私の名前は福沢絆。
私の家は特別に裕福というわけではないが、かといって貧しいというわけでもなく、いってみればごく普通のありふれた家庭ということになる。
4LDKのマンションに両親と二人の妹、合計5人で暮らしており、家族仲も良い。
だけど、学校の友達なんかと話していると時々、他の家とは結構違ったりするんじゃないか、そう思うことも多々ある。
「おはよー絆ちゃん」
「おはよ、ナッちゃん」
学校に行くべく到着した駅前で友人と挨拶。
「わー、やっぱり絆ちゃん、制服似合ってるよねー」
「ナッちゃんだって可愛いよ! 月光館の制服、いいよね」
白いブラウスの胸元には真っ赤なリボン、その上から着るジャケットもスカートも黒を基調としているから、シックではあるけれど可愛さという点ではちょっと落ちるかも。それでも、スタイリッシュで良いと思う。
「絆ちゃんみたいに細いとよく似合うよね、この制服」
「ふふ……ナッちゃん、それは一向に胸が大きくならない私へのあてつけかしら? 自分ばっかり成長しやがって、ずるい~~っ!」
小学生の頃までは同じような体型だったのに、中学に入ってからみるみる女性らしい体型になり、今やDカップの美乳を誇る友人にやつあたりする。ナッちゃんは困ったように笑いながら、私の駄々っ子パンチを受け止める。ナッちゃんは、親からの遺伝かなぁなどと言うが、それなら私のお母さんだって十分に大きいのに、この差はなんだ。
「まだ、これから成長するかもしれないじゃん」
「そう……かなぁ」
二人で並んで歩き、お喋りしながら駅のホームへと向かう。
「そういえば絆ちゃん、新入生代表の挨拶するんでしょう? 中学に続いてだもん、凄いよね、また一年生の中でトップなんだもん」
「たまたまだよ、たまたま」
今日は実は、晴れの高校入学式。その入学式において私は、新入生代表の挨拶を行うことになっていた。毎年、入試の点数がトップだった人が挨拶をするということで、その時点で皆から成績のことを知られてしまうのだ。そして私は、中学入学の時も同様に挨拶をしている。
別に自分は天才でも秀才でもなく、人より少し負けず嫌いで頑張りやなだけだと思っている。小さいころから、働きに出ている両親のかわりに家事をこなし、妹達の世話をしてきたけれど、それを言い訳に成績が悪いなんて言われたくなかったから、逆に負けてたまるかと勉強にもう打ち込んだら、自然と成績が上がったのだ。
「いやいや、それだけで成績あがるってことは、やっぱり絆ちゃんは頭がよいんだよー。私もお母さんの子供なら、もっと頭が良くてもいいはずなのに」
そう言うナッちゃんだって、私と同じ高校に行くわけだから偏差値はさして変わらず、頭は良い。発想力というか閃きというか、そういうものに関して秀でていて、私としてはむしろ羨ましいくらいだ。私はそっち系の能力がイマイチだから。
電車を乗り継ぎ、高校の最寄駅で下車すると、同じ制服を身に着けた人たちをちらほら見かけるようになった。
「今日の入学式、ナッちゃんのお母さん達は来るの?」
「うん、後から来るよ。絆ちゃんところは?」
「…………もちろん、来るけど」
「そうだよねー、絆ちゃんのお父さんもお母さんも、絆ちゃんのこと大好きだし」
ナッちゃんは嫌味でもなんでもなく、素直に思ったことを口に出しているだけなのは分かっているが、それでもずしんと心が重くなる。それまで、あえて考えないようにして忘れていたことを思い出してしまったから。
「…………恥の多い人生を送ってきました」
「人間失格!? どうしたの絆ちゃん、絆ちゃんは頭がよくて運動神経もよくて、手先も器用でお料理も上手だし、いつも皆の憧れだったよ? 恥なんてなかったと思うけど」
幼稚園から高校までずっと一緒で親友のナッちゃんがそう言ってくれるのは嬉しかったが、私はそんな大層なものではない。
