「おーっ、やってきたぞー!」
そんな声に顔をあげてみると。
「あ、春日! こっちこっちー」
旧友である春日たちが向かってきているのが見えて、乃梨子は手をあげた。
「これだけ広いのにすぐに見つけられたってのも、凄いよね」
春日の隣で嬉しそうに笑っているのは唯。
「光も、久しぶりー!」
そしてもう一人、やはり中学時代の友人である光が一緒にいるのを目にとめて、乃梨子は声をかける。春日や唯の二人とは、高校にあがった後もしばしば会っていたが、光と顔を合わせるのは実に久しぶりだった。
「久しぶり……って、乃梨子は全然変わっていないわね」
「そういう光は、結構かわったねぇ」
と、旧友の姿に目を向ける乃梨子。
光はもともと目鼻立ちのはっきりした顔だったが、軽く化粧をしていてさらにその辺が強くなって見える。茶髪だった髪の毛はむしろ赤に近い色になり、ふんわりとウェイブしている。耳と臍にはピアスが見え、中学時代よりも派手でギャル化が進んでいた。
白黒ボーダービキニで、胸も中学時代に比べて大きくなっているようで、非常にむちむちとしている。
長身でスレンダーな春日は予想通り、スポーティなタイプなビキニでショートパンツが非常に良く似合っている。
小柄で可愛らしい唯は水玉ドットのワンピース。
タイプの異なる三人が並び、それぞれ異なった魅力を放って乃梨子たちの目を奪う。
「うわー、やっぱり春日さんって背高くて格好いいよねー」
「そ、そ、そう? でも、あの、笙子さんの方が凄く可愛いし……その、胸も大きくて羨ましいな」
笙子に褒められて真っ赤になった春日は、目をあわせることができないのか笙子の大きな胸の谷間ばかり見つめている。
「光ちゃん、お化粧なんかしていたら、海に入ったら大変だよ」
「大丈夫よ、私は海に入らないから
「えーっ、もったいなーい」
三人だけでも騒がしかったのだ、倍の六人になったらそれはもう喧しさだって倍かそれ以上になるのは防げない。なんたって女子高校生なのだから。
「よし、みんな揃ったことだし、遊ぼう!」
「おーーーー!」
六人の女子高校生は、はしゃぎながら海へと足を踏み出すのであった。
春日は誘惑と戦っていた。
「うわ、あはは、揺れるーっ」
イルカ型の浮き輪の上に乗っかってはしゃいでいるのは、笙子である。春日はイルカを押して笙子と一緒に遊んでいるわけだが、正直たまったものではない。
(うぅっ、なんでこんなにえっちなのかしら。だって、大股広げてイルカの上に乗っかって、ぷりぷりのお尻とか、ちょっとこんもりした股間とか、どうしてもマジマジみ見つめてしまいそうになるじゃん)などと春日は邪念を浮かべてしまう。
だからといって正面に回れば、前かがみになっている笙子の胸は強力な破壊力を持って迫ってくるし、加えてイルカの浮き輪に押し付けたり、両腕の間に挟まれたり、様々なオプションもくっついてくる。
「よし、そ、それじゃ押すよ」
言いながら、笙子の太腿あたりを触って押す。女同士だし、遊んでいる最中だし、笙子が何かを言ってくることもない。手のひらに伝わってくる、もっちりとして柔らかな感触は春日を虜にしかねない。
「うわ、波が、わわ~~っ」
少し大きめの波に襲われてバランスを崩した笙子は、踏ん張り切ることが出来ずにそのまま水の中に落ちてしまった。
「しょ、笙子さん、大丈夫?」
「ぷあっ、大丈夫、大丈夫っ。あはは、それじゃあ次は春日さんの番ね」
「え、あたしは別に」
どうせだったらイルカに跨っている笙子のケツやチチを見ていたいと思うのだが、素直に口に出すわけにもいかず、とりあえずイルカに上半身を乗っける。
「手伝ってあげるね」
「ふぁっ」
不意にお尻を触られて力が抜け、ずるりと滑って落ちてしまった。
「あ、ごめん、びっくりさせちゃった? 乗るの手伝ってあげようと思ったんだけど」
「ううん、大丈夫。で、できればもう一回、お願いできる?」
「うん、任せて!」
