書評と主にマリア様がみてるの二次創作(旧:よしのXブレード)

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【マリみてSS(乃梨子×可南子)】ヒミツのおまじない

更新日:

~ ヒミツのおまじない ~

 

 お昼御飯を速攻で食べ終え、乃梨子は一目散に目的地へと向かっていった。目指していのは、写真部の部室。今日の朝、マリア像の手前で武嶋蔦子に声をかけられ、お昼休みに来るように言われていたのだ。
 逸る気持ちを抑えながら、写真部部室の扉を軽くノックする。「どうぞ」という声に導かれるようにして中に入ると、室内には蔦子が一人、お弁当を食べている姿があった。
「早かったわね、随分と」
「すみません、お食事中でしたか」
「ああ、気にしないで入ってきて。食べながらで大丈夫だから」
 蔦子に言われ、そそくさと歩み寄る。
「それで、あの……」
「分かってる、はい、ご注文の品」
 机の上に置いてあった封筒を手に取り、乃梨子に差し出してくる。乃梨子はおずおずと受け取る。
「中、確認してみて」
 卵焼きを食べながら、蔦子が促してくる。乃梨子は高鳴る胸を悟られないよう、表情を変えないよう、ゆっくりと封筒の中のものを取り出す。
 手渡されたのは、もちろん写真であるが、一番上の一枚目を見ただけで、乃梨子は大きく息をのんだ。
 写っていたのは、可南子である。
 登校中の写真なのか、明るい日差しをあびて柔らかな微笑を浮かべている姿は、あまりにも美しく輝いて見えた。
 声もなく、写真を次々と見ていく。
 さすが蔦子というべきか、どの写真も見事としかいいようがない。
「満足していただけるのは、まだ早いわよ?」
 意味深な笑みを浮かべる蔦子。
 どういうことだろうと思いつつも、写真を一枚、また一枚と見ていくと。
「っ!? こ、これはっ」
 思わず、声をあげてしまった。
 出てきた新たな写真は今までと異なり、体操着姿だった。ほんのりと汗をかいて光る肌の艶が、まるで本物が目の前にいると錯覚させるほどである。
 さらに、下着のラインがうっすらと透けて見えているところ、暑いのか無防備にシャツの裾をめくっておへそが見えている場面、なんかがある。
 新たな写真に進んでいくほどに、微妙にエロティックな感じになっているようなのは、果たして気のせいか。
「ちょ、ちょっと蔦子さま、これはいったい」
「サービスよ、サービス」
 言いながら、いつの間にやらお茶を作り、乃梨子にもカップをすすめてくる。落ち着くためにと、出されたカップを手に取り口をつける。
「だって乃梨子ちゃん、可南子ちゃんが好きなんでしょう?」
「ぶーーーーーっ!!!??」
 狙ったとしか思えないタイミングで言われて、盛大にお茶を吹く乃梨子。
「な、なん、何を言って」
 口元を拭いながら、蔦子を見てみれば。
「分かるわよ、見ていれば。可南子ちゃんの写真を見ているときの乃梨子ちゃんは、恋する女の子の顔になっていたもの。もう、瞳にお星様キラキラ、って感じで」
「そ、そんな」
「だからつい、こんな写真まで撮っちゃったってわけ。ね、夜のおともに使ってね」
「そ、そんなことに使いませんっ!!」
 赤面しつつも、蔦子に言われたことの衝撃に、いまだに困惑していた。というか、むしろガーンと頭を強く殴られたような気分。
 だけど不思議と、嫌な気分ではなかった。
 むしろ、目の前がどこかクリアになったような気すらする。

