリアンのお店だが、あまり飾り気はなくイタリアン居酒屋という雰囲気。
「ここはねぇ、牡蠣がおすすめなのよ」
 にこにこと嬉しそうに教えてくれる美月だが、祐麒は正直、メニューを見てもどれが良いのかさっぱり分からなかった。
 結局、祐麒はマルゲリータを選ぶことくらいしか出来なかった。バーニャカウダとか言われても、何者なのかも分からないし。
 料理が運ばれてくる前に、まずはワインがやってきて美月のグラスに注がれる。続いて、祐麒の前に置かれたグラスにも。
「え、あ、ちょっと美月さん」
「少しくらいいいでしょう? 女一人に飲ませるつもり、祐麒くんは」
「でも、いいんですかね」
「一緒に飲んだ方が絶対に美味しいし。それに、白ワインで飲みやすいのを選んだから、多分大丈夫よ」
 そこまで言われては、断るわけにもいかない。グラスを手に取り、軽くぶつけて乾杯をして口に付ける。
 美月の言うとおり、口当たりがよく喉をするっと通り抜ける美味しさだった。
「ふふ、改めて、今日は素敵な映画に連れて行ってくれてありがとう」
「そんな、試写会のチケットでもらい物ですし。むしろ、仕事終わって疲れている時に、今回のような内容の映画で大丈夫だったか、不安でした。」
「だから、私ああいうの好きだから大丈夫。怖がりなんだけど、怖いもの見たさの好きっていうのかしらね、目を逸らせないというか」
 映画の話をする。
 美月は怖いもの系が好きなんだけど、怖がりでもあるから見ると夜寝るのが怖くなるとか、グロい系も結構好きだがそれを言うと男性に引かれると、嘆く。
「祐麒くんは、そっち系はどう?」
「や……正直なところ、俺もグロいのはそんなに得意じゃないです。あ、でも好きなのは構わないと思いますよ!」
「じゃあ、私と一緒にその手の映画、一緒に観てくれる?」
「えと、はい、俺で良かったら……大丈夫、これでもゲームではゾンビ系のやつとか結構、やってますから」
「本当? やー、そう言ってくれると嬉しいけれど」
 美月が本気と受け取っているかどうかは分からないが、少なくとも祐麒は本心から言っている。
 流れで話題は互いの趣味の話になったが、性別の違いに加えて年齢の差もあるので、合わないものも多い。その中で、美月がスポーツ好きだというのは祐麒にとっても良い話題であった。
 可南子がやっているバスケを始めとして、バレーボール、野球なんかの球技全般が好きなようで、その辺で話は盛り上がる。
 話が弾むのは嬉しいのだが、徐々に困りだしたこともある。ワインが進んで美月の顔もほんのりと朱に染まり、舌も滑らかになって、そうして話に夢中になりだすと美月はテーブルに体を乗り出すようになってきた。
 そうすると目に入ってしまうのが、ブラウスの開いた衿から覗いて見える胸の膨らみ。いや、もちろん男として嬉しいところではあるのだが、そちらにまじまじと目を向けるわけにもいかず、だからといって意識しないというのも無理な話で、とにかく美月の顔を真正面から見つめるように注力する。
 すると今度は潤みを帯び、店のライトに光る瞳に魅入られる。
「どうしたの、祐麒くん。あ、グラスがあいていたわね」
「いえ、俺はもう、その」
「遠慮しないで」
 くすくすと笑いながら、白ワインをグラスに注ぐ美月。透けた液体は緩く揺らぎ、美月の姿をぼやかして見せる。
「ほら、せっかくのデートなんだから、楽しいお話しましょう」
 魅惑の笑顔につられて、祐麒はグラスに口をつけるのであった。

 

