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【マリみてSS(景×祐麒)】めしませ☆ティーチャー 第三話

更新日:

~ めしませ☆ティーチャー ~
<第三話>

 

 祐麒の後ろを力なく景が歩いている。
 良く分からないが、とりあえず今の住処を追い出されたらしい。その証拠に、身の回りの物を幾つかの鞄に入れて持っている。祐麒も両手に持っているというか、持たされているというか。
 原因の一端は祐麒にあるのだから、文句も言えない。
「うぅ、なんで私がこんな目に……」
 ぶつぶつと呟く景の声が、耳に飛び込んでくる。
 高校生にも関わらず夜遅くにバーで酒など飲んでいるところを見つかり、酔っぱらって意識を失ったところを介抱してもらい、部屋まで運んで寝床まで与えてくれたのだが、そのせいで住む場所を失ったとなっては、申し訳ないとしか言いようがない。景はそのリスクを背負ったうえで、祐麒を見捨てることが出来ずに部屋まで連れ帰ってきてくれたのだから。
「ねえ、どうしてくれるのよ、本当に。これからどこへ行けばいいのっ」
「と、とりあえず友達の家に避難するとか、出来ないんですか」
「無理よ、一日とかならともかく、いつ次の部屋が決まるかも分からないのに……そもそも私」
 と、そこで言いよどむ景。
「……もしかして、友達、いないんですか?」
「失礼ね、いるわよっ! でも、気さくに泊めてくれるような相手となると……」
「この前、一緒にいた人たちはどうなんですか」
「駄目、たまたま一緒に出かけただけで、そんな仲良い友人達じゃないから」
「実家は」
「帰れるもんなら、帰っているわよ」
「ですよね」
 うなだれる景につられるようにして、祐麒の肩も落ちる。

 

