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ノーマルCP マリア様がみてる

【マリみてSS(聖×祐麒)】Please "Say" Yes … <エピローグ>

更新日:

 

~ Please "Say" Yes … ~
<エピローグ>

 

 

 聖は身悶えていた
 今日は二十五日、聖の誕生日であるが、そんな気分はどこかに吹っ飛んでしまっている。昨日、祐麒から思ってもいなかった告白を受け、そして今日また、会うことになっているのだが、どんな顔をして会いに行けばよいものやら、まったく分からなかった。
 呆然としたまま昨日別れた後、今日のことについてメールが届いたのは、それからしばらくしてからのこと。約束の時間は夕方の六時、駅前にて。現在、既に昼過ぎのため、あと数時間しかないわけで、聖は思い悩んでいるのだ。
「……って、どうでもいいけど、どうして人の家でうろうろしているのよ」
 冷たい視線と冷たい声を送ってきているのは、部屋の主である景であった。
 昨夜、困惑して困窮した聖は、どうしたらよいのか分からなくなって、景のもとへと逃げ込んだのだ。
 景が蓉子、江利子とのディナー、そして二次会を終えて帰宅すると、深夜の真っ暗で寒い路地にしゃがみ込んでいる怪しげな人物を発見。まさかと思って声をかけてみると、情けない顔で鼻水を少し垂らしながら、聖が捨てられた子犬のような目で見上げてきたというわけだ。
「そ、そんな冷たいこと言わなくてもいいじゃん。カトーさんだって、関係者なんだし」
「貴女と祐麒クンの問題でしょ、私は関係ないじゃない」
「カトーさんの意地悪ぅ」
 いじけたように、指先をつんつんとあわせる聖。
 昨夜からこの調子で、付き合わされる景としたらたまったものではない。髪の毛をがしがしと掻きながら、景は仕方なしに訊ねる。
「いったい、何を困っているのよ」
「だってさ、今まで全くそんな風に思わなかったんだよ、それがいきなり言われてもね、困るじゃない」
「それじゃあ、祐麒クンのこと、嫌いなの?」
「嫌いなわけないけどさ、それは今まで友達感覚というか、殆ど弟みたいな感じだったわけで、いきなり男として見てくれといわれてもさぁ、そういう恋人? みたいなので合うとも限らないわけで」
「佐藤さんあなたね、私に何て言ったか、覚えている?」
 眼鏡の下からの冷たい視線に、思わず聖は体を引く。
「え、えーと、な、なんでしょう?」
「……『祐麒のことよく知らないでしょ? そんな一方的に断らないで、少しは真剣に考えてあげたら? 合うかもしれないじゃない』 だったっけ? そんな誤魔化すようなことばかり言ってないで、自分の言葉に責任もって、少しは真剣に考えてあげたら? 恋人としても、合うかもしれないじゃない」
 澄ました瞳で言いながら、景はわずかに笑って見せる。
「う、うー、そんなこと、言ったような気もするけど……」
「そんなことより貴女、いつまでここにいるつもり? そろそろ帰って、支度なんかした方がいいんじゃない?」
「へ? 支度って?」
 きょとん、とした顔をする聖を見て、景は大袈裟にため息をついてみせる。
「祐麒クンとの待ち合わせ、そのまま行くつもりなの?」
「え、あ、うん、そうだけど……て、いひゃいいひゃい! ひゃめへ~」
「ったく、この女は、どこまですっとこどっこいなの、この、アホ女」
 聖の頬っぺたをつまんで左右にぐいーんと引っ張り、景は怒りの形相で睨みつける。つままれた頬の痛さと、眼前の景の迫力に押され、聖は涙目である。
「貴女、それ昨日のまんまじゃない!」
 ようやく手を離すと、聖を指さす。
 昨夜、景の部屋に泊まった聖は、当然のことながら昨日と同じ服装であった。特に何の変哲もないセーターとジーンズで、スタイルがよく、顔立ちが日本人離れしている聖だからそれでも似合っているが、色気も洒落っ気もあまり感じられない。
 聖は自分の服を見て、おどおどと上目づかいで景の様子をうかがいながら、口を開く。
「で、でも、着替えとかないし、仕方ないじゃない。それに、いつも祐麒と会うときはこんなんだし」
「今日はクリスマスで、加えて貴女の誕生日で、そんで好きだって告白された男の子に会いに行くってのに、そんなんありえないでしょうが! いいわ、私の服を貸してあげるから。少し小さいかもしれないけれど、なんとかなるでしょ」
 言いながら、さっそく景はクローゼットを開けて服を見つくろい始めた。
「貴女、いつもパンツばかりだから、こういうときは可愛らしいスカートとかいいかもしれないわね、ギャップあって。いつものラフでカジュアルな感じより、フェミニンな感じを出してみる?」
「え、えー、いいよ、そんなの。大体、カトーさんだってパンツばかりじゃん」
「ちゃんと、スカートも持ってます。あまり似合わないから、パンツが多いけれど。ほら、これとかどう?」
「う、なんか、カトーさんのイメージと違う……」
「うるさいわね。あと、下着は? 昨日から同じものよね?」
「そ、そうだけど、下着は別にいいんじゃない? 見えないし」
「馬鹿、こういうのは気持ちが大切なのよ。それに、見られる展開になるかもしれないでしょう」
「いや、ないない」
「それでも、ずっと同じのなんか嫌でしょう? さすがにブラはサイズが合わないと思うから、ショーツだけでも綺麗なのにしなさい。今日、ブラは何色? 合うやつ貸してあげるから、見せて」
「ぎゃ、ぎゃーっ! 痴漢! 変態!」
「ええいうるさい! 静かに脱がされなさい」
 女二人やかましく、聖なる日はゆっくりと時が流れてゆく。

