修学旅行の夜と言えば、男子にとっても女子にとっても大事な時間である。みんなで布団を並べて寝転がりながら、好きな異性を告白しあう。あるいは気になっている異性の部屋まで思い切って遊びに行って、あわよくば進展を図る。
一方で教師たちは、生徒が不純異性交遊をしないか監視の強化を行い、規則を破るような生徒がいれば捕まえて罰する。教師だって生徒達の気持ちは分からないでもないのだが、修学旅行中に過ちがあったら大変だし、集団行動を守らせるためにも厳しくする必要があるのだ。
この辺は生徒と教師のせめぎあい、睨み合い、裏のかきあいといったところか。初日から攻勢に出るか、とりあえず初日は何もしないように見せかけておいて教師陣の見回りの様子を見極めて二日目以降に勝負に出るか、男子陣は各々で戦略を考えている。
しかしリリアンの教師陣の鉄壁の布陣の前には、そう簡単に成功者が出るとも思えなかった。蓉子を中心として作戦が立案され、各教師がそれに従って見回って次々と生徒達を確保していた。
祐麒は女子部屋への夜這いなど全く考えていなかった。同室の男子も、勝負は二日目以降と考えていたので初日の夜は平和に終わるはずだった。
ところが、同室の男子一名が教師の見回りルートを偵察に行ったまま時間になっても戻ってこないので、ジャンケンで負けた祐麒が少し様子を見に行くことになった。これじゃあ、余計に捕まるだけじゃないかと思いながらも、男の友情もあって断ることが出来ず、そっとホテルの廊下に出て行った。
当たり前だがホテルの廊下は長くまっすぐで、これじゃあ作戦の立てようもないなぁと考えながら歩く。とりあえず、喉が渇いたので自販機に行くところでした、という理由を考えてはいるものの、通用するだろうか。
一応、注意を払いながら廊下の角を曲がったところで、いきなり背後から羽交い絞めにされた。
「うをっ!?」
「へっへっへー、子狸はっけーん」
「さ、佐藤先生っ!? いや、俺は違うんです、別にやましいことをしているわけじゃ」
「問答無用~~っ!」
と、強引にそのままどこかの部屋に引きずり込まれる。
嗚呼、これで楽しい修学旅行も終わりか。あとは反省文を書かされ、捕まった者同士の強制労働、見張り付きの部屋に隔離されて……と思っていたのだが。
「……なぜ、こんなことに?」
「まあまあ、気にしないで。ほら~、お酌して頂戴、可愛い執事さん?」
「はいはい……お嬢様」
半ばやけくそ気味に、空になったグラスに日本酒を注いでやる。
何がどうなっているかというと、祐麒が引きずり込まれたのは聖、江利子、蓉子、景というリリアンが誇る美人女教師四天王が泊まる部屋だった。聖に捕まったのは別に叱責を受けるためではなく、単に生贄として囚われただけだった。
即ち。
「だって、女同士四人だけなんてつまらないじゃない。でも、先生方はみんなおじさんばっかりだし、それだったら若くて可愛い子に囲まれた方がいいじゃない」
ということらしい。
江利子の発言はとても教師のモノとは思えなかったが、既に酔っぱらっているので何を言っても無駄だろう。大体、囲まれているのは祐麒の方である。
「さすがに他の子はちょっとねぇ。でも福沢くんだったら草食系っぽいし、何より蓉子もOKしてくれる男の子はあなたしかいないから」
「うぅ……」
話を振られて、赤くなりながらカクテルの入った缶に口をつける。
「駄目よこんな、生徒を部屋に呼んで一緒に酒盛りなんて……とんでもないことだわ」
「その割には追い出さないよね」
「追い出せるわけないでしょ、今追い出したら、他の先生方に見つかっちゃうもの」
ちなみに蓉子たちが見回りもせずに酒盛りをしているのは、江利子と聖の色仕掛けによって男性教師陣に面倒な役回りを引き受けてもらったから。もちろん、酒盛りに入るまではきちんと仕事をこなしていましたとも。
しかし、なんとも目のやり場に困る。
左隣に座っている蓉子はオーソドックスなTタイプのパジャマを着ているが、もじもじと恥ずかしそうにしているのが逆に色気を増加させている。特に、おそらくノーブラなのであろう胸元を気にする仕種が目について仕方がない。
