書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(桂)】もう一つの革命 <その5>

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~ もう一つの革命 ~
<その5>

 

 

 結論を出さなくてはならない。
 申し込んできた理沙子さまに、いつまでも答えを出さないわけにはいかない。それに、おねえ……椿さまにだって、ロザリオを返してからも曖昧な態度を取っている。どちらに対しても、誠実とはいえない。
 だけど、どうしたらいいのか分からない。自分の気持ちも定まっていない。なぜこんなにも、優柔不断なのだろう。内心が外に出たように、ふわふわとした足取りで校内を歩いていると、いつのまにか普段は来ることのない場所に近づいていた。私の中で個人的に渦中の人となっている二人を避けようという意識が働いたのだろうか、気が付いた私は慌てて踵を返そうとしたが、まるで計ったかのように声をかけられた。
「桂ちゃん」
 その声を聞いて、動きがぴたりと止まった。
 錆びついたように自由がきかなくなった首を動かして、声の主を見てみれば。
「美耶香、さま……」
 確認するまでもなかった。
 だって、私がテニス部に入るきっかけともなった人だから。引退されたけれども、ついこの間までテニス部を支えていた、副部長。
 何を言ったらいいのだろうか、どう行動したらいいのだろうか、考えがまったくまとまらないうちに、思いがけず美耶香さまの方から「少し、歩かない?」と先に誘われた。
 私がおろおろしつつも返事をしたときには、既に美耶香さまは歩き出していて、慌てて後を追いかける。半歩ほど遅れて歩き、そっと美耶香さまの横顔を覗き見てみたが、揺れる髪の毛で表情はよく読み取れなかった。
 美耶香さまは、少し赤みがかったセミロングの髪が美しい、目元も涼しげな綺麗な先輩だ。優しくて頼りになる部長とはまた異なり、普段は物静かなのだけれど、テニスのことになるととても厳しく、また情に厚い人であった。
 ぼーっと、半ば見とれながら歩いていると、いつの間にか体育館の方に来ていた。
「……そういえば、桂ちゃんが泣きながら逃げ込んだ場所も、此処だったわね」
「えっ、み、美耶香さま、そんなこと覚えてらしたんですかっ?!」
 驚く私に、ただ優しく微笑んでみせる美耶香さま。
「もちろん。でも、もう泣かなくなったわね」
「な、泣きませんっ」
 恥しくなって、顔を激しく振る。
 厳しかった副部長。でも、私は知っている。美耶香さまがとても優しいことを。やはり引退された前の部長も、言っていた。
『美耶香は進んで憎まれ役を受けてくれたのよ。なんだかんだいってもお嬢様学校だから、おっとりとしているし、馴れ合いかねない。それを引き締めてくれたのが美耶香。あたしがやっても良かったんだけれど、部長が部員から憎まれたら纏まらないからって』
 泣いて逃げた私にも、厳しかった。下手に慰めるようなことはしなかった。
 でも、優しかった。
「今日の朝練、出なかったのね」
「そ、それは、その」
 今日は、週に一度の朝練のある日だった。しかし私は、怖くて参加することができなかった。
「椿ちゃんと理沙子ちゃんの様子が変だったわね。二人とも練習に身が入ってなくて。何かあったのかしら?」
 美耶香さまはさらに歩を進め、体育館裏の方に向かってゆく。体育館裏には特に何もなく、普通であれば誰かが立ち寄るような場所ではない。となると美耶香さまは他人に聞かれたくない話をするつもりだったのか。例えばそう、今話しているようなこと。
 美耶香さまは、私とお姉さまとのことをご存じないのだろうか。
「余計なお世話、かもしれないけれど。黙ってもいられなかったから」
「申し訳、ありません」
 うなだれる。
 お姉さまと理沙子さまを振り回すだけでなく、すでに部活から引退された先輩まで引っ張り出して、私は何をやっているのだろう。
「まあ、色々と悩むことも大切だけれど……桂ちゃんは一体、何に対して悩んでいるのかしら?」
「わ、私は」
 と、そのとき。

「―――何の用かしら、理沙子さん」

 今まさに、私たちが足を踏み入れかけていた体育館裏から、人の声が聞こえてきた。その声の主は間違いなくお姉さまで、お姉さまが口にしたのは理沙子さまの名で。
 私と美耶香さまは立ち止まると、顔を見合わせた。

