<1>
可南子が大学受験を控えた高校三年の夏のこと。自宅のアパートは暑いので、図書館で勉強をするのが可南子のスタイルである。
リリアンの女子大に進学するという手もあるが、なるべく学費のかからない国立大学に入りたいと思っていた。
母の美月は気にするなと言ってくれるが、そうもいかない。女手一つで育ててくれた母に、これ以上の苦労はかけられない。
大学に行かずに就職するという考えもあったが、大学にはきちんと通っておけと母親に言われ、可南子もそこには甘えることにした。
「あーあ、しかし今日はイマイチだったな」頭をかきながら呟く可南子。
確保した座席がちょうどエアコンの冷気がもろにふきかかる席で、冷えて体調を崩しそうだったので途中で帰ることにしたのだ。
一応、そういうことも考えて上着なども持って行っているのだが、それだけではしのぎ切れそうになかった。
「ただいまー……」アパートの扉を開けて、そこで可南子は固まった。
「あら……早かったわね、可南子」
「え、か、可南子ちゃんっ!?」
そこにいたのは、母である美月と祐麒だったのだが。
二人は抱き合い、キスをしていたように見えた。いやそれだけではない、美月の服は乱れ、下着もあらわになっている。
「ななななっ、ちょ、ふ、二人とも何をしているのっ!?」
混乱に陥りながら、それだけを口にする。まさか、一体、どういうことなのか。
「見られちゃったからには仕方ないわよね。実は私と祐麒クン、付き合っているの。二年ほど前から」
二年前というと、可南子が祐麒と出会った年だ。ということは、その頃から!?
祐麒とは半年ほど付き合った後に別れを告げられたが、その理由とはまさか母親に奪われたから? 信じられない事態に頭に血が上る。
可南子はショックで膝をつく。美月と祐麒が何やら話をしているようだが、耳に入っても来ない。
「え~っ!? ちょっと、信じられない祐麒クン。本気? そんなこと言って、若い方に寝返っちゃうんじゃないの?」
「そんなことないですよ、俺は美月さんだけですから。でも、その……なんといいますか」
何か話していた美月が歩み寄ってきて、可南子のことを背中から抱きしめてきた。なんだと思っていると。
「え、な、何を……きゃっ!?」背後から可南子のシャツを捲りあげる。ブラジャーに包まれた胸を露わにされて、戸惑う可南子。
「可南子も祐麒クンのこと好きなのよね? だから一夏の思い出を作りましょう。あるいは、新しいお勉強……ね」
「ちょっと、お母さん、やめ……ひぁっ!?」するすると美月の手が動き、ブラの下に滑り込み、撫でてきた。
「母娘でとか、この前見たエッチなDVDの影響受けすぎよ。まぁ、それに従っちゃう私も、完全におかしいけれど」
言いながらも、徐々に興奮した様子を見せる美月。アブノーマルな体験に、徐々に入り込んでいっているのだ。
祐麒は知っている。基本的に美月は、エロいのだ。そして、強気な性格だけれども基本的にドMなのだ。
「ほら可南子、祐麒クンのを優しく癒してあげなさい、ね?」
「ああ、嘘、やだこんな……あ」
耳元で優しく囁く母の声に、可南子の意識はやがて飛び、誘われるように手を、指を伸ばすのであった。
<2>
娘の可南子が祐麒と付き合い始めたことは知っているし、それは喜ばしいことだと思っていた。男嫌いの可南子だから尚更だ。
母親である美月が働いて外にいる間、アパートでエッチなことをするもの良い。お金のない学生だから仕方がない。
だが、まさにその最中を目にしてしまっては、どうしたらよいものか。
たまたま早くに仕事が終わって帰宅すると、可南子の部屋ではまさに真っ最中であった。
見なかったフリをして外に出て、時間を潰して何気ない顔をして帰ったが、困ったものである。
そして今日、その時のことを忘れて早くに帰宅したら、うっかり二度目の遭遇である。頭を抑え、またも外に出ようとしたのだが。
初めて目撃して以来、実はその光景が頭から離れない。夫と別れて以来、可南子を育てるために働くことに専心してきた。
新たな出会いもなければ、もう何年も男に抱かれていない男日照りの日々。あの日以来、やけに体がうずくのだ。
駄目だと思いつつも、祐麒の若々しい体を思い浮かべて、一人でしてしまったこともある。
今、二人はまだ祐麒が可南子を愛撫している段階。娘の瑞々しい肉体に、手を、舌を這わせる祐麒。
そんな祐麒の下半身に手を伸ばす可南子。
