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ノーマルCP マリア様がみてる 蓉子

【マリみてSS(蓉子×祐麒)】想い、エターナル エピローグ

更新日:

 

~ 想い、エターナル ~

 

エピローグ

 

 

 元の世界に戻ってこられて単純にめでたし、めでたし、というわけにはいかなかった。というのも、私には最後の一回だけだけど、ループしたときの記憶が残っていたから。その中にはもちろん、祐麒くんの存在が消えたということを示す、消し去りたい記憶も含まれているわけで。
 公園で祐麒くんと再会した後、私はそれまでの精神的疲労、肉体的疲労から、気を失ってしまった。しばらくして目が覚めてからも、まともに体を動かせない始末で、祐麒くんにタクシーを呼んでもらって自宅に帰った。しかも私はよく覚えていないのだが、家に送ってもらった後も祐麒くんの手を掴んで離そうとせず、母も私の状態が正常ではないと判断してか、祐麒くんにお願いしてそのまま家に入ってもらったらしい。
 部屋に運ばれ、ベッドに横になった後も、私は祐麒くんの手を離そうとしなかった。やがて父も帰宅して、部屋にいる私と祐麒くんのことで大変な誤解をしたらしいが、母の仲介を経てどうにか事なきを得たらしい。まさか、こんな形で祐麒くんを両親にあわせることになるとは、思ってもいなかった。
 父も私のただならぬ様子から、祐麒くんが側にいることを、とりあえず私が落ち着くまでは認めてくれたとのこと。
 とはいっても、さすがに夜通しというわけにもいかず、夜、疲れて私が眠った後は祐麒くんも自分の家に帰った。
 だが。
 朝、目を覚ました時、私は半狂乱になったらしい。
 祐麒くんがいないと、祐麒くんが消えてしまったと、大声でわめき、泣き叫び、暴れたということだ。父も母も驚き、どうにか鎮めようとしたものの、娘である私の怯えと恐怖が尋常でないと知るや、諦めて祐麒くんに連絡を取り、家まで来てもらった。
 祐麒くんの姿を見て、ようやく私は落ち着いたものの、今度は祐麒くんを離そうとしない。祐麒くんがお手洗いに行こうとするのにもついていこうとする始末で、自分のことながら、思い出すと赤面したくなる。ちなみに、祐麒くんがきてくれてからは、ちゃんと記憶も残っている。
 一日、一緒にいてくれて、さすがに私も落ち着きを取り戻し、その日は私も納得の上で帰ってもらったのだが、夜になると駄目だった。
 本当はいなくなってしまったのではないか、本当に今もいるのだろうかという疑心暗鬼に陥り、深夜に携帯電話で連絡を取る。
「祐麒くん、祐麒くん、私、私」
『大丈夫ですから、俺はちゃんといますから』
「駄目なの……お願い、私の傍に、来て……」
 布団の中で丸くなり、泣きながら駄々をこねる。
 真夜中で、そんなこと無理だと分かっているのに、それでも我慢できない。怖いのだ。怖くてたまらない。
 こんなことでは、せっかく戻ってきたのに嫌われてしまう、呆れられてしまう。だけど、一人でいるのが怖いのだ。
『分かりました、蓉子ちゃん、あの、その代りちゃんとご両親に言ってくださいね?』
「……え? で、あ、でも?」
『実はもう、蓉子ちゃんの家の前に来ているんですよ』
「え、えっ!? ど、どうしてっ。こんな時間じゃもう電車も」
 とっくに終わっている。まさかタクシーで来たのだろうか。それにしても、早すぎる。
『実は、不安だったんで近くのビジネスホテルをとっといたんです』
「あ、あ……」
 申し訳ないと思いながらも両親を起こし、事情を説明して頼み込んで、祐麒くんを家にあげてもらった。
 父も、仕方ないと思ったのだろう。
 こうして祐麒くんは、しばらく毎日のように私の家にいた。私の精神もそれでどうにか回復してゆく。春休みの期間でよかったと、心底思った。
 復調したといえるのは、あの悪夢の始まりの日から、一週間近くたってからだった。
 そうして私は今、祐麒くんと並び、件の公園まで足をのばしていた。