再び上半身をイルカの上に乗せると、笙子がお尻を押してあげようとしてくれる。笙子の可愛らしい指が春日の引き締まったお尻の肉を揉み、春日は力が入らずイルカの上になかなか乗ることが出来ない。
「うんしょ、うんしょ」
「あ、はぁ、あぅん」
一生懸命に笙子がやろうとするほど、尻肉に笙子の指が食い込んで刺激を与えてくる。
「大丈夫、春日さん?」
「う……ん、も、もっと強く……」
「そう? それじゃあ、えーーーーいっ」
「あ、あ、あーーーーっ」
笙子は夢中になっていて分かっていないかもしれないが、指がちょうど股間の敏感なところに押し当たり、春日は痙攣しながら這う這うの体でイルカの上に乗った。
「ふーっ、よし、やっと乗れたね。春日さんって運動神経すごくよさそうだけど、もしかしたら水は苦手なのかな?」
「あ……う、うん、そうかも……えへへ」
無邪気に笑顔を見せている笙子に対し、春日は締りのない顔をしている。今だって、先ほどまで笙子が足を広げて股間をくっつけていた部分に、自分のをくっつけて間接的接触ではないか、なんてお花畑のようなことを考えているのだから。
「よーっし、それじゃあイルカさん、しゅっぱーつ!」
「って、うわっ、急に押さないで、あわわ」
「あははは、それそーれっ」
イルカを押してバシャバシャと泳ぎだす笙子、慌ててイルカにしがみつく春日。
多少、エロいことを考えてしまうのはお年頃だから仕方ないこと。それでも、こうして無邪気に遊んで弾けるのであった。
(うぅ……なんか、気まずいなぁ)
歩きながら日出実は隣に軽く視線を送り、肩をすくめる。
遊び始めてしばらくして、喉が渇いたのでジュースの買い出しに行くことになったのだが、ジャンケンに負けた日出実と光の二人がその役目をおうことになった。
今日初めて会う相手、しかもリリアンではあまり見かけないギャルっぽい光に、日出実は内心で怯えていたのだ。
もちろん、乃梨子の昔の友人ということで悪い子なのではないだろうが、見た目での第一印象は簡単には変えられない。
いや見た目だけではない、光は海に来たというのにパーカーを着て海に入ろうともしないし、日出実と一緒にいても話をしようともしない。
「……あ、あの、光さんっ」
無言の時間に耐えきれなくなり、日出実は思い切って口を開いた。もしかしたら人見知りする性格なのかもしれないし、とにかく何かきっかけをつかんで仲良くならないと、せっかくの旅行がつまらないものになってしまう。
「ん、何?」
「た、楽しいですよね、友達と旅行って! 海もきれいだし」
「あー、まぁ、そうかもね」
頭をぼりぼりとかきながら、たいして面白くもなさそうに言う光。
「も……もしかして、楽しくないですか?」
「ん? あ~いや、そんなことないけど。本当ならカレシと一緒に旅行のはずだったのになって思うとさぁ」
「え! ひ、光さん、お付き合いされている方、いるんですかっ!?」
「まぁ。でもあのバカ、せっかくの夏休みだってのにバイト入れまくって、あたしと遊ぶ時間無いって本末転倒じゃない? 遊ぶためのお金を稼ぐとか言ってさ」
「ははぁ……」
光が不機嫌そうだったのは、そういう理由があったのかと納得する。つまり、楽しみにしていた夏休みなのに、お付き合いしている相手と遊べなくて拗ねていると。そう分かると、なんとなく拗ねている光が可愛く見えてくる。
「……くすっ」
「あ、ちょ、何笑ってんのよ」
「ごめんなさい。あの、でもほら、女の子同士っていうのも、いいもんじゃないですか」
笑ったことで馬鹿にされたと思ったのか、ちょっと怒った表情になった光に、日出実は慌ててフォローを入れた。
「え……と、あのさ、やっぱりあなた達って、そうなの?」
「そう、って?」
「だからー、女同士ってやつ? 今だと百合とかいうんだっけ。ちょっとあたしには信じらんないんだけど、なんか乃梨子も春日もさー中学の時は別に普通だったのに、おかしいんじゃないの?」
「お、おかしい?」
「だって、女同士だよ? ありえないでしょ」
「そ、そんなこと……」