「用件は……わかっているのではないかしら」
「そうね……桂のこと、ね」
 自分の名前が出てきたことに、心臓が跳ね上がる。
 お二人が、こんな場所で話し合うようなことといったら、今は私のことしかないと、頭の中では分かるのだが、心は追いつかない。
「私が、桂ちゃんのことを妹にしたいと……申し込んでいることはご存知?」
「えっ…………いいえ、今、初めて知ったわ。そう……そうだったの」
 声だけが、聞こえてくる。
「それで、私を呼び出した理由は何かしら?」
「知っておいて、欲しかったから。椿さんに、その事実を」
「そう……」
 聞いてはいけない、こんな盗み聞きのようなことをしてはいけないと分かっているのに、足を動かすことができない。
 お二人の気持ちを知りたい、でもこんな真似をしてはいけない。どうすればいいのか、頭の中がごちゃごちゃになる。
「それと、私の気持ちを。私は決して、同情とか、そういうので桂ちゃんを妹にしたいと思ったわけではないわ。桂ちゃんのことを好きで、本当に妹にしたいと願ったから、姉妹の契りを交わしたいと思った。それを、知って欲しかったの」
「理沙子さん……」
「桂ちゃんがこの後、私を選んでくれるかは分からない。それでも、姉妹の契りを申し込む以上、貴女には知っておいてほしかった。私は」
 と、そこまで聞いたところで、不意に腕を強く引っ張られた。
 振り向けば、厳しい表情の美耶香さま。無言で、それでも有無を言わさずに私の腕を持ったまま歩いてゆく。
 少し離れた場所まできて、ようやく解放されると、つかまれていた場所がわずかに痛む。
「そういう、ことだったのね」
 困惑の息を吐き出す。
「……でも、だとしたら尚更、あのような盗み聞きのようなことをしてはダメよ」
「…………はい」
「聞くならきちんと、正面からぶつかりなさい」
「………………え」
 美耶香さまは振り向くと、がっしと私の両肩をつかんだ。すぐ目の前に美耶香さまの顔が近づき、強い瞳で見つめられる。
「何、一人でうじうじうじうじしているの。貴女の中で、本当はもう、答えは出ているのよ。分からないの?」
「な、なんで」
「なんで、そんなことがわかるかって?当たり前よ、私は三年生なんですもの」
 意味不明だった。
 全く、理由も理屈もなく説得力皆無。そもそも、美耶香さまはきっとほんの数分前に知った事実だというのに、分かるはずがない。情報だって何もない、ジグソーパズルでいえば、全てのピースを箱から出したっていうところの美耶香さま。それなのに、すでにどのピースとどのピースが組み合わさるか分かるなんて、あるはずないのだ。
 それなのに。
「馬鹿ね。それでも分かるところが、三年生のお姉さまの凄いところなんじゃない」
 自信満々に、言い放つ。
 でも、やっぱり私は勇気を出すことができない。
 何もこたえることができず、しばらく無言でいると、いきなり俯いていた顔をグイッと持ち上げられた。
 美耶香さまが両手で私の頬を挟みこみ、無理やりに上を向かされた。目と鼻の先、というか鼻の頭が触れ合っている距離に、美耶香さまの顔。
「ひゃぅっ?!」
 びっくりして、変な叫び声を出してしまった。
 そして。
「あの、美耶香さ……あ痛ぁっっ?!!」
 がつんと、おでこに不意打ちの一撃。
 なんと、あろうことか頭突きをかましてきた。
 それだけではない、頬に回した手で私の頬っぺたをつまむと、思いっきり左右に引っ張ってぐりぐりと回す。
「い、いひゃひゃ、いひゃいへふ、ふぇんふぁい、いひゃっ」
「うじうじしている子は、こうしてあげるのよっ」
「あひゃぁ、や、やめ、ひゃめへふらふぁいっ」
「……桂ちゃん」
 ようやく、解放される。私は涙を流しながら頬っぺたを手でさする。
「悲劇のヒロインは、もうおしまいにしなさい」
「え……」
 涙目のまま、見上げると。
 いつも通りの、部活のときの厳しい美耶香さまがいた。
「貴女一人が傷ついてすむことならいいけれど、このままでは傷つく人も、傷の数も、深さも、大きくなる一方よ」
「あ……私は」
 悲劇のヒロインになっているつもりなんかなかった。そりゃあ、由乃さんの話に感化されたところはあるが、私なりに考えた末の行動だった。
 そう、私は思っていた。