右隣の江利子は四人の中で最も露出が高くエロいシースルーのベビードール。一応、二枚重ねで下着は見えないようになっているがそれは前面だけの話で、後ろに回ると完全にすけすけだ。そうでなくとも、大迫力の胸の谷間で目のやり場に困る。
左前に座して缶ビールを口に運んでいる聖は、寝間着というよりは単にノースリーブシャツにショートパンツという格好だが、胡坐をかいて、更によく動くものだから腋フェチの祐麒にしてみれば堪ったものではない。
右前には景が梅酒をちびちびと飲んでいるが、景は三人と違い浴衣姿。和室である部屋に備え付けのものだが、浴衣の下に見え隠れする胸元や太腿が妙にセクシーだ。和風美人である景によく似合い、ほんのり桜色になった肌とあわせて艶がある。
四者四様の色香に取り囲まれてとても冷静さを保てそうにないと考えた祐麒は、仕方なく勧められたお酒を口にして、酔いでどうにかするという手段に出ていた。蓉子は止めようとしていたが、聖や江利子によって阻止されてしまっていた。
「さーさ、男子も交じったことだし、そろそろ好きな子告白タイムいこーか!」
なぜか学生ノリの聖。
「はい、じゃあまずはやっぱり蓉子からーーっ! さ、さ、今好きな人は誰かな?」
空き缶をマイクに仕立てて蓉子に詰め寄る聖。毅然と断れば良いものを、やはりお酒のせいかどこか弱気な蓉子。
「えっ……わ、私は……その……」
もにょもにょとしながら、ちらちらと祐麒に視線を向けてくる。これは助けを求めているということか。
「――はい、時間切れ。じゃあ後攻の景ちゃん、いってみよー」
「ふぇっ!?」
いきなり切り替えし、続いて景にマイクを向ける聖。不意を突かれた景は目を丸くし、やがて頬を赤くしながら上目づかいで祐麒のことをちらちらと見る。
「え、え、えーと、その……」
こちらもまた、小声でもごもご。さすがに生徒が見ている前で好きな異性なんて口にすることは出来ないのだろう。
「はい、こっちも時間切れ。もう、しようがないですねぇ。ということで三番手の江利子に攻撃権が移ります」
「ど、どういうルールなのよそれっ?」
文句を言う蓉子を無視して、対面にいる江利子に空き缶を差し向ける聖。
すると江利子はにっこりと微笑み。
「それはもちろん……福沢祐麒くん……です」
「ぶはっ!?」
江利子は恥ずかしそうに頬を手で抑えながら、しゃなりと祐麒に身を寄せてきた。
「え、ちょ、とととと鳥居センセ、あ、あたってる、胸、おぱーいががが!?」
薄手のベビードールという格好に随一の大きさを誇るバスト、そんな江利子が右腕にからみついてきたのだ。あたっているというか、むしろ右腕が包まれているというような感じに驚愕する。
「ふ、ふ、ふ、ふざけすぎですよ鳥居センセ、飲みすぎですって」
上擦る声。
「ふざけてなんかいないわよぉ。ふくざ……祐麒くんだって以前、私のこと世界中の誰よりも可愛いって言って抱きしめて、キスしてくれたじゃない?」
「――――――――っ!?」
何やら空間に亀裂がはしったような気がした。
「な、な、ななななななな、だ、抱きしめて、ききききキスっ」
蓉子が尋常じゃないくらいガクガク震えて、缶からカクテルが零れまくっている。
「あ、あれは、鼻の頭にしただけじゃないですかっ」
「へぇ~~、それでも本当なんだ。そいつは初耳」
にやにやと笑いながら聖が口を挟んでくる。余計なことを言ってしまったようだが、何も言わなければもっと酷いことになっていたかもしれないから、やむを得ない。
「う、う、う、う」
俯き、唸っている蓉子。
これは相当に怒っていると恐怖する祐麒。
「ち、違うんです水野先生! それは事情があってのことで、だから」
「――ず、ずるいずるいずるいずるいずるいっ!!」
「…………水野、先生?」
「水野先生なんてヤダ、ここでは先生じゃないんだから」
「いや、センセイだからね、蓉子……」
何かが壊れたのか、蓉子まで祐麒に抱きついてきて何やら我が儘を言ってきている。相当に酔っているようで、これもアルコールのせいだろうが、祐麒としてはシャツ越しに感じる胸の感触の方が気になって仕方ない。これは確実にノーブラだ。憧れでもあった蓉子の成長した胸を押し付けられて、何も感じないなんて男ではない。