しかし、こうして改めて面と向かって言われると、おかしいのだろうかと思ってしまう。少なくとも、世間的には少数派なのだろうとは思う。だけど、人を好きになるということに違いはないはずだ。
そう思いはするものの口にすることも出来ず、なんとなく気まずい雰囲気のまま買い出しを行う。
「休憩したらさ、光さんも一緒に遊ぼうよ。水も綺麗だし気持ちいいよ」
気を取り直して異なる話題をふる。
「――あたしは別にいいわ。他のみんなで楽しんでていいわよ」
「えー、なんでですか。せっかく海に来たんですし、一緒に遊びましょうよ」
少しずつ光のつれない態度にもなれてきて、日出実は押し負けることなく主張する。
「遠慮する」
「どうしてですか。もしかして、泳げないんですか。水が怖いとか」
「…………」
適当に口にしたことだったが、思いのほか光の表情が変化したのを見て、もしや図星なのかと感じる。
「え、と、本当に?」
「う……うるさいわね、悪い?」
怒られるかと思ったが、光は顔を赤くして横を向いて拗ねてしまった。
なんか、可愛いと思った。
「別に深いところまではいらなくても、波打ち際で遊ぶだけでも楽しいですよ。水も冷たいし、絶対にいいですからっ!」
「………………」
「ちょっと水遊びすると思えばいいですよ。水かけっこもいいですし、ビーチボールで遊ぶのも。海に深く入らなくたって、楽しいことは沢山ありますから」
「……………………まあ」
「はい」
「そこまでいうなら少しくらいは……あ、でも、あたしが泳げないとか、水が怖いとか、他の皆に言ったら許さないからね」
怒っているんだけど、恥ずかしがっている、そんな素振りの光はただ同年代の少女でしかなく、見た目だけで判断していた自分自身が情けなくなる。
だから日出実は、光を安心させるように目いっぱいの笑顔を浮かべた。
「はい、私達だけの秘密、ですねっ!」
「――あんた達のそういうノリ、ちょっとウザいよね」
「え、えええーーーっ!?」
こうやって意地悪なことを言えるのも、仲良くなったからだと思いたい日出実だった。
「……ふぅん。光さんって、彼氏がいるんだ」
「うん、凄いよね」
休憩のとき、隣に座った笙子と光のことを話していた。泳げないことは秘密にしたが、付き合っている彼氏がいることは別に口止めされていなかったので、普通に凄いと思って話したのだが。
「それはともかくとして、女の子同士がおかしいってのは、許せないわね」
「え、そ、そう?」
「そりゃそうよ! 大体、男なんてなんかゴツくて、毛むくじゃらで、女の子みたいなすべすべ柔らかさが全くないじゃない! きっと光さんは女の子の良さを知らないだけなのよっ!」
「で、でも、そういうのは個人の好みが」
「というわけで日出実ちゃん、あなたが光さんに女の子の良さを教えてあげるのよっ!」
「……へ?」
「聞けば、光さんも日出実ちゃんには徐々にデレてきているようだし、目はあると思うの。だって私に対してはいまだにトゲトゲしいしねっ」
ぷんぷんと怒っている笙子。
笙子も光と仲良くしようと、色々と話しかけたり、接触を図ったりしているのだが、いずれも素っ気なく返されているらしい。
「日出実ちゃんばっかり、ずるーい」
頬を膨らませ、ぐりぐりと肘で脇腹を押してくる笙子。痛いというよりもむしろくすぐったく、むちむちした笙子の腕があたって気持ち良かったりもする。
「何々、何やってるの。二人は仲がいいよねー、本当に」
「ん、唯ちゃん、なんでもないよーってか、唯ちゃんさっきナンパされたらしいじゃん、やるーっ」
「え、えーっ? おかしいよねぇ、私なんかよりみんなの方が綺麗なのにさぁ」
唯は赤面して否定するが、おそらく親しみがあって可愛らしく、声をかけやすい雰囲気が出ているからだろう。しかも幼児体型かと思いきや、意外と胸も大きかったりして、ロリ巨乳とか最強だろうと思う輩もいることでしょう。
「巨乳ってやだ、笙子ちゃんや光ちゃんほど大きくないし」