 店を出たのは夜の十時前。
「高校生の子をこんな遅くまで連れ出しちゃって、駄目だなぁ」
「いえ、大丈夫です、今日は少し遅くなるって言ってあるんで」
「そ~ぉ? あははっ、ありがとー」
 美月はいい感じに酔っぱらっているようだった。
 二人でハーフボトルのワインを一本あけて、量的には祐麒が4、美月が6といったところか。美月がアルコールに強いのか弱いのかは分からないが、祐麒自身がそこまで酷く酔っていないことから、そんなに強くないことが推し量れる。
 ただし、意識自体はしっかりしているようで、ろれつが回らないとか、何を言っているか分からない、ということはない。普段以上に明るく、距離が近くなっていて、今も腕を組まれている。胸があたっていないのは、絶妙な組み方をしているせいか。
「あぁ、でも今日はホントにありがとね、祐麒くんからみたら、私なんかおばさんでしょうに」
「前にも言いましたけれど、そんなこと全然ないですって」
「ふふ、どうも。そう言ってもらえると、私も嬉しい」
 言いながら、しなだれかかってくる美月。
 アルコールと、汗と、化粧と、そして美月自身の匂いが祐麒を包み込んでくる。少し潤んだ瞳で見上げてきて、蠱惑的な唇を開き、魅力的な言葉を紡ぐ。
「……ねえ、それじゃあさ、私とえっちしたいと思う?」
「え……?」
 祐麒の腕を掴んだまま立ち止まる美月。必然的に、祐麒も足を止めることになる。そして、美月が横を向くのにつられるようにして顔を動かすと、目に入ってくるのはラブホテルの姿。
「今からなら二時間でも終電に間に合うし」
「え、ちょ、駄目ですよ、そんな」
「どうして?」
「ど、どうしてって、そんなこと」
「そんな重く考えなくていいのよ。ほら、私、祐麒くんに借りが二つもあるし、それに練習だと思ってくれれば」
「れ、練習って」
「いざ可南子と初エッチ、ってときに上手くいかないの、嫌でしょう? だから、私相手に練習すればいいの。私は気持ちよくなれればいいし、祐麒くんはえっちの経験が出来る。悪い話じゃないでしょう? 大丈夫、別に私、祐麒くんの恋人にしろとか迫ったりしないから。本命は可南子で、私は二号さん、愛人でいいから。女としての幸せは、既に一度、得ているしね」
 どこまで本気なのか、美月は酔っていながらも真剣な瞳で見上げてくる。
「それともやっぱり、私みたいなおばさんを抱くことなんて、出来ない?」
「何言ってんですか、美月さんがおばさんなら、世の女性はみんなどうなるんですか!?」
「じゃあ、私のことは好きじゃない?」
「そ、そうじゃなくて。あの、そんな気持ちの美月さんとはしたくないというか、そういう、か、体だけの関係なんて、嫌ですから!」
 それだけ言うと、祐麒は美月の手を握ってホテルの前から逃げるようにして早足で歩き出す。
 無言で歩きながら、頭の中では色々と考えがぐちゃぐちゃになっていた。果たして自分の選択は正解だったのか誤りだったのか、美月の誘いを受けるべきだったのかどうか。可南子に対する思いはあるが、同時に美月に対して言いようのない欲望を抱いていることも確かで、どうしたらいいのか分からない。
 そうこうしているうちに、気が付くと公園までやって来ていた。祐麒のペースで歩いてきたせいか、美月は少し呼吸が荒くなり、汗もかいているようだった。途端に、情けなさと申し訳なさに襲われる。
「……す、すみませんでした、美月さん。少し、休んでいきましょうか」
 近くにあったベンチに腰を下ろす。手を握ったままだったので、美月もすぐ隣に座る。
「ええと、なんか、ごめんなさい」
「ううん……ちょっとびっくりしたけれど……うん」
 言いながら、美月がぴっとりと肩と肩、腕と腕を密着させるように身を寄せてくる。
「あ、あの、美月さん」
「祐麒くんは、野外の方が好みなのかな? キャンプの時も大胆だったものね」
「え、あ、ちょっと、え……?」
 そこで祐麒は気が付いた。
 公園内、夜とはいえ月明かりもあり、徐々に目が慣れてくると、他にも人がいることに。そしてそれらは皆カップルであり、ベンチで抱き合ったり、キスしたり、中にはもっと凄いことをしているっぽい男女の影も見える。
 どうやらこの公園、カップルの御用達らしい。
 そして祐麒は、美月の手を握り急ぎ足で引っ張るようにして公園までやってきて、おもむろにベンチに座って休もうか、なんて言ったのだ。美月は、祐麒がこの公園で「ヤル気」になったのだと勘違いしたのか。
「美月さん、ち、ちがっ……」
「誰かに見られるかもしれない、っていう方が興奮するものね」
 美月は祐麒の足の上に跨って座り、首に両手を回してきた。そのまま顔を近づけて、唇を重ねる。