「ちょ、水野先生?」
「むーっ…………」
不満げに睨みつけてくる蓉子。
「え~~よ、蓉子さん」
名前で呼ぶと、ようやく満足そうに微笑んだ。なんだこれ。
「うーむ、蓉子が壊れた。まあ、確かにお酒好きだけどあまり強くないけどね……って景ちゃんは放っといていいの、あの状態?」
隣でポーカーフェイスでお酒を飲み続けている景を見て、聖はけしかけてみる。
「私は別に関係ないし」
缶を一気に呷り、残りを飲み干す景。さらに次に手を伸ばそうとして、近辺に転がっているのは全て空だということに気が付く。
「もうなくなっちゃったか……取りに行ってくる」
立ち上がる景だったが。
「う……あ、足が痺れ……きゃ、きゃっ!?」
祐麒が部屋にきてから祐麒の視線が気になってずっと正座をしていたのだが、そのため足に痺れがきていた景は、立ち上がったとたんによろけた。そしてそのままお約束のように祐麒に向かって倒れ込んでいく。
「うおわっ!?」
「きゃっ! て、あ、ご、ごめんなさ……い」
立つ力を失って膝をつき、よろめくように倒れたのでさほど勢いはなく、祐麒も無事に受け止めることは出来た。ただそのせいで、真正面から景と抱き合う格好になっている。
胸に押し付けられているのは景の胸の膨らみ。さらに頬と頬が触れ合い、ふにふにとした柔らかさが伝わってくる。
「ちょ、ちょっ……景さん、は、離れなさいよっ!?」
「そ、そんなこと言われても、足に力が入らなくて」
真っ赤になりながらもしがみついて離れない景。
両腕、そして正面から抱きつかれている祐麒は赤くなって硬直したまま。
「しかし、女教師三人から好意を寄せられ抱きつかれているDK(男子高校生)って……どこのエロゲですかね? これはもしかして、あたしも参加した方がいいのか? するべきなのか? う~~ん」
よく分からないことで悩み始める聖。
カオスになりかけた部屋だが、その時、部屋の扉をノックする音が響いた。
「…………誰、こんな時間に?」
「主任じゃない? 私たちのことも確認しに来たんじゃない、時間的に」
「無視するしかないね」
男子高校生を連れ込んで酒盛りをしているのである、見せるわけにはいかないのだが。
『――水野先生? もう寝たのかしら』
声が聞こえてきて、室内の五人は息を潜める。
『……あら、鍵が開いているわ』
「――――っ!?」
「ちょ、聖、あなた鍵締めなかったの?」
「そいや、祐麒を引き込むことに精一杯で」
『不用心ね、入るわよ?』
「って、とにかくやり過ごすしかない、電気消すよ!」
「うわ、ちょっと、ま、ま、待って!」
これではまるで教師の不意の点呼に慌てる学生と同じである。情けない醜態を晒しながら、とにかく急いで布団の中に逃げ込む祐麒達。
「水野先生……もう、寝ているの?」
室内に踏み込んでくる足音。
「お酒臭い……仕方ないわね、まったく」
ため息。
さっさと引き返してほしい。見つかったら祐麒も蓉子たちもどんなことになるか分かったものではない。いやこういう場合、祐麒よりも教師の方が責任を負わされるはずで、下手をすれば学校を追い出されるかもしれない。
そう考えると緊張でドキドキする――というのは勿論あるが、それ以上にとんでもないことになっていて祐麒は心臓が破裂しそうになるのを必死でこらえる。
何がって、祐麒の顔は今、誰かのオッパイの中に埋もれているのだから。しかも抱きしめられていて離れることも出来やしない。
他に触れているものの手がかりから考えるに、慌てて布団にくるまった際に浴衣の前がはだけてしまった景の体だと暗闇の中で理解する。
さほど大きくない胸だが、直接顔面に押し付けられていてその柔らかさと気持ち良さは格別である。しかも浴衣がはだけて露わになっているのは胸だけでなく、下半身まで完全に露出してしまっていて、抱きついている祐麒の手には細い腰と、そしてパンツのさらさらとした手触りが伝わってきているのだ。
(や、ちょ……ダメ、動かないで)
(そ、そんなこと言われても息が苦し……)
(ひぁんっ!?)