 

 桜はまだ、充分に見応えがあった。それでも先週に比べると、緑色になっている部分も目立つように見える。
 手をつないで歩き、大事な人が確かにそこにいると実感する。
「……祐麒くん、昨夜は父がごめんなさいね。大丈夫?」
「はは、大丈夫です、ええ」
 この一週間で、私がいかに祐麒くんのことを想っているか、父は思い知らされたようであった。初めの頃こそ、祐麒くんに対して複雑な気持ちがあったようだけど、私の様子と、様子がおかしい私に対して献身的に尽くしてくれる祐麒くんの姿を見て、納得をしてくれたようだ。昨夜に至っては、渋い表情をしながらも、共に晩酌をすすめてくるまでに至った。
 ちなみに母は、最初から祐麒くんに対し好意的である。
「なんか、この一週間色々とごめんなさい、迷惑かけちゃって」
「そんな。蓉子さんの迷惑なら、大歓迎ですから」
 笑う祐麒くん。
 再会した時の言葉を思い出すと、どうやら祐麒くんも私と同じような体験をしていたのではないかと思えるが、そんな様子を微塵も見せない。私ばかり醜態を晒しているようだけれど、こればかりは私自身でもどうしようもなかった。
 しかし、こうして精神が落ち着いてくると、どうしても気になることがある。喧嘩をする原因となった女性のことである。
 ところが、いざ祐麒くんに訊ねてみると、これが要領を得ない。
「いや、それがですね、本当に知らない女性だったんですけど……」
 そうして話しだす。

 

 

 街を歩いているところ、不意に、誰かに呼ばれたような気がした。周囲を見回してみるけれど、特に祐麒のことを見知った人の姿は見えない。気のせいかとも思ったが、その後も祐麒の名を呼ぶ声は、一向にやまない。街ゆく他の人は、誰も聞こえていないのか、あるいは関係ないからか、気にした様子を見せる人は誰もいない。祐麒一人、声がする方向に足を向けてゆく。
 どこを歩いているのか意識はなかったが、気がつけば周囲に人の気配はなく、そこだけが、どこか隔離された空間のように感じた。
 すると不意に、横から話しかけられた。顔を向ければ、祐麒より少し年上くらいの女性が声をかけてきていた。いきなり何事かと思ったが、女性は困っているので話を聞いてほしい、と懇願してきた。見ず知らずの人の相談に乗るなんてこと、できるわけもないと思ったが、あまりに切迫した表情で頼み込んできたせいか、なぜか話を聞かねばという気になり、それじゃあ話を聞くだけと、とりあえず頷いた。
 女性は祐麒の腕をつかむと、先導するように歩いてゆく。
 歩きながら女性は、呟くように言った。
「……私はね、居場所が、欲しいの……」
 何のことかと思ったが、聞き返そうと思った次の瞬間には、意識がどこか遠のいていた。
 そして次に気がついたら、どこかラブホテルの部屋らしきベッドの上で横たわっていて、身体の上には女性がのしかかっていた。
 女性は、ブラジャーの上から、前の肌蹴たブラウスを纏っているだけという刺激的な格好で、さらに祐麒のズボンのベルトを外しているところだった。
 何事かと思いながらも、体が自由に動かない。女性は扇情的な言葉を紡ぎながら、しなやかな指を祐麒の下半身に伸ばしてきた。甘美な誘惑と、どこか不思議で甘酸っぱい香りに脳みそが麻痺しそうになるが、蓉子の姿を思い描き、必死に気持ちを奮い立たせ、固まっていたような体を動かして女性の下から脱出する。
 ズボンを引き上げ、逃げるようにして部屋の入口までたどり着き、ベッドの方を振り返ると。
「そう……やっぱりそのヒトが……」
 意味深なことを呟き、見つめてくる。
 その瞳の奥、深い底まで引きずり込まれそうな光をどうにか振り払い、祐麒は今度こそ一目散に逃げ出した。
 そんなことのあった翌日に、"ソレ"は起きた。
 そして女性は、"その世界"で、さも当然のように祐麒の隣のポジションを位置取ろうとしていた……