胸を隠す唯だが、大きさ的には笙子がダントツでトップ、続いて光、そして唯といったところで、光と唯はそれほど変わらないようにも見える。
「でも、乃梨ちゃんが助けに来てくれてよかったよ、本当に」
「だって唯ったら、うっかりついていきそうになるんだもん」
「怖くて固まっていたんだよ。颯爽と助けにきてくれた乃梨ちゃん、格好良かったよー。笙子ちゃんや日出実ちゃんが惚れちゃうのも、分かるなぁ」
「ん? 笙子と日出実が、何?」
「な、なななっ、なんでもないよっ、うん」
「そうですそうです、おほほほ」
いきなり乃梨子の目の前で二人の気持ちを勝手にカミングアウトする唯。悪気は全くないのだろうが、天然というのは困る。乃梨子を好きなことは変わらないし、やましいことはないのだが(やましい気持ちなら山ほど持ってはいるが)、他の人の口から伝わるなんてことは避けたい。
「ふーん、まいっか」
「でも、あんなの見せられたら私も乃梨ちゃんのこと、好きになっちゃいそう~」
と、不意に唯が乃梨子にそう言って抱きついた。
「こ、こら唯、暑いじゃない」
「えへへ、乃梨ちゃん、柔らかくて気持ちいい~」
小柄な唯の体を抱きとめる乃梨子の手が、唯の尻を撫でている。
「ちょ、ちょ~っと唯さん、こちらへ」
「そうそう、良い子だから離れましょうねぇ」
「え、え? あれれ~っ?」
笙子と日出実、二人に両脇から抱えられるようにして乃梨子から引きはがされる唯。
「うぅ、あたしも笙子さんにああしてもらいたいなぁ……とほほ」
「……まったく」
羨ましそうにその光景を眺めている春日、そして呆れたようにため息をついている光。
なんだかんだと言いながらも、六人で楽しく海での時間を過ごしたのであった。
海で遊んだあとは自由時間を過ごし、夕食をとって夜には海辺で花火を楽しんだ。
そしてやってきたのはお風呂の時間。せっかくだから一緒に入って交流を深めよう、なんて笙子が言いだして二組に分かれて入浴することになった。
日出実は、光と唯と一緒に入ることになったのだが、一緒に入る相手が二人とも胸が大きくてスタイルが良いというのが、なんとも日出実の劣等感を倍増させる。水着の時もそれは同じことなのだが、裸になると一層、それが詳らかになるような気がするのだ。
「わぁ、日出実ちゃんってお肌すべすべだね。羨ましい」
「ひゃあっ!? わ、と」
体を洗おうかと思っていたところ、不意に背中のあたりを触られて変な声を出してしまった。
「ねえ、光ちゃんもそう思うよね。日出実ちゃんのお肌」
「――確かに、これ、何か特別なボディシャンプーや化粧水、あるいはケアしてたりするわけ?」
「そそそ、そんな特別なことはしてないですよ? 私なんかより唯さんや光さんの方が」
「そんなことないよねー、ほら光ちゃんも触ってみなよ」
「ひゃわわっ、く、くすぐったいですっ」
二人から背中やら脇腹やらを撫でられ、恥ずかしいやらくすぐったいやらで身を捩る日出実。
「よし、このまま日出実ちゃんの背中を流してあげようよ、光ちゃん」
「うっし、どうやら日出実は背中が弱いようだし……うりゃっ」
「うきゃっ!?」
悪乗りした光は自分の手の平にたっぷりとボディシャンプーを垂らすと、スポンジなど使わずに素手で日出実の背中をわしゃわしゃと洗い始めた。
「う……あはは、やめ、くすぐった……いひひひっ!!」
爆笑する日出実。
「うりゃうりゃ、これでどうだ、こっちか、それともこの辺か?」
「や、やめ……ひっ、ひ、ひぬぅ~~~~っっ」
「駄目駄目、まだまだこんなもんじゃないんだから、ほれ、ほれ、今度は……っと」
調子に乗って手を這わしていた光だが、ボディシャンプーで滑り、勢いあまってつるんと背中から前に手が回り、胸をにゅるんと揉んでしまった。
「ひ、ああんっ!?」
「う、わっ、ご、ごめんっ。わ、わざとじゃないよっ?」
「う、うん……わ、わかったから離して……」
「え? あ、うわっ」
慌てて手を離す光。
「ええと……ごめん、調子に乗らないで普通にやるから」
「う、うん」