景に頭を抱きしめられているせいで動けず、呼吸がうまくできない。どうにか息を吸おうと口をパクパクさせたら、なんだか景の胸にキスして舐めているような感じになってしまった。すると景は余計に腕に力が入り、更に息苦しくなる悪循環。
どうにか引きはがそうと手を伸ばすと、今度は景の胸を掴んでしまう。
(あ、そ、そんなところ……敏感なのに……)
なんか指に引っ掛かった部分をつまんだら力が緩んだので、そこでようやく顔を横に向けて呼吸を確保する。
「水野先生と……こっちが佐藤先生ね……」
中の人員を確認している声が聞こえてくる。景も顔だけは布団から出しているようで、なんとか四人全員の確認が終わったようだ。
しかし呼吸が落ち着いてくると、今の状況に改めて興奮を覚えてくる。何せ裸に近い景に抱きついていて、顔で胸を感じ、手はお尻を触っている。おまけに景の脚が祐麒の股間に押し付けられていて、刺激を与えてくる。駄目だと思っていても、自然と反応してしまうのは男なら仕方がないだろう。
景も気が付いたのか、びくりと痙攣するが、それが逆にさらなる刺激を与えてきて余計に元気になってしまう。
(ううぅ、勘弁してくれ~~っ。か、加東先生、違うんですこれは、くーっ)
泣きそうである。いくら状況的に仕方ないとはいえ、変態の烙印をおされても文句は言えないかもしれない。
(ひぁぁ、ふ、福沢くんの手がお尻から……や、だめ、触られたらバレちゃう……)
永遠とも思える時間が過ぎた後、ようやく足音が遠ざかり、扉が閉まる音がした。それでもしばらく動かずにいたが、完全に大丈夫だと悟ったところでようやく各人が起き出す。
「……あぁ、びっくりした。まったく聖のドジ」
「わ、悪かったってば」
「なんとかやり過ごしたわね……あら、祐麒くんは?」
その言葉に景がぴくんと反応したかと思うと、布団の下で慌てて乱れた浴衣を直し始める。直すといっても完全には難しいので、前をあわせて帯を巻くくらいだが。
「え、えと、ここに……」
おそるおそる景が布団をあげると、やがて姿を見せる祐麒。
「ちょ……景さんと一緒の布団で……きぃ~~っ、ずるいー!」
「あら残念、私と一緒だったら、『ぱふぱふ』してあげたのに」
実は既に『ぱふぱふ』してもらっていましたとは言いだせず、赤面して俯く景と祐麒。
「ちょっと江利子、祐麒くんは小さいころから私とねぇ」
「そんなの関係ないでしょぉ、私と今は大人の関係を」
すぐに勃発する戦争。
「あっははは、祐麒も大変だねこりゃあ」
笑って高みの見物と決め込んでいる聖だったが、そんな聖の姿を見て残りの三人の目つきが変わった。
「それにしても、誰が最初に祐麒を……って、え、何、景ちゃん? 江利子? うああ!?」
二人は聖に掴みかかると、身動きが取れないように抑え込む。四人の中ではもっとも力もあり体力もある聖だが、二人がかりで襲われては抵抗も難しい。顔を布団に押し付けられ、腕は背中の方に回して決められて動きを封じられる。
「ちょっと、やめ、やめてってば!」
とりあえず動かせる足をバタバタさせる聖だったが、江利子にお尻を高く上げるような体勢にされ、さらに。
「ぺろーん」
「うわぁっ!?」
「ぶふっ!?」
ショートパンツを膝のあたりまで下ろされてしまい、祐麒の目の前にパンツとお尻を曝け出す。しかも膝まで降ろされたショートパンツが足の自由を奪い、もがこうとするもお尻を左右にぷりぷりと揺らすことしか出来ない。
「ちょ、ちょっと祐麒、見ないでよ」
「そ、そんなこと言われても、蓉子さんが……」
「ん……くーっ、くーっ」