 そうか、自分は可南子のことが好きなのか……と。

 外からきちんと言葉にしてもらったことにより、自分の心の中がようやく自分でも理解できる。おそらく、自分だけであったら色々と理由をつけて、認めることもできず、だから悟ることもできなかったに違いない。
「本来なら、本人の断りなく写真を誰かにあげるなんてことしないんだけれど、今回は特別よ。乃梨子ちゃんがあまりに必死にお願いしてくるから」
「そ、そういうわけでは」
 写真を封筒に戻し、ポケットの中にしまいこむ。
 そのまま逃げるように部屋を出ようとして、蔦子に腕をつかまれた。
「……乃梨子ちゃん。まさか報酬のこと、忘れたわけじゃないでしょうね」
 眼鏡のレンズが不気味に光る。
「え、まさか、今、なんてわけじゃ」
「今、やりましょう。ちょうど時間もあることだし……ね」
「あ……はは……」
 額に、じんわりと嫌な汗が浮かぶ。

☆☆☆

 そしてお昼休み終了前。
 蔦子はほくほく上気した顔で上機嫌、一方の乃梨子は泣きそうな顔をして、うなだれていた。
「うう……死にたい」
「何よ、可愛かったわよー。大丈夫、私のコレクションとして誰にも見せないから」
 可南子の写真を撮ってもらう報酬として蔦子に約束したのは、蔦子の写真のモデルになるということ。それも、蔦子のリクエストにはすべて応じるということで。
 しかしまさか、昼休みの学校でストリップショーをやらされるとは思わなかった。リリアンの制服のスカートの裾を持ち、徐々にもちあげていって下着を見せ、ゆっくりと脱いでいくところを各所で撮影され、下着姿まで写され、しかもポーズまでとらされ。
 脱いだ後はどこから調達したのかメイド服を着せられてまた撮影。そのメイド服もミニスカートで、おまけに胸の部分がハート型にくりぬかれていて、そこから胸の膨らみが見えるというもの。
「ああ……いいものを撮らせてもらったわ……これからしばらく、夜は困らないわ」
 恍惚の表情を浮かべている蔦子に背を向け、乃梨子は写真部を後にするのであった。

 

 午後の授業を受けながら、乃梨子は改めて考えていた。
 本当に、自分は可南子のことが好きなのだろうかと。ちらりと、斜め前方の席に座っている可南子の姿を見つめる。
(うあぁ……)
 見ているうちに、火が灯ったかのように体の奥から熱くなってくる。ぎゅっ、とスカートの裾を握りしめ、俯く。
(なんだ、なんだこれ……)
 心臓の動きが激しくなる。
 長い髪の毛を指で耳にかける可南子。小さな可愛らしい耳が目に入る、ただそれだけのことなのに、やっぱり胸が熱くなる。
(うわ、やばい、ホントにこれ)
 手で熱くなった頬を挟み込む。
 授業が終わるまで、その熱が引くことはなく、このままではいけないと乃梨子は一念発起することにした。
 放課後、帰宅しようとする可南子を呼び止め、人気の少ない校舎裏まで呼び出した。急に何事かと、可南子は首をかしげている。
「それで、何の用かしら、乃梨子さん」
「ええと」
 左右に目をはしらせ、誰もいないことを確認してから、乃梨子は口を開いた。
「こ、今度の日曜日、一緒に遊びに行かない?」
「え?」
 キョトン、とした目でわずかに小首を傾げる可南子。そしてまた、そんな仕種と表情を見せる可南子が、たまらなく可愛らしい。このまま抱きついてしまいたい、そしてその胸に顔を埋めてぱふぱふしてみたい、なんて、乃梨子は自分の欲望が加速度的に膨れ上がっていくのを感じていた。
 とはいえ、表面上はあくまで冷静さを崩さずに。
「ほら、ユナ・ブリンガー主演の最新作が上映開始しているじゃない。可南子さんもファンだって知ったから、一緒に観に行かないかと思って」
「ああ、そうですね。確かに、観には行きたいですけれど……」
 そこで、考えこむように口元を手でおさえ、黙ってしまう。
 なんとなく、可南子が考えこむ理由は想像がつく。可南子の家は現在、母子家庭である。あまり深いところまではわからないが、経済的に余裕があるというほどではないのだろう。だから乃梨子は、そこもきちんと手を打ってある。
「ちょうどね、菫子さん、て、この前会ったと思うけれど、菫子さんが仕事先からチケットをもらったから、ね、どうかな」
 もちろん、嘘である。チケットは自腹でお小遣いから出したもので購入している。もしもこれで可南子に断られたりしたら、なんのための出費か分からない。
 外見的には澄まして、でも実は内心はドキドキしながら返事を待つ。
 すると。
「そうですね、それじゃあ、お言葉に甘えちゃおうかしら」
「え、と、ゆうことは」
「はい、今度の日曜日、よろしくお願いします」
「う、うんっ。えと、それじゃあね、待ち合わせは」
 やばい。
 やばいくらいに心がうきうきと躍り出す。
 日曜日の約束の話をしながら、乃梨子は、頬が緩むのを必死にこらえるのであった。