駄目だ。見ているだけで下腹部が熱くなる。足が震えだす。濡れているのが分かる。くちゅ、と音がする。知らず指で触れていた。
太ももを伝う滴。前に一人でしたときよりも、遥かに早く、遥かに多い。自分が興奮しているのが分かる。
部屋の扉の隙間をさらに開け、二人の様子を見ようとして、ふらりと滑って扉を思い切り開けてしまう。
「--っ!? お、お母さんっ!?」気が付いた可南子が、目を丸くする。
当たり前だ、見られていたばかりか、美月はブラウスのボタンを外しスカートも脱げかけ、胸と股間に手を差し入れているのだから。
焦った美月だったが、焦りよりも勝ったものがある。ある意味やけくそな感じで、そのまま部屋に突入。
祐麒に抱き着き、素早く下着を脱ぎ捨てる。ショーツは、既に濡れそぼっていた。
「え、あのっ、み、美月さんっ!? って、うわっ!!」
可南子に覆いかぶさっていた祐麒を押し倒すと、そのまま胸に舌を這わせる。男の肌と汗の味に、痺れが体をはしりぬける。
更に、辛抱たまらないといった感じで下降していき、下半身に顔を近づける。
「お、お母さん、なななな何をしているのよっ!?」呆然としていた可南子が、ようやく声を上げる。
「何よ、私が帰ってきたのも知らずにやっているのが悪いのよ。いいじゃない、少しくらい」
「い、いいわけないでしょっ、そ、ソレは私のなんだからっ!」
「ちょ、ちょっと二人とも、もっと優しく……うがっ!」
母と娘を巡るこの関係、果たして今後どうなるのかは、誰も知らないのであった。
<3>
福沢絆、13歳。ただいま中学二年生。中学生ともなると、女の子は色々と色気づいてくるお年頃である。
しかし、そんな絆は、中学二年生にして大きなカルチャーショックを受けることになる。
「えええええっ、ほ、本当っ!?」目を真ん丸にして、ついでに口も同じように丸くして、絆は驚きを全身であらわす。
友達の美加ちゃんも、倫子ちゃんも、変な顔をして絆のことを見ている。
「他は分かんないけれど、私たちくらいの子供がいて、いまだに両親が一緒にお風呂に入っているとか……ないって」
絆の両親、祐麒と三奈子は、土日には大抵、一緒にお風呂に入っている。平日でも時間があえば入っている。
「そ、それじゃあもしかして、美加ちゃんも倫子ちゃんも、お父さんと一緒にお風呂、入ったりしない?」
「えーっ!? それこそありえない、キモいしー」
「せいぜい小学校低学年くらいまでだよねー、って、まさか絆、あんた未だに一緒に入っているの?」
問われて固まる。ええまあ、当たり前のように入っています。福沢家では、家族が一緒にお風呂に入るのは当たり前なのだ。
いや、絆だってさすがにこの年になれば恥ずかしさもある。胸だって膨らんでいるし、毛だって生えたりしますし。
それでも、父親と一緒に入るのは嬉しかった。何より、あの母親と二人きりでお風呂など入らせるわけにはいかない。
お風呂で、どんなえっちなことをするか分かったもんじゃないから、絆が見張らないといけないのだ。
しかし、どうやらこの年になって父親と一緒にお風呂とかありえないらしい。
思い返してみれば、小学生の時に授業参観で「あーん」したり、抱き合ったり、あまつさえちゅーまでした両親だ。
色々と世間の常識から外れているのは薄々と分かっていたが、ここでまた新たな事実が一つ判明した。
絆、13にして知る事実であった。
「絆ってさー、ちょーーーー、超超、超特大ファザコンだよね。いまだに本気でパパと結婚する! とか思っていそう」
「……さ、さすがにそんなことは」
出来ないことくらい知っている。
勘違いしないでほしいが、絆は母親の三奈子も大好きである。だが、所構わずに見せつけられるバカップルラブラブぶり。
微妙なお年頃の絆は、嫉妬もメラメラとしてしまうのだ。
そう、三奈子は大好きな母親であると同時に、最強最大のライバルでもあるのだ。そう思っているのは絆だけだが。
「とりあえずさ、早いところ父親から卒業した方がいいよー。今度さ、花寺と合コンするけど絆もきなよ」
「そうそう、私たちも格好いい彼氏とか欲しい年頃だもんねー」
「そ、そうだね……」
そう愛想笑いをしつつも。結局絆は、大学を卒業するまで父親と一緒に風呂に入っていたのであった。
<4>
三つ子ということで外見こそそっくりだが、性格は笑ってしまうほどに似ていない。
世話焼きでしっかりものの長女、音葉。