 

 文句を言い、嫌がり、拗ねて、怯えて、逃げようとする聖をどうにかこうにか着替えさせ、そうして送り出した。
 渋っていた聖だったが、祐麒に行くと言った手前、さすがにここにきてすっぽかすことはないだろう。
 疲れ果てた景は、ぐったりと布団の上に大の字になった。
 困っている様子を見せてはいたけれど、あそこまで著しい反応を示すなんて、もう聖の中で答えは出ているんじゃないかと思う。
 気がつけば、もう外は暗い。ずっと聖と格闘していたから、せっかくのクリスマス当日だというのに、何もせずに夜になってしまった。おまけに、食事の用意もしていないし、相手をしてくれる人もいない。
「……あーあ、ちょっと、勿体なかったかな?」
 口に出してみる。
 祐麒のことを思い出してみる。確かに、素直で可愛らしい男の子であったけれど、最初から聖のことを見ているのは分かっていた。別に景も、単なる友達以上の感情は持っていなかった。ただ、もしも祐麒が聖ではなく景のことを好きになり、そしてアプローチをしてきたら、ちょっとは惹かれたかもしれない。
「なんて、もしもの話をしてもしようがない。さて、うまくやりなさいよ、祐麒クン」
 起き上がり、景も出かける準備をする。
 ここはせめて、新たに知り合った友人との親睦を深めようかと思った。きっと彼女達となら、聖のことを肴にして楽しく食事ができるだろうから――

 