「んっ……はぁ……」
 熱い吐息がかかる。
 再び唇を押し付けてきて、更に舌を絡ませてくる美月。祐麒は目を丸くしながら、自分の口内を自在に動く美月の舌に圧倒される。
「ん……今日も暑いね、祐麒くん」
 顔を離した美月は、頬を赤らめながらゆっくりとブラウスのボタンを上から外した。薄暗い闇の中、美月の白い肌が浮かび上がり、ほんのりと汗ばんで輝く。ミントグリーンのブラジャーに包まれた胸が目に入り、視線を動かせなくなる。
 一方、大胆に脚を開いて祐麒の上に跨っているため、いつしかスカートはめくれあがり、スカートの下が見えそうになってきている。
「胸、苦しいな……」
「み、美月さん、駄目ですよ、こんな場所で……」
「あら、キャンプの時はあんなにも積極的に、触ってきたじゃない?」
 言われて一気に思い出す、美月の胸の感触。
「だ、だけど」
「もう、男の子だったら話すよりも行動でしょ」
 そう言って再び唇を求めてくる美月。今度は祐麒も応じるように、唇で挟み、舌を出す。送られてくる美月の唾液が口内に溜まり、飲みきれない分が口の端から零れる。
「み、美月さん、あの」
「うん……あ、まずっ!?」
「え?」
 急に慌てた美月に、何事かと顔を横に向けてみると、少し先から警官らしき男性が歩いてくる姿が見えた。おそらく、夜の見回りだろう。
 こういう場面を見つかったらどうなるのか分からないが、祐麒は高校生でもあり、見つかってまずいことに変わりはないだろう。
「い、行こうか、祐麒くん」
「は、はいっ」
 急ごしらえで身だしなみを整えると、祐麒と美月は公園から逃げ出した。
 結局そのまま電車に乗り、帰宅する。夜も遅いこともあり、美月をアパートまで送っていくが、公園でのこともあり会話はなかなか弾まない。
 そうこうしているうちにアパートの前まで辿り着いた。
「送ってくれてありがとう……あはは、なんかごめんね、結局中途半端なことになっちゃって」
「い、いえ、そんな」
 何と返すべきなのか分からず、頭をかく。
「でもね、嬉しかった。ホテルの前で、体だけの関係なんて嫌だって言ってくれたことも……その割に、公園では激しかったけれど」
「あ、あれは、その、あの」
 真っ赤になり、言い訳もできずに汗をかく。確かに、体だけの関係なんて嫌だと言いながら、公園では美月の身体に溺れそうになっていたのだから、説得力などまるでない。
「ねえ祐麒くん、体だけじゃなくて、気持ちもあれば私のこと受け入れてくれるの?」
「――――え? あの」
「それじゃあ、これが私の気持ち」
 そう言って美月は祐麒の肩に手を置き、軽く爪先立ちして伸びをして、キスをしてきた。先ほどのような激しいものではない。優しく唇を塞ぎ、舌は軽く唇や歯をつついてくる程度、だけど痺れるような口づけ。
「んっ……」
 離れない。
 どれくらい時間が過ぎたのか、ゆうに一分は経ったのではないかと思える、長く、熱い口づけ。
 脳が痺れるような気がする。
 吸い付いた唇を、離したくない、そう思える。
「はぁ……あ……」
 だがやがて、ゆっくりと離れていく。
 祐麒の顔は熱く火照っているが、美月の顔も赤く上気していて、濡れた唇と光る汗、額に張り付いた髪の毛が色香を漂わせている。
「今ので私の気持ち、伝わった?」
「え、あの、美月さん」
「本気になっちゃって、可南子に遠慮しなくて、いいのかな」
「あ……」
 見つめてくる美月に、一気に体が熱を帯びてくる。
「……でも、今日で三回もおあずけくらわせちゃったね。次は、凄い、たっぷり、これでもかっていうくらい、サービスして気持ちよくしてあげるからね」
 言いながら体をさらに密着させてくる美月。むせるような女の色香が祐麒を包み込むようにしてくる。
「正直な話、お祭りの夜に祐麒くんに抱きしめられてから、ずっと忘れていた私の『女』の部分を思い出しちゃって。だから、悪いとか思わないで、むしろ私自身のためにも祐麒くんのが欲しいの」
 艶めかしい美月の唇が、夜の中でくっきりと浮かび上がってみえる。
 ごくり、と唾を呑み込む祐麒。
「それじゃあ……おやすみ、祐麒くん」
 さっと身を翻すと、体の前で小さく手を振りはにかむ美月。
 大人な美月の可愛らしい仕種に、胸が高鳴る。
 美月は階段を後ろ向きに上りながら、口に手の平を添えて言う。
「祐麒くんも、してほしいことがあったら考えてきてね! 好きなこと、させてあげるからね、ふふ」
 自分で言って笑いながら美月は顔を赤くすると、さっと背中を見せて駆け上がり、二階に到達したところで振り返り、ウィンクしながら投げキッス。
 それを受けて祐麒は、のぼせたようにふらふらとしながら帰途についた。