 

 いざ、約束の日曜日。
 乃梨子はさんざん悩んだ挙句、ブラックのAラインシルエットのカットソーに、ワーク風のミニスカートをあわせたコーディネートにした。普段は動きやすいパンツスタイルが多いのだが、今日は何せ可南子との初デートである。ミニスカートに生足と、ちょっとだけ気合いを入れてみた。
 もっとも、可南子はそんな風には思っていないだろうけれど。
 駅前で待つこと三十分。別に可南子が遅いわけではなく、乃梨子が早く来すぎただけなのだが、落ち着かない気持ちで可南子が現れるのを待つ。
 すると、前方に頭一つ飛び出た長身を視界にとらえた。大きく手を上げようとして、さすがにそれは少し恥ずかしいかと思いなおし、胸の前で軽く手を振って可南子にシグナルを送る。可南子もすぐに乃梨子のことを見つけて、少しだけ足を速めて向かってくる。
「ごめんなさい、おまたせしちゃったかしら?」
「ううん、まだ時間前だし。私が早く来すぎちゃっただけだから」
 私服姿の可南子は、これで何回目だろうか。とにかく、モデルばりの体型だからどんな服を着てもサマになる。
 全体にシャーリングの入った細身のパンツはオフホワイト。トップスは、ゆったりとしたシルエットのビッグチュニック。ソフトピンクの色合いが、パンツの白によく映える。長い髪の毛は軽くまとめ、カーキのキャップをかぶっている。カジュアルな感じだが、素材が良すぎるのだろう、ファッション雑誌から出てきたのかと思ってしまうくらいの完成度だ。
 素直に乃梨子が感想を述べ感嘆すると、可南子は苦笑いして肩をすくめる。
「ありがとう、でもこれ、みんな凄い安物なのよ? 量販ものの」
「いやでも、可南子さんが着た時点でもうそれは量販ものじゃなくなってるよ。あーあ、それに比べると私なんて、子供っぽいから」
「あら、そんなことないわよ、今日の乃梨子さんなんてちょっと大人っぽくて、素敵」
「え……あ、ありがとう」
 褒められて、素直に顔が赤くなる。それを誤魔化すように、乃梨子は少しわざとらしく元気な声を出した。
「それじゃ、さっそく行こうかっ」
 こうして可南子とのデートは始まった。