いや、言ってくれたことは私が控え目に考えても事実だと思うんだけど、とても皆から憧れられていたとは思えない。頭が良くて、スポーツもできて、手先も器用で、皆の間に入って調整役をこなし、クラス委員を多くつとめてきて、そりゃあ頼りにされているとは思うけれど。
それでも私は、皆から「憧れちゃう」なんて言葉を耳にした記憶がない。おそらくそれは、私がいかに優秀な姿を見せたところで、それ以上に強烈なインパクトのあるものを見せられてしまうせいだろう。
「……私じゃなくて、お父さんとお母さんよ」
「ああ。絆ちゃんのお父さんとお母さん、今年は何を見せてくれるか楽しみだねぇ」
「いやいや、全然楽しくないし、別に見世物でもないし!」
「でも毎年、それで絆ちゃんは有名になるよね」
ナッちゃんの言うとおり、私は新入生代表の首席という肩書よりも、"あの夫婦の娘"という目で見られてしまうのだ。意識過剰だと言われることもあるが、実際、親しくない他のクラスの生徒にすれ違いざま笑われたりしたし、学年が変わって新しいクラスで自己紹介したときに「あぁ、あの……」なんて言われて指を差されたりもする。
これが、私が新入生代表の首席なんて立場でなかったらまた話も違うかもしれないが、「首席」="あの夫婦の娘"という等式で結び付けられてしまうから、知らない人にも知られてしまうのだ。
首席にならなければ、なんて思いもするけれど、試験の時は手を抜くなんてこと出来ないし、全力で頑張ったら結果として首席になってしまったんだもの、仕方ないじゃない。
ちなみに小学校の入学式は皆の前で大胆なハグをしてラブラブっぷりをアピール、中学校の入学式では皆の前でちゅーをした。
それだけでなく、学祭や体育祭、卒業式など他の行事の時にもやってきて、他の生徒や教師に強烈な印象を植え付けていく。
だから私は、皆から憧れられる学年首席の優等生なんかではなく、皆から微妙な笑いと尊敬を受ける生徒、なんていう立ち位置を与えられているのだ。
「美人度でいったら、絶対にナッちゃんのお母さんの方が美人なのに」
「うちのお母さん、その辺の気配を消すのが上手いからねぇ。絆ちゃんのお母さんは、生命力に満ちて輝いているから、すっごい目立つんだよ。でも、私は好きだよ。だって、元気をわけてもらえる気がするし」
「目立たなくていいのに……」
どうか今年こそ、変なことを起こしませんようにと内心で祈る。これから始まる高校生活、スタートで躓くなんて勘弁してもらいたい。
だが幸先の良いことに(?)、お母さんは昨日の遅くまで仕事で疲労しきっていて、朝も寝坊して起きてきていなかった。疲れているだろうし、寝かせておいてあげてと、優しい娘らしく母親を労わっておいたから、もしかしたら入学式には来ないかもしれない。
そんな淡い期待を抱き、私は新たな学校生活を送ることとなる月光館学園の門をくぐりぬけてゆく。
沢山の初々しい新一年生たちの中に私とナッちゃんも紛れ、体育館へと入り、やがて入学式は始まる。こうなってくると、さすがにお母さんがやってきているかどうか、簡単には分からない。いくらお母さんとはいえ、入学式の最中くらいは静かにしているのだから。
そうこうしているうちに、新入生代表の挨拶となり、私は壇上へと向かう。中学の入学式、二年生の時の卒業式の送辞、そして三年の時の答辞と、同じようなことは何度も経験しているとはいえ、やっぱり緊張する。
「――本日は私達新入生のためにこのような盛大な式を挙げていただき、誠にありがとうございます」
この手のスピーチで奇をてらう必要はない。そりゃあ、凄いことを盛り込めば、「高校一年生でそんなことをスピーチで言うなんて凄い!」とか思われるかもしれないけれど、別にそういうことを求めているわけではないのだから。
「真新しい制服を身にまとい、私たちはこれからの高校生活に対する期待や希望に胸を大きく膨らませております」