 

「ただいまー」
「お帰り……って、お酒くさいなぁ、もう」
 ドアを開けて家の中に入ると、出迎えた可南子が顔を顰めて見せる。
「可南子もね、そのうちわかるわよ」
「本当かしら。ま、たまに飲んでくるくらい、別にいいけれど」
 キッチンに入った可南子が、コップに水を汲んで戻ってきて美月に差し出す。美月は受け取ると、腰に手を当てて一気に飲み干す。温い水だが、それでも美味しいと感じる。
 コップとバッグを置き、汗で肌に張り付いたブラウスを脱ぐべくボタンを外す。今日は残念だったが、可南子に内緒であったから微妙に後ろ暗くもあり、丁度良かったのかもしれない。
「ふふ、ホント、可愛いんだから」
「……どうしたの、やけに機嫌が良さそうだけど」
「そう見える?」
「気持ち悪いくらいに」
 失礼だと思いつつ、美月は可南子に忍び寄って後ろから抱き着いた。
「ちょ、ちょっと何よいきなり、暑いじゃない」
「ねえねえ可南子。可南子はさ、私と戦いたい? それとも仲良くしたい?」
「は? なんなの、一体」
「いいから答えてよー」
「もう、酔っぱらいが……そんなの、仲良くしたいに決まっているでしょう」
「本当に?」
「当たり前でしょう、なんでお母さんと戦わなくちゃいけないのよ」
「そう……そうよね、私も可南子とは戦うより、仲良くしたいかな。うん、そうか、じゃあそういう方向にしましょうか」
 可南子から離れると、納得したように一人頷く美月。
「変なお母さん」
 胡散臭いものでも見るような顔をして、可南子は隣の部屋に避難した。
「私も可南子には幸せになってもらいたいし、やっぱそっちの方がいいのかもね」
 そして美月は残されたリビングで、一人微笑みながら、艶やかな舌で唇をぺろりと舐めるのであった。

 

おしまい

 

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