 の、だが。
 出足でいきなりつまづいた。何せ。
「……つまらなかったね」
 どよーん、という擬音が見えそうなくらい乃梨子は暗く沈みこんでいた。いざ、勢い込んで観た映画がこれまた退屈で、つまらなくて、駄作としか言いようがない内容だったものだから、映画を観ている最中も、そして観終わった今も、何か可南子に申し訳なくて仕方がなかったのだ。
「そ、そうね」
 可南子も苦笑いしながら相槌を打つ。さすがに、あれを面白いとは言えなかったのだろう。その事実が乃梨子をさらに打ちのめす。
「でも、仕方ないわよ。だって内容なんて実際に観てみないと分からないし、周囲の評判はどうでも、観る人によっては面白いかもしれないし」
 可南子がフォローしてくれているが、その内容に、違和感を受ける。
「……あれ? じゃあひょっとして可南子さん、この映画の評価があまりよくないって、知っていたの?」
 口ぶり的に、そうとしか思えない。可南子も、「あ」というような感じで、手で口をおさえている。
「そ、それならそうと言ってくれれば……本当、ごめんなさい」
 乃梨子の方は、ろくに確かめもせずに、ただお互いが好きな俳優が出ているから映画を選んだだけだった。これならきっと、可南子が応諾してくれるだろうという、不純な思いしか持っていなかった。その罰があたったのだ。
「そんな、謝る必要はないわ。好きな俳優だったからやっぱり観たかったし。それに、乃梨子さんが誘ってくれたのが嬉しかったから」
「え……」
 可南子の言葉に顔をあげると、優しく微笑んでくれている可南子がいて、思わずまた俯いてしまう。恥ずかしくて。
「リリアンに入ってから、そういう友達づきあいとかなかったから、嬉しくて」
 そう。あくまで可南子は友達として乃梨子のことを見ているのだろう。確かに抱きついたり、キスしたりしたけれど、あれらはあくまでアクシデントであり、友達同士でのじゃれあいみたいなものだったはず。
 今や乃梨子の可南子に対する気持ちは、友情から愛情に変化しつつある、いや、既に変わっているのだろう。
「だからこうして、乃梨子さんと一緒にいるだけで楽しいのよ。本当だから」
 きっと可南子は本心から言ってくれているのだろうとは思う。だけど、だからこそ、その言葉が嬉しくもあり、ちょっと悲しくもあるのだった。

 