おっとりしていて普段はぼーっとしているが、一たび興味を持つと食らいつく次女、葉香。
お調子者で、ちゃっかりしている三女、香音。
「音葉たちってさ、リリアン時代の江利ちゃんたちに似ているよね」
「ん、どういうこと?」
「だから、蓉子さんと聖さんと、そして江利ちゃん。なんかよく似ていると思うんだ」
「まだ五歳よ。そんなこと、分からないわよ」
くすくすと可笑しそうに笑いながら、祐麒に唇を重ねる江利子。優雅に手が動き、祐麒のパジャマのボタンをはずしていく。
祐麒もまた手を伸ばし、上に乗っている江利子のブラウスのボタンを外す。大きな胸が、こぼれおちる。
子供を産んでも、張りも弾力も瑞々しさも失われない、大きな胸。さらに手を、お尻の方に伸ばす。
「今日は私が上でしてあげるね」
さらさらの髪の毛をかきあげ、妖艶に微笑む江利子。江利子の指が、期待に膨らむ下半身に伸びる。
「……ママー、パパー、おしっこー」
と、そこで部屋の外からそんな声が聞こえてきた。動きが止まる江利子。
「ふふ、おちびちゃんたちが呼んでいるみたいね」
素早くボタンを留め、ベッドから立ち上がりドアに向かう。祐麒も同様に身だしなみを整え、部屋を出る。
そこには、眠そうな顔をして目をこすっている娘たちの姿。仲良く三人、手をつないでいる。
「どうしたの、一人でおトイレ、行けないのかな?」
「だって、こわいゆめみたのー。いっしょにねようよ、ママー」
「ねようよー」
「よー」
「あらあら、仕方ないわね。それじゃあ、今日はパパとママと一緒におねむしましょうか?」
「うん……あと、おしっこー」
「はいはい、ほらパパも手伝って」
祐麒と江利子から、パパとママに変わる。でも、それもまた楽しい。
「……ふふ、男の子はまた今度、ね」
祐麒の希望、それは男の子が欲しいということ。女の子は女の子で可愛いが、やはり男の子も欲しいのだ。
ということでここのところ頑張っている。まあ、そうでなくてもいつも頑張っていたのだが。
ちなみに祐麒の希望はあえなく潰れ、最終的には五人の娘に囲まれる家庭を作ることになるのだが、それはまた先の話--
<5>
大学生となり、念願の一人暮らしを始めた。
なぜ、一人暮らしが念願なのか。それはもちろん、自由気ままな生活を送れるからだ。そして何より、周囲を気にせずにえっちな……
「……えっちなことなんて、させませんよ?」
内心を見透かしたかのように冷たい視線を投げつけてくるのは、リリアンの制服を着た女の子。
「ちょ、なんでそんなこと言うの菜々ちゃんっ!? 俺はそれを楽しみに……って、いやいや!」
「はぁ……まあ、祐麒さんがむっつりエロスなのは知っていましたから、別にいいんですけれど……少し幻滅」
アパートの部屋にいつの間にか入ってきていた菜々は、呆れたようにため息をつく。
しかし、このクールで冷ややかな所も菜々の魅力である。そんな目で見られると、少し燃えてくるというか。
「だから、変態ですか。いや、まあ変態でしたね。何せ当時中一だった私にあんな変態的行為を」
「だああああっ! だからごめん! ていうか俺だってずっと我慢してきたんだ、少しくらいいいでしょう!?」
菜々との付き合いは菜々が中一、祐麒が中三の時からだから、既に四年目に突入している。
しかし学生同士であり、菜々はリリアンのお嬢様ということもあって、そう頻繁にえっちなことが出来ているわけではない。
元気な盛りの高校生、大学生にとって、大好きな彼女とえっちなことが出来ないのは、苦痛でもある。
「まったく、祐麒さんは私の身体だけが目的なんですか?」
「そんなことないって! でも、そういうことだってしたいわけですよ、やっぱり、ねぇ?」
「そうですか……とかいいながらさっそく人の胸を揉まないでください!」
背後から抱きしめて胸に伸ばしていた手を叩かれる。
同時に、「ガチャリ」という金属的な音が響く。
「え、えーと菜々さん、これはいったいなんでしょうか?」
「手錠です」
「な、なんで手錠を俺に?」
「うふふ、なんででしょうね。でも祐麒さん、こういうプレイもしてみたいと言ってましたよね、冒険的で良いと思います」
「いやいやいや、俺が言ったのは、菜々ちゃんにしてもらいたいって……」
「お断りします。ということで、祐麒さんの大好きなえっちなことを、居は思う存分、してあげますね」
にっこりと可愛い天使の微笑みを浮かべる菜々。
この日、祐麒が新たな世界に目覚めたかどうか、誰も知る由は無かった。