実際のバストも、そんな風に膨らんだら良いのにな、チクショウ! 夢や希望も大切だけど、現実のおっぱいだって大切なのよ、年頃の女の子にとっては。
「新たな経験をしていくにあたって諸先生方、二年生、三年生の先輩方、保護者の皆様のお力をお借りする時が来ると思います」
ちゃんとセンパイや先生、親たちにも感謝の気持ち、頼りにする気持ちを綴っておかないとね。学生時代の上下関係とかって、それなりに大切にしないとね。
と、そんな感じで順調に挨拶も後半に入ったところで。
「――すみません、遅刻しましたーーっ!!」
体育館の入口が勢いよく開き、そこから姿を見せて大声でそんなことを口走ったのは。
「あっ、絆ちゃんっ! よかったー、絆ちゃんの挨拶には間に合った! 頑張ってね絆ちゃん、お母さんが応援しているから、緊張しないでっ」
……もちろん、そんなことを平気でやるのは私のお母さんくらいだ。
突然の闖入者と、そして体育館の入り口と壇上で取り交わされた母娘の会話に、体育館内からくすくすと笑い声が沸き起こる。
お母さんは近くにいた先生に注意され、ぺこぺこと頭を下げて保護者の列の中に紛れ込んだが、いやもー、今年もやってくれました。お父さんと引き離したのはいいけれど、それがまさかこんな形になって自分に降りかかってくるとは。
顔から火が出るほど恥ずかしいし、顔面が引き攣りそうになったが、ここで狼狽しては更に醜態をさらすだけだ。私は極力、平静な様を装ってスピーチを続け、どうにか無事に終えることができた。
拍手の中、壇上から降りてクラスの列に戻るが、視線が痛い。
「……お疲れ様、絆ちゃん。大丈夫?」
戻ると、ナッちゃんが優しく労わってくれた。
「ふ、ふふ、大丈夫よこれくらい。もっと悪いパターン、シミュレーションしていたし」
「それもどうかと思うけど……」
とにかく、予想していた最悪の状況よりかは遥かにマシだ。この歳になって、お父さんとお母さんがベタベタしている姿をクラスメイト達に見られるよりは、まだ良い。だって、仲の良いご両親だね、くらいで笑われるだけなら別に良いけれど、頭の悪いバカップルだってどんびきそうなイチャつきぶりを見せられたら、恥ずかしくてたまらないから。
その後は何事もなく流れゆき、無事に入学式は全てのプログラムを終えた。
後は退場して、各クラスに戻って今日は終了のはず。私は安堵の息を吐き、私のクラスの順番になって立ち上がり、整然と歩き始めた。
歩きながら保護者の席にちらりと目を向け、お父さんがどこにいるだろうかと探していたら、怖れていた第二幕が起こった。
「あーーっ、ちょっと、何祐麒くんに色目使っているのよっ!?」
声を聞いただけで分かるのだが、念のため確認するとやっぱりお母さんだった。おそらく、遅れてやってきたから、先に来ているはずのお父さんの姿を探していたのだろうが、何事があったのか。
周囲の生徒、先生たち、そして保護者の皆さんも、突然の大声に意識を引き寄せられる。
「何々、どうしたの?」
「あの人って、さっき遅れて入ってきた人だよね?」
「あぁ、首席のお母さん……」
ひそひそと周囲の生徒が話す声が聞こえてきて、思わずこの場から消えてなくなりたくなるが、放置しておけば事態は悪化しかねないので逃げるわけにもいかない。とにかく、状況を知らなければ対処も出来ないと思い、列から少し身を乗り出して確認すると。
お父さんを見つけたのだろう、お母さんが仁王立ちしている前にお父さんがパイプ椅子に座っているのが見える。うーん、こうして見てもやっぱり若くて格好良くて、申し訳ないけれど他のお父様方より一段も二段も上よね、私のお父さんは。
って、ファザコンぶりを発揮している場合ではなかった。どうしたのかと、更に注意深く目を向ける。
「…………うぎゃあっ!?」
と悲鳴をあげたのは、私ではなく隣にいるナッちゃんだった。