 映画を見終え、遅めのランチを終えた後、ではどこへ行こうかということになって、乃梨子は公園に行くことにした。デートコースはいくつか考えていたのだが、ちょうどよい天気、陽気ということもあって、健康的で爽やかな方向性を選択した。
 それなりの広さを誇る公園内では、休日、好天ということもあり、それなりの人で賑わっていた。
 家族連れで遊んでいる人たち、楽しげに語らっているカップル、ひなたぼっこをしている老夫婦、ボール遊びに興じている学生、様々な人が幸せそうにしている。
 自然も豊かで、草の匂い、芝生を踏み締める感触、風が運んでくる森林の香りと、実に清々しい気分にさせてくれる。
「うーん、いい気持ちっ」
 両手を天に突き出すようにあげて、背伸びをして、長身をさらに大きく見せるようにして背伸びをする可南子。
「ねえ可南子さん、あっち、池の方行ってみない?」
「うん、行ってみよう。わ、カルガモさんがいるんだって。可愛いー、みてみたーい」
 体の大きな可南子が子供みたいに『カルガモさん』なんて言う方が、よっぽど可愛いよ、なんて心の中で一人興奮しながら、乃梨子は可南子と並んで歩く。
 二人してカルガモ親子の行進を見て可愛いとはしゃぎ、綺麗に手入れされた花壇を見て回り、売店で購入した牛乳ソフトクリームを舐めて、特別なことはないけれど楽しい時間は流れてゆく。
 志摩子と一緒に出かけるのとは異なる満足感、充足感が、乃梨子の中に溢れてくる。こうして可南子と一緒の時間を過ごしているだけで、満たされる。やっぱりこれは間違いなく恋なんだなと、ぼーっと可南子の美しい横顔に見とれていると。
「あ、乃梨子さん、危ないっ!?」
「え?」
 何が、と思った次の瞬間には、衝撃が乃梨子を襲っていた。
「ぎゃっ!?」
 暗転する視界、失われるバランス、じわじわと広がっていく熱さとも痛みともとれる感覚は額から。
 意識が薄くなり、倒れそうになる体を支えてくれる手は可南子のものだろう。続いて、足音が聞こえてくる。
「す、すみません、大丈夫ですかっ!?」
「だ、大丈……ぶ、たぶん」
 クラクラとしながらも、なんとか応じる。どうやら誰かが遊んでいたボールがおでこを直撃したらしい。どんなボールかは分からないが、とりあえず命には別状ないだろうし、ぼーっとして注意力散漫だったのは自分の責任である。
 ひたすら謝る相手をとりあえず落ち着かせ、それでもやっぱり痛いものは痛いので、可南子に連れられるようにして芝生の上に寝かされる。
 しばらく横になっていると、不意に、額にひんやりとしたものが載せられるのが分かった。目を開けてみると、正面から覗き込んでくる可南子の顔。
「ハンカチ、濡らしてきたから」
「あ、うん。ありがとう」
 冷たい感触が心地よかった。
「災難だったわね」
「うん……ちょっと、ぼーっとしてた」
「しばらく、横になっているといいわ」
 言葉に甘えて、横になったまま目を閉じる。適度な風、程よい気候、頬をくすぐる草のざわめき、それらが優しく乃梨子を包み込む。
 隣に腰をおろした可南子は、何もいわずにただ空を眺めている。
 ゆったりとした時間が流れていくけれど、こういうのもたまにはいいかな、と思う。昨夜は、今日のことを考えてなかなか眠りにつけなかったから、少し寝不足だった。横になっていると、うとうとしてくる。
 ふと、額が軽くなって薄目を開く。
「ハンカチ、温くなっちゃったわね。もう一回、濡らしてこようか?」
「ううん、大丈夫。まだ少し熱いけれど、そんなでもないから」
「そう。でも、まだ赤いわね」
 ボールが当たった個所は、まだ少し痛みが残ってはいるけれど、随分と楽になっていたし、これ以上可南子に心配をかけたくなかった。そっと起き上ろうとして、でもそれを見咎められて肩をおさえられる。
「まだ、横になっていなきゃ」
「でも、もう大丈夫……」
「いいから――」
 そう言うと、可南子はゆっくりと左右に首を巡らせて周囲の様子をうかがう。誰か近寄る気配でもあっただろうか、なんて考えていると。
「痛みの取れるおまじない、してあげる……ね」
 薄目を開けた向こう側、可南子の顔がゆっくりと近づいてくる。可南子の影に顔が覆われ、垂れさがった長い漆黒の髪が風に揺れ、乃梨子の首筋をまるで生きているかのようにくすぐってくる。
 そして。
 額の一点に、今までとは異なる熱さが加えられる。熱いだけではない。しっとりとして、柔らかくて、痺れるようで。
 しばらくして、離れてゆく温もり。
 目をしっかりと開ける。可南子は乃梨子のことを見下ろしながら、髪の毛を耳にかけるようにしてかきあげている。可南子の背後には、オレンジ色になった空と雲。
「乃梨子さん、唇、少し血が」
「あ、うん、ボールがぶつかったときに、少し噛んじゃったみたい」
「…………」
 可南子の瞳には、乃梨子自身が映っている。
 無言が、通り抜ける。
 やがて、乃梨子の唇が震える。
「さっきのおまじない……よく効くみたい。だから……こっちにもお願い……できる?」
 そっと手を動かし、わずかに震える人差し指で、唇に触れる。
 可南子は何度か瞬きをしたあと、乃梨子の指を手の平で包み、そのまま身を倒してくる。乃梨子は瞳を閉じる。
 待つこと二秒、唇に押し付けられる感触。しなやかで、潤いを帯びた可南子の唇が、乃梨子の唇を挟み込む。
「ん……ふ」
 熱い息が漏れる。
 空いている手をのばして、可南子の胸に触れる。可南子の体が一瞬、震えるけれど、身を離そうとはしなかった。
 手の平の中で、可南子の大きな胸が形を変える。その手の手首を握られ、胸から引きはがされる。可南子はそのまま乃梨子の上に乗っかるように、体重をかけてきて、やがて密着する。
 少し重いけれど、可南子の重みが心地よく、可南子の背中に手をまわして抱きしめ、さらに強く密着する。
「はっ……あ」
 唇が、離れる。
 自分の顔が熱く、赤くなっていることは簡単に分かるが、見れば可南子の頬も赤くなっていた。
「可南子さ……ふぁっ」
 可南子の顔が微妙にずれて、乃梨子の首筋に唇を這わす。体が打ち震える。こんな、このまま初めてが野外で、なんてとろけそうな脳みそで考えていると、不意に体にかかっていた圧力がなくなった。
 可南子が両手を地面について体を起こしていた。
「え……か、可南子、さん?」
「首……虫に刺された跡が、あったから。だから、そこもおまじない、ね」
 恥ずかしそうな表情を浮かべ、顔を横に背けている可南子を、呆然と見上げる。
「さ、そろそろ暗くなってきたから、戻りましょう」
 脇の下から手を差し伸べて背中にまわし、乃梨子の体を起こしてくれる可南子。乃梨子はいまだに現実味がわかず、至近距離に迫っている可南子の横顔を、吸い寄せられるように見入っていた。
「立てますか?」
「う、うん」
 支えながら、よろよろと立ち上がる。
「それじゃあ、行きましょうか」
 夕焼けを背負い、キャップをかぶりなおす可南子の表情を、乃梨子は読み取ることが出来なかった。