 

 

 祐麒くんの話を聞いて、思わず身震いする。詳しい部分まで聞いたわけではないけれど、その内容を考える限り、その女性は。
「ねえ、祐麒くん。その女の人、今は、どうしているか知っているの?」
「いえ、蓉子ちゃんと再会したあの日から、姿を見ません」
 言葉少なに応じる祐麒くんの表情も、どこか苦しそうに見える。
 はたして、今回のことは一体、なんだったのだろうか。私はなぜ、祐麒くんの存在しない世界へと弾かれたのか、そして祐麒くんが出会ったという女性は何者だったのか。私が弾き飛ばされ、いなくなった世界で、何をしようとしていたのか。
 私を追い出した世界で自分の居場所を掴もうとしたのか。だとしたら、私が辿り着いた世界では、代わりに誰かが弾き出されたのか。いや、もしかしたら考えていたように私が異分子で、私が消えていたのかもしれない。祐麒くんのことを全て失ったら、あの世界で先に進むかとも考えたが、その瞬間に私の存在ごと消失していたのかもしれない。
 もちろん、今となっては全てが謎で、憶測の域を出るものではないけれど。
 ただ分かるのは、例え私が消えてしまったとしても、祐麒くんは私のことをきっと、ずっと、捜し求めてくれていたということ。
「ちなみに、その女の人って、どういう人だったの?」
「それが……もう、よく覚えていないんですよね。どんな顔をしていたのか、見たはずなのに、思い出せないんです。ただ思い出せるのは、彼女の……」
 と、そこまで口にしたところで、祐麒くんは口元を手でおさえ、顔を赤面させた。
「……あ、あーっ、今、そ、その女の人の裸を思い浮かべたんでしょう!?」
「ち、違いますよ、裸じゃなくて、ブラジャーはちゃんと着けていて――」
「同じことじゃない、もう、祐麒くんのエッチ! そんな、いやらしいことばっかり考えていたんでしょう」
「そんなことないですよっ」
「本当は、その女の人とホテルでエッチなことを」
 拗ねて膨れて、そう言いかけたところで、いきなり祐麒くんに両肩をつかまれて強引に体を祐麒くんの方に向けさせられる。
 真剣な表情が、正面に映る。
「そんなこと絶対にありませんっ。だって俺は、そういうことは蓉子さんとしたいですし、蓉子さんとしかしたくありませんから!!」
 強い瞳で、強い口調で断言する祐麒くん。
 そして私はといえば。
"そういうこと"が、どういうことなのかを理解して、一気に首筋まで赤くなるのが自分で分かった。
「え、いや、あの、今のはですね、別に今すぐにとか、そういうことではなくて、ただ、俺はそれくらいの気持ちを持っているということを分かってもらいたくて」
 私の反応を見てか、自分から言い出したくせに慌てふためきまくっている祐麒くん。
「や、やっぱり……そ、そういうこと、し、したいと、思うの?」
 真っ赤になりながら、私は訊く。そんなことを口にするなんて、恥ずかしくて仕方なかったけれど、前に聖や江利子に言われたことを思い出し、確認しないではいられなかったのだ。
「あ、あの……」
 口ごもる祐麒くん。
 私は恥ずかしかったけれど、目をそらさずに祐麒くんを見つめる。
「そ、それはやっぱり、その、蓉子さんのこと好きだから……で、でも俺、急ぐ気も、焦る気もないですからっ。無理にすることじゃないし、それに俺、い、今はこうして蓉子さんと一緒にいられるだけで、凄く幸せな気持ちになれますから。手をつないでいれば、蓉子さんが隣にいてくれたら、それで」
 決して嘘や誤魔化しの言葉でなく、本当の思いだということが伝わってくる。