 なんでこんな事態になったのか、景はそれこそ泣きたい気分だった。
 土曜日だったけれど、教育実習の授業の準備だとか、レポートだとか、課題だとか、色々な作業が残っていて、出勤して仕事をしていたのだ。
 その仕事も夜になってようやく終わり、外で食事をして、疲れた体を癒すためにマッサージに寄って、家に帰ろうかというところで祐麒の姿を見かけた。
 女の子とデートをしているようだったが、生徒のプライベートまで踏み込むつもりはないので、最初はそのままスルーするつもりだった。しかし、祐麒達が繁華街の方に向かうのでさすがに少し気になり、なんとなく目で追いかけると、二人はバーに入っていった。
 景も、ここまでくると放っておけなくなり、後を追うようにしてバーに入った。幸い、店内は薄暗かったし、カウンターに座った二人の席からは見づらい場所に座ったので、気取られる心配はまずないと思えた。
 適当にカクテルを注文し、二人の様子に気を配る。会話はよく聞こえないが、教師的には、なんとなくあまり良い方向に進んでいるとは思えなかった。
 そうこうしているうちに時は過ぎ、いつまで居る気なんだと思い始めた頃、祐麒が席を立ってトイレに入った。そして、残された少女が携帯電話を手に取った。
 それまで正面を向いていた少女が、携帯電話で話しながらトイレを気にするためであろう、顔の向きを変えたので話している声が景の耳にもよく聞こえるようになった。
 話の内容を聞いて、愕然とした。
 あどけない少女に見えながら、祐麒のことを引っ掛けようとしている内容だったから。
 だから、二人に声をかけてホテルに行こうとする流れを阻止したのは、間違いではなかったと考えている。それは、確かなこと。計算違いだったのは、祐麒が酔っぱらって熟睡してしまったこと。おそらく、デートに浮かれ、バーの雰囲気にのまれ、アルコールにも慣れていないであろうから、気づかぬうちに飲みすぎてしまったのだろう。
 放置するわけにもいかず、仕方なく景は肩に背負うようにして店を出たが、さほど大きくないとはいえ高校生男子一人をかついで歩けるほど、景も力があるわけではない。タクシーに乗り込み、どうにかこうにか自分の下宿先まで連れ帰ったわけだ。
 住所が分からなかったというのもあるが、分かったところで、酔っぱらった高校生を連れて行ったらどうなったことやら。
 振り返ってみて、景の行動は間違っていなかったと総合的には思えるのだが、結果としては全く駄目で、こうして下宿先を追い出されてさまようことになっている。
 実家のマンションは、父が再婚相手の転勤に一緒について行ってしまったことで、今は別の家族に貸し出してしまっていて、戻ることは出来ない。
 昔から一匹狼的な気質が強く、こういう時に気さくに泊めてくれと頼むことの出来る友人も、ほとんどいない。高校時代に仲良かった子は、地方の大学に行ってしまった。大学の友人を思い浮かべてみたが、可能性のある友人は、恋人と同棲中、景の知らない人とルームシェア中、実家で祖母を介護中と、とても頼める状況ではない。
 完全に、行き詰まりである。
 何度目かのため息をつき、前を歩く祐麒の後ろ姿を睨むように見る。祐麒だけが悪いわけではないが、どうしても苦言の一つもこぼしたくなる。
「あの、先生」
「……何?」
「こうなったのも俺のせいでもありますし、お詫びというか、その……うちに来ます?」
「なん……ですって……?」
 思いがけない言葉に目を見開く。
 一部の希望に縋りたくなるが、いや待てと、自分自身を抑える。
「それは、いかがわしい気持ちがあるとか」
 口にしてから、後悔した。
 祐麒の表情が、あからさまにうんざりしたものになったからだ。
「……ご、ごめんなさい。今のは、私が悪かったわ」
「いえ、そう思われるのも当然だと思いますから」
「だけど、ご両親もいるのでしょう。無理しないでいいわよ」
「とりあえず、事情を説明して頼むだけ頼んでみますんで、ここで待っていてください」
「はぁ、それじゃあ期待しないで待っている……って、え、もうお家?」
 景の荷物を置いて、祐麒は数メートル先の家の門を開き、中へと入っていった。
「……結構、いいところに住んでいるじゃない」
 取り残された景は、左右に視線を向けたが、住宅街で特に何もないことを確認すると、塀に背を預け待つしかないと諦めた。どちらにしてもアテはないのだし、疲れてもきたし、少し気分転換の休憩だと思えば良い。
 途中で購入したミネラルウォーターを飲み、うなだれる。本当に、何をしているのだろうか。
 教育実習は母校に断られ、受け入れられたのが男子校で、男子生徒にはやっぱり好奇の目や欲情のこもった目で見られ、思っていたほどではないとはいえからかわれ、実習はなかなか上手く出来ないし、生徒をバーから連れ出して家に泊めた挙句に借り家を追い出されて、家もなく放浪している。
 考えれば考えるほど、鬱になる。
 ちらりと、祐麒が入っていった家を見る。
 外見は、なかなかにお洒落な作りをしている。花寺学院の生徒のイメージにあった家ともいえる。
 中では今、どのような会話が交わされているのだろうか。時間的に、祐麒が中に入ってからどれくらい経ったのか、時間の感覚が少しおかしくなっていてよく分からない。
 と思ったら、玄関から祐麒が顔を見せ、景の方に小走りに向かってきた。
「すみません、お待たせして。とりあえず中に入ってください」
 声をかけられ、立ちあがる。
 まさか、許可が出たのだろうかと思ったが。
「話はしたんだけど、本人がいないことには真実味がなくて」
 まあ、それはそうだろうかとも思う。
 一緒に行ったとして、見ず知らずの人間をそう簡単に泊めてくれるとも思えないが、祐麒の顔を立てるためにもついて行った方が良いだろう。
 荷物は玄関先に置いて、祐麒に先導されるまま室内に足を踏み入れる。廊下を進み、通されたのはリビングだった。清潔さと明るさが、入った途端に分かる。単に掃除されているとか、採光がよいとか、そういうことではない。家族の生活の雰囲気が、リビングに凝縮してあらわされているのだ。
 わざわざ立ちあがって出迎えてくれたのは、祐麒の両親であろう。二人とも、穏やかで人の良さそうなのが見て分かる。
 挨拶を簡単に済ませ、ソファに座る。祐麒と景が並び、正面に祐麒の両親。
「ええと……改めて。こちらが、さっき話した、加東景さん」
 軽く頭を下げる。
「そうか……ほ、本当だったんだな。正直、信じられなかったが、こうして目の前にすると、本当なのだと改めて思うな」
 軽く驚いたように、祐麒の父が景を見ている。
 どうしようかとも思ったが、景はあくまで部外者というか、図々しく口をはさめる立場ではないので、祐麒に任せることにする。
「だから、ずっとそうだって言っていたじゃないか」
「まあ、そうだが。しかし本当に」
「あなた、失礼よ。それより本題に」
「あ、ああ、そうだな」
 咳払いをし、お茶を一口飲んで落ち着こうとする祐麒の父。やはり、いきなりのことに多少なりとも動揺しているのだろう。まあ、それはそうだと思う。
「と、ゆうことはだ。祐麒、本気なんだな」
「さっきからそう言っている」
 祐麒の父が厳しい表情になって祐麒を見つめる。祐麒も、その視線を真っ向から受け止めている。
「本当に、真剣なんだな」
「当たり前だろ、冗談で言えるようなことじゃない」
 しばらく祐麒のことを見て、本気度を確認したのであろうか、やがて祐麒の父は景の方に顔を向けた。思わず、心のうちで居住まいを直す。
「ええと、加東さん、でしたね。確か今、大学生とか」
「は、はい、大学3年生です」
「あなたは、今回の件について、どうお考えなんですか?」
「はい……その、信じられないかもしれませんが、冗談などではなく、本当なんです」
 他に目処もたっていないわけだし、こうなったら駄目もとで頼むしかない。教育実習が終わるまであと2週間、その期間だけで構わない。いや、1週間でも、3日でも構わない。その間に、次を探すことが出来れば。
「あの、お掃除とかお洗濯とか、料理は苦手ですけれど簡単なお手伝いくらいならしますし、ですから」
 祐麒の父は真っ直ぐに景を見据える。わずかにたじろぎながらも、景も目をそらすまいとする。
「……なるほど、わかりました」
 しばらくして、ソファの背もたれに体重をあずけるようにして、大きく息を吐き出す祐麒の父。その目は、どこか清々しい光を放っていた。
「二人がそこまで真剣に、将来の、結婚のことまで見据えているという思いは確かに受け取った。認めようじゃないか、加東さんと一緒に暮らすことを」
「――――はっ?」
 きょとん、とする景。
 隣を横目で見てみれば、祐麒もよく分かっていない模様。
 ここで初めて、祐麒の母が口を開いた。
「祐麒には、年上のしっかりした女性がいいと思っていたのよ。加東さん、いえ、景ちゃん、祐麒のことをよろしくお願いね」
 にこにこと、穏やかな笑みを浮かべている。
「しかし、二人ともまだ若いのに、そこまで考えているとはなぁ」
「それだけ、真剣ということでしょう」
「そうだな。おっと、そろそろ支度をしないと。すまん、実はこれから仕事でクライアントのとこに行かねばならないんで、失礼するよ」
「私もちょっと、町内の会合があるので、出かけるから、また細かい話は夜ごはんの時にでも聞かせてね」
 いまだ状況がつかめない景と祐麒を残して、祐麒の父と母はソファから立ち上がり勝手に動き始める。
 リビングにいても仕方なかったので、とりあえず祐麒の部屋に移動する。
 室内に入り、扉を閉めたところで。