今度はちゃんとスポンジを泡立たせて洗い始めるが、先ほどのことが影響して緊張して手が震えたのか、スポンジが新品で滑りやすかったのか、あるいは両方が原因なのかもしれないが、またしてもつるっと滑って日出実の胸を掴んでしまう。
「ひゃあっ! ひ、光さん……あ」
「ごごご、ごめん、あのだからわざとじゃ」
「わかったから、手を」
「え、あれ、ななななんか、手が離れくって……」
むにゅむにゅと、ぬるぬるとした感触が手の平に伝わってくる。先ほどは簡単に滑ってしまったのに、なぜか日出実の胸に触れると吸い付いたように離れてくれない。引っ掛かるほどのボリュームはない、だけれど確実に柔らかさは存在している。
しばらくしてようやく手を離す。
日出実は背中を丸め、はぁはぁと少し荒い息をつきながら、ピンク色に染まった頬とわずかに潤んだ瞳で後ろの光を見つめてくる。
「……っ」
色っぽい日出実に、なぜか胸がドキッとした。
「こ……今度こそ、ちゃんと洗うから。あんまり力を入れるから滑っちゃったのよ」
冷静さをなんとか取り戻そうと目を閉じ、一呼吸を置いてからスポンジを手に取る。今度はあまり力を入れないよう、軽く背中を洗う。これなら滑ることもなさそうだと思っていると。
「二人ばっかり楽しそうでズルイ、私もっ」
「うああああっ!?」
「ふぁぁぁっ!」
仲間外れになったと勘違いした唯が光に抱きつき、驚いた光は力が入ってしまい、またも手が滑って日出実の体にしがみつく。
「ちょ、ちょっと唯、あんたどこ触ってんのよ!」
「光ちゃん、おっぱい大きいよねー」
「あんたに言われたくないっつの!」
唯の手が光の二つの膨らみを持ち上げているが、唯の胸も光の背中にギュウギュウと押し付けられている。しかもボディシャンプーのせいかぬるぬるとして、やたらと気持ち良いのだ。
「うぁ……あ、ひ、光さん……あンっ」
唯のことも気になるが、艶めかしい声をあげる日出実のことも気になる。
「ご、ごめん、今回は唯のやつが」
「そ、それはいいから……そんなところ……」
「うぇあ?」
言われて気が付く。
今回、左手は乳を握っていたが、右手は滑った角度がおかしかったのか日出実の股間に入り込んでいた。
「うわあああっ!? や、ごめっ」
「あんっ! そんな、激しっ……」
「やだ、な、なんか手が離れなくて……く、このっ」
「あうぅ、凄っ」
焦れば焦るほど、変な場所を刺激してしまうようで日出実の声が切なくなっていく。そしてそんな声を耳にすると、なんだか光は金縛りにあったみたいに手を動かせなくなる。
どうすれば今の状況を打破できるのか分からない光。
「もーっ、光ちゃんばっかり日出実ちゃんと遊んでっ」
「うわ、ちょっと唯、押さないでよっ……って、わわわっ」
「きゃあぁっ!?」
唯に押された光はそのまま日出実を押す格好となり、日出実はのしかかってくる二人の重みを受け止めきれずに、バランスを崩してしまう。結果、もつれるようにして倒れる三人の裸の少女たち。
「いたた……だ、大丈夫?」
光が目をあけると、ごく近い距離に日出実の顔があった。
「あ、う、うん……」
「倒れた拍子に、どこか打ったりしていない?」
「うん、下はマットだから、痛くもないし……」
このお風呂、タイルの上にマットが敷いてあるので転んでも痛くないようになっているのだ。
しかしなんだ、今のこの状況は。倒れた光が日出実の上に乗っかる形になっていて、胸と胸を押し付け合うようになっている。それだけではない、もちろんお腹も、足も、お互いに密着しあっている。
自分に押し付けられる日出実の柔らかくて温かな肌に、えもいわれぬ心地よさを覚える光。さらに上には唯が乗ってきていて、やっぱり豊かな胸が背中に、そしてほっこりした下腹部がお尻のあたりに当たっている。
即ち今の光は二人にサンドウィッチされた形になっており、前面からも後方からも、もう全身が柔らかさに包まれている。
(や、やだ……なに、この気持ち良さ……女の子の体ってこんなに気持ちいい……?)