 駅前、完全に日も落ちて寒さが増してきている中、祐麒はコートとマフラーで身を装備して、鼻を赤くしながら待っていた。
 ようやく昨日、想いを告げたものの、返事はまだもらっていない。聖のあの驚きようは、祐麒のことを男として見ていなかったことを明らかに表していた。もう少しがっかりするかと思ったが、それほど沈んでいなかった。
 少なくとも聖は今日、会ってくれると言っていたし、その場で拒絶されるようなことはなかった。先は長いのかもしれないが、それでもきちんとスタートをすることが出来た。今までは、始まってすらいなかったのだから。
 クリスマス当日ということもあり、駅の近くの商店街では、最後のクリスマス売り出しに力を入れていた。ケーキやフライドチキンなど、店頭で客寄せをして、どうにか買わせようとしている。サンタの帽子や服を着た人の姿も見える。
 ちらりと、時計を見る。
 約束の時間から、五分ほどが過ぎている。聖との待ち合わせでは、聖が遅れることは珍しくないのだけれど、それでも今日は落ち着かない。もしかしたら、来てくれないのではないか、という不安も少なからず出てくる。
 あまりきょろきょろするのもみっともないとは思うが、それでも聖の姿をつい、探してしまう。
 それでもなかなか見つけられず、さらに焦りがつのってきた頃。
「……ご、ごめん祐麒、遅れちゃって」
 来ると思っていた反対側から、声をかけられた。
「いえ、大丈夫です」
 振り向くと、そこには聖が立っていた。
 だが、いつもと違う。
 いや、聖であることに違いはないのだが、雰囲気が、様子が、どこかいつもと異なるように感じた。
 吐き出す息は白く、遅れたために走りでもしたのか僅かに頬はピンク色。どことなく気まずそうな表情で、どうにか笑おうとしているのだろうが、ぎこちない笑みがまた、聖らしさを感じさせない。
 コートの下に覗くのは、淡いグレーのタートルカットソーにオフホワイトのヘアリーなセーター。カットソーと同色のミニ丈ティアードスカートはギャザーのシルエット、ラメドットがアクセントで入っている。スカートの裾からは、サイドに柄のついたタイツに包まれた脚が伸び、足元はアイボリーのニットブーツで、サイドにポンポンの飾りがついているのが可愛らしい。
 更に、アンゴラ混のオフホワイトのベレー帽をかぶり、帽子からはみ出た乱れた髪の毛と相まって、何とも言いがたい愛嬌を見せていた。
 考えてみれば、聖のスカート姿を見るのは、これが初めてかもしれなかった。いつもはカジュアルで、動きやすい服装をしているから、今みたいなコーディネートというのも見慣れない。
 だからだろうか、思わず祐麒は、声もなく見入ってしまった。
「あ、あー、驚かせちゃった? 今日さ、ちょっとカトーさんとこ寄ってきたから、いつもと違うルートで来たんだよね」
 何も言わないでいる祐麒を見て誤解したのか、そんなことを少し早口で言う聖。
「あ、いえ、その、聖さん、凄く似合ってます」
「え……な、ななっ、何を言っているのさ祐麒ったら!」
 照れながらも、精一杯に褒めてみたのだが、言われた聖の方はなぜか祐麒以上に落ち着きがなく、焦っているように見えた。
「こ、この格好はさ……あー、いや、なんでもない」
 何かを言いかけて、横を向いて口を閉じる。
 いつも見慣れた格好と異なるからだろうか、いつもと違う雰囲気を感じる。

 

 

 一方、聖はといえば。
 祐麒から褒められて、思いのほかに動揺していた。何せ、今まで何回も一緒に遊んできたが、服装のことを褒められたことなどないのだから。まあ、褒められるほどのものを身に着けていなかったからかもしれない。大体、ジーンズにシャツやカットソーを適当にあわせていただけだから。
 なお、待ち合わせに遅れたのは、聖がぐずぐずしていたといのもあるが、遅れそうになったから走ろうと思ったものの、走れなかったのだ。
 なぜかというと。
(うう、カトーさん、ほっそいなぁ……)
 スカートのウエストが、聖には少々、きつかったから。これは別に、聖が太っているとかそういうわけではなく、聖の方が上背もあって体格がよいのと、景の腰回りが細すぎるためだ。
 しかし自分のことながら、こんな格好をするとは思ってもいなかった。そもそも、自宅のクローゼットには絶対に存在しないコーディネートである。
「聖さん、食事に行きましょう。お腹、空いてます?」
 祐麒に連れられ、クリスマスディナーに向かう。
 とはいっても、庶民的なイタリアンレストランで、値段も学生にふさわしいような場所。周囲も落ち着いた雰囲気というよりは、少し賑やかで、騒がしい感じ。でもだからこそ、聖もいつも通りに近い感じで、祐麒と話すことが出来た。
 服装が変わっても、祐麒と話していて楽しいことに変わりはない。
 やがてデザートも食べ終わり、食後のコーヒーをまったりと飲んでいるとき。
「あの、聖さん」
 言いながら、祐麒が何かを差し出してきた。
「誕生日、おめでとうございます。これ、プレゼントです」
 テーブルの上に置かれる、小さな包み。
「あー、うん、ありがとう」
 予想はしていたけれど、やはり少し、照れる。
「本当は、外で渡そうとも思ったんですけれど、寒いですからね。ここは少しうるさいですけれど、暖かいですから」
「そうだね、それで良かったかも。でもさー、プレゼントはいいけれど、お祝いの言葉は食事の前とかにくれても良かったんじゃない?」
「あ、す、すみませんっ」
 突っ込むと、恥ずかしそうに頭を下げる。
 そういうところを見ると、祐麒は祐麒なんだなと思い、安心する。笑いながら包みを受け取り、さっそく開けてみると、中から出てきたのはシルバーアクセサリー、ブレスレットであった。シンプルなデザインだけれど、それだけに使いやすそうである。
 祐麒の様子をうかがうと、どこか落ち着かない様子で聖のことを見ている。このブレスレットを買うのに、色々と悩み、考え、迷っていたのであろう姿が容易に想像出来て、内心で笑いそうになる。
 だけど、それもこれも聖のためにしていることだと思うと、照れも入る。
「ありがとう、有難く使わせてもらうから」
 言いながら、これは誕生日のプレゼントだから、受けとっても告白を受け入れたことにはならないよなと、考える。
 そこで改めて、告白されたことを思い出して、また悩みだす。本当に、まだ考えも気持ちもまとまっていない。『断る』ことを即断できたのなら、これほど悩みはしないのだが、その選択肢がすぐに浮かばなかったから、今も困惑しているのだ。
 自分は、同性しか好きになれないと思っていたし、今でもその思いが変わったというわけではない。
 祐麒のことは可愛いと思うし、好きか嫌いか問われれば、好きだ。だけどそれは、やはり友愛であり、姉弟愛のようなものだと思っていた。だから、男女交際の相手として見たら、やはり『否』のはずなのに、どうしてか、そう判断を下すことが出来ないのだ。