頭を抱えるナッちゃんだったが、その理由が私にもすぐに分かった。なぜならお母さんが食ってかかっている、お父さんの隣に座っている人。
「別に色目なんて使っていませんけど?」
「じゃあ、なんで手なんて握ってるのよっ!?」
「それは、祐麒くんが情熱的だから……?」
「ち、違う三奈、これは指に棘か何かが刺さったみたいで、痛いからちょっと見てほしいと言われて……」
「そもそも、なんで二人並んで一緒にいるのよっ」
「行く途中に出会って、お互いに一人身だし、それなら一緒に行きましょうと意気投合したから」
「一人身って使い方、おかしいでしょっ」
「きゃっ、怖い!」
「ちょっ、何祐麒くんに抱きついているのよっ!? そんな、わざとらしく胸を押しつけるようにして、ちょっと胸が大きいからって、祐麒くんもデレデレしない!」
「別にデレデレなんてしてないから、ちょっと、は、離してくださいよ」
「ほらぁ、祐麒くんも離せっていってるじゃないですか、山辺さん?」
「嫌よ嫌よも好きのうちって言うでしょう、三奈子さん?」
睨み合う二人の女。
止めに入ろうとした先生たちも、二人の剣幕にどうにもこうにも手を出せないようだったが、このままではまずい。
「……え、何、修羅場?」
「あの男の人が、えーと、旦那さんってことだよね?」
「首席のお父さんが、二股かけてたってこと……」
「てゆうか、相手の女性、すんごい美人ね」
もはや被害はとどまるところを知らない。
これ以上の惨劇を防ぐため、私は決意した。
「ええいっ、もうヤケクソだー!」
「あ、ちょ、ちょっと待ってよ絆ちゃーんっ」
あわあわしながら、ナッちゃんもつられたように私の後を追い、列をはみ出て駆け出す。私達は「すみません」、「ちょっと失礼」とか言いながら、唖然としている保護者の席の間をすり抜けると、お母さん達のもとへと辿り着いた。
「あ、絆ちゃんはお母さんの味方だよね?」
「いいから、お母さんもお父さんも、さっさとこっち!」
二人の手を取って、強引に出口へと向かう。この場でこれ以上の醜態を晒すよりは、逃げ出してしまう方がまだましだと思ったのだ。
「も~~~~っ、お母さん何してるのよ~~っ」
「あら、どうしたの、泣いたりして……って」
ナッちゃんも、泣き声まじりで私たちの後を追ってくる。うーん、ナッちゃんは何もしなかった方が被害は少なかったと思うが、じっとしてはいられなかったのだろう。
とにもかくにも、大勢の目を避けてどうにか人の少ない場所へやってきた。焼却炉があるから、ゴミ捨て場だろう。
私はお父さんとお母さんの手を離し、腰に手をあて、ずびっ! とお母さんを指差した。
「お母さん、何、あんな大勢の前で恥しいことしてるのよ!? もー私、いきなり酷いことになっちゃったじゃん!」
「だ、だってだって、や・ま・の・べ・さんがぁ」
べそをかきながら、必死にお父さんの腕にしがみついているお母さん。
一方では。
「どうしたのよ、奈都? 落ち着きなさい」
「おおお、落ち着いてなんかいられないよ。何、してるのよお母さんてば!」
普段は穏やかで、怒ったところなんて今まで一回しか見たことがないナッちゃんが、珍しく眉を吊り上げている。が、迫力は全然なくてむしろ可愛いくらいだが。ナッちゃんの正面には、ナッちゃんのお母さん。
山辺江利子さん。
すんげー美人。しかもお母さんと違い、なんというか退廃的で妖艶とした未亡人の色気を醸し出している人だ。
「ふふ、奈都もそろそろ、新しいお父さんが欲しくない?」
言いながら、ちらりとお父さんに視線を向ける江利子さん。視線だけで絡め取られそうな気がするが、その間に慌てて手を差し入れてぶんぶんと上下に振って遮ろうとするお母さん。
「祐麒くんに変なモーションかけないでくださいー」
威嚇するお母さん。