うっとりとしてしまいそうになる。こんなの駄目だと思うのだが、乳首が日出実の乳首と触れ合い、痺れる刺激が送られてきて思考がまとまらないし、うまく動けない。離れないと、と思うのだが、上から唯が乗っているのでそれも出来ない。
「あ、ごめんね、すぐに退くから……うんしょ、って、うわぁっ」
光の上から退こうとした唯だったが、滑って逆に光を上から押してしまった。
「――――っ!!!?」
押された光の顔が下がり、目の前の日出実と衝突した。
そうして重なり合った二人の唇。はじめは何が起きたのか理解できなかったが、やがて日出実とキスをしているのだと悟る。
(……え、や、柔らかい……同じ唇のはずなのに、アイツのと全然違う……ぷにぷにしていて吸い付いてくるようでやわっこくて気持ちいい……ずっとしていたいような……)
生まれて初めて感じるキスの気持ちよさに、光は溺れかける。
相手が女の子であることも忘れ、唇を求める。
「んっ……あ……日出実……」
「――――っ!」
「え、どうか、した?」
びっくりしたように目を丸くした日出実を見て戸惑う光だったが。
「あ、ううん……光さんが、初めて名前で呼んでくれたから……」
そんなことを言って、恥ずかしそうに横を向いてしまう日出実を見て、頭の中で何かが弾けた。
押し付けて潰れた乳房が日出実の小ぶりな乳房を覆う。ボディシャンプーのついたお互いの体はよく滑り、にゅるにゅるくちゅくちゅと音を立てて体が触れ合う。
柔らかくて温かくて気持ち良く、とろけそう。
浴室内は浴槽から沸き立つ湯気だけでなく、二人の体からも熱気が溢れ出ているかのようだった。
「――――うぅ~~いたたたたた、頭、打ったぁ……」
しかしその時、倒れた拍子に浴槽に頭をぶつけ、先ほどまで頭を抱えてうずくまっていた唯が、涙目ながらようやく顔をあげた。
「頭、馬鹿になっちゃう……光ちゃんも日出実ちゃんも、ごめんね、大丈夫?」
「あ、うん、わ、私は大丈夫……光さんは……」
「…………うぅ」
顔をあげた光の目には、涙。
「えっ、わ、ごめん大丈夫、光ちゃんっ!? そんな泣くほど痛いの、どこか打った!?」
「だ、大丈夫、だからっ」
「でも、泣いているジャン!」
「な、泣いてない!!」
その後、大騒ぎをする唯をなだめ、ようやくのことでお風呂を出る。
髪の毛を乾かし、冷たい飲み物を口にしながら日出実が休んでいると、隣に光がやってきて腰を下ろした。
しばらく、並んで何も言わずに時を過ごすのだが、やがて光が頭にかぶっていたタオルを外して日出実に顔を向ける。
「な、何?」
「い……言っておくけれど、べ、別に女の子同士の方が良いとか、そんな風に感じたわけじゃないんだからねっ!」
「は、はぁ」
「そ、そりゃあ、彼氏よりも柔らかくて温かくて気持ち良かったかもしれないけれど、だからって別に、あ、でも嫌だってわけじゃなくて、日出実だからってのがあったかもしれないわけで」
なんだかしどろもどろになって、よくわからないことを言っている。
結局、二人は何を言うことも出来ずに黙り込んでしまう。
「ねえねえ日出実ちゃん光ちゃん、フルーツ牛乳、飲む?」
唯の呑気な声が響く中。
日出実と光は並んで座ったまま、固まっていた。
おしまい