背後から祐麒のことを羽交い絞めにしたまま、蓉子は寝息を立てている。背中にあたる胸、首に吹きかけられる寝息、さらに目の前には聖のお尻。
「ちょっとヤダ、恥ずかしいってば、やめてよぉっ」
「私達ばっかりに恥ずかしい思いさせて、ずるいのよ聖は」
「そうそう、可愛いパンツ、見てもらいなさいよ」
聖が穿いているのは立体的にローズのあしらわれたピンクのショーツで、サイドストリングで結んでいる。可愛らしさと色気の同居した下着に目が奪われる。
「どうせだったら、上下セットで見てもらいましょうよ」
「だめ、やめてって……う、あぁ」
上半身を起こされて膝立ちになったところで、シャツを捲りあげられる。しかしそれも肘のあたりで止められて、腕の動きを封じられる。そのままくるりと半回転させられると、正面から祐麒と向き合う格好になる。
両腕を上げさせられ、軽く背を反るような格好をとらされている聖の胸元は、ショーツと同じようにリボンで作られたローズが満開のチューブ型ブラ。
「み、み、見ちゃダメだってば、祐麒」
真っ赤になって必死に言う聖だったが、祐麒としても目が離せなくなっている。形の良い胸にくびれたウエスト、お臍には可愛らしいピアス。
「ちょ、なんてかっこさせんのよっ……て、やめっ」
膝立ちの格好から尻餅をつかせると、江利子が足を掴んで高くあげる。必然的に股間部分が目に入る。その間に景がやたら素早く聖の手を後ろ手にしてシャツで縛ってしまう。聖の意識が腕にいっている間に、今度は江利子がショートパンツを足から脱がせるというコンビネーション。
「ほら、サービスしてあげなよ、もっと」
「やだ、こんなのっ……」
抵抗をするものの、景と江利子の二人の前にはなすすべなく、祐麒の目の前であられもないM字開脚姿を見せてしまう聖。そこらのグラビアアイドルなんかよりもよほど綺麗で、見惚れてしまう。
「だ、だから見ないでってばぁ」
「本当は見て欲しいくせにぃ」
「そんなわけないでしょ!!」
「でも、そうじゃなきゃこんな可愛い勝負下着、着てこないよねぇ」
「え、え……ちょ、江利子、マジ……? や、ちょ」
妖艶に笑う江利子の指が、聖のショーツのサイドで結ばれたリボンの紐に伸びる。
一方、背後から抱きついて聖の自由を封じている景も、両足を駆使して聖をM字開脚ポーズに固定すると、片手を伸ばして江利子とは反対側のリボンに指をかける。
「ううううううそうそうそっ、冗談でしょ、それ以上はさすがにシャレに……や、やめっ」
「やめなーい」
「同じく」
二人がひっぱると、しゅるりしゅるりと結び目が解け、ショーツのバック部分がはらりと後ろに垂れて落ちる。フロント部分は二人が紐を持って保っている。
「な、なんてことするのよーっ!? ちょ、戻しなさいよ、やっ」
「あんまり動くと、落ちて見えちゃうよぉ」
「なっ……」
耳元で囁く江利子の声に視線を下に向けると。
江利子も景も既にリボンから指を離しており、ショーツのフロント部分は聖の上に乗っかっているだけの状態になっていた。
「う……そ、や、ちょ……やぁ」
既に聖は顔どころか耳から首筋まで赤くなっていて、全身の白い肌も上気して薄く桜色になってきているように見えた。そしてぷるぷると小刻みに震え、涙目である。
動かないようにと思うものの、どうしても震えてしまうし、重力もある。少しずつショーツがずり下がっていくのを、聖は泣きそうになりながら見ている。
そして祐麒はこんなとんでもない状況において、聖を可愛いと思っていた。普段見せる飄々とした姿と異なって、まるでか弱い幼子のような反応に萌えていた。
「祐麒くんたら、聖を見てあんなに興奮しちゃっているわよ?」