 思い込んでいた。

 思いたかった。

「……だから、それが間違いだったのよ。一人で考え込まず、きちんと椿ちゃんと……他の人でもいいわ、話すことができていたら、こうはならなかったでしょうけれど」
 そうだ。
 私は、自分は悲劇のヒロインになりきってなんかいないと思っていた。でも、そう思っていた時点で、既になっていたのだ。そして、私は心の奥底で、誰かがそれを否定してくれるのを待っていた。
 なんて、卑怯なのだろう。
 それで、お姉さまを、理沙子さまを傷つけ、部活の仲間や蔦子さん、志摩子さん、そして今また美耶香さまを振り回しているというのに。
「……ま、でもそうやって突っ走っちゃうのも、ミーハーな桂ちゃんらしいけどね」
「私、どうしたら」
 気が動転して、何も考えられなくなる。
 どうしたらいいのか、何をすればよいのか。
「まだ、そんなことを言っているの。桂ちゃん、これは貴女自身が蒔いた種なのよ。貴女が刈り取るしかないの。その際に指を切るかもしれない。関係ない葉を巻き込んで刈ってしまうかもしれない。でもね、誰も傷つかない世界なんて、ありえないのよ」
 私は恐れていた。私が動くことで、他の誰かを傷つけてしまうことを。そして、自分自身が傷つくことを。
 でもそれは、私がお姉さまにロザリオを返した時から、決して避けることの出来ないことだった。なんのことはない、全ては、最初から分かっていたことだったのだ。ただ、愚かな自分が気づいていなかっただけで。
「こら、そんな、楽しみにしていた連ドラの録画を忘れちゃったような顔しないの」
 美耶香さまが私の瞳を覗き込んでくる。
「大丈夫、なんて無責任なことは言わない。でもね、桂ちゃんを包む世界は桂ちゃんが思っているよりも、きっとずっと温かいはずだから」
 表情は厳しいまま。
 それでも、私には美耶香さまが笑ったように見えた。
「……すーっ」
「…………?」
「―――桂っ!!」
「は、はいっ?!」
 大きく息を吸い込んだ美耶香さまは、いきなり大きな声で私の名前を呼んだ。思わず、私は背筋を伸ばして返事をしていた。
「さっさと、行ってきなさい。正面から、ぶつかって」
「は、はい」
「声が小さいわよっ。貴女の取り柄は?」
「げ、元気なことですっ」
「じゃあ、もう一度。いい?勝負をしてきなさい、椿ちゃんと、理沙子ちゃんと。真正面から、打ち合ってきなさい」
「はいっ!」
「ほら、行った!」
 美耶香さまは、私の両腕に手を置いてぐるりと半回転させると、そっと背中を押した。私はその勢いのまま、駆け出した。
 振り返ることはしない。そんなことを美耶香さまは望んでなどいないだろうから。
 ただ、駆けていた。
 二人のもとに、向かって。

 

「……やれやれ、あれで良かったのかしら」
 桂が走り去った後、一人残された美耶香は呟く。
 自信があるわけではない。でも、桂が今の状態のままぐずぐずしていることが、一番悪い状況であるということだけは、確信が持てた。
「だけど……」
 結論を出すということは、椿と理沙子、少なくともどちらか片方は傷つくことになる。いや、何をどうしたところで、誰もが傷つくのかもしれない。それでも、桂は選ばなくてはならないのだ。
 美耶香が行ったのは、最初の一歩を踏み出すことが出来るようにしてあげただけ。結果、間違った方向に事態が動いてしまったら、恨まれるだろうか。だがこれだけは、動いて見なければ分からない。動かすには、誰かが毅然とした態度でお尻を叩いてあげなければいけないと、美耶香は咄嗟に判断したのだ。
「頼りがいのある先輩を演じるっていうのも、辛いものよね」
 空を見上げ、苦笑する。
 そして、祈る。祈ることしかできないから。

 世界が。いや、リリアンというこの閉ざされた世界だけでもよい。三人にとって、優しくありますようにと―――

 

その6に続く

 

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