「――ちょ、ちょっ、ちょっと、どういうことなのよっ!?」
「おっ、俺だってわけわかんないしっ!!」
 祐麒のシャツの首根っこを掴み、がくんがくんと前後に激しく揺らして詰問する。
「なんで私が、あなたと結婚前提でのお付き合いしているなんて関係になってるの!?」
「しら、し、知らないっ、て、俺、だってっ」
「一体、何て説明したのよっ」
 息も荒く手を放すと、祐麒はベッドにへなへなと崩れ落ち、咳きこむ。腕で口元を拭い、頭を手で抑え、落ち着いてきたところで口を開く。
「ええと、ある女性を何も言わずに我が家に受け入れて欲しいと」
 思い出すように、ゆっくりとした口調で話す祐麒。
「ふざけているわけではなく、俺は真剣だと。本気なんだということを伝えた」
 顔を上げ、宙を見つめるようにする祐麒。
「細かい台詞までは覚えていないけれど、冗談なんかじゃないと真剣に話した」
 一人、頷く祐麒。
「家を追い出されたとかは、言われるのも恥しいだろうから言わなかったんだ。あと、昨夜は、加東さんと一緒にいたこと。本当は小林の家に泊まるって伝えていたんだけれど、この状況じゃあさすがに、それも説得力なくて問い詰められて」
 そこまで聞いて景は、再び祐麒に詰め寄った。
 シャツの襟を掴んで顔を引き寄せ、引き攣りそうになりながら口を開く。
「あ、あのねぇ、そんな言い方したら、誤解されてもおかしくないでしょうが」
「そ、そう、ですか? っていうか、く、苦しいんですけど」
「何を考えてそんなことを口にしたのよ、本当に」
 信じがたいが、祐麒は本気で、先ほどの言葉で両親を説得し納得させようとしていたのだろう。驚いたように、景のことを見ているしか出来ない。
 更に、何と言ってやろうかと思っていると。
「――祐麒っ、彼女を連れて来たって本当っ、って、うわぁぁぁぁっ、しっ、失礼しましたーーっ!?」
 誰かが部屋の扉を開けて入って来たかと思うと、何やら絶叫して、入って来た時の数倍のスピードで出て行ってしまった。
 声を聞くに若い女の子であろうが、振り返る時間すらなかった。
「な、なに? 誰っ? なんでいきなり入ってきて、いきなり逃げたの?」
「姉の祐巳だけど……ひょっとして、誤解したのかも」
「誤解? 何が」
「この体勢。部屋の入り口からみたら、なんか俺、キスされているように見えたんじゃ」
 ベッドに腰掛けている祐麒の襟をつかみあげ、顔を引き寄せるようにしているわけだが、それは即ち、座っている祐麒に向けて景が上半身を傾け、顔を近づけているようにも見えるわけで。
「な、な、何考えてんのよっ!」
「俺じゃねえーーーっ!」
 ベッドに投げ捨てられながら、祐麒は理不尽さに叫ぶ。
「こんなの、耐えられないわ。事実を話しましょう、そうよ、ご両親が戻られたらちゃんと本当のことを話して、それで今後のことを考えましょう。それしかないわ」
 景はそう、決意したのだが。