 

 デートの翌日、乃梨子はやっぱり可南子の気持ちが分からないままに登校をしていた。額にキスをしてきたのは可南子の方からである。だが、唇にキスしてほしいと頼んだのは乃梨子であった。これが、口の方も可南子からしてくれたのであれば、可南子も乃梨子に対して好意を抱いてくれているのでは、と思えたかもしれないのだが。
 なんだか、可南子に誘導されるままに乃梨子の方から嘆願したみたいな格好になってしまったから、正直、可南子と顔を合わすのが恥ずかしい。  マリア像の前でのお祈りを終え、教室に入る。
「ごきげんよう、乃梨子さん」
「ごきげんよう、瞳子」
 席に向かう途中で、瞳子に挨拶。さらにその後ろに可南子が立っているのを見て、わずかに動揺するが、表情には出さない。昨日のデートは他の人には秘密にしておきたい。いつも通りの挨拶を済ませた後、その意思を込めて視線を送ると、可南子は全て分かっているとでもいうように頷いてくれた。
 一安心、と思って軽く息をつくが、当の可南子がとんでもないことを口にしてきた。
「あら、乃梨子さん。その首筋、どうされたんですか?」
 と。
「え、いや、あの」
「本当ですわ、絆創膏など貼って、怪我でもなさいましたの?」
 すかさず瞳子がくらいついてきて、首筋を覗き込んでくる。
 あわわわ、と、顔が熱くなるのをどうにかおさえようとしつつ、可南子の方をうかがってみると。
 片目を瞑り、ちょこんと舌を出してみせた。
 分かっていて、口にしたのだと悟る。昨日の可南子のキスで、首筋には見事にキスマークがついていたのだ。
 昨日、帰宅した後で菫子に指摘されて気がつき、朝になっても消えなかったので応急処置をしてきたのだが、マーキングした当人に突っ込まれるとは、しかも確信犯で。
「ちょっと、虫にさされて腫れただけ」
「ふぅん……なんか、あやしいですわね」
「なな、何があやしいのよ。変なこと言わないでよね、瞳子」
「首筋まで真っ赤になっている乃梨子さんの方が、よほど変ですわ。ねえ、可南子さん?」
 と、瞳子が後ろの可南子の方を見上げる。
 可南子は手で上品に口元を隠して笑う。
「ふふ、よほど大きな虫に刺されたんでしょう……ね」
「な、な……っ」
 頭から蒸気が噴き出しそうになる。
 可南子が何を考えているか、乃梨子のことをどう思っているかは分からないが、とりあえず今は玩具にされていることだけは分かる。
 だけれども。
 そんなお茶目で、悪戯っ気を見せる可南子もまた魅力的だと思え、完全に可南子にイカレてしまっていることを再認識するだけの乃梨子なのであった。

 

つ・づ・く

 

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