なんでも江利子さんとは高校時代の先輩、後輩の関係だというが、新聞部に所属していたお母さんが江利子さんのスキャンダルを校内新聞に載せてしまったことがあるらしい。そんな過去の確執のせいか、私とナッちゃんが仲良くなったことでママ友になってから、色々と江利子さんにからかわれているのが実情。常にムキになっちゃうところがお母さんらしいといえば、お母さんらしい。
でも、最初の頃は単にからかっているだけだと思っていたけれど、江利子さんが旦那様を失くしてからもう十年以上経った最近、なんか本気なんじゃないかと思い始めてもいる。いや、さすがにそれはないか。江利子さんは面白いこと好きな人だけど、人の家庭を破壊してまで面白くするような人ではない。
「絆ちゃんのお父さんが、私の新しいパパにかぁ…………ほわぁ」
「ちょ、ちょっとナッちゃん!? 何言ってますのん!?」
「あ、あはは、でも絆ちゃんのお父さん、格好いいし優しいし、いいなぁと思って」
えへへ、と笑うナッちゃん。
まあ、ナッちゃんは単に父親の愛情というものを欲しがっているだけだというのが分かっているので心配はしていないが、本質的にこの家系は危険だ。ナッちゃんのお姉さんの亜紀さんも、学生時代のお父さんが家庭教師をしていたこともあって、実はお父さんのことが初恋だというのを知っているし、実は今も気持ち失っていないのではないかと思わせる表情を見せることがある。
お父さんが格好良くて素敵でモテるのは自慢だけど、なんか嬉しくない。
まー、いくらモテたところで、あのお父さんが、お母さん以外の女の人を好きになるとは思えないけれど……これもなんか、悔しいけど。
「ああぁ、でもこれで、高校でも皆から笑われる生活が確定してしまった……」
頭を抱えてしゃがみこむ。いや、笑われるくらいならまだマシで、あんな修羅場みたいなシーンを見せてしまったら、逆にどん引きされたり、あるいは苛められたりするかもしれない。
「絆ちゃーん、落ち込んでるとこ悪いけど、その格好だとパンツ見えてるよ?」
「なっ!? ちょ、人のを見たら自分のも見せろーっ!」
「え、わ、なんでそうなるの、やめ、いや~~んっ」
逃げようとするナッちゃんに背後から抱きつき、スカートに手をかける。ナッちゃんは手で抑え、必死で防ごうとしている。もちろんこんな場で本気で捲るつもりはない、単にストレス解消だ。すまん、ナッちゃん。ナッちゃんの体は柔らかくて、抱きつくと気持ちいいんだもん!
「てゆーかさ、ナッちゃんも注目集めちゃったよね」
「あうぅ…………想定外でしたぁ」
涙目になるナッちゃんだが、こればかりは私にもどうもしてあげられない。でも大丈夫、私達が親友であることに変わりはないから!
「絆ちゃんの気持ちが、少しだけ分かったような気がするよ……」
「お互い、親には苦労するね……」
と、私とナッちゃんで慰め合っていると、いつの間にか言い争いも終わったのか、お母さんがナッちゃんを見て、そして江利子さんが私を見て口を開いた。
「あらナッちゃんお久しぶり。うわー、ナッちゃん、ヘアバンドしたらお母さんにそっくりになるわね」
「絆ちゃん、そうしてポニーテールにしていると、高校時代の三奈子さんが戻って来たかのようね。ますます似てきているわ」
と、同時に感嘆ともつかない感想を漏らした。
そして言われた私とナッちゃんはというと。
「あ、ありがとうございます……」
とりあえず素直にお礼を言うナッちゃんだったが、つい先ほどまで目の前でお母さんと子どものように言いあう江利子さんを見ていたせいか、なんか微妙な感じだ。
そして私といえば。
「やめてくださーーーーーーーーいっ!!?」
亜優と由香利、二人の妹はお母さん似というよりお父さん似なのに、私だけ!
しかも胸の大きさだけ似ないなんて、理不尽すぎる。
「あはは、絆ちゃん、あっちょんぶりけだねぇ」
呑気なナッちゃんの声とは反対に、穏やかならぬ私、福沢絆の高校生活はこうして幕を開けたのでした。
おしまい