「このまま全部見えたら……そのままドッキングしちゃう?」
「だめだめ、そんなの、駄目だって! あ、あたしだって心の準備がっ」
「あらぁ、それって心の準備さえできていれば、OKってこと?」
「やっぱ……油断も隙もないわね」
途端にそこで江利子と景のトーンがダウンする。
「……あー、なんかもう眠……」
「私も……」
「え……ちょ、江利子? 景ちゃん?」
困惑する聖をよそに、江利子も景も興味を失ったかのように聖から離れると、そのまま布団に突っ伏してしまった。
聖の自由を奪い、尚且つショーツのサイドを解いたままで。
一方で祐麒も相変わらず蓉子に自由を奪われたままで、聖を正面から見る格好である。
「ゆ、祐麒。み、見ないでよ」
「そ、そう言われても、どうしても目が吸い寄せられまして……」
「ば、馬鹿、へんたい、えっち……って、うわ、わっ」
怒鳴る聖だったが、ショーツがずれ落ちそうになり慌てて動きを止める。本当なら祐麒に見られないよう体の向きを変えたいところだが、下手に体を動かすとショーツが落ちてしまいそうで、動くに動けないのだ。
「ううぅ、なんでこんな目に……普段、江利子も景ちゃんもお酒強いから、ここまで酷く酔うとは知らなかった……」
「修学旅行でどんだけ飲んでんですか!?」
「うっさいな、あたしだってこんなことになるとは……うわわっ!」
もじもじと足とお尻を動かす聖。必死に落ちないように頑張っているのだろうが、はっきりいってその様の方が余程エロい。ショーツにばかり意識がいって、どんな痴態を祐麒に晒しているかが飛んでいるのだろう。
下着姿になって腕を後ろ手に縛られ、そんな格好でずり落ちるショーツを守ろうとすれば太腿に下腹部、股間を使用するしかない。足は閉じた格好になるが、股間部分は丸見えであるし、上半身は無防備なままでブラをしているとはいえ十分に揺れる大きさを持つバストが目に眩しい。
この状態でベストなのは、寝転がって水平に保つことでショーツが落ちないようにすることだと思うが、寝てしまうと祐麒の様子が分からなくなり不安なのだろう。
「ああもう、最悪だ……」
まるでこの世の終わりのような表情をして落ち込む聖。だから祐麒は、なんとか聖を元気づかせたいと思って、口にしたのだ。
「あ、でもあの、恥ずかしがる佐藤先生、すごく可愛いですよ」
と。
すると聖は。
「~~~~~~~~~~~~~~~~~~っ!!」
ようやく落ち着いてきた顔が再びマックスまで赤くなった。
「か、かわ、かわいいとか、いい加減なこといってからかうなっ!」
「べ、別にいい加減とか、からかうとかじゃないですけどっ」
「そ、そんな手には引っ掛からないもんね」
「そんな手って……あ」
「何さ……って……うぇ?」
暴れたせいだろう。
祐麒と聖が見ている中、ショーツがはらりと垂れて落ちた。
「ぎゃ、ぎゃあああああああっ!?」
と、じたばたと激しく暴れ出した聖だったが、今度はその動きのせいか、チューブタイプのブラがずれて"ぷるんっ"と、おっぱいが飛び出した。
「ぶっ…………」
祐麒は鼻血を噴き出し。
「うわ、うわ、うわわわっ!!!」
聖は一人でじたばたともがくのであった。
翌朝。
真っ先に目が覚めた蓉子が見たものは、半裸で寝ている江利子と景、後ろ手に縛られてほぼ全裸で寝ている聖、そして血だまりに倒れている祐麒という、とんでもないカオスな室内の状態だった。
「――おいユキチ、お前結局、昨晩はどうしてたんだよ? もしかして由乃ちゃんとずっぽしやってたのか?」
「ちげーよ、先生に見つかりそうになって逃げて、結局一晩中、倉庫みたいな場所に隠れていたんだ。お蔭で体が痛いよ」