 父親が帰宅したところで夕食に呼ばれ、リビングに降りて行ったところで景は自分の甘さを痛感した。というか、相手の行動が予想の斜め上を行っていた。
 ダイニングテーブルの上には、何かのパーティでも始まるのかと突っ込みたいくらいの、豪勢な料理がわんさかと並べられていた。
 祐麒の母であるみきがキッチンで腕によりをかけ、祐巳が楽しそうに手伝いをしている。
 父親の祐一郎は、とっておきの日本酒を取り出した。
「祐麒がこんな綺麗な彼女を連れて来たんだ、今日ならいいだろう」
「お祝いですからね、本当、奮発しちゃったわ」
「祐麒に彼女ができるなんてー、うー、想像できなかったけどー、本当なんだー」
「景さんも、遠慮せずにくつろいでください。何もない家だが」
 完全なる歓迎モード、浮かれ気分で、とてもじゃないけれど今さら違うだなんてこと、景は言いだせそうもない。
「それで、二人の出会いはどんな形だったの?」
「え、ええと、彼にナンパされて」
「えーっ、祐麒、ナンパなんかするのっ!?」
「祐麒も意外と、積極的だったのねぇ」
 とにかく、夕食の間は針のむしろであった。
 景も祐麒も、三人からの質問などにどうにか応じるのが精いっぱい。
 結局、場に流されるような形で夕食を終え、デザートまでご馳走になり、お腹いっぱいになってソファに座っていることしかできなかった。

 

第四話に続く

 

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