 思っていた通り、祐麒くんは私のことを大切に想ってくれているのだ。男の子だし、純粋な欲求もあるだろうけれど、それでも私のことを大事にしてくれる。
 まあ、時にはそれが、奥手すぎてもどかしいと感じることもあるけれど、私にとってはちょうどいいのかもしれない。
「そうなんだ……やっぱり祐麒くんの、エッチ」
「え、そ、そんなっ。あの蓉子さん」
 驚き、ちょっと泣きそうな顔をする祐麒くんを見て、私は思わず小さく笑ってしまう。
「くすっ……そんな顔してもだめ、えっちな祐麒くん」
 ふざけたような口調を聞いて、ようやく本気ではないと分かったのか、たちまちに安心した顔をする。本当に、わかりやすい。
 苦しく、辛く、思い出すのも嫌な出来事だったけれど、今はこうしていられるし、結果的には二人の繋がりを、想いの強さを確かめあい、さらには私の両親に祐麒くんのことを思いがけず紹介する形となった。結果オーライというのはあまり好きではないけれど、今回は、まあ、良いものとしよう。
 大事なのはやっぱり、今であり、これからであるから。
「許して、くれるんですか?」
 許すも何も、最初から別にそこまで怒ってはいないのだが。そりゃまあ、女の人とホテルに入って、ほぼ裸の女性に襲われて、あまつさえ顔は忘れたのに体の方は覚えている、なんて言われたら、私だって機嫌は悪くなるけれど。
「祐麒くん、その女の人の裸は覚えているのに、大事なことは忘れているのね」
「え、だ、大事なことって、なんですか?」
「分からない?」
「…………」
 無言になる祐麒くん。一生懸命に考え、何かを思い出そうとしているみたいだけど、やっぱり分からないみたいだ。
「うーん。それじゃあ、エッチな祐麒くんにはお仕置き。それで、許してあげる」
 思っていることは口に出さず、かわりに、そんなことを言って祐麒くんの手を引っ張って歩き出す。
「お、お仕置きって、なんですか? それに、大事なことって」
「本当に、分からない?」
 立ち止まり、祐麒くんを見上げる。本当に分からないようで、困った目をしている。まあ、少し意地悪な質問だったかもしれないが。
「ご、ごめんなさい。あの、教えてください」
 頭を下げてくる祐麒くんは、まるで捨てられた子犬のような顔をして、とても愛らしい。そんな表情にほだされたわけでなく、もともと、そこまで意地悪する気などなかったので、私はすぐに答えを教えてあげることにする。
 でも、ただでは教えてあげない。
 手をつないだまま、祐麒くんを引っ張るようにしてまた少し歩き、桜並木の場所までやってくると、少しだけ道をそれて奥の方に。大きな桜の木の後ろへとまわりこむ。
「ねえ、祐麒くん」
 つながっている私の左手と、祐麒くんの右手。
 私はきちんと握りなおし、指先から私の気持ちを流し込む。
「大事なこと、それはね……」
 そして私は体をひねると、祐麒くんの肩に右手を置いて、軽く背伸びをした。

 

 清涼感のある一陣の風が、肌を撫でるように吹き抜ける。

 今日もまた、花びらが舞う。

 一週間遅れの、貴方への誕生日プレゼント。

 二人で初めて迎えた貴方の誕生日は、私達に刻まれた、忘れられない永遠の記憶。

 薄桃色のカーテンが揺れ、風にたなびき、私たちを祝福するかのような輝きを放つ。そして桜の花びらは、いつまでも、いつまでも、私たち二人を包むように降りそそいでいた。

 

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