体の節々が痛むのは、蓉子に体を押さえつけられたまま一晩を過ごしたからであるが、さすがに口にはしない。
今朝、蓉子に叩き起こされて血の処理をした後、とにかく部屋まで戻された。起床時間まで蓉子たちの部屋にいたら大変なことになるからだ。なんとか誰に見とがめられることもなく部屋に戻り、寝不足のまま今に至っているというわけだ。
朝食を終え、今日の行動に入る前のわずかな自由時間。トイレに立ち寄って出てきたところで、景に出会う。
「――――あ」
途端に顔を赤くする景。まあ、昨夜の『ぱふぱふ』事件のこともあるから仕方ない、祐麒だって思い出すと顔が熱くなる。
「あ、あの、祐麒くん。き、昨日のことだけど……」
「は、はい、あの、すみませんでし」
「き……気持ち、良かった?」
「た……はい?」
「あ、ほ、ほら、私ってあんまり胸大きくないから……」
もぢもぢしながらなんか変なことを口走る景を、思わずまじまじと見つめてしまう祐麒。見られてますます赤くなる景。
「と、と、と、とにかく。私の裸を好きにした責任は……とってもらいますからねっ」
「え?」
問いかける間もなく、景は早足でつかつかと去ってしまった。その背中を見送っていると、女子トイレから今度は聖が出てきた。
「うぁ」
立ち尽くす聖。昨夜、鼻血を噴出して以来まともに顔をあわせるのはこれが初めてだ。朝起きた時は、聖は布団をかぶって寝ていたから。
「ゆ、祐麒……あ、あの、昨日はさ」
「だ、大丈夫です、あの、佐藤先生すごいキレーでしたから!」
なぜか咄嗟にそんな言葉が出てしまった。
ただ、昨夜の聖が見せた下着姿は本当に綺麗だと思ったのだ。エロさ、いやらしさという以前に、芸術的な綺麗さがあると感じた。紐がほどかれてからは逆転してしまったが。
一方で、聖。
(大丈夫って。き、キレイだったって、アソコが、アソコが綺麗だったから大丈夫ってこと? ややややっぱり見られていた!?)
思わず内股になる。
(なんでそんな冷静に感想言うのさ……それってやっぱ、他の女子のを見たことがあるから? こ、こんな子狸みたいな顔しておいて~~~~)
わなわなと打ち震える聖。
「あの、佐藤先生……?」
様子のおかしい聖を見て近寄ろうとするが、踏みとどまる。やはり昨夜、ショーツが落ちるのを見ないように視線を上に向けたところで、おっぱいがブラからこぼれる瞬間を見てしまったから怒っているのだろう。すぐに鼻血を出して気を失ったし、揺れていたからあまり見えなかったとはいえ。
「と、とにかく、昨夜のことは忘れること、いいねっ」
「は、はい……でも昨夜の先生、可愛かったのにな……」
首肯した後の呟きは、思わず内心が出てしまったものだが、それを耳にした聖にはてきめんの効果があった。
「か、可愛いとか言わないっ」
焦ったように言い返してきて、さらに何か続けようとしたところで、誰かが向かってくる気配を感じて慌ててこの場から逃げるように歩き出す。
そして、祐麒とすれ違いざま。
「別に、可愛いって言われたからってキュンとしたりしないから、勘違いしないでよね!」
と、なんだかツンデレのテンプレのような台詞を残して去って行ってしまった。
「……えーと」
残された祐麒は腕組みをして。
昨夜の乱痴気騒ぎは自分一人の胸の内にしまいこむことを改めて決意した。なんたって相手は教師、バレたらただじゃすまないし、生徒にだらしない姿を見られたのだから恥ずかしいに決まっている。
微妙にずれた方向に考えながら、欠伸を噛み殺す祐麒。
こうして修学旅行の二日目は始まった。
おしまい