 

 食事を終えて店を出て、帰途につく。
 会って食事して、誕生日プレゼントをもらった。それだけのことだけど、温かな気持ちで誕生日を過ごすことができた。
 電車に揺られ、他愛ない会話を交わしながら、最寄り駅に降り立つ。家の近くまで送るという祐麒を断ることができず、冬冷えに静まる住宅街の間を二人で歩く。
「ありがと、祐麒。ここまででいいよ」
 此処は、いつだったか酔っ払った聖が送ってもらって、別れた場所。特に、家の場所を知られたくないとかいうわけではないけれど、どこかで境界線を引いていたのかもしれない。これ以上に近づかれると、無意識のうちに思っていて。
「あの……さ、昨日の、答えだけど」
 さすがに、ずっと誤魔化すわけにもいかない。まだ心は惑っているけれど、そういう状態だということだけでも分かってもらわないと。
 そう、思って言おうとしたけれど。
「今すぐに、答えを出してくれなくても構いません。俺も、きっと聖さん、俺のこと弟くらいにしか見ていないだろうって、分かっていましたから。でも俺は、聖さんのことを一人の女性として見て、その、真剣に考えているんです。だから聖さんも、俺のことを一人の男として見て、考えて、それで決めてほしいです。その結果を受け止めますから、いつか、教えてください」
 先に、祐麒に言われてしまった。
 真剣な表情で、本気の思いを込めて、真正面から貫かれて、聖としては目の周りが熱くなるのを感じながら、口をぱくぱくさせるしかできなかった。
「…………うん、ちゃんと、結論は出すよ」
 ようやく、それだけを言葉にする。
「ちなみに、それまでは今までと同じように、会ってくれますか?」
「ああ、うん、それはもちろん」
 はたして、今までと同じ接し方ができるか、という不安もないではないが、大丈夫だろうと思う。
 それに、聖自身も、これで祐麒と会えなくなるのはつまらないと思うから。
 聖がそう答えると、すると祐麒は安心したように表情を緩めた。
「良かった。それじゃあ俺、聖さんに『イエス』と応えてもらうように、頑張りますよ」
 そしてそう言って、笑った。
 その笑顔がとても純真で、それで眩しくて、思わず聖は背を向けていた。
「あれ、聖さん?」
 慌てたような祐麒の声が背中越しに届く。
「何してるの祐麒、ほら、行くよ」
「え? でも、それは……」
 戸惑う祐麒の声に振り返り、にっかりと笑ってみせる。
「次の角まで、送らせてあげるよ」
 すると祐麒は、それこそ瞳を輝かせて追ってきて、聖に並んだ。
「これって、一歩前進したってことですかね」
「馬鹿、調子に乗るんじゃないの」
 肘で、わき腹をうつ。
 大げさに祐麒がわき腹をおさえ、うめいてみせる。
 その祐麒の腕に、自身の腕をからませる。
「――え、ええっ、せ、聖さんっ!?」
「そこの角までだからね――クリスマス・プレゼント」
「うわ……は、はいっ」
 途端に、がちがちに緊張して硬くなる祐麒。
 思わず、笑ってしまう。
「馬鹿、意識しすぎ」
「いや、これは、しますって」
「あははっ、でも、ま、メリー・クリスマス、かな」
 コート越しに感じる、温もり。
 見上げれば、高く澄んだ冬の空に輝くシリウス。

 誕生日でもあったけれど、決してクリスマスは好きじゃなかった。
 今までは。

 だけど不思議と、今日になってこう思う。

 

 ――なんだ、クリスマスもそんなに悪いもんじゃ、ないじゃん。

 

 

おしまい

 

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